結論
HIS は日本発の海外旅行を柱とする旅行会社だ。ホテルと九州のバス事業も持つ。筆者の結論は割高寄りである。稼ぐ力は戻りつつあるが、利益の厚みに比べて借金が重く、10 年の利益で測った価値は今の時価総額に届かない。
本業の旅行は、売上 3 千億円に対して営業利益が 100 億円足らずという薄利の商売だ。日本人の出国者は 2025 年で 2019 年の 7 割にとどまり、円安と運賃高が戻りを遅らせている。2026 年 10 月期は中東情勢の影響で最終赤字に転じる見込みで、グアムの賃貸契約を解く特別損失(約 60 億円)も重なる。
財務は薄い。自己資本比率は 14% で、純有利子負債は自己資本を上回る。コロナ禍で 4 期続けて赤字を出した会社であり、同じ打撃が来れば資本が先に削られる。
会社は 2030 年に営業利益 250 億円を掲げる。筆者は 10 年後の中立を営業利益 200 億円、純利益 120 億円弱と置く。回復は見込むが、会社の計画ほどは伸びない。倍率は高く置けない。旅行は値段を自分で決めにくく、ネット予約との競争で利益率が上がりにくいからだ。
5 つの筋書きを確率で重ねて今に割り戻すと、本質価値は今の時価総額の 7 割ほどだ。分かれ目は、日本発の海外旅行がどこまで戻るかと、借金を抱えたままホテルや M&A に資金を回せるかである。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、旅行代理店は持ち続けたい事業ではない。他社がまねできない強みが薄く、利益が毎年きちんと積み上がる型でもないからだ。
まず事業の本質だ。HIS が売っているのは、他社でも買える商品の「手配と安心」である。人が付き添うツアーのように価値を乗せる分野もあるが、全体では値段を比べられる商売だ。10 年後に今より堀が広がっているとは言いにくい。
次に利益の質だ。営業利益率は 3% 前後で、小さな需要の変化で赤字に転ぶ。コロナ禍では 4 期続けて赤字になった。しかも純有利子負債が自己資本を上回る。持ち主から見れば、利益のぶんだけ借金の利払いが先に出ていく会社である。
資本の使い方は、いま再建の途中だ。ハウステンボスを売って立て直し、グアムの賃貸も整理した。新しい計画も、投資と M&A を先に置いている。成果が出てから信頼する、という順番がふさわしい。
安全域は薄い。中立の筋書きでも年率は 6% 台で、資本コストに届かない。楽観の筋書きが実現して初めて、払う値段に見合う。結果のばらつきが大きく、理解できる範囲を超える事業ではないが、確信を持って長く持てる事業でもない。
何で稼ぐ会社か
HIS の稼ぎの源は、旅行を 1 件売るたびに入る手数料と差益だ。旅行事業が売上の 8 割強を占める。2025 年 10 月期の売上 3,731 億円のうち、3,091 億円がここである。
旅行事業は、店舗・ネット・法人営業を通じて、日本発の海外旅行を中心に国内旅行、海外の現地法人による販売まで手がける。航空券とホテルを組み合わせたパッケージと、添乗員が付く団体ツアーが主力だ。2025 年はシニア向けの欧州・中東ツアーが好調だった。一方、カナダでは大口契約が終わって赤字が出た。会社は日本発以外のグローバル事業を売上 3,000 億円規模まで育てる計画だ。
ホテル事業は国内外でホテルを運営し、売上 252 億円で営業利益 36 億円。利益率は 14% と旅行より高い。国内は訪日客と大阪・関西万博で過去最高益だった。会社は大型ホテルを新築する投資をやめ、アパートメント型やビルの転用へ移る方針だ。
九州産交グループは熊本を中心にバスや観光を営み、売上 254 億円、営業利益 8 億円である。ハウステンボスは 2022 年に 666 億円で売却しており、今の数字には入っていない。
残りは小売・EC、金融、システム開発などの新しい事業で、売上は 130 億円ほどと小さい。会社はここを 2030 年に営業利益 30 億円へ伸ばす考えだ。
優良さと弱いところ
堀は薄い。HIS の強みは、日本発の海外旅行で JTB に次ぐ 2 位という規模だ。2025 年度の取扱額は 3,820 億円で、日本旅行を抜いた。航空座席を先に買い取って売る仕入れ力も、需要が強い時には利益を厚くする。
だが旅行は、誰でも売れる商品である。同じ航空券とホテルは、楽天トラベルやブッキング・ドットコム、エクスペディアなどネット予約でも買える。客が値段を比べる以上、手数料を上げる力は弱い。売上に対する営業利益率は、コロナ前の最高でも 3.7% だった。
資本の使い方には傷がある。2020 年から 4 期続けて赤字が出て、自己資本は 968 億円から 406 億円まで削られた。2021 年には株式が増えて薄まった。ハウステンボスを 666 億円で手放して立て直した経緯もある。今も自己資本比率は 14% で、純有利子負債は自己資本を上回る。
良い点もある。経営は旅行への依存を減らす意思を明確にしている。ホテルの利益率は 14% で、旅行より高い。2026 年 1 月には創業者の長男が社長に就き、創業者も取締役に戻った。変化は速くなるだろう。ただ創業家の持株比率は 22〜24% と大きい。少数株主の利益がどこまで優先されるかは、これからの行動で測るしかない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
日本発の海外旅行は、まだコロナ前に戻っていない。日本人の出国者は 2025 年で 1,473 万人。2019 年の 2,008 万人の 7 割強だ。2026 年も月によっては前年を割る。円安で海外が割高になり、燃油サーチャージも重い。
戻りが遅い理由は、値段だけではない。若い世代の海外離れ、国内旅行へのシフト、パスポートを持たない層の増加といった構造の問題が混じる。筆者は、10 年後も 2019 年の水準までは戻らず、9 割程度(1,800 万人)で落ち着くと見る。人口が減るからだ。
逆に追い風もある。訪日客は 2025 年に 4,268 万人と過去最高になった。HIS は海外にも現地法人を持ち、外国人向けの旅行も売れる。日本発の落ち込みを、日本以外のグローバル事業で補えるかが会社の計画の骨である。
競争は 3 つの方向から来る。国内では JTB(国内大手のシェアの約 35%)と日本旅行、KNT-CT が同じ店舗型で戦う。ネット予約はホテルや航空券を直接組み合わせる。航空会社も自社サイトでの直販を強める。
10 年の大きな変化は生成 AI だ。旅行の相談から予約まで AI が代行すれば、手数料の薄い仲介は真っ先に削られる。逆に、AI で社内の手間を減らせる会社には追い風だ。HIS は販売や企画の工数を 4 割減らす計画を持つ。どちらに振れるかが、10 年後の利益率を決める。
景気、感染症、戦争の影響も旅行は受けやすい。2026 年の中東情勢でも、約 50 億円分の売上が取り消された。
資本政策と M&A
資本の配り方は、まず借金を減らし、次に投資に回すという順番だ。配当は、新しい中期経営計画で配当性向 25% 以上を目指す。2025 年 10 月期の配当は 15 億円ほどで、純利益の 3 割に届かない。自社株の買い入れも行っており、自己株は発行済みの 7% ほどに達した。
中期経営計画 Vision2030 では、4 年間で 1,000 億円を投じる。内訳は設備 600 億円と M&A 400 億円で、原資は年 250〜300 億円の営業キャッシュフローだ。ただ営業キャッシュフローには旅行代金の前受けが含まれ、毎年同じ額が手元に残るわけではない。
2026 年にはグアムのホテル用地を買い、賃貸契約を解いた。年数億円の賃料と、2029 年までの 80 億円超の追加投資の義務が消える一方で、約 60 億円の特別損失が出る。重荷の整理としては筋が通るが、自己資本が薄い会社にとって、損失は軽くない。
目標の自己資本比率 20% は、今の 14% から 6 ポイント上げる計画だ。投資と還元と財務改善を同時に進めるのは簡単ではない。
M&A は買う側に回る。買収額は 400 億円で、売上 450 億円、EBITDA 45 億円を見込む。倍率は EBITDA の 9 倍弱で、借金で買えば利益率が上がらないうちは利払いが重くなる。創業家は 22〜24% を持つため、買収されるより自ら動く側だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
日本発の海外旅行は、まだ 2019 年の 7 割だ。残りの 3 割が戻るだけで、取扱額は大きく増える。出国者が 2,000 万人に近づけば、店舗網と仕入れ力を持つ HIS に最も早く効く。
値段の面でも追い風がある。ダイナミックプライシング(需要で値段を動かす仕組み)で売上が 3% 増え、AI で販売や企画の工数が 4 割減る。売上の伸びと費用の削減が同時に来れば、営業利益率は 3% 台から 4% 台に上がる。
旅行以外の柱も育つ。ホテルは利益率が 14% あり、アパートメント型への転換で資産を軽くして伸ばせる。グローバル事業は日本発に頼らず、欧州やアジアの顧客を直接つかむ。新規の小売・EC や金融も、M&A と組み合わせて 2030 年に営業利益 30 億円に届く。
財務も改善する。営業キャッシュフローで借金を減らし、自己資本比率 20% が達成されれば、利払いの負担が軽くなり、純利益の伸びが営業利益を上回る。創業家出身の若い経営陣が事業の入れ替えを速めるなら、10 年で 2030 年の計画(営業利益 250 億円)を超える可能性は十分にある。
慎重な見方
HIS の最大の問題は、儲けの薄さと借金の重さが同時にあることだ。営業利益率は 3% で、純有利子負債は自己資本を上回る。小さな需要の落ち込みで赤字に転ぶ体質は、コロナ禍で 4 期続けて赤字を出したことで証明されている。2026 年も中東情勢だけで売上が約 50 億円取り消され、最終赤字になる。
日本発の海外旅行が戻る保証はない。2025 年の出国者は 2019 年の 7 割にとどまり、2026 年の月次も前年を割る月がある。若者の海外離れと円安は構造であり、10 年待てば戻るという類いの話ではない。
旅行の仲介はネット予約と AI に侵食される。航空会社の直販も強まる。手数料が薄いまま客を奪われれば、店舗網は強みでなく重荷になる。ホテルは利益率が高いが、売上の 1 割にも満たず、旅行の不振を埋められない。
会社の計画も信頼しにくい。2026 年 10 月期の営業利益は当初の 180 億円の目標から 120 億円まで下がった。前の 3 カ年計画も未達になる見通しだ。新しい計画は営業利益 250 億円と、今の 2 倍超を掲げる。M&A に 400 億円を使うが、自己資本が 556 億円しかない会社の買い物だ。失敗すれば、希薄化と減損で資本が削られる。
どちらに重みを置いたか
事業の回復余地は強気の見方が説得的だが、利益の薄さと借金の重さは慎重な見方が正しい。筆者は確率を悲観側にやや寄せ、やや悲観と悲観を合わせて 4 割、楽観とやや楽観を 3 割弱とした。
理由は 3 つある。第 1 に、旅行は値段を自分で決められず、強い堀を認められない。第 2 に、会社の計画は過去にたびたび下方修正されている。第 3 に、財務が薄いので、悪い筋書きでは資本の毀損が先に来る。
中立でも年率は 6% 台で、資本コスト 9.25% に届かない。今に割り戻すと、今の値段を割り込む。回復を認めても、倍率は低く置かざるを得ない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/10 期)
確率で加重した株価時価総額 1,684 円1,244 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 294 円217 億円)。 今の値に割り戻すと 884 円653 億円、今との差 −17.0%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 9.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,935 円2,907 億円 | 541 円400 億円 | +320.3% | +15.4% | 313 円231 億円 |
| やや楽観 | 18% | 2,584 円1,909 億円 | 433 円320 億円 | +183.3% | +11.0% | 543 円401 億円 |
| 中立 | 35% | 2,039 円1,506 億円 | 352 円260 億円 | +124.5% | +8.4% | 837 円618 億円 |
| やや悲観 | 27% | 759 円561 億円 | 176 円130 億円 | −12.2% | −1.3% | 252 円186 億円 |
| 悲観 | 13% | 190 円140 億円 | 54 円40 億円 | −77.1% | −13.7% | 32 円23 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,684 円1,244 億円 | 294 円217 億円 | +85.6% | +6.4% | 1,977 円1,461 億円 |
今の株価時価総額 1,065 円787 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 日本発の旅行が戻り、ホテルと新事業が育って利益率が 4% 台に乗る 10 年 利益 210 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,935 円2,907 億円
日本人の出国者が 2019 年の水準に近い 2,000 万人まで戻る。HIS の取扱旅客は 175 万人に増え、ダイナミックプライシングで客単価も物価を上回って伸びる。旅行の営業利益率は 4% を超える。
ホテルはアパートメント型や既存ビルの転用で室数を 9,500 室まで増やし、利益率は 16% に上がる。グローバル事業は日本発に頼らず、欧州とアジアの顧客を直接つかむ。M&A で買った小売・EC・金融の事業も軌道に乗る。
営業キャッシュフローで借金を返し、自己資本比率は 20% を超える。利払いの負担が軽くなり、純利益は営業利益に近い比率で残る。創業家の若い社長のもとで事業の入れ替えが成功し、旅行一本の会社から、ホテルと新事業が稼ぐ会社に変わる 10 年になる。
- 旅行事業(日本発・グローバル・法人):数量 175(取扱旅客数(万人、推定))× 価格 34(旅客 1 人当たり売上(万円))→ 売上 6,033 億円・営業利益 259 億円。取扱旅客×1 人当たり売上
- ホテル事業:数量 9,500(客室数(室、推定))× 価格 0.05(1 室当たり年間売上(億円))→ 売上 448 億円・営業利益 72 億円。客室数×1 室当たり売上
- 九州産交グループ:数量 2,500(年間の利用者数(万人、推定))× 価格 1,421(利用者 1 人当たり売上(円))→ 売上 355 億円・営業利益 18 億円。利用者数×1 人当たり売上
- その他事業(新規・小売・EC・金融・システム):数量 55.0(事業の数(社・拠点、推定))× 価格 7.50(1 事業当たり売上(億円))→ 売上 413 億円・営業利益 33 億円。事業の数×1 事業当たり売上
倍率:事業の純利益 210 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.5% が k 9.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.86 倍、時価総額 2,701 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:日本発の出国者の戻り、AI による工数削減、ホテルとグローバル事業の拡大が同時に成功する必要がある。会社の 2030 年の計画(営業利益 250 億円)を上回る筋書きで、過去の計画の未達を見ると連続成功の確度は高くない。
やや楽観 18% 日本発の旅行が 9 割まで戻り、ホテルが利益を支える 10 年 利益 147 億円 · PER 12.0 倍 · 株価時価総額 2,584 円1,909 億円
日本人の出国者は 1,800 万人を超え、取扱旅客は 162 万人に増える。客単価は物価を少し上回る。旅行の営業利益率は 3.6% と、コロナ前の最高に並ぶ。
ホテルは室数を 9,000 室へ広げ、訪日客の需要を取り込む。グローバル事業は日本発の落ち込みを補う。新規事業は M&A を足して育つが、利益が出るのは遅い。
借金は少しずつ減り、自己資本比率は 20% 近くまで改善する。会社の計画の途中、営業利益 260 億円前後まで届く。ただ、旅行の値決めは弱いままで、AI やネット予約との競争で利益率の上乗せは限られる。成長は穏やかだが、赤字に転ぶ怖さは遠のく 10 年である。
- 旅行事業(日本発・グローバル・法人):数量 162(取扱旅客数(万人、推定))× 価格 33(旅客 1 人当たり売上(万円))→ 売上 5,316 億円・営業利益 191 億円。取扱旅客×1 人当たり売上
- ホテル事業:数量 9,000(客室数(室、推定))× 価格 0.05(1 室当たり年間売上(億円))→ 売上 412 億円・営業利益 62 億円。客室数×1 室当たり売上
- 九州産交グループ:数量 2,450(年間の利用者数(万人、推定))× 価格 1,380(利用者 1 人当たり売上(円))→ 売上 338 億円・営業利益 15 億円。利用者数×1 人当たり売上
- その他事業(新規・小売・EC・金融・システム):数量 48.0(事業の数(社・拠点、推定))× 価格 7.29(1 事業当たり売上(億円))→ 売上 350 億円・営業利益 24 億円。事業の数×1 事業当たり売上
倍率:事業の純利益 147 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 9.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍。全体の PER 11.99 倍、時価総額 1,762 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:出国者が戻り、ホテルが利益の柱として定着する筋書き。会社の中期計画の途中までは達成するが、2030 年の目標には届かない。旅行の戻りは円安と運賃で遅れやすい。
中立 35% 日本発の旅行は 9 割弱まで戻り、薄利のまま緩やかに伸びる 10 年 利益 117 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 2,039 円1,506 億円
日本人の出国者は 1,700 万〜1,800 万人で落ち着く。HIS の取扱旅客は 150 万人、客単価は物価並みに伸びる。旅行の営業利益率は 3.2% と、コロナ前に近い水準だ。
ホテルは室数を 8,500 室へ広げ、利益率 14% を保つ。九州産交は人口減で利用者がやや減るが、運賃改定で利益は少し増える。新規事業は少数の買収で 40 の事業に育ち、小さな利益が出る。
借金は営業キャッシュフローでゆっくり減るが、新リース会計の影響や投資の波で、財務の薄さは大きくは変わらない。営業利益は 200 億円ほど、純利益は 120 億円弱だ。会社の目標より低いが、コロナ前の水準は超える。可もなく不可もない、薄利の回復が続く 10 年になる。
- 旅行事業(日本発・グローバル・法人):数量 150(取扱旅客数(万人、推定))× 価格 32(旅客 1 人当たり売上(万円))→ 売上 4,779 億円・営業利益 153 億円。取扱旅客×1 人当たり売上
- ホテル事業:数量 8,500(客室数(室、推定))× 価格 0.05(1 室当たり年間売上(億円))→ 売上 383 億円・営業利益 54 億円。客室数×1 室当たり売上
- 九州産交グループ:数量 2,375(年間の利用者数(万人、推定))× 価格 1,360(利用者 1 人当たり売上(円))→ 売上 323 億円・営業利益 13 億円。利用者数×1 人当たり売上
- その他事業(新規・小売・EC・金融・システム):数量 40.0(事業の数(社・拠点、推定))× 価格 7.18(1 事業当たり売上(億円))→ 売上 287 億円・営業利益 17 億円。事業の数×1 事業当たり売上
倍率:ROE 9.9%。RONIC = 9.5% + 1/3 ×(9.9% − 9.5%)= 9.6%、g は 4%。正当化 PER = (1 − 4÷9.6)÷(9.5 − 4) = 11.58 倍。ROE が k をわずかに超えるだけで、利益の質は低いので、1÷k = 10.5 倍の下限に近い 11.58 倍に置いた。
確率:出国者の回復が円安と人口減で緩やかになり、会社の計画の半分ほどの伸びにとどまる、最も重みを置く筋書き。ホテルと新事業が少し利益を足すが、旅行の薄利と競争は変わらない。
やや悲観 27% 円安と競争で日本発が戻りきらず、手数料が削られる 10 年 利益 58 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 759 円561 億円
日本人の出国者は 1,500 万人台のまま伸びず、HIS の取扱旅客は 135 万人にとどまる。ネット予約と航空会社の直販で手数料が下がり、客単価の伸びは物価を下回る。旅行の営業利益率は 2.4% に沈む。
ホテルは訪日客に支えられるが、競争が増えて利益率が 11% へ落ちる。新規事業の M&A は期待ほど利益が出ず、一部は減損になる。
利払いは借り換えで重くなり、純利益は営業利益の半分に縮む。配当は最低限にとどまり、自己資本の積み上がりも遅れる。大きな赤字は出さないが、資本の薄さが成長の足かせになる。ROE は資本コストに届かない 10 年だ。
- 旅行事業(日本発・グローバル・法人):数量 135(取扱旅客数(万人、推定))× 価格 31(旅客 1 人当たり売上(万円))→ 売上 4,173 億円・営業利益 100 億円。取扱旅客×1 人当たり売上
- ホテル事業:数量 8,000(客室数(室、推定))× 価格 0.04(1 室当たり年間売上(億円))→ 売上 350 億円・営業利益 39 億円。客室数×1 室当たり売上
- 九州産交グループ:数量 2,300(年間の利用者数(万人、推定))× 価格 1,320(利用者 1 人当たり売上(円))→ 売上 303 億円・営業利益 8 億円。利用者数×1 人当たり売上
- その他事業(新規・小売・EC・金融・システム):数量 30.0(事業の数(社・拠点、推定))× 価格 6.97(1 事業当たり売上(億円))→ 売上 209 億円・営業利益 4 億円。事業の数×1 事業当たり売上
倍率:ROE 6.1% は k 9.25% 以下。ためた利益は額面を下回る価値なので、正当化 PER の上限は 1÷k = 10.5 倍。新しく投じるお金が稼がない筋書きなので、8.0 倍に置いた。
確率:出国者の戻りが遅れ、ネット予約と AI で手数料が圧縮される筋書き。旅行は景気・地政学・疫病で振れやすく、コロナ禍の 4 期赤字を経験した会社として、このくらいの下振れは十分ありうる。
悲観 13% 旅行の仲介が AI とネットに侵食され、借金が重荷になる 10 年 利益 20 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 190 円140 億円
AI が旅行の相談から予約までを代行するようになり、店舗やコールセンターを介した販売が急速に細る。取扱旅客は 115 万人に減り、手数料の圧縮で客単価の伸びは物価を大きく下回る。旅行の営業利益率は 1.8% まで下がる。
ホテルは稼働率が落ち、一部は減損になる。M&A で買った事業も期待に届かず、減損が積み上がる。感染症や地政学の影響でもう一度需要が落ち込めば、自己資本は 100 億円単位で削られる。
利払いは借り換えで重くなり、純利益は 20 億円ほどだ。配当は最低限になり、増資や資産の売却で資金をつなぐ。ブランドは残り、会社は存続するが、成長企業ではなくなる。
- 旅行事業(日本発・グローバル・法人):数量 115(取扱旅客数(万人、推定))× 価格 29(旅客 1 人当たり売上(万円))→ 売上 3,281 億円・営業利益 59 億円。取扱旅客×1 人当たり売上
- ホテル事業:数量 7,000(客室数(室、推定))× 価格 0.04(1 室当たり年間売上(億円))→ 売上 283 億円・営業利益 25 億円。客室数×1 室当たり売上
- 九州産交グループ:数量 2,150(年間の利用者数(万人、推定))× 価格 1,218(利用者 1 人当たり売上(円))→ 売上 262 億円・営業利益 5 億円。利用者数×1 人当たり売上
- その他事業(新規・小売・EC・金融・システム):数量 10.0(事業の数(社・拠点、推定))× 価格 6.43(1 事業当たり売上(億円))→ 売上 64 億円・営業利益 −5 億円。事業の数×1 事業当たり売上
倍率:ROE 3.1% は k 9.25% 以下で、正当化 PER の上限は 1÷k = 10.5 倍。稼ぐ力(純利益 20 億円 ÷ k 9.25% = 約 210 億円)の約 6.5 割に当たる 7 倍(時価総額 140 億円)に置いた(やや悲観の 8.0 倍より低く)。減損後の自己資本 635 億円の約 2 割に当たる。
確率:AI とネット予約で仲介の手数料が構造的に削られ、再び感染症や戦争で需要が落ちる複合の筋書き。自己資本比率 14% の会社には致命傷になりうるが、起きる確率は高くない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
旅行事業(日本発・グローバル・法人)
日本発の海外・国内旅行、海外現地法人の販売、法人・地域向けの旅行。2025 年 10 月期の売上 3,091 億円、営業利益 96 億円。
| 数量取扱旅客数(万人、推定) | 価格旅客 1 人当たり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 130 | 24 | 3,091 | 96 |
| 10 年後 中立 | 150 | 32 | 4,779 | 153 |
取り方:開示は売上と営業利益だけで人数は出ていない。日本人の出国者 1,473 万人に HIS の取扱シェア 7〜8% を掛けた約 110 万人に、国内旅行・海外現地法人・法人の分を加え 130 万人と推定し、売上 3,091 億円を割って 1 人 23.8 万円とした。人数は実質、1 人当たり売上は名目。中立は物価並みの 10 年 1.34 倍。
ホテル事業
国内外のホテルの運営。2025 年 10 月期の売上 252 億円、営業利益 36 億円。
| 数量客室数(室、推定) | 価格1 室当たり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 7,500 | 0.03 | 252 | 36 |
| 10 年後 中立 | 8,500 | 0.05 | 383 | 54 |
取り方:開示が客室数を直接示さないので、国内外の運営ホテルを合わせて約 7,500 室と推定し、売上 252 億円を割って 1 室 336 万円とした(稼働率と客室単価の結果)。室数は新設と転用で増える分を数量に、1 室当たりは物価並みの 10 年 1.34 倍とした。
九州産交グループ
熊本を中心とするバス・観光の運営。2025 年 10 月期の売上 254 億円、営業利益 8 億円。
| 数量年間の利用者数(万人、推定) | 価格利用者 1 人当たり売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 2,500 | 1,015 | 254 | 8 |
| 10 年後 中立 | 2,375 | 1,360 | 323 | 13 |
取り方:バス・観光・施設の利用者を合わせて年約 2,500 万人と推定し、売上 254 億円を割って 1 人約千円とした。人口減で利用者は微減、運賃・料金は物価並みの 10 年 1.34 倍とした。
その他事業(新規・小売・EC・金融・システム)
小売・EC、金融、システム開発などの新しい事業。売上はセグメント外の残り約 134 億円。本社費・消去は調整欄に置く。
| 数量事業の数(社・拠点、推定) | 価格1 事業当たり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 25.0 | 5.36 | 134 | 0 |
| 10 年後 中立 | 40.0 | 7.18 | 287 | 17 |
取り方:開示が細かくないため、売上の残り 134 億円を約 25 の事業で割り、1 事業 5.4 億円とした。数が増えるのが成長で、1 事業当たりの売上は物価並みの 10 年 1.34 倍とした。営業利益はまだ出ないので 0 とし、本社費・消去の約 24 億円の赤字は各筋書きの調整欄に入れる。 数量は実物(事業の数)で、名目の市場の伸びからは置いていない。
リスクと懸念
日本発の海外旅行が戻らない
2025 年の日本人出国者は 1,473 万人で、2019 年の 7 割強にとどまる。2026 年の月次も前年を割る月があった。円安と運賃高、若者の海外離れが続けば、旅行事業の取扱高は計画ほど伸びず、固定費の重さが利益率を押し下げる。
借金と薄い自己資本
純有利子負債は 602 億円で自己資本 556 億円を上回り、自己資本比率は 14% だ。借り換えの金利は 3.5% 前後へ上がり、利払いが増える。営業利益の落ち込みや減損が重なれば、資本の毀損が早く進む。
外部ショック(感染症・戦争・為替)
コロナ禍では 2020 年から 4 期続けて赤字になった。2026 年も中東情勢で約 50 億円分の売上が取り消された。旅行は外部ショックの影響が最も大きい事業の一つで、新たな打撃が来れば財務の薄さが一気に表に出る。
ネット予約と AI による仲介の置き換え
楽天トラベルやブッキング・ドットコム、エクスペディアと航空会社の直販が、同じ商品を安く直接売る。AI が旅行の相談と予約を代行すれば、店舗型の手数料は圧縮される。会社も AI 活用を掲げるが、守りの手段でしかない。
M&A と投資の実行
新しい計画は M&A に 400 億円、設備に 600 億円を投じる。自己資本が 556 億円の会社にとっては大きな賭けだ。買収が期待に届かなければ、希薄化と減損で資本が削られる。ハウステンボスの売却で再建した経緯もある。
リースの固定の約束と会計の変更
ホテルや店舗の賃借は、売上が落ちても家賃が残る固定の約束だ。新リース会計基準は 2028 年 10 月期から強制され、貸借対照表に賃借の負債が載って、自己資本比率はさらに下がって見える。グアムのように賃貸契約が足かせになった例もある。
創業家の持株と経営の継続性
創業者の持株比率は 22〜24% あり、2026 年 1 月に長男が社長に就いた。若返りで意思決定は速くなるが、創業家の意向と少数株主の利益が一致するかは、資本配分で確かめる必要がある。
今後の分かれ目
- 日本人の出国者が 2019 年の 9 割(1,800 万人)を超える
- 旅行の売上と利益率が同時に改善し、10 年のやや楽観・楽観の筋書きに近づく。
- 旅行の営業利益率が 2 期続けて 3.5% を超える
- 値決めの弱さを克服したと見られ、中立の PER を引き上げる根拠になる。
- 自己資本比率が 20% に近づき、純有利子負債が自己資本の半分以下に下がる
- 財務の薄さが解消し、悲観側の確率を下げられる。
- 中東・台湾などの地政学リスクや感染症で、海外旅行の需要が再び落ち込む
- 取り消し売上が増え、やや悲観・悲観の筋書きが現実味を帯びる。
- 買収が減損や赤字を生む
- 資本配分の質が疑われ、中立の筋書きを下げる。
- AI 予約が旅行の相談から決済までを代行する
- 店舗型の手数料が構造的に削られ、10 年の悲観の筋書きに近づく。
見ておくもの
- 日本人出国者数(JNTO、2019 年比の回復率)
- 旅行事業の営業利益率と海外旅行の取扱高
- 自己資本比率と純有利子負債(中期計画の目標は 20%)
- M&A の件数・金額と買収後の利益・減損
- ホテル事業の利益率と、アパートメント型への転換の進み方
倍率と資本コストの決め方
自己資本は今の値に純利益を足して還元を引いて流し(ROE は結果)、資本コスト 9.25%(基本 7.5% に 4 つの目安 +2.0%)で、弱い堀(残る割合 1/3)の正当化 PER を出した。g は 4%。中立は ROE が k をわずかに超えるだけで、1÷k の下限に近い 10.6 倍とした。今の PER やこれまでの値動き、同業の倍率は使っていない。時価総額と較べるのは最後で、結論は今の株価に寄せていない。新リース会計は 2028 年 10 月期から入るが、10 年後の数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→12.86 倍・やや楽観 PER 10.8→11.99 倍・中立 PER 10.6→11.58 倍)。
資本コスト 9.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。