結論
アンビスは、末期がんや難病の人が最期まで暮らす住宅「医心館」を全国で運営する。入居者に同じ建物で訪問看護を届け、その報酬を国の医療保険から受け取る。筆者の結論は、事業の需要は強いが、儲けの源だった報酬の形が壊れた、というものだ。資産は厚く下は支えられるが、稼ぐ力は資本コストに届かず、今の値段は高めに見る。
2025 年 9 月期の売上は 492 億円と伸びたが、営業利益は 62 億円と、前の期から 4 割減った。看護師の採用費と人件費が膨らんだためだ。今期の予想は営業利益 38 億円。第 3 四半期までの累計がすでに 36 億円あり、最後の四半期はほぼゼロの計画になる。
転機は 2026 年 6 月の報酬改定だ。同じ建物の入居者への訪問看護に、定額の包括払いが入り、1 人あたりの上限は月 80〜90 万円から 45 万円ほどに下がる。この会社の儲けの土台に当たる部分だ。短時間の訪問も、請求できなくなる。
会社は 2026 年 9 月、西日本の 47 施設を 174 億円で売ると決めた。借入が大きく減り、首都圏に絞る。中立の筋書きでは、10 年後の営業利益は 54 億円。改定前の最高益の水準には戻らない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を長く持ちたいかと問われれば、答えは「今は持たない」だ。
事業の本質は、国の保険からお金を受け取る、公定価格の事業にある。値段を決めるのは会社ではなく国だ。需要が強くても、値段が下がれば利益は消える。改定前の高い利益は、制度に守られた果実で、永続する堀ではなかった。
株主のものになる利益は小さい。毎年、施設の土地・建物に大金を投じ、利益の大半が資産に化けていた。配当は利益の 1 割ほどだ。新規の開設は借入頼みで、金利が上がる局面では、稼ぐ力が資本コストに届かなくなる。
一方で、安全域には厚みがある。47 施設を、帳簿の純資産より高く売る合意ができた。資産の質は悪くない。悲観の筋書きでも、建物と土地の価値が下を支える。だから大きく崩れることは考えにくい。
ただ、安く買える価格ではない。中立の稼ぐ力は、自己資本の 6 割ほどの値打ちしかない。成長への期待ではなく、資産の厚みで値段を見るべき会社だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は「医心館」だ。
医心館は、末期がんや難病の人が入る住宅型の有料老人ホームだ。1 つの建物に 45〜70 人が入り、同じ建物の訪問看護事業所の看護師が、毎日、複数回の訪問をする。医師は外部の医療機関に頼る。病院で亡くなる人は減っており、施設や在宅で最期を迎える流れがこの会社の追い風だった。
売上の約 9 割は、医療保険と介護保険から入る。入居者から家賃や食費ももらうが、中心は訪問看護の診療報酬だ。主な取引先は、神奈川県・東京都の国保連と支払基金。つまり国から、入居者 1 人あたり月に数十万円が入る形になる。
事業の形は重い。施設の土地・建物を自社で取得するか、20〜30 年の長期契約で借りる。2025 年 9 月期は、新規の 29 事業所のために 120 億円ほどを投じた。借入が増え、純負債は 209 億円になった。従業員は連結で 5,000 人を超え、大半が看護師・介護職だ。
施設は 2026 年 6 月末で 137 事業所。稼働率は、既存の施設で 74%、新しい施設で 42%(2026 年 9 月期の第 3 四半期)。新しい施設が埋まるまでの数年は、費用が先に出る。
2026 年 11 月に、西日本の 47 施設を、日本産業推進機構グループの会社へ売る予定だ。残りは約 90 施設になる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできにくい強みは、これまで強かったが、制度が変えてしまった。
強みは 2 つあった。1 つ目は、病院から切り離した医療の仕組みだ。医師の機能を外に出し、看護だけを施設に集めて、重い病気の人を受け入れた。2 つ目は、規模だ。120 を超える施設の出店ノウハウと看護師の採用力は、小さな同業には持てない。
弱みは、価格を自分で決められない点だ。売上の 9 割が公定価格で、国がいつでも切り下げられる。今回の改定は、それを現実にした。改定前、営業利益率は 25〜27% と、サービス業でも際立った高さだった。その高さは、制度の隙間を利用した面があったと筆者は見る。
資本の効率も落ちた。ROE は 2023 年 9 月期の 24% から、2025 年は 10% に下がり、今期の予想は 6% だ。自己資本の大半が施設の土地・建物で、利益が細ると重荷になる。
経営は、創業者の柴原慶一氏が、資産管理会社の分を含めて 6 割強を持つ。意思決定は速いが、少数株主の声は届きにくい。2025 年には外部の調査委員会が、実態のない訪問看護の請求を少なくとも約 6,300 万円認定した。会社は組織的な不正ではないと主張するが、法令順守の意識を問われた事実は残る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
最期を迎える場所が、病院から施設と在宅へ移っている。国内の年間死亡者数は 160 万人台で、これから増える。がんや難病の終末期を、病院ではなく生活の場で過ごしたい人も多い。需要は強い。
ただ、報酬を払うのは国だ。医療費の膨張が続くなか、国は同一建物の訪問看護に厳しくなった。2026 年 6 月から、同じ建物の多数の入居者に頻繁に訪問する事業所に、定額の包括払いを導入した。出来高払いを選べても、多人数への頻繁な訪問は報酬が下がり、20 分未満の訪問は請求できなくなる。ホスピス型住宅の大手に直接向けられた改定と言ってよい。
競争の面では、同業のホスピス住宅の事業者が増えている。大手の参入と、中小の乱立が混在する。看護師の採用が最大の制約で、賃金は物価以上に上がる。改定で報酬が下がっても、人件費は下がらない。
10 年の見通しは、需要と制度の綱引きだ。需要は強いが、国は報酬を引き続き見直すだろう。次の改定でも同じ方向の力が働くと、筆者は見る。施設を増やしても、1 人あたりの売上が下がれば、利益は増えない。
資本政策と M&A
資本政策は、成長のための借入が中心だった。毎年 100 億円規模で施設の土地・建物を取得し、借入で賄った。純負債は 3 年で、ほぼゼロから 209 億円に膨らんだ。
転換点は、2026 年 9 月に決めた西日本 47 施設の譲渡だ。新しく作る 2 社に事業を移し、全株を合計 174 億円で売る。実行は 2026 年 11 月の予定だ。2025 年 9 月期の売上は 115 億円、承継する資産は 215 億円、負債は 102 億円。純資産の簿価は約 113 億円なので、帳簿より高く売れる。譲渡益は 2027 年 9 月期に出る。ネットの借入は 300 億円ほどから 40 億円ほどへ減る見込みだ。
資金の使い道は、首都圏への集中と、医療機関の経営を支援する事業とされる。新規の開設は絞る方針だ。
還元は小さい。配当は年 1 回の期末だけで、前の期は総額 4 億円ほど、利益の 1 割強にとどまる。自己資本比率の目安は 30% としている。創業者が 6 割強を持つため、自社株買いも多くは見込めない。kabufu の試算では、10 年以内に TOB や買収が起きる確率は約 22% だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
最悪期は過ぎ、整理を終えた首都圏の会社として立て直せる。強気の見方はこうだ。
第 1 に、需要は構造的に伸びる。国内の死亡者数は 160 万人台で増え続け、病院での死は減り、施設と在宅へのシフトが進む。ホスピス型住宅は、その受け皿として代わりがない。
第 2 に、改定の傷は一時的だ。包括払いと出来高払いは選べる。訪問の組み立てを見直せば、費用は下げられる。会社は、最後の四半期をほぼゼロの利益で見込んでいるが、これは改定の影響を保守的に織り込んだ数字だ。
第 3 に、47 施設の売却は、資産の価値の証明だ。帳簿の純資産より 5 割ほど高く売れた。借入は 300 億円から 40 億円ほどに減り、財務は一気に強くなる。
第 4 に、資金を首都圏の施設に集中できる。稼働率の低い新しい施設が埋まれば、利益は戻る。新しい施設の稼働率が 42% から 70% 台に上がるだけで、その施設群の売上は 6 割以上増える。
最後に、創業者が 6 割強を持つ会社は、決断が速い。西日本を売る判断は、その速さの表れだ。
慎重な見方
儲けの形そのものが壊れた。慎重な見方はこうだ。
まず、報酬の水準が変わった。1 人あたりの上限が月 80〜90 万円から 45 万円ほどになる。売上の 9 割を占める報酬が、重い入居者ほど大きく下がる。費用の大半は看護師の人件費で、賃金は上がり続ける。利益が戻る道が見えない。
次に、改定は終わりではない。国は一度狙いを定めた分野に、続けて手を入れる。過去の不適切な請求の調査結果も、規制当局の厳しさを増す材料だ。指定の取り消しや停止の危険が残る。
第 3 に、第 4 四半期の営業利益はほぼゼロの計画だ。第 3 四半期までの累計が 36 億円あっても、最後の四半期でほとんど消える。1 年分の流れで見れば、営業利益は 10 億円台に落ちている可能性がある。
第 4 に、売却は逃げでもある。売る側は、都合の悪い施設を手放す。残りの施設がすべて高く売れる保証はない。
最後に、時価総額は自己資本とほぼ同じだ。稼ぐ力が資本コストに届かない会社に、簿価相当の値段は高い。
どちらに重みを置いたか
強気の見方の中心は、資産の価値と需要の強さにある。47 施設の売却価格は、帳簿より高いという事実に裏づけられる。これを悲観でも当てにはしないが、床の考え方には反映した。
ただ、慎重な見方の指摘は、利益の水準に決定的だ。報酬の形が変わり、費用は物価で上がる。中立の営業利益率を 9% に置き、改定前の水準に戻らないとした。やや悲観と悲観を合わせて 4 割とし、確率の重心は中立に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 441 円433 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 54 円53 億円)。 今の値に割り戻すと 221 円217 億円、今との差 −45.3%、 期待の年率 +2.0%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 996 円976 億円 | 112 円110 億円 | +173.6% | +10.6% | 66 円65 億円 |
| やや楽観 | 17% | 664 円651 億円 | 87 円85 億円 | +85.3% | +6.4% | 128 円125 億円 |
| 中立 | 37% | 459 円450 億円 | 61 円60 億円 | +28.4% | +2.5% | 192 円189 億円 |
| やや悲観 | 26% | 293 円288 億円 | 31 円30 億円 | −20.0% | −2.2% | 84 円83 億円 |
| 悲観 | 14% | 162 円159 億円 | 12 円12 億円 | −57.0% | −8.1% | 24 円24 億円 |
| 加重平均 | 100% | 441 円433 億円 | 54 円53 億円 | +22.2% | +2.0% | 495 円485 億円 |
今の株価時価総額 405 円397 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 楽観:報酬改定の傷が浅く、首都圏の施設で利益を取り戻す 利益 78 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 996 円976 億円
2026 年 6 月の報酬改定の傷が浅くすむ。包括払いと出来高払いの選び分け、訪問の組み立ての見直しで、1 人あたりの売上の落ち込みは 1 割にとどまる。西日本の 47 施設を手放した資金で借入が減り、首都圏と東日本の施設に絞って新規の開設を再開する。稼働率の低い新しい施設も 85% 近くまで上がり、入居者は今の 1.4 倍の 6,800 人になる。売上は 860 億円台、営業利益率は 14%、営業利益は 120 億円ほど。全盛期の 25% 台には戻らないが、ROE は 10% 近くまで届き、資本コストを上回る。配当は増え、還元は利益の 1 割台から 2 割に上がる。
- 医心館事業(ホスピス型住宅+訪問看護):数量 6,800(平均入居者数(人・推定))× 価格 0.13(入居者 1 人あたり年間売上の名目(億円/人)。物価の倍率に、報酬改定と公定価格の伸びの遅れを重ねたもの)→ 売上 865 億円・営業利益 121 億円。入居者 1.41 倍・1 人あたり売上 0.93 倍(改定の傷が浅い)・営業利益率 14%
倍率:事業の純利益 78 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.9 倍。全体の PER 11.93 倍、時価総額 930 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:報酬が元に戻る見込みは薄く、改定の傷が浅くすむ組み合わせは起きにくい。6% とした。
やや楽観 17% やや楽観:改定に合わせて費用を詰め、新しい施設も稼働が上がる 利益 54 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 664 円651 億円
改定に合わせて費用を詰めきる。包括払いのもとでも、人員の配置を見直せば、訪問の費用は下げられる。首都圏の新しい施設は 2 年ほどで稼働が上がり、入居者は 1.27 倍の 6,100 人になる。1 人あたりの売上は改定前より 13% 下がる。売上は 730 億円ほど、営業利益率は 11% 台で、営業利益は 80 億円台。ROE は 8% 台と、資本コストにわずかに届かない。配当は緩やかに増える。借入は減り、財務は安定する。ただ、公定価格の事業は国の判断で値段が動くため、利益が一段上がる道は見えない。会社の目標である首都圏での再成長が、ほぼ計画どおりに進んだ姿だ。
- 医心館事業(ホスピス型住宅+訪問看護):数量 6,100(平均入居者数(人・推定))× 価格 0.12(入居者 1 人あたり年間売上の名目(億円/人)。物価の倍率に、報酬改定と公定価格の伸びの遅れを重ねたもの)→ 売上 726 億円・営業利益 84 億円。入居者 1.27 倍・1 人あたり売上 0.87 倍・営業利益率 11.5%
倍率:事業の純利益 54 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 594 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:費用を詰めきり、新しい施設の稼働が上がる線。会社が施設の整理に動いており、立て直しの意志は強い。17% とした。
中立 37% 中立:包括払いに合わせて作り直し、利益率は 1 割弱で落ち着く 利益 34 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 459 円450 億円
包括払いに合わせて事業を作り直し、利益率は 1 割弱で落ち着く。改定で 1 人あたりの売上は 15% ほど下がり、その後も公定価格の伸びは賃金の上昇に追いつかない。入居者は西日本の売却と首都圏の新規開設を差し引きして 5,400 人と、今より 1 割ほど増える。売上は 600 億円、営業利益は 54 億円。営業利益率は 9% で、改定前の 25% 台には戻らない。純利益は 34 億円、ROE は 5% 台で、資本コストに届かない。自己資本の大半が施設の建物と土地に寝ていて、稼ぐ力が小さい姿だ。還元は配当が中心で、利益の 2 割弱にとどまる。
- 医心館事業(ホスピス型住宅+訪問看護):数量 5,400(平均入居者数(人・推定))× 価格 0.11(入居者 1 人あたり年間売上の名目(億円/人)。物価の倍率に、報酬改定と公定価格の伸びの遅れを重ねたもの)→ 売上 598 億円・営業利益 54 億円。入居者 1.12 倍・1 人あたり売上 0.81 倍・営業利益率 9%
倍率:事業の純利益 34 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 374 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:包括払いに合わせて事業を作り直し、利益率が 1 割弱で落ち着く線。直近の予想から逆算した第 4 四半期の営業利益が小さい点を踏まえ、4 割弱とした。
やや悲観 26% やや悲観:改定が重くのしかかり、稼ぐ力が資本コストを大きく下回る 利益 9 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 293 円288 億円
改定が重くのしかかり続ける。包括払いでは、重い入居者ほど売上が落ちる。人員を減らしても、看護師の賃上げが続いて費用が下がらない。入居者は新しい施設の稼働が上がらず、4,600 人にとどまる。1 人あたりの売上は改定前から 3 割近く下がる。売上は 450 億円ほど、営業利益率は 4% で、営業利益は 18 億円。借入の金利が上がって、純利益は 9 億円まで落ちる。ROE は 2% 弱で資本コストを大きく下回る。配当は最低限になり、新規の開設も止まる。事業は続くが、稼ぐ力の割に資産が重い。看護師の確保が最大の制約で、賃金の上昇を価格に移せない。市場は、成長の期待ではなく、資産の厚みを理由に低い評価を続ける。
- 医心館事業(ホスピス型住宅+訪問看護):数量 4,600(平均入居者数(人・推定))× 価格 0.10(入居者 1 人あたり年間売上の名目(億円/人)。物価の倍率に、報酬改定と公定価格の伸びの遅れを重ねたもの)→ 売上 453 億円・営業利益 18 億円。入居者 0.95 倍・1 人あたり売上 0.72 倍・営業利益率 4%
倍率:純利益が小さく ROE 約 2% で、PER は使わず PBR で置く。床は稼ぐ力ではなく施設の売却価値(下の floor_assets)。中立の PBR(約 0.6 倍)より低く、譲渡前の今の自己資本 361 億円に 0.61 を掛けて置く(この筋書きの自己資本で割ると約 0.42 倍で、中立より低い)。EV÷営業利益でも見ると(今の純有利子負債 209 億円では 24 倍だが、譲渡後は)、譲渡後の純有利子負債約 42 億円を足して約 14 倍で、借金の重さは問題にならない。
確率:改定の傷が長く残り、人件費の上昇に報酬が追いつかない線。公定価格に依存する事業の構造から、2 割台半ばを置いた。
悲観 14% 悲観:報酬のさらなる引き下げと行政処分で、赤字の施設運営会社になる 利益 −14 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 162 円159 億円
報酬のさらなる引き下げと行政処分が重なり、赤字の施設運営会社になる。次の改定でも、同一建物の訪問看護への風当たりは弱まらない。過去の不正請求の調査を受けて、一部の事業所の指定の取り消しや停止が出る。看護師の採用が難しくなり、入居者は 3,300 人まで減る。1 人あたりの売上は改定前から 4 割近く下がる。売上は 280 億円まで縮み、営業利益は赤字になる。借入の金利も重く、純利益は赤字が続く。もう成長する会社ではなく、建物と土地の売却価値が値段の目安になる。創業者が経営を続けても、少数株主には現金の使い方を決められない。借入の返済を優先し、配当は最低限に絞られる。
- 医心館事業(ホスピス型住宅+訪問看護):数量 3,300(平均入居者数(人・推定))× 価格 0.08(入居者 1 人あたり年間売上の名目(億円/人)。物価の倍率に、報酬改定と公定価格の伸びの遅れを重ねたもの)→ 売上 280 億円・営業利益 −8 億円。入居者 0.68 倍・1 人あたり売上 0.62 倍・営業利益率 −3%
倍率:純利益が赤字で PER は使えず PBR で置く。床は施設の売却価値(下の floor_assets)の考え方で、譲渡前の今の自己資本 361 億円に 0.44 を掛ける。中立・やや悲観より低い。
確率:報酬の追加の引き下げ、行政処分、看護師の採用難が重なる構造的な負け。2025 年に調査委員会が不適切な請求を認定し、規制当局の視線が厳しい点を踏まえ、14% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
医心館事業(ホスピス型住宅+訪問看護)
末期がんや難病の人が入る住宅型有料老人ホームに、訪問看護・介護を同じ建物で提供する。売上の約 9 割が医療保険・介護保険。
| 数量平均入居者数(人・推定) | 価格入居者 1 人あたり年間売上の名目(億円/人)。物価の倍率に、報酬改定と公定価格の伸びの遅れを重ねたもの | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 4,820 | 0.10 | 492 | 62 |
| 10 年後 中立 | 5,400 | 0.11 | 598 | 54 |
取り方:売上 492 億円・営業利益 61.6 億円(2025/09 期の開示)。平均入居者数は、定員 6,706 人(期末)・期中平均の定員と稼働率 7 割強、入居者 1 人の月売上が約 85 万円という推定から逆算した約 4,820 人(推定。稼働率は 2026/9 期 Q3 の既存 73.8%・新規 41.6% の開示から)。医療支援事業(明日の医療)は小さく含めた。数量は実質・率は物価込み(二重がけなし)。
リスクと懸念
報酬改定がさらに続く
2026 年 6 月の改定で、同一建物の訪問看護は定額の包括払いになり、1 人あたりの上限は月 80〜90 万円から 45 万円ほどに下がった。売上の 9 割が公定価格のため、次の改定でも同じ方向の見直しが入れば、利益は一段と削られる。
不適切な請求と行政処分
2025 年に外部の調査委員会が、実態のない訪問看護の請求を少なくとも約 6,300 万円と認定した。会社は組織的な不正ではないと主張する。訪問看護事業所の指定の取り消しや停止が出れば、その施設の売上が消え、信用も傷つく。
看護師の採用難と賃金の上昇
費用の大半は看護師・介護職の人件費。採用費と人件費の増加で、2025 年 9 月期の営業利益は 4 割減った。賃金は物価以上に上がる一方、報酬は国が決める。報酬が下がっても人件費は下がらず、利益率が戻りにくい。
新しい施設の稼働が上がらない
新しい施設の稼働率は 42% にとどまる(既存は 74%)。開設の費用は先に出るため、稼働が遅れるほど利益を食う。包括払いの導入で 1 人あたり売上が下がり、損益分岐に必要な稼働率も上がった。
借入と金利の上昇
施設の建物・土地を借入で取得してきた。47 施設の譲渡で借入は減るが、新規の開設を続ければ再び増える。短期金利が 2% まで上がると、利払いが利益を削る。長期の賃借契約の家賃も固定の約束で、稼働が落ちる局面で重い。
創業者の持ち分と施設の売却
創業者が資産管理会社の分を含めて 6 割強を持ち、少数株主の声は届きにくい。西日本の売却は帳簿より高く売れたが、残りの施設も同じ条件で売れる保証はない。売却益は一度きりの収入で、稼ぐ力の改善ではない。
今後の分かれ目
- 包括払いのもとで、営業利益率が 10% を超えて戻ったら
- 改定の傷が浅かったことになる。やや楽観以上の確率を上げてよい。
- 次の診療報酬改定で、同一建物の訪問看護がさらに引き下げられたら
- 悲観の筋書きに近づく。やや悲観と悲観の確率を厚くする。
- 新しい施設の稼働率が 70% を超えたら
- 開設の費用が回収に向かう。中立の利益に上振れの余地が出る。
- 調査委員会の指摘を受けた事業所に、行政の指定取り消しが出たら
- 悲観の筋書きが現実味を帯びる。該当施設の売上が消え、採用にも響く。
- 譲渡で得た資金で借入を返し、新規の開設を再開したら
- 財務は強いまま成長に戻る。ただし、稼ぐ力が資本コストを超えるか確かめる。
- 他社から買収の提案が出たら
- 施設資産の価値が見直される。買収価格は本質価値に近づく動きになりうる。
見ておくもの
- 営業利益率(改定後の四半期の水準)
- 既存・新規の施設の稼働率
- 看護師の採用費・人件費の対売上比
- 47 施設の譲渡の完了と譲渡益
- 次回の診療報酬改定の方向
倍率と資本コストの決め方
今の株価(時価総額約 405 億円)は見ずに、入居者数 × 1 人あたり売上(改定後)から営業利益を先に置き、事業の ROE(約 5.5%)が k 9% を下回ることから、中立の PER を上限 1÷k の約 9 割に置いた。47 施設の売却(簿価の約 1.5 倍)は、悲観側の床の考え方にだけ使い、中立の倍率には使っていない。市場の PER・PBR は参考にしていない。会社は日本基準。事業所の多くは長期の賃借で、家賃は固定の約束。新リース会計基準(2028/03 期から BS に載る)で形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ家賃を営業費用に入れた形でそろえた。自己資本は、譲渡益の税引き後 43 億円を足した 404 億円から流した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.3→11.93 倍・やや楽観 PER 10→11.11 倍・中立 PER 10.6→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。