結論
ビー・エム・エルは、病院や診療所から血液や尿などの検体を預かり、検査して結果を返す受託臨床検査の大手である。売上の約 9 割が検査で、残りが試薬の販売や情報システムだ。国内の受託検査は寡占で、同社は上位数社の一角を占める。
筆者の結論は、10 年の本質価値は今の値段をやや下回る、というものだ。理由は、事業の稼ぐ力が細いことにある。営業利益率は 7% 前後で、売上 1,500 億円に対して利益は 100 億円ほどだ。検査の値段は国の公定価格が土台で、人件費が上がっても自由に転嫁できない。
一方、守りは固い。時価総額の 4 割強にあたる純現金があり、借金はない。検査は景気が悪くても減らない。大きく負ける事業ではないが、大きく勝つ事業でもない。
中立の 10 年後は、純利益が今の約 1.3 倍の 100 億円で、時価総額は余った現金を含めて 1,400 億円台になる。今の値段とほぼ同じ水準で、10 年のあいだに戻ってくる還元を足しても、年 7.5% の資本コストには届かない。
価値を左右するのは、検査の値段をどこまで通せるかと、厚い現金を株主にどう戻すかの 2 点だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安全だが、安く買わなければ報われない会社」だ。
まず事業。検査は景気に左右されず、病院との関係は長く続く。10 年後もこの事業は残る。ただし堀は浅い。値段を決めるのは国と病院で、会社ではない。人件費の上がる世界では、利益率が薄い会社ほど苦しい。
次に、株主のものになる利益。営業利益 100 億円のうち、研究棟や検査機器の更新に毎年かなりの設備投資が要る。自由に使える利益は、純利益よりだいぶ細い。
そして資本の使い方。自己資本の 3 割ほどが事業に使われない現金だ。ここに最大の不満がある。それでも、近年は買い戻しで株数を減らしており、方向は正しい。
最後に値段。10 年後の中立は、現金を含めて今とほぼ同じで、資本コストの 7.5% には足りない。安全域は無い。ただ、現金が厚いぶん、負けても大きくは負けない。
何で稼ぐ会社か
事業の中心は受託臨床検査である。病院や診療所は、血液・尿・病理などの検体を外の検査会社に預ける。ビー・エム・エルは全国の拠点で検体を集め、自社の研究所などで検査し、結果を電子で返す。1 件あたりの値段は小さいが、件数は膨大だ。売上の約 9 割がこの事業になる。
検査の値段は診療報酬という公定価格が土台にある。病院が国から受け取る検査料が決まっており、病院は検査会社への支払いをそこから出す。だから検査会社は、病院に高く売りにくい。これが利益率の低さの根にある。
残りの約 1 割は、検査の周辺だ。試薬や検査機器の販売、病院向けの情報システム、治験に関わる検査などが入る。利益への寄与は小さい。
同社は 2023 年にファルコホールディングスと資本業務提携を結んだ。検査システムを相互に使い、遺伝子検査でも組む。検査会社どうしが手を組むのは、規模の効果が効く事業だからだ。大きな検査センターに検体を集めるほど、1 件あたりの費用が下がる。
2026 年 3 月期は売上が約 4.9% 伸び、営業利益は 104 億円となった。新規の病院の獲得と、値段の見直しが効いた。新しい研究棟が動き出し、減価償却は増えている。
優良さと弱いところ
筆者は、この会社を「手堅いが、堀の浅い会社」と見る。堀とは、他社がまねできない強みのことだ。
強みは規模にある。国内の受託検査は上位数社で多くを握る寡占で、検体を運ぶ物流網と大型の検査設備を持つ会社が有利だ。病院は検査会社を簡単には替えない。結果の返し方やシステムがつながっているからだ。
弱みは値決めの力が無いことだ。検査の値段は公定価格に縛られ、病院は少しでも安い会社へ動く。同業の SRL(H.U.グループ)や LSI メディエンスとの価格競争は絶えない。人件費と物流費は物価で上がるが、値段は後から追いかけるしかない。
資本の効率は低い。自己資本利益率は 6% ほどで、過去 10 年の中央値でも 8.5% だ。2022 年にコロナの PCR 検査で営業利益率が 26% に跳ねたが、特需が去ると 7% に戻った。あの利益は事業の実力ではなく、一時の風と見るべきだ。
財務は強い。借金がなく、自己資本比率は約 7 割だ。この安心感のぶん、現金がたまりすぎている。経営がこれを事業に使い切れていないことが、資本効率を下げている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の受託臨床検査の市場は、約 6,200 億円とされる。コロナの PCR 検査が一時的に市場を膨らませ、2022 年度は 6,970 億円まであった。特需が消えたあとは、元の水準に戻っている。
需要は、高齢化で緩やかに増える。ただし人口が減るため、検体の数は 10 年でほぼ横ばいか、わずかな増加にとどまるだろう。遺伝子検査やがんの早期発見のような新しい検査が上乗せになるが、市場全体を動かすほどの規模にはまだ遠い。
競争の形は、上位数社の寡占と、地方の中小の検査会社の再編だ。H.U.グループの SRL、LSI メディエンス、ビー・エム・エル、ファルコの 4 社が主役である。小さな検査会社は後継者難や採算悪化で、大手に検体を預けて撤退する流れが続く。大手が数量を取る追い風だ。
逆風は値段だ。診療報酬は 2 年ごとに見直され、検体検査の点数は長く引き下げの方向にある。病院も経営が苦しく、検査会社へ値下げを求める。一方で最近は、人件費の上昇を受けて、各社が値段の見直しを進めている。この動きが続くかが、10 年の収益を決める。
もう 1 つの懸念は、病院が検査を自前に戻す動きと、検査機器の小型化だ。大きな病院ほど、一部の検査を院内に残す。
資本政策と M&A
資本政策は、現金の厚さを背景に、買い戻しと配当で株主に戻している。2026 年 3 月期は、財務のお金の出が約 124 億円に上った。純利益を上回る額で、自己株は消却して株数を減らしている。
それでも純現金は約 650 億円と、時価総額の 4 割強に積み上がったままだ。事業は大きな設備を要さず、新しい研究棟が一段落すれば、投資の山も過ぎる。筆者は、この現金をどう使うかが株主価値のいちばんの論点だと考える。
M&A は、ファルコとの提携が中心だ。2023 年に資本提携を結び、互いの株を少し持ち合っている。完全な合併ではなく、検査システムと遺伝子検査での協力にとどまる。同業の再編が進めば、同社が買う側にも、買われる側にもなりうる。TOB(公開買い付け)の確率を 16% と見積もる推計もある。
大株主や政策保有株の額は、今回確かめられていない。本文ではこれらの数字を使わない。
10 年の還元は、純利益の合計の 84%。純利益を超える年もあった実績より薄く、余った現金 400 億円には手を付けない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
受託検査は、辞めたくても辞められない事業だ。病院は結果の返し方や検査システムが検査会社とつながっており、乗り換えには手間がかかる。国内の寡占は固定していて、新規の参入者は現れにくい。
人件費の上昇を受けて、業界全体が値段の見直しに動いている。2026 年 3 月期にビー・エム・エルが営業利益を 11% 伸ばしたのは、その表れだ。公定価格が土台でも、病院は検査会社を失えば困る。値段を通す力は、思われているより強い。
小さな検査会社の撤退が続き、大手に検体が集まる。検体が増えるほど、1 件あたりの費用は下がる。ファルコとの提携で検査システムを共有すれば、費用の削減はさらに進む。遺伝子検査やがん検診のような新しい検査も、大型の検査センターを持つ会社に有利だ。
財務は鉄壁だ。現金が時価総額の 4 割強あり、借金はない。買い戻しを続ければ、1 株あたりの価値は着実に増える。利益率が 7% から 9% に戻るだけで、利益は 3 割増える。今の値段は、この改善をまったく織り込んでいない。
慎重な見方
この事業の利益率は、10 年前も今も 7% 前後だ。コロナの特需を除けば、構造は何も変わっていない。値段は診療報酬で決まり、点数の引き下げは続く。人件費と物流費は物価で上がり、値段は後追いになる。
病院は経営が苦しく、検査会社に値下げを迫る。上位数社が寡占でも、病院から見れば、どの会社も同じ検査をする。差が無いから、最後は値段の勝負になる。
資本効率も問題だ。自己資本利益率は 6% で、資本コストを下回る。現金がたまっているのは、使い道が無いからであり、事業の強さではない。たまった現金は、買収で失敗するか、悠長な買い戻しで少しずつ戻るだけだ。
さらに、新しい研究棟の減価償却がこれから重くのしかかる。値段が通らなければ、利益は減る。検査機器の小型化で、大病院が検査を院内に戻す動きも出ている。最悪の場合、値下げ競争が激しくなり、利益はほとんど消える。純現金は厚くても、事業が稼がなければ株主価値は積み上がらない。
どちらに重みを置いたか
事業の安全さでは強気の見方が勝つが、稼ぐ力の細さでは慎重な見方が重い。値段を通す力は 2026 年 3 月期で一度確かめられたものの、10 年続くかは別の話だ。そこで確率は、中立に 4 割弱を置き、やや悲観を 3 割近くまで厚くした。悲観は 1 割にとどめた。純現金という床があり、事業が消えるほどの負け方は考えにくいからだ。結果として、本質価値は今の値段をやや下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,273 円1,603 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,803 円676 億円)。 今の値に割り戻すと 3,392 円1,272 億円、今との差 −12.0%、 期待の年率 +4.7%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 7,840 円2,940 億円 | 2,400 円900 億円 | +165.6% | +10.3% | 614 円230 億円 |
| やや楽観 | 18% | 6,310 円2,366 億円 | 2,133 円800 億円 | +119.0% | +8.2% | 1,520 円570 億円 |
| 中立 | 38% | 5,095 円1,911 億円 | 2,000 円750 億円 | +84.0% | +6.3% | 2,696 円1,011 億円 |
| やや悲観 | 28% | 2,110 円791 億円 | 1,600 円600 億円 | −3.8% | −0.4% | 1,039 円390 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,404 円527 億円 | 667 円250 億円 | −46.3% | −6.0% | 207 円78 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,273 円1,603 億円 | 1,803 円676 億円 | +57.6% | +4.7% | 6,076 円2,279 億円 |
今の株価時価総額 3,855 円1,446 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 6% 価格改定が定着し、検査の集約で利益率が戻る 10 年 利益 148 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 7,840 円2,940 億円
人件費の上昇を病院に認めてもらう動きが定着し、検査の値段が物価に近い速さで上がっていく。小さな検査会社の撤退が続き、大手に検体が集まる。ファルコとの提携でシステムが共通になり、1 件あたりの費用は下がる。遺伝子検査やがんの早期発見の検査が育ち、単価の高い検査の比率が上がる。営業利益率は 9% に戻り、利益は今の 1.8 倍になる。それでも、物価で上がる費用を値段が追い越すところまではいかない。純現金は買い戻しで戻り、1 株あたりの価値も増える。事業の質は少し良くなるが、驚くほどの成長企業にはならない 10 年である。この筋書きが実現するには、診療報酬の引き下げが緩む必要もある。
- 受託臨床検査:数量 14.0(受託した検査項目数(億項目))× 価格 139(1 項目あたり売上(円、名目))→ 売上 1,947 億円・営業利益 175 億円。項目数は今の 1.12 倍。集約でシェアが上がり、単価は 1.26 倍
- 検査関連(試薬・機器・情報システム):数量 4.0(取引先の施設数(万施設、推定))× 価格 47(1 施設あたりの年間関連売上(万円、名目))→ 売上 188 億円・営業利益 19 億円。施設数 4.0 万、単価は物価並みの 1.34 倍
倍率:事業の純利益 142 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 17.84 倍、時価総額 2,940 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値段の見直しが 10 年続き、同業の再編でシェアも上がる必要があり、複数の好条件が重なるため低めの 6%。ただし 2026 年 3 月期の増益実績があり、無視はしない。
やや楽観 18% 値段の見直しが続き、利益率が少し戻る 10 年 利益 123 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 6,310 円2,366 億円
診療報酬の引き下げは続くが、人件費の上昇を理由にした値段の見直しも、毎年のように認められる。ビー・エム・エルは新規の病院を取り続け、シェアは今より少し上がる。新研究棟の減価償却が一巡し、費用が落ち着く。営業利益率は 8% まで戻る。会社の予想(営業利益 105 億円)の横ばいを超えて、緩やかに増えていく 10 年だ。検査関連の事業は小さいが、情報システムで病院との関係を深める。純現金の一部は買い戻しに回り、株主への戻りも着実に増える。ただし堀が浅いため、利益率が 2 桁に乗るところまでは届かない。
- 受託臨床検査:数量 13.4(受託した検査項目数(億項目))× 価格 134(1 項目あたり売上(円、名目))→ 売上 1,790 億円・営業利益 143 億円。項目数は今の 1.07 倍、単価は 1.21 倍
- 検査関連(試薬・機器・情報システム):数量 3.9(取引先の施設数(万施設、推定))× 価格 46(1 施設あたりの年間関連売上(万円、名目))→ 売上 181 億円・営業利益 16 億円。施設数 3.9 万、単価は 1.32 倍
倍率:事業の純利益 117 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 16.75 倍、時価総額 2,366 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2026 年 3 月期に価格適正化で増益を出せた実績を踏まえ、現実的な上振れとして置く。業界全体の値上げの動きが続くかが分かれ目。
中立 38% 値段は物価を追いきれず、利益はゆっくり増える 10 年 利益 102 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 5,095 円1,911 億円
検体の数は人口の減少と高齢化が相殺し、10 年でわずかに増える程度だ。同業の再編でシェアは少し上がる。検査の値段は、公定価格の引き下げと病院の値下げ要求を受けつつ、人件費の分は部分的に認められ、物価より遅れて上がる。営業利益率は 7% 前後で、今とほぼ同じだ。営業利益は 128 億円と、10 年で 2 割ほど増える。物価が 3 割以上上がる世界では、実質では少し減る。堅実だが、株主が期待する成長は無い。手元の現金は買い戻しと配当で少しずつ戻る。同業のうち力の弱い会社は再編され、大手の数は減るが、残る会社どうしの値段競争は終わらない。
- 受託臨床検査:数量 12.9(受託した検査項目数(億項目))× 価格 127(1 項目あたり売上(円、名目))→ 売上 1,638 億円・営業利益 115 億円。項目数は今の 1.03 倍、単価は 1.15 倍。公定価格の引き下げと病院の値下げ要求で、物価の 1.34 倍には届かない
- 検査関連(試薬・機器・情報システム):数量 3.7(取引先の施設数(万施設、推定))× 価格 46(1 施設あたりの年間関連売上(万円、名目))→ 売上 169 億円・営業利益 14 億円。施設数 3.7 万、単価は 1.30 倍
倍率:事業の純利益 96 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 15.67 倍、時価総額 1,911 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:検査需要の安定と、値段を通す力の限界が釣り合う標準的な想定。最も重みを置く。
やや悲観 28% 値段が通らず、費用だけが物価で上がる 10 年 利益 62 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 2,110 円791 億円
診療報酬の改定ごとに検体検査の点数が下がり、病院も検査会社への値下げ要求を強める。人件費と物流費は物価で上がるのに、値段は物価の半分しか上がらない。新研究棟の減価償却も重い。営業利益率は 4% 台まで落ち、利益は今の 7 割になる。上位数社の間で値下げ競争が起き、シェアの上積みも限られる。それでも事業は黒字を保ち、買い戻しを続ける力は残る。優良企業という評価は薄れていく 10 年だ。現金は厚いまま残るが、事業そのものの価値は今より小さくなる。ビー・エム・エルは設備の更新を絞り、拠点の統合で費用を削る。
- 受託臨床検査:数量 12.5(受託した検査項目数(億項目))× 価格 118(1 項目あたり売上(円、名目))→ 売上 1,476 億円・営業利益 66 億円。項目数は横ばい、単価は物価の半分しか上がらず 1.07 倍
- 検査関連(試薬・機器・情報システム):数量 3.5(取引先の施設数(万施設、推定))× 価格 42(1 施設あたりの年間関連売上(万円、名目))→ 売上 147 億円・営業利益 9 億円。施設数は横ばい、単価 1.20 倍
倍率:事業の ROE(余った現金を除く)は約 6% で k 以下なので、PER の上限は 1÷k = 13.3 倍。値決めの弱さと利益率の低下で、事業の稼ぐ力を上限の約 6 割半(8.5 倍)に置いた。
確率:検体検査点数の引き下げは過去も長く続いた。人件費の上昇を転嫁しきれない筋書きは、現実味が高いので厚めの 28%。
悲観 10% 値下げ競争と院内回帰で、検査が稼げなくなる 10 年 利益 18 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,404 円527 億円
診療報酬の検体検査の点数が大きく下がり、大病院は検査機器の小型化で、検査の一部を院内に戻す。残った検体を巡って上位数社が値下げで争い、値段は 10 年でほとんど上がらない。人件費は物価で上がり続け、営業利益率はほぼゼロになる。新研究棟は稼働率が上がらず、減損が出る。ファルコとの提携の効果も薄い。会社は拠点を減らして立て直しを図るが、成長は見込めない。大口の病院を値引きで守るほど、利益は削られていく。ただし、借金がなく現金が厚いため、会社が行き詰まることはない。買い戻しは止まり、還元は配当が中心になる。株主価値は、事業ではなく現金で支えられる。
- 受託臨床検査:数量 12.0(受託した検査項目数(億項目))× 価格 110(1 項目あたり売上(円、名目))→ 売上 1,325 億円・営業利益 13 億円。項目数は 4% 減、単価はほぼ上がらない
- 検査関連(試薬・機器・情報システム):数量 3.2(取引先の施設数(万施設、推定))× 価格 39(1 施設あたりの年間関連売上(万円、名目))→ 売上 124 億円・営業利益 4 億円。施設数が減り縮小
倍率:ROE は 1.5% と k 以下。稼ぐ力は純利益 18 億円ほどでほぼ無いので、床は売れる資産と現金で測る。今の自己資本 1,276 億円に 0.45 倍を掛けた。事業が稼げないぶん、現金の一部が撤退と減損で消える前提で、帳簿の半分以下に置いた。
確率:検査料の大幅な引き下げと、病院の院内回帰、検査会社の値下げ競争が同時に起きる構造的な負け筋。純現金の床があるので 1 割にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
受託臨床検査
病院・診療所・健診機関から検体を預かり、血液・尿・病理・遺伝子などを検査して結果を返す。
| 数量受託した検査項目数(億項目) | 価格1 項目あたり売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.5 | 110 | 1,380 | 92 |
| 10 年後 中立 | 12.9 | 127 | 1,638 | 115 |
取り方:項目数は非開示。受託検査の市場は約 6,200 億円(矢野経済研究所)で、同社の臨床検査事業は売上の約 92%(約 1,380 億円、シェア約 22% 相当)。項目数は 1 項目あたりの平均単価から逆算した約 12.5 億項目(開示は無く、単価・件数とも当社推定)。価格は物価の 3% に届かない前提:検査料は公定価格が土台で、点数の引き下げと病院の値下げ要求があるため、人件費の分は部分的にしか転嫁できない。営業利益は検査 92・関連 12 の割り振りで、全社の 104 億円に合わせた推定。
検査関連(試薬・機器・情報システム)
検査試薬や機器の販売、病院向けの情報システム、治験・健診の周辺サービス。
| 数量取引先の施設数(万施設、推定) | 価格1 施設あたりの年間関連売上(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.5 | 35 | 123 | 12 |
| 10 年後 中立 | 3.7 | 46 | 169 | 14 |
取り方:全社売上 1,503 億円から検査の 1,380 億円を引いた残りが 123 億円。取引先の病院・診療所・健診機関・研究機関を約 3.5 万施設と推定し、1 施設あたり約 35 万円とした(開示は無く推定)。営業利益は利益率 10% 弱とみた。
リスクと懸念
検査料の引き下げ
診療報酬は 2 年ごとに見直され、検体検査の点数は長く下がる方向にある。病院への検査料が下がれば、検査会社への支払いも下がる。人件費と物流費が物価で上がる中で値段が追いつかなければ、7% の営業利益率は容易に 4% 台まで落ちる。最大の構造リスクだ。
値下げ競争
病院から見ると、どの検査会社も同じ検査をする。差が出るのは値段だけだ。SRL(H.U.グループ)、LSI メディエンス、ファルコと、上位数社の間で大口の病院を巡る値下げ競争が起きやすい。新規の獲得を値引きで買えば、利益率は崩れる。
病院の院内回帰と検査機器の小型化
大病院は、検査機器の小型化と自動化が進めば、検査の一部を院内に戻せる。外に出す検体が減れば、検査センターの稼働率が下がる。新研究棟のように設備を増やしたばかりの会社には、固定費の重さがそのまま利益に響く。
新研究棟の償却と設備投資
BML 総合研究所の新棟が稼働し、減価償却費が増えた。検体が想定より増えなければ、償却の重さが利益を圧縮する。検査機器の更新費も毎年かかり、株主が自由に使える利益は、会計上の利益より細い。
厚い現金の使い道
純現金は時価総額の 4 割強にのぼる。買い戻しで戻す方向は正しいが、動きが遅いと資本効率は上がらない。逆に、高い値段の買収に使えば価値を壊す。経営の資本配分が試される。
検査の誤り・信頼の事故
検体の取り違えや結果の誤りは、病院の信頼を一気に失う。検査会社の事業は信頼で成り立つため、一度の事故が大口の取引を失わせうる。
遺伝子検査など新分野の不確実性
遺伝子検査やがんの早期発見は期待される分野だが、保険の対象になるか、どの会社が主導するかはまだ読めない。ファルコとの提携の成果も、数字で確かめられたわけではない。
今後の分かれ目
- 診療報酬改定で検体検査の点数が大きく引き下げられれば
- 検査の値段が物価に大きく遅れ、利益率は 4% 台に落ちる。やや悲観から悲観の筋書きに近づく。
- 人件費の上昇を理由にした値上げが、業界全体で毎年のように認められれば
- 利益率が 8〜9% に戻り、やや楽観から楽観の筋書きに近づく。
- 純現金の半分以上を買い戻しと配当に回す方針が出れば
- 余った現金の戻り方が確実になり、価値が上がる。
- 同業の再編が進み、同社が買う側または買われる側になれば
- 規模の効果で費用が下がるか、買収の値段で株主価値が動く。条件しだいで上にも下にも振れる。
- 大病院が検査の院内回帰を進めれば
- 外に出る検体が減り、検査センターの稼働率が下がる。悲観の筋書きに近づく。
- 遺伝子検査が保険の対象に広がり、ファルコとの提携で受託が増えれば
- 単価の高い検査が増え、利益率が上がる。楽観に近づく。
見ておくもの
- 診療報酬改定での検体検査点数の動き
- 価格適正化による増収と営業利益率の推移(7% を超えるか)
- 新研究棟の稼働と減価償却費の推移
- 自己株の買い戻しと配当の総額(純利益との比)
- ファルコとの提携の進み方と同業の再編
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER を見て倍率を置いていない。検査受託 1,380 億円と検査関連 123 億円を、市場 × シェアと値段の指数で 10 年積み上げ、そこから利益率と純利益を出した。倍率は、ROE と k から出る正当化 PER に、値決めの弱さを織り込んだ上限の 8.5〜9 割で置いた。純現金は 400 億円を余りとして分け、戻り方 1.0 で足した。新リース会計基準は、家賃を営業費用に入れた今の形でそろえて置いており、BS の形が変わっても本質価値は動かない。結果が今の値段を少し下回ったのは、事業が資本コストに届かないためだ。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.5→17.84 倍・やや楽観 PER 14.2→16.75 倍・中立 PER 13.5→15.67 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。