結論
リソー教育グループは、首都圏で完全 1 対 1 の個別指導塾「TOMAS」を営む教育グループだ。幼児から大学受験までを、名門会・伸芽会・スクールTOMAS が支える。筆者の結論は割高である。事業の質は悪くないが、利益で測った価値は今の時価総額の 6 割ほどにとどまる。
稼ぎの中心は個別指導の授業料だ。子どもの数は減っても、家庭が 1 人にかける教育費は増えた。私立志向がそれを支え、売上は過去最高を更新し続けている。ただ、人件費と家賃が先に増える。前期の営業利益は 27 億円で、期初の計画を 14% 下回った。
中期計画も 2 つ続けて、最終年度の目標に届いていない。会社の見立てほど、利益は伸びていない。
目を引くのは、私立校の放課後に講師を送るスクールTOMAS だ。売上は前期に 9% 伸びた。校舎を持たないので固定費が軽い。この部門がどこまで伸びるかが、10 年の利益を決める。
もう 1 つの論点が親会社だ。ヒューリックが約 51% を持ち、10 月に完全子会社化の TOB を始めた。買い付けの値段は、時価総額で約 500 億円に当たる。今の株価はこの値段に張り付いている。
価値の計算は、TOB とは切り離して置いた。結果は、この値段が利益の裏付けを超えているというものだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業は悪くない。ただ、いまの値段では買いたくならない。
完全個別という高い価格帯は、合格実績という看板に支えられている。この看板が続く限り、10 年後も事業は残る。一方で、堀の深さは中くらいだ。値上げのたびに退会が出て、講師の時給は上がり続ける。
オーナーが手にできる利益は、見かけより少ない。校舎の家賃は固定の約束で、売上が落ちても減らない。新しい校舎やビルを開くたび、敷金と設備が要る。利益のほとんどを配当に回す方針も、成長への再投資が薄いことの裏返しだ。
資本配分は評価が割れる。配当を厚くする姿勢は株主に優しい。しかし親会社が 5 割を握る以上、少数株主の利益と親会社の利益は同じ方向を向くとは限らない。筆者の見立てでは、ヒューリックはビルの貸し手として、こどもでぱーとの賃料も得る。買い手にとっての価値は、リソー教育単体の利益より大きい。
安全域は、買い付けの値段では取れない。利益で測った価値は、その 6 割ほどだ。そもそも売買の値段が TOB で固定されているため、値段と価値の差は、買い手が払う値段の妥当性として読むのが筋である。
何で稼ぐ会社か
リソー教育グループは持株会社である。2025 年 9 月に持株会社体制へ移り、事業は 5 つの子会社が担う。
中核は学習塾の TOMAS だ。首都圏に 104 校を持ち、講師と生徒が 1 対 1 で向き合う。志望校から逆算した授業計画が売りで、生徒の 4 割は小学生である。売上の半分強、178.6 億円をここで稼ぐ。講師の大半は学生や社会人のアルバイトだ。正社員は保護者との窓口と運営に徹する。
次が家庭教師の名門会で、売上は 51.6 億円。社会人のプロ講師が家庭に出向き、医学部受験に強い。全国に 35 校を構える。
伸芽会は名門幼稚園・小学校の受験指導で、約 70 年の歴史がある。学童と託児の伸芽'Sクラブも抱え、売上は 57.5 億円。ただ受験部門の生徒が減り、前期の利益は 67% 落ちた。
スクールTOMAS は私立の中高一貫校と契約し、放課後の個別指導を請け負う。稼働校は 96 校、売上は 37.4 億円。導入校の半分が首都圏、3 割が近畿だ。
このほか体操・サッカー教室とツアー事業が 17.1 億円ある。
新しい柱が「こどもでぱーと」である。習い事から受験までを 1 つのビルに集める構想で、ヒューリックとコナミスポーツが組む。ヒューリックが開発するビルに、リソー教育が入る形だ。首都圏で 20 棟まで増やす計画で、3 棟が開業済みである。
優良さと弱いところ
強みは、完全個別と進学実績を組み合わせたことだ。一般の個別指導塾は 1 人の講師が 2〜3 人を教え、授業の補習が中心になる。完全 1 対 1 は料金が高く、それを正当化できるのは難関校の合格実績しかない。まねる会社が少ない理由はここにある。営業利益率は 8〜10% で安定してきた。直営で個別指導をやる塾としては高い水準だ。
ただ、堀は深くない。値段を 3% 上げた前期は、春の退会が想定を超えた。家庭が払える額には限りがあり、値上げの力は強くない。講師はアルバイトで、時給の上昇がそのまま原価に響く。
経営の見立ては甘い。中期計画の未達が続き、前期の営業利益は期初計画を 14% 下回った。2014 年には不適切な会計処理が見つかり、内部管理を立て直した過去もある。
資本の使い方は堅実だ。借金はなく、現金が 80 億円を超える。自己資本利益率は 13% で、過去 10 年の中央値 20% を下回る。稼ぐ力に対して、寝かせた現金が重い。
伸芽会の利益率が 1 ケタに落ちたことは、ブランドも競争に無縁でないことを示している。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
学習塾・予備校の市場は約 9,850 億円で、横ばいが続く。個別指導は広がり、集団指導は伸びない。
子どもの数は減る。小中高生は 2019 年度の 1,275 万人から 2024 年度の 1,199 万人へ、年 1.2% のペースで減った。それでも主力 4 事業の売上は年 4.9% 伸びた。人数が減る分を、1 人当たりの教育費の増加が上回ったのである。
首都圏の中学受験は高止まりしている。2026 年の受験者は約 5.2 万人で、前年から 0.5% 減った。受験率は 18% と高い。ピークの 2023 年からはわずかに下がっており、ブームの頭打ちを見る向きもある。
競合は厚い。集団塾の早稲田アカデミーや SAPIX、個別指導の明光義塾や東京個別指導学院、四谷大塚を持つナガセが顔を並べる。リソー教育は価格の高い完全個別で戦う。広く浅く取るのではなく、難関校志望の層に絞った戦い方だ。
学校の中の個別指導は、成長の余地が大きい。私立学校は全国に約 1,300 校あり、教員の働き方の見直しが追い風になる。ただし競合するサービスも出てきた。
技術の変化も無視できない。AI 教材は 1 人ずつの学習を安く作れる。講師の手間を減らせる一方で、低価格の競合も生まれやすい。10 年の勝ち負けは、AI で安くなった授業に対し、1 対 1 の人の関与に家庭がいくら払い続けるかで決まる。
資本政策と M&A
資本政策の主役は親会社のヒューリックだ。2020 年に資本業務提携を結び、2024 年の TOB と第三者割当で出資比率を 20% から 51% に高めた。創業者の岩佐実次氏は、その TOB に持ち株の約 7 割で応じた。大株主はいま、ヒューリックが 50.6%、駿河台学園が 6%、岩佐氏が 3.5% である。
2026 年 10 月、ヒューリックは残りの株式を TOB で買い取ると発表した。買い付けは 11 月 26 日まで。成立すれば上場は終わる。リソー教育の取締役会は賛同し、応募を勧めている。目的は、短期の業績に縛られず、グループ一体で先行投資を進めることだ。ヒューリックは 7 月に鉄緑会の運営会社も傘下に入れており、幼児・個別指導・大学受験を 1 つにつなげたい考えである。
還元は配当性向 50% 以上が方針だが、実際は利益とほぼ同額を配っている。現金は新校の敷金、渋谷の複合ビルへの投資、DX、M&A に回す。借金はない。
10 年の還元は、配当性向 50% 以上の方針と、利益とほぼ同額を配ってきた実績より薄い、純利益の合計の 85%。ヒューリックの TOB(2026 年 10 月発表)が成立すれば上場は終わる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
首都圏の教育熱は強く、1 人当たりの教育費は今後も増える。完全個別は、その増えた分を最も取れる形だ。
スクールTOMAS は私立 1,300 校のうち、まだ 96 校にしか入っていない。会社が掲げる 200 校は遠くない。1 校当たりの売上が増え、オンラインの受講も広がれば、利益率は 10% を超えて伸びる。校舎を持たない分、固定費の重さに悩まない。
本業の TOMAS も、映像授業を全校に入れて退会を抑える。生徒を長くつなぎとめれば、校舎の利益率が上がる。グループ内の生徒紹介が機能すれば、広告費をかけずに生徒が増える。前期の下期だけで営業利益が 3 割増えたことは、広告費の一元管理が効き始めた証拠だ。
こどもでぱーとは、ヒューリックの不動産の力で駅前の好立地を押さえられる。幼児教育から小学生、中高生へと、家庭を長く囲い込める。鉄緑会との連携も加われば、大学受験まで同じグループで完結する。
計画どおりの増益が続けば、10 年後の利益は今の 2.5 倍を超える。これだけ稼げる会社が、完全子会社化で資金と意思決定の自由を得れば、成長はさらに速くなる。
慎重な見方
少子化と人件費の上昇は、確実に利益を削る。前期は売上が伸びても営業利益が 8% 減った。この構図は来期以降も変わらない。
中期計画は 2 つ続けて目標に届いていない。前の計画の最終年度は、会社自身の今期予想が目標を下回る。計画の数字をそのまま 10 年の入口に置くのは危うい。
値上げは頭打ちが近い。3% の値上げで春の退会が想定を超えた。物価が年 3% で上がる世界でも、教育費は家計が真っ先に切り詰める項目になりうる。
強みの完全個別は、AI が授業の一部を安く作れるようになれば、割に合わなくなるおそれがある。家庭が 1 対 1 に払うのは、人でしか出せない合格の確かさに対してだ。AI 教材が合格の確かさを埋めれば、価格を維持できない。
幼児教育の伸芽会は競争で利益率が 1 ケタに落ち、再成長はまだ確かでない。こどもでぱーとは賃料と減価償却が先行し、軌道に乗らなければ重荷になる。校舎の家賃は固定費なので、生徒が減ると利益の落ち込みは売上より速い。
そもそも今の株価は、利益で測れる価値を大きく上回っている。TOB の買い手が払う値段に、少数株主が追加の利益を期待する理由は薄い。
どちらに重みを置いたか
事業の質では慎重な見方がやや強い。計画の未達と固定費の重さは、数字として出ている。強気の根拠は、スクールTOMAS の成長と下期の改善に集中しており、確かめられた期間がまだ短い。
そこで確率は中立を 36% に厚くし、楽観側は 28% にとどめた。やや悲観と悲観を合わせて 36% とし、悲観側の確率を楽観側より厚くしている。
10 年後の中立の時価総額は約 400 億円で、今の約 500 億円に届かない。楽観の筋書きまで進めば今を上回るが、やや楽観では届かない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 306 円522 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 98 円167 億円)。 今の値に割り戻すと 225 円384 億円、今との差 −23.4%、 期待の年率 +3.2%(資本コスト 7.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 622 円1,061 億円 | 151 円258 億円 | +163.1% | +10.2% | 62 円106 億円 |
| やや楽観 | 20% | 508 円866 億円 | 133 円226 億円 | +117.9% | +8.1% | 128 円218 億円 |
| 中立 | 36% | 365 円622 億円 | 110 円187 億円 | +61.4% | +4.9% | 171 円291 億円 |
| やや悲観 | 24% | 81 円139 億円 | 74 円126 億円 | −47.2% | −6.2% | 37 円64 億円 |
| 悲観 | 12% | 32 円55 億円 | 16 円28 億円 | −83.4% | −16.4% | 6 円10 億円 |
| 加重平均 | 100% | 306 円522 億円 | 98 円167 億円 | +37.4% | +3.2% | 404 円689 億円 |
今の株価時価総額 294 円501 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 私立校の中へ広がり、完全個別の値上げも通る 10 年 利益 44 億円 · PER 23.4 倍 · 株価時価総額 622 円1,061 億円
スクールTOMAS が私立校 200 校に入り、売上が 100 億円を超える。会社が掲げる 10 年の目標を、そのまま果たす筋書きだ。オンラインの受講が半分に達し、地方の私立校にも広がる。講師の確保も、学生向け賃貸との提携で回る。
本業の TOMAS は映像授業を全校に入れ、高校生の途中退会が減る。値上げは物価並みに通り、生徒は少子化の中でも 1 割強増える。名門会はオンラインの加盟塾が全国に広がり、ロイヤリティが積み上がる。
こどもでぱーとは 10 棟を超え、伸芽会・学童・個別指導をまとめて取る。ヒューリックと鉄緑会の連携で、幼児から大学受験まで家庭を囲い込める。
売上は 600 億円を超え、営業利益率は 11% 台に乗る。ただし、ここまで進むには、競争・人件費・家計の三つすべてが味方する必要がある。確率は 1 割に届かない。
- 学習塾(TOMAS・インターTOMAS・メディックTOMAS):数量 2.9(在籍生徒数(万人))× 価格 100(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 285 億円・営業利益 29 億円。生徒 2.85 万人・値上げが通り利益率 10%
- 家庭教師(名門会・TOMEIKAI・メディック名門会):数量 0.5(在籍生徒数(万人))× 価格 168(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 87 億円・営業利益 9 億円。MOPS の加盟が広がり 0.52 万人
- 幼児教育・学童(伸芽会・伸芽'Sクラブ):数量 1.6(在籍児童数(万人))× 価格 66(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 102 億円・営業利益 11 億円。こどもでぱーと 10 棟超で 1.55 万人
- 学校内個別指導(スクールTOMAS):数量 200(稼働校数(校))× 価格 0.55(1 校当たり年間売上(億円・名目))→ 売上 109 億円・営業利益 14 億円。200 校に到達・利益率 12.5%
- 体操・サッカー教室・ツアー(プラスワン教育):数量 1.5(会員・参加者数(万人))× 価格 21(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 2 億円。教室増で 1.45 万人
倍率:事業の純利益 44 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 31.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 19.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 23.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 23.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 23.44 倍、時価総額 1,061 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:条件がそろわないと起きない筋書きで、中期計画の未達が続いてきた実績もある。1 割に届かない 8% とした。
やや楽観 20% 計画をほぼ果たし、スクールTOMAS が柱になる 10 年 利益 37 億円 · PER 22.8 倍 · 株価時価総額 508 円866 億円
中期計画はおおむね達成される。計画の最終年度の営業利益率 9.3% を超え、その後も少しずつ上がる。
TOMAS は映像授業で退会を抑え、生徒が小幅に増える。名門会は福岡・東海への出店が当たり、不採算の整理も一巡して利益が戻る。
スクールTOMAS は年 10 校のペースで増え、10 年で 175 校に届く。1 校当たりの売上は物価並みに上がる。
こどもでぱーとは数棟が軌道に乗り、伸芽会の落ち込みを埋める。
売上は 550 億円台、営業利益は 58 億円ほど。直近の 2 倍強になる。前期の下期に利益が 3 割増えた勢いが、そのまま続く形だ。計画の達成がこれまで続けて外れてきた事実を考え、確率は中立より低く置いた。
- 学習塾(TOMAS・インターTOMAS・メディックTOMAS):数量 2.7(在籍生徒数(万人))× 価格 98(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 264 億円・営業利益 25 億円。生徒 2.7 万人・映像授業で退会が減る
- 家庭教師(名門会・TOMEIKAI・メディック名門会):数量 0.5(在籍生徒数(万人))× 価格 164(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 7 億円。0.47 万人
- 幼児教育・学童(伸芽会・伸芽'Sクラブ):数量 1.4(在籍児童数(万人))× 価格 65(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 91 億円・営業利益 9 億円。こどもでぱーとが寄与し 1.4 万人
- 学校内個別指導(スクールTOMAS):数量 175(稼働校数(校))× 価格 0.53(1 校当たり年間売上(億円・名目))→ 売上 94 億円・営業利益 11 億円。175 校
- 体操・サッカー教室・ツアー(プラスワン教育):数量 1.3(会員・参加者数(万人))× 価格 21(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 2 億円。1.3 万人
倍率:事業の純利益 37 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 27.6% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 17.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 22.8 倍、時価総額 866 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画のほぼ達成と、スクールTOMAS の成長が両立する筋書き。直近の下期の改善は確かだが期間が短く、2 割にとどめた。
中立 36% 生徒は横ばい、値上げが人件費と家賃を追いかける 10 年 利益 28 億円 · PER 21.6 倍 · 株価時価総額 365 円622 億円
小中高生の減少は、首都圏の私立志向と受験熱でほぼ相殺される。TOMAS の生徒は今と同じ水準にとどまり、値上げは物価並みに通る。名門会はやや縮み、伸芽会は横ばいで利益率が少し戻る。
スクールTOMAS は 150 校まで増える。会社の目標 200 校には届かないが、売上は倍以上になる。
営業利益は 44 億円。中期計画の最終年度(2029 年 2 月期)に営業利益率が 9% を超え、その後は物価並みに増える形だ。人件費と家賃の上昇は、値上げと業務の効率化で吸収する。
自己資本は配当を厚くしても 156 億円まで増える。配当性向は 85% を保つ。
全体の売上は約 480 億円で、年 3.5% の伸びにとどまる。計画をほぼ達成するという前提は、実績に照らせば甘い方である。それでも、事業の構造が壊れない最も自然な姿として、中心に置いた。
- 学習塾(TOMAS・インターTOMAS・メディックTOMAS):数量 2.5(在籍生徒数(万人))× 価格 96(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 239 億円・営業利益 20 億円。生徒は横ばいで値上げ分だけ増収・利益率 8.3%
- 家庭教師(名門会・TOMEIKAI・メディック名門会):数量 0.4(在籍生徒数(万人))× 価格 161(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 5 億円。生徒は 5% 減・利益率 8%
- 幼児教育・学童(伸芽会・伸芽'Sクラブ):数量 1.2(在籍児童数(万人))× 価格 64(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 5 億円。横ばいで利益率が 7% まで回復
- 学校内個別指導(スクールTOMAS):数量 150(稼働校数(校))× 価格 0.52(1 校当たり年間売上(億円・名目))→ 売上 79 億円・営業利益 8 億円。150 校・利益率 10.5%
- 体操・サッカー教室・ツアー(プラスワン教育):数量 1.1(会員・参加者数(万人))× 価格 21(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。1.1 万人で横ばい
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 21.62 倍、時価総額 622 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:事業の構造が壊れず、物価並みの値上げで固定費を吸収する、いちばんありそうな姿。悲観側の論点が強いため、楽観側より厚い 36% を中立に置いた。
やや悲観 24% 生徒が細り、固定費が利益を削る 10 年 利益 12 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 81 円139 億円
少子化が首都圏にも及び、通塾の生徒が 1 割台半ば減る。値上げは通りにくくなり、価格は物価に届かない。
ただ家賃や正社員の人件費は減らない。校舎が小さくなる速さより、固定費が下がる速さのほうが遅く、営業利益率は 5% を割る。
スクールTOMAS は 120 校に伸びるが、教員の働き方改革を支援する競合が出て、1 校当たりの単価が伸びない。伸芽会は受験部門の落ち込みを埋められず、こどもでぱーとの賃料が重くなる。
売上は 380 億円台、営業利益は 19 億円。今から 3 割ほど減る。
配当は利益の 9 割を保てず、自己資本も増えない。事業の質は優良とは言えなくなる。計画の未達が続き、固定費の重さが数字に出ている現状を見れば、これは例外的な筋書きではない。確率は 4 分の 1 に近く置いた。
- 学習塾(TOMAS・インターTOMAS・メディックTOMAS):数量 2.2(在籍生徒数(万人))× 価格 91(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 197 億円・営業利益 8 億円。生徒は 14% 減・利益率 4%
- 家庭教師(名門会・TOMEIKAI・メディック名門会):数量 0.3(在籍生徒数(万人))× 価格 154(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 51 億円・営業利益 2 億円。生徒は 23% 減
- 幼児教育・学童(伸芽会・伸芽'Sクラブ):数量 1.0(在籍児童数(万人))× 価格 61(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 58 億円・営業利益 2 億円。受験部門の減少が続き 0.95 万人
- 学校内個別指導(スクールTOMAS):数量 120(稼働校数(校))× 価格 0.50(1 校当たり年間売上(億円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 5 億円。120 校にとどまる
- 体操・サッカー教室・ツアー(プラスワン教育):数量 1.0(会員・参加者数(万人))× 価格 20(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 19 億円・営業利益 1 億円。0.95 万人
倍率:事業の ROE は約 9% で k 7% をわずかに超える程度。縮む事業の g は 1% 台に落ち、固定費の重さで利益が振れやすい。上限の目安(約 13 倍)の 7 割台後半の 10 倍に置いた。
確率:少子化・退会・固定費の重さが数字に出ている。計画の未達が続く現状を考え、楽観より厚い 24% とした。
悲観 12% AI と低価格に押され、完全個別の価格が保てない 10 年 利益 3 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 32 円55 億円
AI 学習と低価格のオンライン塾が、完全 1 対 1 の価値を削る。家庭は同じ合格の確かさを、半分の値段で買えるようになる。TOMAS の生徒は 4 分の 1 減り、値上げは物価に追いつかない。
校舎の家賃と正社員の人件費は固定費として残る。売上の落ち込みは営業利益を大きく削り、収支はとんとんになる。名門会は大きく縮み、伸芽会とこどもでぱーとは赤字になる。
校内個別のスクールTOMAS だけが利益を出すが、全社を支えるには小さい。
売上は 300 億円台、営業利益は 4 億円。配当は利益をほぼ使い切り、現金は校舎の整理と退職給付に消える。
この筋書きでの価値は、稼ぐ力ではなく、手元の純現金から整理費用を引いた残りで決まる。確率は 1 割強とした。
- 学習塾(TOMAS・インターTOMAS・メディックTOMAS):数量 1.9(在籍生徒数(万人))× 価格 86(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 159 億円・営業利益 2 億円。生徒は 26% 減・値上げが通らず利益率 1.5%
- 家庭教師(名門会・TOMEIKAI・メディック名門会):数量 0.3(在籍生徒数(万人))× 価格 144(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 0 億円。生徒は 37% 減・収支とんとん
- 幼児教育・学童(伸芽会・伸芽'Sクラブ):数量 0.8(在籍児童数(万人))× 価格 57(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 46 億円・営業利益 −1 億円。受験部門が縮み赤字
- 学校内個別指導(スクールTOMAS):数量 105(稼働校数(校))× 価格 0.47(1 校当たり年間売上(億円・名目))→ 売上 49 億円・営業利益 3 億円。105 校・利益率 5.5%
- 体操・サッカー教室・ツアー(プラスワン教育):数量 0.8(会員・参加者数(万人))× 価格 18(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 0 億円。0.8 万人・収支とんとん
倍率:稼ぐ力(純利益 約 3 億円 ÷ k)は小さく、床は純現金から整理費用を引いた分で決まる。今の自己資本 123 億円の約 0.45 倍(55 億円)に置いた。
確率:AI 学習と低価格競合による構造的な負け。強みの完全個別が代替される可能性は小さくないが、10 年で完全に崩れる筋書きは 12% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
学習塾(TOMAS・インターTOMAS・メディックTOMAS)
完全 1 対 1 の進学個別指導塾。首都圏 104 校。
| 数量在籍生徒数(万人) | 価格1 人当たり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 2.5 | 71 | 179 | 14 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 96 | 239 | 20 |
取り方:売上 178.6 億円を、生徒 2.5 万人と 1 人当たり約 71 万円に分けた推定値(会社は在籍数を開示していないため、完全個別の授業料と講習費の水準から置いた)。数量は小中高生の減少と首都圏の私立志向のせめぎ合い、価格は物価並みの 10 年 1.34 倍を基本にした。利益はセグメント利益 13.7 億円。
家庭教師(名門会・TOMEIKAI・メディック名門会)
社会人のプロ講師が家庭に出向く完全個別指導。全国 45 拠点。
| 数量在籍生徒数(万人) | 価格1 人当たり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 0.4 | 120 | 52 | 4 |
| 10 年後 中立 | 0.4 | 161 | 66 | 5 |
取り方:売上 51.6 億円を、生徒約 4,300 人と 1 人当たり約 120 万円に分けた推定値(プロ講師・手厚い支援の高単価に基づく)。数量は地方の拠点と MOPS(オンラインの加盟塾向け)の広がり、価格は物価並みを基本にした。利益はセグメント利益 4.0 億円。
幼児教育・学童(伸芽会・伸芽'Sクラブ)
名門幼稚園・小学校の受験指導と、受験対応の学童・託児。
| 数量在籍児童数(万人) | 価格1 人当たり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 1.2 | 48 | 57 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1.2 | 64 | 77 | 5 |
取り方:売上 57.5 億円を、受験部門と学童・託児を合わせた児童約 1.2 万人と 1 人当たり約 48 万円に分けた推定値。数量は受験部門の落ち込みと学童・託児・こどもでぱーとの増加の綱引き、価格は物価並みを基本にした。利益はセグメント利益 1.5 億円(前期に 67% 減)。
学校内個別指導(スクールTOMAS)
私立学校の放課後に講師を送る個別指導。オンラインも提供。
| 数量稼働校数(校) | 価格1 校当たり年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 96.0 | 0.39 | 37 | 4 |
| 10 年後 中立 | 150 | 0.52 | 79 | 8 |
取り方:会社が開示する稼働 96 校と売上 37.4 億円から、1 校当たり約 0.39 億円とした。数量は年 10 校前後の導入と私立校 1,300 校のうちの浸透、価格は物価並みを基本にした(学年の拡大やオンラインの上乗せは数量側の校数に含めず、中立では置かない)。利益はセグメント利益 3.9 億円。
体操・サッカー教室・ツアー(プラスワン教育)
体操・サッカーのスクールと体験ツアー。
| 数量会員・参加者数(万人) | 価格1 人当たり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 1.1 | 16 | 17 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1.1 | 21 | 23 | 1 |
取り方:売上 17.1 億円を、会員・参加者約 1.1 万人と 1 人当たり約 15.6 万円に分けた推定値。数量は教室の増設、価格は物価並みを基本にした。利益はセグメント利益 0.7 億円。調整額(持株会社の収入・全社費用・その他の純額)は今 +3.3 億円で、連結の営業利益 27.0 億円との差を埋める。
リスクと懸念
少子化と退会の増加
小中高生は年 1.2% のペースで減っている。値上げのたびに退会が増える現実もある。生徒数が戻らなければ、校舎の固定費が利益を食う。前期の学習塾は期中の平均生徒が 0.2% 減った。
人件費と賃借料の先行
前期は人件費が 4.5 億円、賃借料が 2.5 億円増えた。講師の時給と家賃は物価で上がる。値上げが通らない年は、利益がそのまま削られる。校舎は借りて営むため、売上が落ちても家賃は減らない。
計画の未達とガバナンス
中期計画は 2 つ続けて最終年度の目標に届いていない。2014 年には不適切な会計処理も見つかった。いまは親会社が 5 割を握り、少数株主の利益と親会社の利益が一致するとは限らない。
AI と低価格競合
AI 教材やオンライン授業は、学習を安く 1 人ずつ作れる。難関校の合格実績が代替されなければ価格を保てるが、代替が進むと完全 1 対 1 の高い料金が割に合わなくなる。
こどもでぱーとの立ち上がり
ビルに入る賃料・減価償却・人件費が先に出る。軌道に乗るまで利益を下げる。20 棟の計画は大きな投資で、生徒が集まらない棟が出れば、固定費の重荷になる。
講師の確保
講師の大半は学生や社会人のアルバイトだ。最低賃金と採用競争で時給は上がる。講師が足りない校舎は生徒を受けられず、授業の質も落ちる。オンラインや学生向け賃貸との提携で補うが、確実ではない。
TOB の成否と少数株主の扱い
成立すれば上場が終わり、開示も減る。成立しない場合は、親会社が 5 割を持つ上場子会社が続く。どちらでも、少数株主は親会社の都合に左右される。買い付けの値段が利益の裏付けを超えるかどうかを見る必要がある。
今後の分かれ目
- TOB が成立し、上場が廃止される
- 株式は買い付けの値段で現金になる。以降の価値の話は、ヒューリックの子会社としての利益に移る。この分析の 10 年の価値は、上場が続く場合の目安になる。
- TOB が不成立で、上場が続く
- 親会社が 5 割を持つ上場子会社の姿が続く。値段は買い付けの水準から離れて動く。利益で測った価値は、今の時価総額を下回る。
- 2028 年 2 月期の授業料改定が通り、退会が増えない
- 営業利益率は計画どおり 9% 台に乗る。中立から、やや楽観の筋書きへ寄る。
- スクールTOMAS の導入校が年 10 校のペースを保つ
- 校数は 10 年で 200 校に近づく。利益率の高い部門の比重が増え、全社の利益率が上がる。
- TOMAS の在籍生徒数が前年を下回り続ける
- 家賃と人件費の固定費が利益を食う。やや悲観の筋書きに近づく。
- AI 学習が難関校の合格実績を安く支えるようになる
- 完全 1 対 1 の価格が保てず、生徒と単価の両方が下がる。悲観の筋書きに入る。
見ておくもの
- TOMAS の在籍生徒数(前年同月比)と春の退会数
- 2028 年 2 月期の授業料改定と、その後の退会
- スクールTOMAS の稼働校数と 1 校当たり売上
- 営業利益率(中期計画の 9.3% への道筋)
- こどもでぱーとの新規開業と、各棟の生徒の集まり
- TOB の成立と、スクイーズアウトの手続き
倍率と資本コストの決め方
倍率は式だけで置いた。事業の ROE から RONIC を出し、正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) の 9〜7 割に楽観〜中立を置き、やや悲観・悲観は構造的な負けの筋書きから置いた。今の株価・PER・PBR や同業の倍率は使っていない。TOB の買い付けの値段も根拠にしていない(今の株価は TOB の値段に張り付いており、価値の根拠にならない)。10 年後の数字は、家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた(新リース会計で BS が膨らんでも、価値は変えない)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 19.2→23.44 倍・やや楽観 PER 16.8→22.8 倍・中立 PER 13.9→21.62 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。