結論
ナガセは、東進ハイスクールと四谷大塚を運営する教育会社だ。利益の大半は大学受験向けの高校生部門が稼ぎ、売上の約 3 割はイトマンのスイミングスクールが占める。
筆者の結論は、今の値段はおおむね妥当で、割安にはまだ遠い、というものだ。東進は合格実績と値上げで強い。ただ、18 歳人口は 10 年で 1 割減り、AI 学習や低価格のオンライン講座という新しい敵もいる。強みと逆風がほぼ釣り合っている。
直近は高校生の在籍が全学年で増え、4 月からは平均 4% の値上げも通した。2026 年 3 月期の営業利益は 60 億円と過去最高に近い。一方、増収の約 6 割はイトマンスポーツウェルネスの買収によるもので、その利益率は 3% 台と低い。
もう一つ見落とせないのが、254 億円に上る投資有価証券だ。うち 171 億円は金の信託で、利息も配当も生まない。借金を抱えながら金を持つ姿は、資本の使い方として筆者は好まない。ただ、含み益は事業の稼ぎとは別に価値として足せる。
中立の 10 年後は、営業利益が 90 億円弱、純利益が 55 億円。事業を利益で測った価値に金の信託を足すと、今の時価総額とほぼ同じ水準になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、東進は質の高い事業だ。映像授業で生徒を増やしても固定費が増えにくく、高校生部門の利益率は 19% ある。合格実績という看板が生徒を呼び、値上げも通る。オーナーとして持ち続けたくなる中核だ。
ただ、その中核はナガセの利益の全部ではない。スイミングは利益率が 3% 台で、買収した事業の稼ぎが資本コストに届くかは、まだ確かめられていない。本社費用が約 39 億円と重い点も、稼ぎを薄めている。
資本配分は評価が分かれる。配当は厚く、株主還元に前向きだ。しかし借金をしながら金を持つのは、事業の資金効率を下げる。金の価格次第で含み益は大きく動くため、全額は価値に足さず、半分で見た。
安全域は、今の値段で見る限り薄い。事業の価値と金の半分を足すと、今の時価総額に近づく。割安と言える差はない。少子化と AI の逆風が現実になった場合の下げは大きい。
何で稼ぐ会社か
事業は 4 つに分かれる。高校生部門、小・中学生部門、スポーツ事業、ビジネススクールだ。2026 年 3 月期の売上 642 億円のうち、高校生が 5 割弱、スポーツが 3 割弱、小・中学生が 2 割強を占める。
稼ぎの中心は高校生部門だ。東進ハイスクールは映像授業と AI による演習を組み合わせ、「東進衛星予備校」はフランチャイズで全国に広がる。早稲田塾も同じ部門に入る。営業利益は 57 億円、利益率は 19%。生徒は約 12 万人で、共通テスト受験者の約 12.5% を東進生が占める。
小・中学生部門は、中学受験の四谷大塚と、個別指導の木村塾(ヒューマレッジ)だ。生徒は約 3 万人で、営業利益 27 億円、利益率は 20%。小学生の減少が逆風だが、授業料は 2026 年 2 月に約 4% 上げた。
スポーツ事業は、イトマンの 3 社(スイミングスクール、スポーツ、ウェルネス)で、会員は約 15 万人。2024 年末に買ったイトマンスポーツウェルネスが加わり、売上は前期の 1.5 倍に増えた。ただ利益率は 3% 台と低い。小・中学校の水泳授業の受託を伸ばして、子どもの減少を補おうとしている。
ビジネススクールは、大学や企業向けの英語・DX 研修だ。規模は小さいが、利益率は 25%。本社の費用は約 39 億円で、AI 開発や教育研究所を含み、全社の営業利益から差し引かれる。
優良さと弱いところ
東進の堀は、合格実績と全国 3,000 拠点の教室網にある。映像授業を使うため、有名講師の授業を全国どこでも同じ品質で届けられる。生徒が増えても講師を増やさずに済むので、高い利益率が出る。2026 年は東大の合格実績が過去最高になり、新年度の募集も好調だ。
ただ、この堀は永遠ではない。大学受験は推薦などの年内入試が増えて一般入試の需要が細る。スタディサプリのように安いオンライン講座もある。生成 AI が個別学習を安く提供すれば、映像授業の優位は薄れる。筆者が一番気にしているのは、この代替の速さだ。
資本効率は悪くない。ROE は過去 10 年の中央値で 13%、直近は 11%。ただし 2025 年 3 月期は持分法の損失と校舎の減損で純利益が 20 億円まで落ちた。スイミング事業は利益率が低く、校舎の家賃や人件費が固定的に重い。
ガバナンスは創業者の永瀬氏と持株会社の昭学社で約 4 割を握る支配株主型だ。長期の視点で動ける利点がある一方、少数株主の取り分が資本政策で後回しになる心配が残る。資本コストは基準のまま、特別な上げ下げをしなかった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
教育は少子化に向かう成熟市場だ。学習塾・予備校の市場は約 1 兆円で、横ばいが続く。18 歳人口は 10 年で約 1 割減る見通しだ。予備校生は 1990 年の約 20 万人から、今は 3 万人ほどに減った。駿台や河合塾は校舎を絞り、代々木ゼミナールは 6 校舎まで縮んだ。
その中で東進は、映像授業と現役生に絞った戦略でシェアを伸ばした。浪人が減り、現役で受かる志向が強まったことが追い風だ。2026 年 3 月末の在籍は前年から約 3% 増えた。全国統一高校生テストの申込みは約 4 割増えたと会社は述べている。
逆風は 3 つある。一つ目は年内入試の拡大で、一般入試向けの需要が減る。二つ目はスタディサプリのような低価格のオンライン講座。三つ目は生成 AI で、個別指導を安く届ける製品が出てくる。値上げの余地は、この競争で決まる。
スイミングは子どもの数の減少に直面するが、プールの老朽化や熱中症の対策で、小・中学校の水泳授業を民間に委ねる動きが出ている。イトマンの受託校は 21 年度の 9 校から 25 年度に約 150 校へ増えた。中期経営計画の数値は見当たらないが、会社は 2035 年に東進生のシェア 50% という大きな目標を掲げる。
資本政策と M&A
還元は厚い。配当性向は 2026 年 3 月期に約 99%(記念配当を含む)で、2027 年 3 月期も約 72% の配当を予定する。中間配当も新たに始める。自社株買いは目立たない。
一方で、資本の使い方に気になる点がある。純有利子負債は 129 億円あるのに、投資有価証券を 254 億円持つ。うち 171 億円は金の信託で、取得は 34 億円。値上がり益は大きいが、利息も配当も生まない。借り換えで金利が上がる中、これを持ち続ける理由は筆者にはよく分からない。
M&A は積極的だ。2024 年末にイトマンスポーツウェルネスを加え、その後コナミから 2 拠点を継承した。木村塾やイトマンなど、教育の周辺に広げる動きが続く。買われる側の可能性は、創業者の持ち株が厚いため小さい。
2026 年 6 月に、永瀬氏と共同保有者の保有割合が 47.5% から 42.6% に下がった報告が出た。理由は確かめられていないので、評価には入れない。
還元の点検(P3 2026-10-19):今期の配当予想が利益の約72%(99%は記念配当)で、同水準を続ける想定。直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
東進の勢いは本物だ。2026 年 3 月末の高校生の在籍は前年から約 3% 増え、新年度の募集も好調だった。4 月の約 4% の値上げが通れば、増収分はほぼ全部が利益になる。映像授業と AI 演習は人手が要らず、生徒が増えるほど利益率が上がる。
東大の合格実績は過去最高で、共通テストでは東進生が一般生に 100 点以上の差をつけた。この実績が口コミで広がり、現役志向と合わせて東進のシェアは 12.5% から 15% に届く。会社は 2030 年に 25% を目標にしており、半分でも達成すれば利益は大きく変わる。
買った資産にも伸びしろがある。イトマンは学校の水泳授業の受託を 21 年度の 9 校から 25 年度に約 150 校へ増やし、26 年度は 180 校以上が決まった。大人向けの会員やピラティスの新店も増えている。利益率が 3% から 5〜7% に上がれば、スポーツ事業は全体の利益を押し上げる。
さらに、金の信託は 171 億円あり、時価総額の 3 割を占める。事業の評価に加えて持っているだけで価値が積み上がる。
慎重な見方
東進の増収は値上げの積み重ねで、生徒数の勝負は少子化に押されている。18 歳人口は 10 年で約 1 割減る。推薦などの年内入試が増え、一般入試向けの塾は需要が細る。生徒が増えているのは、足元の合格実績と宣伝の成果で、その勢いが続く保証はない。
競合は東進の外にもいる。スタディサプリは低価格で、映像授業の価格競争が起きやすい。生成 AI は個別の指導を安く届けられる。東進が築いた堀の一つは映像授業そのものなので、AI が同じことを安くできると、堀が浅くなる。
2026 年 3 月期の増収の約 6 割はイトマンスポーツウェルネスの買収による。スイミングは子どもの数が減る事業で、利益率は 3% 台。校舎の家賃と人件費が固定的で、会員が減れば利益が出にくい。2025 年 3 月期には校舎の減損も出している。
資本の使い方にも疑問が残る。借金を抱えながら、利息を生まない金に 171 億円を置く。含み益は金の価格次第で、売れば税が掛かる。支配株主が約 4 割を持つため、少数株主の取り分が後回しになる心配もある。
どちらに重みを置いたか
高校生部門の勢いと値上げの力は本物で、強気の見方に分がある。ただ、18 歳人口の減少と年内入試の拡大は構造的で、10 年で強気の筋書きに乗り続けるのは難しい。一方、AI による置き換えは今の利益に出ていない先の話で、確率は慎重な側を少し厚くするにとどめた。
スイミングの利益率は低く、買収の成否は未知数だ。金の信託は事業と無関係の価値で、全額は足さず戻り方を半分とした。確率は、中立を 4 割弱に置き、やや悲観を楽観側よりやや厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,993 円953 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,454 円347 億円)。 今の値に割り戻すと 2,894 円691 億円、今との差 +23.2%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 7,931 円1,894 億円 | 2,010 円480 億円 | +323.4% | +15.5% | 795 円190 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,081 円1,452 億円 | 1,759 円420 億円 | +233.9% | +12.8% | 1,568 円374 億円 |
| 中立 | 36% | 4,405 円1,052 億円 | 1,487 円355 億円 | +150.9% | +9.6% | 2,121 円506 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,978 円472 億円 | 1,273 円304 億円 | +38.5% | +3.3% | 780 円186 億円 |
| 悲観 | 12% | 677 円162 億円 | 838 円200 億円 | −35.5% | −4.3% | 182 円43 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,993 円953 億円 | 1,454 円347 億円 | +132.0% | +8.8% | 5,446 円1,301 億円 |
今の株価時価総額 2,348 円561 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 東進が受験生の 2 割近くを取り、水泳の黒字化も進む 10 年 利益 93 億円 · PER 19.1 倍 · 株価時価総額 7,931 円1,894 億円
東進の合格実績とAI演習が受験生を引き付け続ける。高校生の在籍は 14 万人台まで伸び、共通テスト受験者に占める東進生は 15% 台に上がる。毎年の値上げも通り、授業料は物価を上回って上がる。校舎を増やさずに生徒が増えるため、利益率は 23% まで高まる。
小・中学生は中学受験の人気を追い風に四谷大塚と木村塾が伸び、利益率も 2 割を超える。イトマンは学校の水泳授業の受託が 300 校を超え、大人向けやピラティスの会員も増える。営業利益率は 7% まで上がり、ようやく事業の一本柱の顔になる。
10 年で営業利益は 2 倍以上の 140 億円台に乗る。金の信託も持ち続ければ、別の価値として残る。
- 高校生部門(東進ハイスクール・衛星予備校・早稲田塾):数量 14.6(在籍生徒数(万人))× 価格 36(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 531 億円・営業利益 122 億円。東進生 14.6 万人・利益率 23%
- 小・中学生部門(四谷大塚・木村塾):数量 3.4(在籍生徒数(万人))× 価格 60(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 203 億円・営業利益 44 億円。四谷大塚と木村塾 3.4 万人
- スポーツ事業(イトマン 3 社):数量 17.5(会員数(万人))× 価格 17(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 291 億円・営業利益 20 億円。会員 17.5 万人・学校受託が拡大
倍率:事業の純利益 91 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)130 億円。全体の PER 19.12 倍、時価総額 1,873 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:東進の在籍が少子化の中で伸び続け、スイミングの利益率も上がるには、複数の事がそろう必要がある。会社は 2030 年に共通テスト受験者の 25% という目標を掲げるが、そこまでは置かず、15% 台までに置いた。確率は 1 割に届かない。
やや楽観 20% 東進が少子化の中でも着実に生徒を増やす 10 年 利益 73 億円 · PER 18.3 倍 · 株価時価総額 6,081 円1,452 億円
東進の高校生は 13 万人台に増える。受験生は減っても、現役合格志向と合格実績で東進のシェアが 14% 前後まで上がる。授業料は物価をやや上回って上がるが、スタディサプリなど低価格の競合があるため、高い値上げは続かない。
四谷大塚は生徒数が横ばいで、授業料の上昇だけが利益を押し上げる。イトマンは学校受託と大人向け会員が子どもの減少を埋め、利益率は 5〜6% に上がる。本社費用は物価並みに増えるが、売上の伸びで吸収できる。
営業利益は 110 億円台になり、純利益は 70 億円台に乗る。配当は利益に連れて増え、自己資本も着実に積み上がる。
- 高校生部門(東進ハイスクール・衛星予備校・早稲田塾):数量 13.3(在籍生徒数(万人))× 価格 35(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 467 億円・営業利益 100 億円。東進生 13.3 万人
- 小・中学生部門(四谷大塚・木村塾):数量 3.2(在籍生徒数(万人))× 価格 58(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 186 億円・営業利益 38 億円。横ばいで値上げ分だけ増収
- スポーツ事業(イトマン 3 社):数量 16.2(会員数(万人))× 価格 16(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 263 億円・営業利益 15 億円。会員 16.2 万人・受託校数が増える
倍率:事業の純利益 71 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)130 億円。全体の PER 18.26 倍、時価総額 1,430 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近は高校生部門の在籍が全学年で増え、値上げも通っている。この勢いが 10 年のうち半分でも続けばこの筋書きになる。慎重な見方との綱引きの中で、中立より少し薄い 2 割に置いた。
中立 36% 東進が生徒を保ち、値上げと水泳の改善が少子化を相殺する 10 年 利益 55 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 4,405 円1,052 億円
東進の高校生は 12 万人台前半で踏みとどまる。18 歳人口は減るが、東進のシェアが 12.5% から 14% 台へ上がって相殺する。授業料は物価並みか、少し上回って上がる。校舎の固定費は物価で増えるが、授業はビデオ・AI演習が中心で、利益率は 20% 前後に保てる。
四谷大塚は小学生の減少に押されて生徒が 5% ほど減る。一方で木村塾などの個別指導が伸び、利益率は 2 割弱を保つ。イトマンは子ども向けが減る分を、学校の水泳授業の受託と大人向けでおぎない、利益率は 4% 台まで戻る。
営業利益は 90 億円弱、純利益は 55 億円。売上の伸びは年 3% 台で、物価をわずかに上回る程度にとどまる。
- 高校生部門(東進ハイスクール・衛星予備校・早稲田塾):数量 12.3(在籍生徒数(万人))× 価格 34(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 419 億円・営業利益 84 億円。東進生 12.3 万人・利益率 20%
- 小・中学生部門(四谷大塚・木村塾):数量 3.0(在籍生徒数(万人))× 価格 56(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 171 億円・営業利益 33 億円。生徒は 5% 減・物価並みの値上げ
- スポーツ事業(イトマン 3 社):数量 15.0(会員数(万人))× 価格 16(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 239 億円・営業利益 11 億円。会員は横ばい・利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 53 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)130 億円。全体の PER 16.86 倍、時価総額 1,027 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:東進の高校生部門は直近で伸びているが、18 歳人口は 10 年で約 1 割減る。東進のシェアが少し上がることで人口減をほぼ相殺し、値上げで増収する、いちばんありそうな筋書きを中心に置いた。慎重な見方の論点が強いため、やや悲観の確率を楽観側より厚くした。
やや悲観 24% 低価格のオンラインに押され、東進の生徒が減る 10 年 利益 32 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,978 円472 億円
少子化と年内入試の広がりで受験生向けの需要が細り、東進の高校生は 11 万人に減る。スタディサプリなど安いオンライン講座や、AIの個別学習アプリとの競争で、授業料は物価を下回る上がり方になる。校舎の家賃と人件費は物価で増えるため、利益率は 17% 台に下がる。
四谷大塚は小学生の減少で生徒が 2 割近く減り、利益率も落ちる。イトマンは子ども向けの減少を埋めきれず、営業利益は数億円に縮む。会社全体の営業利益は今より少し低い 50 億円台で止まる。
配当は利益の減少に合わせて抑えられ、自己資本は伸びない。
- 高校生部門(東進ハイスクール・衛星予備校・早稲田塾):数量 11.0(在籍生徒数(万人))× 価格 32(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 353 億円・営業利益 62 億円。東進生 11 万人・価格競争で利益率 17.5%
- 小・中学生部門(四谷大塚・木村塾):数量 2.7(在籍生徒数(万人))× 価格 54(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 145 億円・営業利益 25 億円。生徒は 15% 減
- スポーツ事業(イトマン 3 社):数量 13.5(会員数(万人))× 価格 15(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 205 億円・営業利益 5 億円。子ども向け会員が減り利益率 2.5%
倍率:事業の ROE は 9% 前後で、稼ぐ力は筋書きの純利益から出す。新しく投じる資金の稼ぎが k を少し超える程度なので、正当化 PER の上限(約 14 倍)の 7 割台前半の 10.5 倍に置いた。金の信託は別に足している。
確率:18 歳人口は減り、年内入試の広がりで一般入試向けの需要が細る。東進の足元の勢いが途切れるだけで、この筋書きに入る。確率を厚めに 2 割台半ばに置いた。
悲観 12% 東進の仕組みが崩れ、水泳も利益が出なくなる 10 年 利益 7 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 677 円162 億円
大学受験の学び方が AI 学習アプリに移り、東進の高校生は 9 万人まで減る。授業料は物価に追いつかず、利益率は 10% に下がる。校舎の家賃と人件費は固定的で、生徒が減るほど利益を食う。
四谷大塚は小学生の減少と他塾との競争で生徒が 3 割減る。イトマンは子ども向けの会員を失い、校舎の整理や減損も出て利益は出なくなる。本社費用は削るが、全体の営業利益は 10 億円ほどにとどまる。
配当は数年は保つが、利益を超える分は金の信託の一部売却で払い、その後は大きく減らされる。自己資本は減損で痩せ、残る金の信託と株式の含み益が下支えになる。
- 高校生部門(東進ハイスクール・衛星予備校・早稲田塾):数量 9.0(在籍生徒数(万人))× 価格 29(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 259 億円・営業利益 26 億円。東進生 9 万人・利益率 10%
- 小・中学生部門(四谷大塚・木村塾):数量 2.3(在籍生徒数(万人))× 価格 50(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 114 億円・営業利益 13 億円。生徒は 3 割減
- スポーツ事業(イトマン 3 社):数量 11.5(会員数(万人))× 価格 14(1 人当たり年間売上(万円・名目))→ 売上 161 億円・営業利益 0 億円。会員減・校舎整理で利益ゼロ
倍率:この筋書きの事業の ROE は 2% 前後で k 7.75% を大きく下回る。ためた利益は額面未満の価値なので、稼ぐ力(純利益 ÷ k)を基本に、PER は上限 1÷k の約 13 倍より低い 9 倍に置いた。
確率:生成AIによる学習サービスや年内入試の拡大で、受験塾の需要そのものが縮む構造的な負けを置いた。少子化に加えて、ナガセは校舎・家賃・人件費の固定費が重く、起きると利益が一気に薄くなる。確率は 1 割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
高校生部門(東進ハイスクール・衛星予備校・早稲田塾)
大学受験向けの映像授業と AI 演習。直営のハイスクールとフランチャイズの衛星予備校。
| 数量在籍生徒数(万人) | 価格1 人当たり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.0 | 25 | 301 | 58 |
| 10 年後 中立 | 12.3 | 34 | 419 | 84 |
取り方:会社の資料にある高校生の在籍約 12 万人で売上 300.7 億円を割り、1 人当たり約 25 万円とした(衛星予備校のロイヤルティ等を含む)。数量は 18 歳人口の減少(10 年で約 1 割減)をシェアの上昇でどこまで相殺するかで置き、価格は物価 3% の 10 年 1.34 倍を基本に、値上げの力と競合で上下させた。
小・中学生部門(四谷大塚・木村塾)
中学受験の四谷大塚(直営・FC 教材・通信)と、個別指導の木村塾。
| 数量在籍生徒数(万人) | 価格1 人当たり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.2 | 42 | 134 | 27 |
| 10 年後 中立 | 3.0 | 56 | 171 | 33 |
取り方:会社資料の小学生約 3.2 万人で売上 134.4 億円を割り、1 人当たり約 42 万円とした(FC 向け教材・通信の売上を含む)。数量は小学生人口の減少(10 年で 1 割台半ば減)と中学受験人気の相殺、価格は物価並みを基本に置いた。
スポーツ事業(イトマン 3 社)
スイミングスクール、スポーツスクール、フィットネス・ウェルネス。学校の水泳授業の受託も含む。
| 数量会員数(万人) | 価格1 人当たり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.0 | 12 | 178 | 6 |
| 10 年後 中立 | 15.0 | 16 | 239 | 11 |
取り方:会社資料のスポーツ会員約 15 万人で売上 178.0 億円を割り、1 人当たり約 11.9 万円とした。2024 年末のイトマンスポーツウェルネス買収で売上が 5 割増えた。数量は子ども向けの減少と大人・学校受託の増加の綱引き、価格は物価並みを基本に置いた。ビジネススクール・その他と全社費用は調整額(今は −30.1 億円)に入れた。
リスクと懸念
生成 AI による学習サービスの代替
映像授業と AI 演習は東進の強みだが、同じことを安く提供する AI 学習アプリが出れば、授業料を上げる力が弱まる。高校生部門が営業利益の大半を稼ぐため、利益への影響は大きい。AI の進み方が見通せない点が最大の懸念だ。
少子化と年内入試の拡大
18 歳人口は 10 年で約 1 割減る。推薦などの年内入試が入学者の過半を占め、一般入試向けの塾の需要が細る。東進のシェア拡大が人口減を上回り続けるかが分かれ目だ。
スイミング事業の収益性
イトマン 3 社の営業利益率は 3% 台と低い。子どもの減少に加え、校舎の家賃・人件費・燃料費が固定的に重い。学校受託やウェルネスで補う計画だが、買収した事業が資本コストを稼ぐかは未確認だ。
金の信託と資本の使い方
254 億円の投資有価証券のうち 171 億円は金の信託で、利息を生まない。金価格が下がれば含み益が減り、自己資本も縮む。売れば含み益に税が掛かる。借金との同時保有で、資金効率が下がっている。
支配株主と資本政策
創業者の永瀬氏と昭学社で約 4 割を持つ。長期の視点を持てる反面、少数株主の取り分が後回しになる懸念がある。2026 年 6 月に共同保有者の保有割合が 47.5% から 42.6% へ下がった報告があり、理由は確かめられていない。
賃料と人件費の上昇
東進の校舎とスイミングスクールは賃借が多く、家賃は固定の約束になる。最低賃金は年 3% 前後で上がる想定で、生徒が減る局面では固定費の重さが利益を圧迫する。2028 年 3 月期から新リース会計基準で数字の形も変わる。
今後の分かれ目
- 4 月の値上げ後も東進の在籍が増え続ける
- 高校生部門の利益率が 20% 台に上がり、強気の筋書きの確度が上がる。
- 東進の在籍が前年を下回る
- 値上げ頼みの増収が止まり、慎重な筋書きが現実味を帯びる。
- 金の信託を売って借金を返す、または自社株買いに回す
- 資本の使い方が改善し、金の信託の戻り方を 1 に近づけて評価を上げられる。
- AI 学習サービスが受験の主流になる
- 東進の映像授業の堀が薄れ、悲観の筋書きに近づく。
- 学校の水泳授業の受託が 200 校を大きく超える
- スイミング事業の利益率が改善し、スポーツ事業が稼ぎの柱になる。
- 創業者側の持ち株がさらに減る
- 支配構造が変わり、買収や資本政策の変更の可能性を考え直す。
見ておくもの
- 東進の 3 月末の在籍数と共通テスト受験者に占めるシェア
- 高校生部門の営業利益率(20% を維持できるか)
- スポーツ事業の営業利益率と学校受託の校数
- 投資有価証券(特に金の信託)の扱いと純有利子負債
- 永瀬氏と昭学社の保有割合の変化
- 配当性向と自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は式だけで置いた。事業の ROE から RONIC を出し、正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) を計算し、楽観・やや楽観・中立はその 7〜9 割、やや悲観・悲観は構造的な負けの筋書きから 1÷k の下で置いた。今の株価・PER・PBR や同業の倍率は使っていない。金の信託は事業の利益に入らない非稼働資産として、税後 130 億円を余った現金に分け、戻り方 0.5 で足した。10 年後の数字はリースを家賃として費用に入れた今の形でそろえた(新リース会計で BS が膨らんでも、価値は変えない)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.3→19.12 倍・やや楽観 PER 15.5→18.26 倍・中立 PER 13.5→16.86 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。