結論
T.S.Iは、サービス付き高齢者向け住宅「アンジェス」を運営し、訪問介護、居宅介護支援、訪問看護を組み合わせて収益を得る会社である。筆者の結論は「適正」だ。高齢化という追い風は確かだが、需要の伸びを株主の利益に変えるには、介護職員の確保と借入に依存しない拠点拡大が欠かせない。
2026年6月末の運営規模は37拠点、1,264室である。会社は2036年に4,500室を目指すが、年間150室の新設という従来の目標だけでは届かない。買収、拠点開発の加速、不動産の売却・資金回収が必要になる。新しい居室を増やすことと、既存株主の価値を増やすことは同じではない。
同社の強みは、住まいの提供から看取りまでを一体で支える現場運営にある。開設後1年以上の一般居室で96.5%の稼働率を示した実績は評価できる。一方、全国のサービス付き高齢者向け住宅は約29.1万戸あり、同社の居室シェアは約0.4%にすぎない。全国規模で価格を決められる事業者ではなく、介護報酬の改定と人件費の上昇を受け入れる側に近い。
2025年12月期の売上は約49億円まで増えたが、営業利益は約0.4億円に縮んだ。自己資本は約14億円に対し、純有利子負債は約24億円である。2026年上期には収益が回復したものの、施設建設に伴う資金負担は続いている。会社も従来の自社保有型の出店を続ける難しさを説明している。
10年後の中立では、介護サービスの利用数量が増え、収益性も改善する。しかし、自己資本に対する利益率は資本コストに届かず、成長の一部は借入先や建物所有者に帰属する。5つの筋書きの確率加重価値を現在に割り戻すと約13.2億円となり、基準時価総額の約13.0億円とほぼ同じだ。事業の必要性には確信を持てるが、現在の価格には大きな安全域を見いだせない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の見方では、まず事業の必要性を高く評価する。高齢者が安心して暮らせる住宅と、日常生活を支える介護・看護の仕事は、10年後もなくなりにくい。看取りまで支える体制には社会的な役割があり、AIが普及しても身体を使った介助そのものは簡単に消えない。需要の寿命という点では、多くの流行産業より読みやすい。
だが、社会に必要な事業が必ずしも優良な投資対象になるとは限らない。介護報酬は制度で決まり、賃上げと人手不足は避けにくい。利用者が増えても、利益の多くが人件費、土地建物、利息、更新費用に回るなら、株主が自由に使える現金は残らない。事業利益よりも、維持投資と資金調達を差し引いたオーナー利益を重視したい。
T.S.Iには、地域の紹介者と築いた関係、入居後の生活を一体で支える体制、高い稼働率という優位がある。一方、価格を自由に上げられるほどの堀ではなく、新拠点では同じ関係づくりを繰り返さなければならない。新規施設に6億円以上の資金を投じる際、その追加投資から得られる利益が資本コストを上回るかを確認せずに、居室数の成長を評価するべきではない。
会社が目指す4,500室への拡大には魅力がある。しかし、年間150室の有機的な新設を続けても10年で増えるのは約1,500室であり、残りは買収や開発の加速で補わなければならない。投下資本が大きくなるほど、成長計画が少し遅れたときの負担も増える。計画を達成できるかより、計画が遅れても株主が損をしにくいかが大切だ。
現在の評価には、回復と一定の拡大がすでに織り込まれていると考える。資産簿価が時価総額を上回るように見えても、土地建物の多くは借入で取得しており、少数株主が自由に売却できる資産ではない。今後、負債の伸びを止めながら拠点利益を増やせることが確認できれば、事業の評価を高める余地はある。現段階では、確実な需要を持つ会社であっても、大きな安全域があるとは判断しない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は介護事業である。2025年12月期の外部売上は約48.23億円で、連結売上のほとんどを占めた。「アンジェス」の入居者から住宅賃料や生活支援サービスの対価を受け取り、訪問介護、居宅介護支援、訪問看護の報酬も得る。入居者の生活と介護を同じ地域の職員が支えることで、住宅の稼働と介護サービスの利用が結びつく仕組みだ。
2026年上期の介護事業売上構成は、住宅関連が44%、訪問介護が46.8%、居宅介護支援が2.5%、訪問看護が6.7%であった。住宅と訪問介護が二本柱であり、訪問看護は比較的小さいが、医療対応型の新しい拠点で存在感を増している。訪問介護の利用単価は2025年上期の月額約17.7万円から、2026年上期には約18.2万円となった。ただし、これは自由に値上げできる商品の販売単価ではなく、介護度、サービス利用量、制度上の加算にも左右される。
医療対応型では、通常の居室に加えて看護を必要とする利用者の居室を設ける。会社は50室規模の新モデルについて、安定稼働時の拠点売上が年2.5億円以上になる構想を示している。この収益性は、拠点単体での介護サービスと住宅運営の数字であり、全社の営業利益率ではない。本部経費、建物の償却、借入利息、新規開設費用を差し引いた後の株主利益とは分けて考える必要がある。
もう一つの事業は、子会社の北山住宅販売による不動産事業である。サービス付き高齢者向け住宅の設計、建築、外部向け請負、自社保有物件の整備などを担う。2025年の外部売上は約0.63億円と小さいが、グループ内の建築や賃貸に関する取引はそれより大きい。グループ内取引を連結売上に二重計上しないことが重要だ。
この会社は、単なる介護人材の派遣会社でも、操作画面を販売するソフト会社でもない。介護・看護・建築という身体と現場を伴う仕事が中心であり、AIエージェントが直接置き換える性質ではない。一方、記録や請求を効率化するCareMaster、BillMasterの開発を進めており、事務作業の省力化には期待がある。システム外販の構想はあるが、独立した売上額は確認できず、今回の価値にはソフト販売の成長を織り込んでいない。
優良さと弱いところ
最も評価できるのは、既存拠点の稼働率と地域の紹介網である。開設後1年以上の一般居室の平均稼働率96.5%は、建物を造っただけでは実現しない数字だ。医療機関、ケアマネジャー、ソーシャルワーカーとの関係を積み重ね、受け入れ先を探す家族から選ばれている。暮らしの場を変える負担は大きく、入居後の乗り換えには心理的な抵抗もある。
ただし、この強みを全国的な独占力と取り違えてはいけない。住宅の立地、職員の接遇、医療との連携は地域ごとに評価される。規模で上回る学研ココファンやSOMPOケアも同じ顧客を取り合っており、居室を増やすたびに紹介網と人員を新しく整える必要がある。値上げの自由度も限られ、介護報酬は国が決め、住宅費は地域の所得や競合の賃料に縛られる。
資本効率はさらに厳しく見たい。2022年には約41億円の売上に対して約1.9億円の営業利益を稼いだが、2025年には売上が約49億円まで増えながら営業利益が約0.4億円に落ちた。拡大がそのまま収益性の向上につながっていない。自己資本比率も2025年末で約24%にとどまり、同じ年の純有利子負債は自己資本を大きく上回る。
会社の説明では、標準的な新しい50室規模の自社所有建物には、土地と建築で約6億~7億円を要する。介護事業を立ち上げるための初期費用はそれより小さいが、建物を持つかどうかで投下資本がまったく違う。拠点単体で高い営業利益率が出ても、建物の投資額と借入金を含む増分の投下資本利益率が低ければ、長期保有する株主には十分な価値が残らない。
経営者による一体運営と地域開拓には実績がある一方、借入の拡大を抑えたまま利益を増やす仕組みは、まだ実証途上である。強い堀を持つ会社というより、運営上の優位を持つ地域密着型の成長企業と評価する。堀が広がるかどうかは、居室数よりも拠点ごとの現金創出力と新規投資の回収率で判定したい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のサービス付き高齢者向け住宅は、2026年9月末で8,307件、290,938戸が登録されている。前年同月から戸数はわずかに増えたものの、登録件数は減少しており、市場全体が急速に拡大しているわけではない。今後の75歳以上人口や看取り需要は追い風になるが、供給が必要な場所と実際に採算が取れる場所は同じではない。都市部では土地代と人件費が高く、地方では人口減少と入居者の支払い能力が制約となる。
競争相手には学研ココファン、SOMPOケア、地域の社会福祉法人、医療法人、地場の住宅事業者が並ぶ。学研ココファンは2026年9月に246拠点、13,032室を公表しており、全国登録戸数に対する単純な規模比較では約4.5%になる。SOMPOケアもサービス付き高齢者向け住宅を147棟運営している。T.S.Iの1,264室は全国登録戸数の約0.43%であり、拡大余地はあるが、競合の存在を無視できる規模ではない。
中立では、全国の登録居室数が2035年に約31万室となる市場を想定する。大きな数量増よりも、既存施設の更新、医療対応型への転換、地域間のシェア移動が中心になる。T.S.Iが約2,600室を運営できれば、全国シェアは約0.8%となる。会社の目標より控えめだが、現在の規模からは十分大きなシェア上昇であり、毎年の開設と人材確保が成功して初めて実現する。
価格環境は厳しい。2024年の介護報酬改定では訪問介護の基本報酬引き下げや同一建物減算の見直しが行われ、2026年には住宅併設型の訪問看護についても評価体系が変更された。会社は一部の訪問看護事業所で、制度変更後の月次売上減少を説明している。3%の物価上昇が続いても、公定価格の部分を同じ率で引き上げられる保証はない。
人材不足は競争のもう一つの軸になる。厚生労働省の推計では、必要な介護職員は2040年度に約272万人となる。採用できなければ空室を埋められず、採用できても賃金上昇が利益を削る。T.S.Iは特定技能外国人材の受け入れと自社システムによる業務効率化を進めているが、介護の質と職員の定着を維持できるかはまだ長期の検証が必要だ。
建築事業でも市場は大きいが、競争相手は地場の建設会社や大手ハウスメーカーであり、価格は建設原価と土地所有者の投資採算に左右される。補助金や低利融資は開設を助ける一方、制度変更によって案件が延期される。10年後に会社が存続し、必要とされることには確信を持てる。しかし、需要増加の利益をどこまで株主が受け取れるかは、規制料金、人材、建築費、金利によって決まる。
資本政策と M&A
資本配分で最大の論点は、拠点を増やすために建物を所有するべきか、借りるべきかという選択である。2025年末の借入金は約35.8億円で、同年の純有利子負債は約24.1億円となった。2026年上期も有形固定資産の取得に約5.2億円を使い、営業キャッシュフロー約0.8億円を大きく上回った。会社自身が、従来の自社所有型の開設を続けるだけでは資金負担が重いと説明している。
現在の経営方針は、建物売却や資産の流動化、土地所有者との共同開発、将来のM&Aなどを通じて成長を続けることである。しかし、将来の売却価格や調達条件が確定しているわけではない。建物を売れば借入を抑えられるが、その後の賃料負担や利回りを考慮しなければならない。逆に保有すれば賃料を抑えられる場合があっても、更新投資と借入利息を引き受ける。
中長期の経営指標として、年間150室の新規開設、既存一般居室の稼働率97%、人件費率66%、医療対応居室比率20%、売上高経常利益率8%などを掲げている。2036年の4,500室も経営上の目標である。2026年12月期の会社予想は売上59.51億円、営業利益1.62億円、純利益1.23億円である。ただし、2036年の売上高、純利益、ROEについて対応する数値の約束は確認できない。
株主還元は2026年に始まり、普通配当と特別配当の合計予定額は約0.23億円である。会社は小幅でも継続し、可能なら増配する姿勢を示すが、配当性向、DOE、総還元性向、自社株買い金額の数値の約束はない。過去の実績は長期間無配であり、まだ還元を厚く行う会社ではない。
2015年に北山住宅販売を子会社化し、2017年に完全子会社化したことは、設計・建築と運営を結ぶ資本配分として理解できる。今後の買収は、取得価格だけでなく、必要な人員、建物の借入、稼働率、統合費用を含めて評価する。創業者一族による強い議決権保有もあり、少数株主にとっては投資回収の規律と資本政策の透明性が重要になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
高齢者の住まいと訪問介護・看護を組み合わせた事業は、人口構造の変化に直接支えられている。認知症や慢性疾患を抱えて暮らす高齢者が増える中、病院から地域の住まいへという流れは長く続く。T.S.Iは関西を中心に築いた運営ノウハウを各地へ展開し、既存拠点では高い稼働率を確保している。全国の居室シェアはまだ小さく、大手に比べて規模が小さいことは、裏返せばシェアを取れる余地が大きいことでもある。
新しい訪問看護併設型では、同じ建物内に住まいと医療対応機能を集められる。医療依存度の高い利用者を受け入れられる施設は地域で貴重であり、通常の住宅より単位当たり収入を伸ばす余地がある。職員を教育し、外国人材を戦力化し、記録や請求を自動化できれば、拠点の数を増やしても人件費を比例して増やさずに済む。
会社には、建築から運営までを自社で組み立てられるという強みもある。土地所有者が建物を保有する方式へ資金調達を移し、保有物件を適切な価格で売却できれば、建物への大きな投資負担を減らしながら運営居室数を伸ばせる。上場企業としての信用力も資金調達と土地所有者の開拓に生きる。
2036年の4,500室目標に近づけば、売上は現在の数倍になり得る。医療対応型の利益率改善と本部費の分散が同時に進めば、営業利益は売上以上に伸びる。過去の利益率だけから将来を測るべきではなく、事業モデルが変わる過程の収益改善にこそ価値がある。
慎重な見方
高齢化で市場が伸びるとしても、介護会社がその成長を利益として独占できるわけではない。介護職員の賃金は上がり、介護報酬は国が決め、住宅の家賃には入居者の支払い能力という限界がある。T.S.Iの営業利益率は2025年に1%未満となった。高い稼働率があっても利益が薄いことは、経営効率を改善する余地だけでなく、料金と費用の構造的な厳しさを示している。
新しい医療対応型も万能ではない。2026年の診療報酬改定では、住宅併設型訪問看護の評価体系が見直され、会社が説明した一部の事業所では月次収入が減少した。医療対応型への投資を重ねた後に報酬が引き下げられると、高い人件費と建物費だけが固定費として残る。利用者の医療依存度が上がれば、必要な有資格者も増え、採用難はさらに重くなる。
最大の懸念は貸借対照表である。純有利子負債は2025年末に約24億円であり、現在の時価総額を大きく上回る。自社所有型の施設を増やせば、家賃を払わずに済む代わりに、金利上昇、建築費高騰、空室、減損の危険を自ら引き受ける。資産売却を進めれば借入は減らせるが、売却先との賃貸契約が将来の固定費になる可能性がある。
さらに、4,500室の目標は従来の年間150室という開設ペースから大きく離れている。規模を追うための高値買収や増資が起きれば、会社の売上が増えても既存株主の取り分は増えない。現場の需要が確かなことと、資本配分が優れていることは別の問題だ。10年後に残る価値を考えるなら、拡大を急ぐより、借入を抑えて既存拠点の採算を改善する方が重要になる。
どちらに重みを置いたか
需要の寿命と既存施設の稼働率では強気の見方に説得力がある。しかし、直近の低い営業利益率、自己資本を大きく上回る純有利子負債、介護報酬の決定権の弱さは無視できない。会社が示す長期の居室目標は、現状の新設ペースだけでは達成できず、買収と資本配分の成功を必要とする。
そのため、確率は楽観側27%に対して、やや悲観と悲観を合わせて40%とし、下に13ポイント寄せた。これはAIが身体介護を代替するからではなく、資金調達と規制料金の失敗が株主利益に与える非対称な損失を重く見たためだ。中立では着実な増室を評価するが、そこから得られるROEは資本コストに届かない。結果は適正圏となり、大きな安全域は確認できなかった。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 1,726 円26 億円(+ 還元の換算額還元の合計 199 円3 億円)。 今の値に割り戻すと 858 円13 億円、今との差 +1.0%、 期待の年率 +9.1%(資本コスト 9.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,715 円88 億円 | 522 円8 億円 | +633.8% | +23.9% | 499 円8 億円 |
| やや楽観 | 19% | 3,199 円49 億円 | 359 円6 億円 | +318.6% | +16.7% | 676 円10 億円 |
| 中立 | 33% | 1,667 円26 億円 | 196 円3 億円 | +119.1% | +8.7% | 615 円9 億円 |
| やや悲観 | 25% | 305 円5 億円 | 85 円1 億円 | −54.1% | −8.2% | 98 円1 億円 |
| 悲観 | 15% | 228 円4 億円 | 20 円0 億円 | −70.8% | −11.9% | 37 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,726 円26 億円 | 199 円3 億円 | +126.4% | +9.1% | 1,924 円30 億円 |
今の株価時価総額 850 円13 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% 看護併設型が定着し、資産を循環させて拡大 利益 7 億円 · PER 12.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 5,715 円88 億円
2035年までに運営居室は約4,100室に達し、年間の稼働相当人数は3,900人年となる。通常の年間150室程度の新設に加え、他社の住宅運営事業を買収し、必要な職員を維持したまま拠点を増やす。建物は土地所有者に保有してもらう方式と資産売却を活用し、運営居室数が増えても借入が比例して増えない形へ転換する。
訪問看護を併設する大型拠点が収益の柱となり、医療対応室の稼働と利用者の重度化に見合うサービスの提供が進む。介護報酬改定の減額を加算取得や業務効率化で吸収し、全体の利用者当たり収入は物価に近い伸びを確保する。CareMasterによる記録の省力化と人材教育の標準化が定着し、既存拠点の稼働率も高い水準を保つ。
競合の学研ココファンやSOMPOケアも拡大するが、T.S.Iは比較的小規模な地域や看取り需要で差別化する。建築部門は土地所有者向けの案件も増やし、年間3棟相当を外部向けに計上する。営業利益の増加によって新規投資を賄い、配当も段階的に増やす。ただし、利益には建物の追加償却と大きくなった借入の利息を織り込む。将来の買収による新株発行や高額な買収プレミアムは成功条件に含めず、既存株主に有利な資金調達が実現する筋書きである。
- 介護事業(高齢者住宅・訪問介護・居宅介護支援・訪問看護):数量 3,900(年間の稼働相当居室数(人・年換算、医療対応室と一般居室の利用を含む推定値))× 価格 0.06(稼働相当居室1人年当たりの住宅・訪問介護・居宅支援・訪問看護の合計売上(億円、名目))→ 売上 228 億円・営業利益 16 億円。医療対応型を含めた年間稼働3,900人年。合算単価は2025年の約1.32倍で、物価とサービス構成の高度化を反映する。営業利益率6.8%は現状から大幅改善する強気の条件。
- 不動産事業(外部向け住宅建築・不動産取引):数量 3.0(年間の外部向け建築工事の標準50室棟換算(棟相当、工事進捗を含む))× 価格 8.70(外部向け標準50室棟換算1単位当たり売上(億円、名目))→ 売上 26 億円・営業利益 1 億円。土地所有者等への外部向け工事が年3棟相当。1棟相当8.7億円で、建築費インフレと工事単価の上昇を含む。内部工事は売上から除く。
倍率:2035年のROEは7.2÷48.25=14.92%で資本コスト9.0%を上回る。堀は普通で超過収益の残る割合を1/2とし、RONIC=9.0%+0.5×(14.92%−9.0%)=約11.96%。10年より先の名目成長率gを2.5%とすると、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=約12.169倍。値付けの実績倍率を参照せず、この上限を採用した。期間の利益合計は約42.15億円、累計還元8億円、期首自己資本14.1億円で期末48.25億円と整合する。
確率:高い稼働率を維持しながら年間150室を超える新設、複数の買収、建物の売却・資金回収、介護人員の安定確保を同時に成功させる必要がある。2036年の4,500室目標に接近する余地はあるが、現在の借入負担を考えると実現確率は低めの8%とする。
やや楽観 19% 着実な増室と医療対応型への転換が進む 利益 4 億円 · PER 11.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3,199 円49 億円
2035年の運営規模は約3,300室となり、年間の稼働相当人数は3,100人年に増える。年間150室の新設を軸に、近隣の小規模事業者から一部の運営権を取得する。2036年の会社目標には届かないが、全国市場のシェアは1%前後まで高まり、既存の地域で管理者を育てながら拡大する。
新設施設では訪問看護併設型が定着し、利用者当たりのサービス収入が増える。介護・診療報酬の改定で一部の加算が減っても、人員配置の見直しとデジタル化によって採算を改善する。職員採用費は上昇するが、既存拠点が稼ぐ現金を新拠点の立ち上げに回せるようになる。
建築費は高止まりするものの、土地所有者が建物を持つ案件を増やし、年間2棟相当の外部売上を確保する。自社保有物件の増加を抑えることで、借入利息の伸びを営業利益の伸びより小さくする。経営者は大型買収を控え、配当と財務改善を並行して進める。営業利益率は過去の高収益期をやや上回るが、通常の事業運営の範囲で説明できる上振れとなる。
- 介護事業(高齢者住宅・訪問介護・居宅介護支援・訪問看護):数量 3,100(年間の稼働相当居室数(人・年換算、医療対応室と一般居室の利用を含む推定値))× 価格 0.06(稼働相当居室1人年当たりの住宅・訪問介護・居宅支援・訪問看護の合計売上(億円、名目))→ 売上 173 億円・営業利益 9 億円。年間稼働3,100人年。合算単価は2025年の約1.26倍。医療対応型の比率上昇と事務効率化でセグメント利益率5.2%へ改善する。
- 不動産事業(外部向け住宅建築・不動産取引):数量 2.0(年間の外部向け建築工事の標準50室棟換算(棟相当、工事進捗を含む))× 価格 8.50(外部向け標準50室棟換算1単位当たり売上(億円、名目))→ 売上 17 億円・営業利益 1 億円。外部向け建築を年間2棟相当とし、標準単価は物価上昇を反映した8.5億円。保有不動産の売却益を繰り返し利益にはしない。
倍率:ROEは4.2÷35.75=11.75%。k9.0%、普通の堀の超過収益残存率1/2からRONICは約10.37%となる。g_long2.5%を使用した正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)は約11.677倍であり、その上限を用いる。期首自己資本14.1億円に、10年の純利益合計約27.15億円を加え、配当等5.5億円を控除して期末35.75億円とする。
確率:全国市場の小さなシェアを広げる余地はあるが、医療対応型の採算改善と借入を抑えた新設方法の確立には時間がかかる。過度な買収に頼らず拡大できる上振れとして19%とする。
中立 33% 有機的な増室は続くが、資本効率は平凡 利益 2 億円 · PER 11.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,667 円26 億円
年間150室前後の新規開設を大きくは崩さず、2035年には運営規模が約2,600室となる。開設直後の空室や医療対応室の利用を考慮し、年間の稼働相当人数は2,450人年になる。全国の登録居室数が約31万室へ緩やかに増える中、シェアは約0.8%へ上がる。会社が掲げる2036年4,500室には届かないが、無理な買収に頼らない拡大としては十分な成果である。
既存のアンジェスは安定した稼働を保ち、新しい施設には訪問看護を組み合わせる。住宅費は物価に沿って引き上げる努力を続けるが、売上の大きな部分を占める介護保険収入には改定による抑制が残る。結果として、利用者当たりの合算売上は10年で約1.21倍と、物価の約1.34倍には届かない。
CareMasterによる事務削減と人材配置の改善は進むが、賃上げと新設の開業費用がその効果を一部打ち消す。外部向け建築は年間1.5棟相当を確保し、自社所有物件の増加も続く。建物売却と借入の抑制は段階的に進み、借り換え金利の上昇を含めた全社営業利益は約5.1億円となる。純利益の増加に対して必要な自己資本も積み上がり、ROEは資本コストを下回る。事業は着実に伸びるが、特別に優れた資本効率を持つ会社にはならない。
- 介護事業(高齢者住宅・訪問介護・居宅介護支援・訪問看護):数量 2,450(年間の稼働相当居室数(人・年換算、医療対応室と一般居室の利用を含む推定値))× 価格 0.05(稼働相当居室1人年当たりの住宅・訪問介護・居宅支援・訪問看護の合計売上(億円、名目))→ 売上 131 億円・営業利益 5 億円。2035年の運営約2,600室、年間稼働相当2,450人年。合算単価は現在の1.21倍。公定価格の伸びが物価を下回る一方、稼働と人員配置の改善でセグメント利益率4.1%へ回復する。
- 不動産事業(外部向け住宅建築・不動産取引):数量 1.5(年間の外部向け建築工事の標準50室棟換算(棟相当、工事進捗を含む))× 価格 8.20(外部向け標準50室棟換算1単位当たり売上(億円、名目))→ 売上 12 億円・営業利益 0 億円。外部向け建築の進捗を年間1.5棟相当とする。単価は現在の約1.30倍で、物価上昇を概ね反映する。内部向け建設の売上は含めない。
倍率:2035年のROEは2.3÷28.75=8.0%でk9.0%を下回る。資本コストを下回る再投資から超過価値を生まないと考え、正当化PERの上限1÷k=11.111倍を採用する。過去・現在のPERやPBRは根拠にしない。期首自己資本14.1億円、10年の純利益合計約17.65億円、累計還元3.0億円から期末自己資本28.75億円とする。必要な建物と運転資金の投資が続くため、留保利益を追加の余剰現金として二重計上しない。
確率:下に寄せる理由:会社には高い入居稼働率という実績がある一方、借入の大きさと介護・診療報酬の改定が利益に与える影響は非対称である。会社目標4,500室を中立に採用せず、年間150室前後の新設と外部所有型への移行が進む中心的な姿として33%とする。上振れ27%に対して下振れ40%としたのは、拠点開設の遅延よりも借入負担と規制改定が重なった場合の損失が大きいためである。
やや悲観 25% 報酬抑制と採用難で収益改善が止まる 利益 1 億円 · PER 9.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 305 円5 億円
介護・診療報酬の改定が厳しくなり、特に同一建物の訪問介護・看護に対する減算が収益を圧迫する。土地所有者が建築投資を控え、金融機関も融資審査を慎重にするため、新規開設は年間数十室へ減速する。2035年の運営規模は約1,900室で、年間の稼働相当人数は1,700人年にとどまる。
学研ココファンやSOMPOケアとの人材獲得競争は続き、管理者や看護師の採用に高い費用がかかる。利用者の負担能力を超えて住宅費を上げられず、サービス収入の伸びも物価を下回る。高い稼働率を維持できない拠点が現れ、医療対応型の固定人件費が利益率を押し下げる。
不動産事業では外部向け工事が年間0.6棟相当に減り、建築原価の上昇で採算が悪化する。会社は大型買収と拡大投資を抑え、既存施設の維持と返済を優先する。利益はわずかに残るものの、配当余力は小さく、自己資本に対する利益率は極端に低下する。事業がなくなるわけではないが、長く持つ株主にとっては、資本を拘束する割に利益を生まない会社になる。
- 介護事業(高齢者住宅・訪問介護・居宅介護支援・訪問看護):数量 1,700(年間の稼働相当居室数(人・年換算、医療対応室と一般居室の利用を含む推定値))× 価格 0.05(稼働相当居室1人年当たりの住宅・訪問介護・居宅支援・訪問看護の合計売上(億円、名目))→ 売上 84 億円・営業利益 2 億円。開設ペースが鈍り、年間稼働1,700人年。介護・診療報酬の伸び悩みで合算単価は現在の約1.12倍にとどまる。
- 不動産事業(外部向け住宅建築・不動産取引):数量 0.6(年間の外部向け建築工事の標準50室棟換算(棟相当、工事進捗を含む))× 価格 7.60(外部向け標準50室棟換算1単位当たり売上(億円、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。外部向け工事は年0.6棟相当。建設資材費を十分転嫁できず、採算は低水準になる。
倍率:ROEは0.52÷21.55=約2.41%で資本コスト9%を大きく下回るため、利益による価値の上限は0.52÷0.09=約5.78億円と考える。低収益が続く場合は再投資の価値を認めず、PER9.0倍による時価総額4.68億円とする。これは推定売却可能資産の床3.5億円を上回り、かつ稼ぐ力の上限を下回る。自己資本は期首14.1億円に純利益合計約8.75億円を加え、累計還元1.3億円を差し引いた21.55億円とする。
確率:介護報酬の抑制、人件費の上昇、自社所有型の資金負担はすでに観察できる。新拠点の開設を遅らせても既存事業を維持できる可能性は高く、倒産ではなく低収益で存続する場合として25%を配分する。
悲観 15% 拡大が止まり、低収益の施設と借入だけが残る 利益 −1 億円 · PBR 0.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 228 円4 億円
訪問介護と訪問看護の公定価格が十分に引き上げられず、重度の利用者を受け入れるための有資格者も確保できなくなる。新規施設は開設しても計画どおりに稼働せず、既存拠点の一部では利用者の転居や競合への流出が起きる。会社は拡大計画を凍結し、2035年の年間稼働相当人数は1,050人年まで戻る。
住宅費とサービス収入を十分に値上げできないため、利用者当たりの合算収入は10年でほとんど増えない。人件費と修繕費は上がり、介護事業そのものの利益はごく薄くなる。外部向け工事も激減し、建築事業では原価割れの案件が発生する。全社では営業損失が出て、借入利息を払うと純損失が続く。
経営者は新規出店より資産の処分と借入返済を優先するが、入居者が生活する施設は簡単に閉鎖・売却できない。売却先が要求する利回りも高くなり、土地建物の簿価をそのまま現金化することはできない。配当は早期に停止し、累計還元は最小限にとどまる。
2026年の黒字から数年かけて利益が失われ、2030年代には赤字が継続する。10年間の純利益の合計はほぼゼロに近く、自己資本も現在の水準から増えない。会社が直ちに消滅するとは限らないが、継続事業としての利益価値はほぼ失われ、既存の土地建物などを処分した後に残る価値が株主の下支えになる。
- 介護事業(高齢者住宅・訪問介護・居宅介護支援・訪問看護):数量 1,050(年間の稼働相当居室数(人・年換算、医療対応室と一般居室の利用を含む推定値))× 価格 0.05(稼働相当居室1人年当たりの住宅・訪問介護・居宅支援・訪問看護の合計売上(億円、名目))→ 売上 47 億円・営業利益 0 億円。稼働相当人数は現在を下回り、価格も2025年比約1.02倍にとどまる。公定価格の削減と賃金上昇でセグメント利益率は0.5%まで下がる。
- 不動産事業(外部向け住宅建築・不動産取引):数量 0.2(年間の外部向け建築工事の標準50室棟換算(棟相当、工事進捗を含む))× 価格 7.00(外部向け標準50室棟換算1単位当たり売上(億円、名目))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。新規工事はほぼ停止し、年0.2棟相当の外部売上のみとなる。少量の受注では固定費を吸収できず、赤字となる。
倍率:2035年の営業利益は赤字で、純利益もマイナス0.9億円とするため、正のPERによる評価は適さない。収益価値はほぼ失われ、現在の売却可能資産の床3.5億円で評価する。PBRはその床3.5億円を2025年末の自己資本約14.1億円で割った0.24823倍であり、将来の積み上げ自己資本を分母にしていない。2026年の黒字から赤字に至る10年間の純利益合計は約0.3億円にとどまり、累計還元0.3億円とほぼ相殺され、期末自己資本14.1億円と整合する。
確率:訪問介護・看護の報酬抑制、深刻な人材不足、金利上昇、保有不動産の処分難が重なる場合を想定する。既存の稼働率には実績があるので最頻の結果とはしないが、レバレッジによって株主価値の下振れが大きくなるため15%を配分する。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
介護事業(高齢者住宅・訪問介護・居宅介護支援・訪問看護)
サービス付き高齢者向け住宅「アンジェス」の運営と、入居者を中心とする介護・看護サービスを提供する。住宅収入、介護保険収入、医療保険収入を合わせた事業である。
| 数量年間の稼働相当居室数(人・年換算、医療対応室と一般居室の利用を含む推定値) | 価格稼働相当居室1人年当たりの住宅・訪問介護・居宅支援・訪問看護の合計売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,090 | 0.04 | 48 | 1 |
| 10 年後 中立 | 2,450 | 0.05 | 131 | 5 |
取り方:2025年有報の介護事業の外部売上4,823,218千円を使用した。同年末の運営居室1,210室、前年末との差から見た平均提供居室約1,148室、一般居室の稼働率96.5%、医療対応室の稼働を別に考え、年間の稼働相当居室を約1,090人年と推定した。内訳は一般居室の平均稼働約1,044人年に、医療対応室の利用約46人年を加えた概算である。これで外部売上を割り、住宅・介護・看護を合算した年額収入を得た。実際に請求される単一の介護報酬単価ではない。2026年上期の売上構成は住宅44%、訪問介護46.8%、居宅支援2.5%、訪問看護6.7%である。2025年の細分別売上は公表値を確認できないため、その比率を過去に正確に当てはめたものではない。数量は物理的な利用人数・年、価格はその利用から得る名目収入とし、物価は数量に含めない。
不動産事業(外部向け住宅建築・不動産取引)
連結子会社の北山住宅販売が住宅の設計、建築、外部向け請負等を担う。自社グループ向け建築と賃貸に関する内部取引は連結売上から消去する。
| 数量年間の外部向け建築工事の標準50室棟換算(棟相当、工事進捗を含む) | 価格外部向け標準50室棟換算1単位当たり売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.1 | 6.30 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 8.20 | 12 | 0 |
取り方:2025年有報の不動産事業の外部売上62,993千円を使用した。実際の竣工棟数として0.1棟を開示したものではない。会社が2026年に示した新しい50室程度の自社所有施設の土地・建築費6~7億円を参考に、年間に外部認識された工事進捗を約0.1棟分と換算し、価格を約6.30億円とした。2025年のグループ内売上約1.64億円は二重計上しない。不動産事業のセグメント利益には内部取引の採算も影響するため、外部売上だけから単純な施工粗利率を推定することはできない。将来の建築数量は外部向けに売上計上する標準棟換算であり、自社が保有する建物の建築は別途資本投資として考える。
リスクと懸念
建物保有と借入金利の上昇
施設を自社所有する場合、開設時に土地と建物への大きな投資が必要になる。2025年末の純有利子負債は約24億円で、営業利益に対して非常に大きい。借り換え金利が上昇し、新しい建物の建築費も高くなれば、居室数を増やしても株主に残る純利益が伸びない。建物を売却して財務を改善する場合も、売却価格と売却後の賃料条件によっては将来のオーナー利益が低下する。
介護・診療報酬の改定
介護保険収入は会社が自由に価格を設定できない。訪問介護の基本報酬や同一建物減算、住宅併設型の訪問看護の報酬体系はすでに見直されている。利用者の医療依存度が高い施設ほど看護師などの固定人件費も高く、報酬単価が下がると利益が急減する。医療対応型の売上だけを見て収益性が改善すると判断するのは危険である。
職員の確保とサービス品質
高齢化で介護需要が増える一方、介護職員は慢性的に不足している。新しい施設を開いても、管理者、介護職員、看護師がそろわなければ受け入れを開始できない。採用費や賃金の上昇は公定価格へ自動転嫁されず、稼働率が高くても利益を削る。外国人材の活用には可能性があるが、教育、言語対応、定着、看取りに必要な品質管理にも投資が要る。
長期目標と増分投資採算のずれ
会社の2036年4,500室目標は、年間150室という既存の開設目標だけでは達成できない。拠点の買収、より多くの新規開設、不動産の資金回収を重ねる必要がある。成長を急いで高値で事業を買収したり、新設のために増資したりすれば、会社全体の売上が増えても既存株主の取り分は薄まる。増室数ではなく、追加した投下資本からの利益を監視すべきである。
保有不動産の換金性と新リース会計
土地建物の帳簿価額は大きいが、その多くは借入を伴い、実際に入居者が暮らす事業用資産である。賃貸借契約や入居者へのサービス継続を守りながら希望価格で売れるとは限らない。資産売却後の賃料は新しい固定費となる。2028年12月期には新リース会計基準の適用によって使用権資産とリース負債の表示が変わる可能性があり、借入の減少だけを財務改善と評価しない。
AIエージェント代替とシステム収益化の不確実性
身体介護、訪問看護、住宅の現場運営、実際の建築工事はAIエージェントが直接代替しにくく、これらには人月型SIや席課金SaaSの数量縮小率を適用しない。一方、CareMasterやBillMasterが担う記録、請求、事務処理はAIでさらに自動化され、汎用ツールとの競争も起きる。システムを外部の業務SaaSとして売るなら席課金型の代替リスクが強いが、独立した外販売上も低解約率などの堀の証拠も確認できないため、将来の高成長事業として価値を加算していない。
支配株主と少数株主の資本配分
創業者一族による議決権保有が大きく、長期の経営方針を保ちやすい反面、少数株主だけで資本政策を変更することは難しい。施設の保有・売却、買収、増資、配当の優先順位が会社の規模拡大へ偏れば、増分ROICが資本コストを下回っても投資が続く恐れがある。MBOやTOBの発表が確認された状態ではないため買収価格の上乗せを価値に加えていない。
今後の分かれ目
- 新設施設の年間150室ペースを維持しながら、純有利子負債の伸びが明確に止まったら
- 土地所有者との共同開発や資産売却が機能し始めたと判断する。中立の増分投資採算と株主還元能力を引き上げ、やや楽観以上の可能性を再評価する。
- 既存一般居室の稼働率が95%を継続的に下回ったら
- 地域の紹介網と拠点運営の競争力が低下していると考え、利用数量と介護事業の利益率を下方修正する。低稼働が新設施設だけでなく既存施設に広がるかを確認する。
- 人件費率が会社の長期目標66%へ下がり、医療対応型の利益改善も確認できたら
- デジタル化と人材配置の改善が実際に利益へ転換されていると評価する。単なる売上増加ではなく、セグメント利益と営業キャッシュフローが同時に伸びることを条件に中立の利益率を上げる。
- 2027年以降の介護報酬改定で訪問介護・同一建物サービスの収入がさらに減額されたら
- 住宅費による補填と職員配置の調整で吸収できるかを確認する。吸収できない場合は利用者当たりの価格を引き下げ、やや悲観・悲観側の確率を増やす。
- 新規拠点や他社事業の買収で、大規模な新株発行または転換証券の発行が決まったら
- 払込額を会社の資産と資金調達計画に反映し、既存株主の保有割合の希薄化を別途評価する。会社全体の売上や時価総額が増えるだけでは、既存株主に有利な買収とは判断しない。
- 不動産の売却や流動化により、借入返済額と将来の賃料条件が具体的に開示されたら
- 売却益ではなく、借入金利の減少、固定賃料の増加、次の施設に必要な投下資本を比較する。追加資本に対する利益率が資本コストを上回るなら評価を引き上げる。
- CareMasterやBillMasterの外販について契約数・売上・解約率が開示されたら
- 介護運営とは別に業務SaaSとして分析する。中立の利用ID・契約数量は現在の0.70~0.90倍、名目単価は1.00~1.15倍を原則とし、独自データや切替困難性の十分な証拠がない限り高い長期成長率を認めない。
見ておくもの
- アンジェスの総居室数、年間新設居室数、閉鎖・買収による増減
- 開設後1年以上の一般居室の稼働率と、医療対応室を含めた実稼働人数
- 訪問介護の利用単価、訪問看護の利用者当たり収入、介護・診療報酬改定の影響額
- 介護事業の人件費率、看護師・介護職員の採用数、離職率、特定技能外国人材の定着状況
- 介護事業のセグメント利益率と新しい訪問看護併設型の拠点単位採算
- 営業キャッシュフロー、有形固定資産取得額、建物売却額、純有利子負債、支払利息
- 新規施設の建築費、外部所有と自社所有の比率、増分ROICと建物更新費用
- 中長期の4,500室目標の進捗、M&Aの取得価格、増資・新株予約権・転換社債の有無
- 普通配当の継続・増配実績、配当性向、自己株買い、余剰資金の使途
- 上場維持基準への適合、創業者一族の持株比率、少数株主に関わる資本政策
倍率と資本コストの決め方
2025年の介護事業外部売上48.232億円を推定稼働人数1,090人年と合算単価に分け、不動産事業は外部売上0.630億円を標準棟の工事進捗相当に換算した。2035年の売上は各筋書きの数量と名目価格から算出し、物価を数量に重ねていない。中立の数量は会社の4,500室目標よりも、年間150室の開設実績・方針と資金制約を重視した。
資本コストは9.0%とし、中立のROE8.0%がそれを下回るため、利益の正当化PERは1÷kの11.111倍を上限とした。楽観側もRONICと長期成長率2.5%から算出した上限そのものを使った。現在や過去の市場PER・PBRを倍率の根拠にはしていない。
2025年の減価償却約1.73億円を単純に物価倍率で膨らませず、既存建物の簿価による償却と、新規取得建物の追加償却を分けて考えた。更新投資と新設の建築費は現金支出・借入負担として重く見た。将来のリース会計による表示変更だけで価値を変えず、家賃は継続的な固定支出として評価する。
悲観の資産価値は、現在の土地建物等を保守的な価格で売却し、負債を差し引いた約3.5億円を床とした。将来積み上がる自己資本へ低いPBRを掛けることはしていない。現在の株価との比較は最後に行い、確率加重した現在価値約13.15億円と基準時価総額約12.97億円の差は約プラス1.4%で「適正」と判定する。金利と確率への感応度が高く、見かけのPBRの低さを割安の根拠にはしない。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本資本コスト7.5%に、業務の値決め力の弱さ0.5ポイントと、財務レバレッジの重さ1.0ポイントを加えた9.0%。規模・株価のβ・個別の買収失敗リスクによる追加は行わず、後者は筋書きと確率に反映する。