結論
ぴあは、ライブやスポーツのチケット販売と、自社の興行・施設運営を営む会社だ。2026 年 3 月期は大阪・関西万博の特需で利益が膨らんだが、会社は次の期に利益が半分近くへ減ると見込む。筆者の結論は、10 年の本質価値は今の時価総額を下回る見立てだ。
理由は、特需の分を除いた利益は小さく、手数料の収入もアーティストの直販サイトとの競争で物価に届かないからだ。純現金が時価総額を上回って見えるが、大半はチケット代金の預り金で、自分のお金ではない。
感染症で興行が止まれば赤字に沈んだ過去も、見落とせない。確かな堀が見えにくい点が、割安と言えない理由だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、チケット販売のブランドと、預り金の運用益は魅力だ。ただ、自己資本が薄く、特需の剥落で利益が読みにくい。純現金は大半が預り金で、株主のものではない。
10 年先の利益を考えると、直販の広がりで手数料の取り分が削られる懸念が強い。確かな堀が見えない事業に、また特需の反動が読めない中で、今の値段は十分な安全域を持たない。経営は着実に利益を出してきたが、特需を除いた実力はまだ見えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎは大きく 2 つある。1 つはチケット販売で、公演やスポーツのチケットを売るたびに手数料が入る。利益率は 1 割台で、利益の中心だ。もう 1 つは自社で公演を主催し、横浜のアリーナなどの施設を運営する興行で、売上は大きいが利益率は 1 桁にとどまる。
残りは出版やメディアで、利益はほとんど出ない。セグメントごとの売上は開示を確かめられず、筆者の推定である。売上の水準は、会計のやり方で大きく動く点にも注意がいる。顧客は興行主とアーティスト、そしてチケットを買う個人のファンである。チケットを買う側は主に 10 代から 40 代で、ライブ好きの層が厚い。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、チケット販売の長い実績とブランドだ。コンビニ端末と自社サイトを持ち、興行主との取引関係も厚い。預り金の運用益が、金利の上昇で増える点も追い風である。
弱みは、自己資本比率が 9% しかなく、興行が止まると一気に傷むことだ。過去に営業赤字へ沈んだ。アーティスト自身が直販に動けば、手数料の取り分は削られる。筆者は堀を普通とみる。ブランドの強さは確かだが、取引先に値下げを迫られやすい立場で、価格を自分で決めにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ライブとスポーツの市場は、コロナ明けに大きく戻り、体験にお金を使う流れが続く。アリーナの新設も相次ぎ、需要は底堅い。
競争の構図は変わりつつある。市場全体の需要は伸びても、取り分がどこに落ちるかは別の話だ。ローソンやイープラスなどのチケット会社に加え、アーティストと興行主が自前のファンクラブ経由で売る動きが広がる。AI エージェントが席を探して買う時代には、入口の価値も動く。チケットを売る窓口が一つに集まれば、手数料を決める力は大手の販売網に移る。ただ、現場の体験そのものは AI に置き換わらない。
資本政策と M&A
配当は、27 年 3 月期の予想が 26 年 3 月期より低く、減配になる。配当性向はおおむね 3 割だ。自社株買いの開示は見つからなかった。
中期経営計画の目標数字と、還元の具体的な数字の約束は、確認できる資料の中では見つからなかった。次世代システムへの投資が続く間は、還元の拡大を期待しにくい。配当を決めるのは経営で、預り金を除けば手元の現金は多くない。
見通しをどちらに寄せたか
強気の材料はライブ市場の底堅さと預り金の運用益で、慎重な材料は特需の剥落、直販への流出、薄い自己資本だ。AI エージェントを売り物にして売上が出た金額の開示は無く、慎重な見方がやや強い。やや悲観と悲観を合わせて 37% とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,516 円386 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 408 円63 億円)。 今の値に割り戻すと 1,443 円221 億円、今との差 −38.2%、 期待の年率 +2.3%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 5,021 円771 億円 | 657 円101 億円 | +143.1% | +9.3% | 398 円61 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,901 円599 億円 | 540 円83 億円 | +90.1% | +6.6% | 888 円136 億円 |
| 中立 | 36% | 2,795 円429 億円 | 424 円65 億円 | +37.8% | +3.3% | 1,159 円178 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,357 円208 億円 | 281 円43 億円 | −29.9% | −3.5% | 410 円63 億円 |
| 悲観 | 12% | 326 円50 億円 | 259 円40 億円 | −75.0% | −12.9% | 70 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,516 円386 億円 | 408 円63 億円 | +25.2% | +2.3% | 2,924 円449 億円 |
今の株価時価総額 2,336 円359 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% ライブ需要が伸び続け、手数料も守る 利益 49 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 5,021 円771 億円
ライブとスポーツの市場が拡大を続け、チケットの取扱枚数は今の 1.25 倍になる。手数料の収入も物価並みに上がり、ファンクラブ直販への流出も限られる。主催公演は万博の特需がはげ落ちても今の水準に戻る。システムの移行が終わり、利益率は 8% 近くに上がる。
- チケット販売:数量 25.0(取扱枚数(百万枚、推定))× 価格 1,340(1 枚当たり収入(円))→ 売上 335 億円・営業利益 50 億円。自社プラットフォームの型
- 興行・施設運営:数量 4.0(主催公演・施設の動員(百万人、推定))× 価格 11,055(客単価(円))→ 売上 442 億円・営業利益 31 億円。現場の体験型
- その他(出版・メディア等):数量 230(取り扱い件数(件、推定))× 価格 0.13(1 件当たり売上(億円))→ 売上 31 億円・営業利益 0 億円。小さい部門
倍率:事業の純利益 49 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 26.7% と k 8.0%、RONIC 17.3%、g 2.0%(g_long)から正当化 PER 14.7 倍の上限そのものに置く。時価総額 721 億円。
確率:AI エージェントを売り物にして売上が出た金額の開示は無く、楽観でもチケットの取扱は 1.25 倍までと置き、7%。
やや楽観 20% チケットは伸びるが万博の反動が残る 利益 38 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 3,901 円599 億円
チケットの取扱枚数は 1.15 倍に増えるが、アーティストの直販サイトとの競争で手数料の伸びは物価の少し下にとどまる。主催公演は万博の特需がはげ落ち、動員は今の 0.9 倍。次世代システムへの移行費は 5 年ほどで一巡し、利益は今の 8 割に落ち着く。
- チケット販売:数量 23.0(取扱枚数(百万枚、推定))× 価格 1,280(1 枚当たり収入(円))→ 売上 294 億円・営業利益 41 億円。自社プラットフォームの型
- 興行・施設運営:数量 3.6(主催公演・施設の動員(百万人、推定))× 価格 10,725(客単価(円))→ 売上 386 億円・営業利益 23 億円。現場の体験型
- その他(出版・メディア等):数量 230(取り扱い件数(件、推定))× 価格 0.13(1 件当たり売上(億円))→ 売上 30 億円・営業利益 0 億円。小さい部門
倍率:事業の ROE 23.9% と k 8.0%、RONIC 16.0%、g 2.0% から正当化 PER 14.6 倍の上限そのものに置く。時価総額 554 億円。
確率:ライブ需要は堅調でも、万博の反動と手数料の競争が残る筋書き。20%。
中立 36% 万博の特需がはげ落ち、利益は 3 割減 利益 27 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 2,795 円429 億円
チケットの取扱枚数は今と同じで、手数料の収入は直販サイトとの競争で物価に届かない 1.2 倍にとどまる。主催公演は万博のはげ落ちで今の 0.8 倍まで下がる。売上は今より少し増えるが、利益は 2026 年 3 月期の水準を 2 割ほど下回る。配当は性向 3 割で続く。
- チケット販売:数量 20.0(取扱枚数(百万枚、推定))× 価格 1,200(1 枚当たり収入(円))→ 売上 240 億円・営業利益 31 億円。価格 1.20 倍は、直販サイトとの競争で手数料に値下げ圧力が掛かるため物価に届かない
- 興行・施設運営:数量 3.2(主催公演・施設の動員(百万人、推定))× 価格 10,313(客単価(円))→ 売上 330 億円・営業利益 17 億円。価格 1.25 倍は、客単価が物価並みに上がり切らないため
- その他(出版・メディア等):数量 230(取り扱い件数(件、推定))× 価格 0.13(1 件当たり売上(億円))→ 売上 31 億円・営業利益 0 億円。小さい部門
倍率:事業の ROE 20.4% と k 8.0%、RONIC 14.2%、g 2.0% から正当化 PER 14.3 倍の上限そのものに置く。時価総額 388 億円。
確率:ライブ市場は底堅いが、直販との競争と万博の反動を織り込んだ筋書きを中立とし、36%。
やや悲観 25% 直販に取扱を奪われる 利益 14 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 1,357 円208 億円
アーティストと興行主が直販サイトを広げ、取扱枚数は 0.85 倍に減る。手数料は競争で物価に届かず、1.1 倍。主催公演も不振で、利益率は 3% 台に下がる。システム移行費の負担が重く、配当は利益に合わせて縮む。万博の特需がはげ落ちた後の売上は、今を下回る。
- チケット販売:数量 17.0(取扱枚数(百万枚、推定))× 価格 1,100(1 枚当たり収入(円))→ 売上 187 億円・営業利益 19 億円。自社プラットフォームの型
- 興行・施設運営:数量 2.8(主催公演・施設の動員(百万人、推定))× 価格 9,488(客単価(円))→ 売上 266 億円・営業利益 9 億円。現場の体験型
- その他(出版・メディア等):数量 184(取り扱い件数(件、推定))× 価格 0.12(1 件当たり売上(億円))→ 売上 22 億円・営業利益 0 億円。小さい部門
倍率:事業の ROE 11.6% と k 8.0%、g 2.0% から PER 13.3 倍。時価総額 184 億円。
確率:アーティスト直販と競合が取扱と手数料を削る筋書き。やや悲観と悲観で 37%。
悲観 12% 取扱が細り、預り金だけが回る会社になる 利益 0 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 326 円50 億円
アーティストと興行主が自前の販売に移り、取扱枚数は 0.6 倍に落ちる。手数料は 1 割下がる。主催公演は赤字で、利益はほぼ消える。2021 年 3 月期に営業赤字へ沈んだ経験のとおり、興行は止まると一度に傷む。会社に残る価値は自己資本の現金性の部分が中心になる。
- チケット販売:数量 12.0(取扱枚数(百万枚、推定))× 価格 900(1 枚当たり収入(円))→ 売上 108 億円・営業利益 5 億円。自社プラットフォームの型
- 興行・施設運営:数量 2.0(主催公演・施設の動員(百万人、推定))× 価格 8,250(客単価(円))→ 売上 165 億円・営業利益 0 億円。現場の体験型
- その他(出版・メディア等):数量 115(取り扱い件数(件、推定))× 価格 0.10(1 件当たり売上(億円))→ 売上 12 億円・営業利益 0 億円。小さい部門
倍率:悲観の床は稼ぐ力でなく、自己資本の現金性の資産 50 億円を今の自己資本 108 億円で割った 0.46 倍。
確率:直販への流出と興行の不振が重なり、利益が消える筋書き。感染症の再来のような興行停止も含め、12%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
チケット販売
公演やスポーツのチケットを、自社サイトとコンビニ端末で売り、手数料を取る。
| 数量取扱枚数(百万枚、推定) | 価格1 枚当たり収入(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 1,000 | 200 | 28 |
| 10 年後 中立 | 20.0 | 1,200 | 240 | 31 |
取り方:セグメント別の売上・利益は開示を確かめられず、筆者の推定(軽い版)。チケット販売の売上を約 200 億円、利益を約 28 億円と置き、取扱 2,000 万枚×1 枚約千円の収入とした。【AI エージェント代替】自社の媒体・プラットフォームの型。利用者の実質の伸びで置く。
興行・施設運営
自社で公演を主催し、横浜のアリーナなど施設も運営する。
| 数量主催公演・施設の動員(百万人、推定) | 価格客単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 8,250 | 330 | 24 |
| 10 年後 中立 | 3.2 | 10,313 | 330 | 17 |
取り方:売上のうち約 330 億円と推定。2026 年 3 月期は大阪・関西万博の特需で増えた。動員 400 万人×客単価約 8 千円と置いた。現場の体験が価値で、AI エージェントには置き換わりにくい。
その他(出版・メディア等)
情報誌やウェブメディアなど、チケット以外の事業。
| 数量取り扱い件数(件、推定) | 価格1 件当たり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 230 | 0.10 | 23 | 0 |
| 10 年後 中立 | 230 | 0.13 | 31 | 0 |
取り方:残りの約 23 億円を推定。利益はほぼゼロ。
リスクと懸念
アーティスト直販に取扱を奪われる
ファンクラブ経由の直販が広がれば、チケット会社の取扱枚数と手数料が削られる。中立では手数料の収入を物価に届かない 1.2 倍と置いた。
感染症など興行が止まる出来事
2021 年 3 月期は売上が 6 割減り、営業赤字へ沈んだ。自己資本比率は 9% と薄く、再び止まれば財務が傷む。
万博の特需が戻らない
2026 年 3 月期の利益は特需で膨らんだ。27 年 3 月期は営業利益 25 億円と、4 割減を見込む。この水準が新しい標準になる恐れがある。
次世代システムの投資負担
次世代システムへの移行費が重く、利益を数年圧迫する。完成が遅れる、または競合に比べ見劣りすれば、投資が回収できない。
今後の分かれ目
- 大手アーティストが直販サイトに移る動きが加速する
- チケットの取扱枚数と手数料が削られる。やや悲観に近づく。
- 次世代システムへの移行が計画どおり終わり、費用が減る
- 利益率が戻り、やや楽観に近づく。
- 大規模な興行停止(感染症・災害)が再び起きる
- 売上と利益が一度に崩れ、悲観の筋書きが現実味を帯びる。
- 配当性向を引き上げる、または自社株買いを発表する
- 利益が株主に戻る道筋が見える。倍率の上乗せはできないが、評価の下振れは和らぐ。
見ておくもの
- チケット取扱枚数と手数料率
- 27 年 3 月期の営業利益 25 億円が届くか
- 次世代システムの移行費と完成時期
- 主催公演の動員と利益率
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や同業の倍率を見ずに、事業の ROE・k・g から式で置いた。k は 7.5% に quality +0.5% を足した 8.0%。g_long は 2%。セグメントの構成比は開示を確かめられず推定。純現金は預り金が大半で、余った現金には分けなかった。リースの会計は新基準で 2028/03 期から BS に載るが、10 年後の数字は今と同じ形にそろえた。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。