結論
チャーム・ケア・コーポレーションは、関西と首都圏で介護付き有料老人ホームを運営する会社だ。2026年6月末で115ホーム。売上は約490億円、営業利益は約53億円である。筆者の結論は、今の値段に対して本質価値が3割ほど高く、「割安」と言える水準だというものだ。
稼ぎの源は単純である。ホームに入居者が1人入るたびに、家賃・管理費・介護保険の収入が毎月入る。85歳以上の人口は2040年ごろまで増え続けるので、入居者の数は伸びる。会社は開設を年15〜20ホームに増やす方針で、既存ホームの入居率はすでに9割台半ばにある。
ただし、この商売には重い固定費がある。ホームの多くは借りた建物で、家賃は年80億円を超える。介護報酬は国が決め、賃金の上昇に遅れて改定される。人手が足りなければ、ホームを開けても入居者を受け入れられない。
10年後の中立は、入居者が1万人、営業利益が約110億円、純利益が約80億円である。倍率は利益の質を割り引いて14倍弱に置いた。強気と慎重を確率で重ねても、今の時価総額457億円を上回る。創業者一族の色が濃く、買収の可能性も低くない点は、安全域をさらに厚くする。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「需要は確実だが、利益の取り分が薄い」事業に見える。高齢化は止まらず、入居率は9割台半ばを保つ。経営が介護に集中し、利益を現金で積み上げて配当に回す姿も好ましい。
問題は取り分である。介護保険の価格は国が決め、賃金は市場が決める。さらに、家賃は年80億円超の固定の約束だ。需要が伸びても、この3つの綱引きで利益が削られる。筆者は、ここに堀と呼べるほどの強みを見ていない。見ているのは、立地と運営の経験の積み上げだけである。
資本配分は、おおむね健全だ。借入は少なく、買収で失敗した年(2025年6月期)は正直に開示し、計画を下げた。創業者が大株主で、経営者と株主の利害が近いことも安心材料になる。
安全域は、中立でも今の時価総額を上回る程度にあるが、広くはない。新リース会計で見かけの自己資本が大きく減る点と、人手の確保に失敗する筋書きの重さは、確率に織り込んだ。
何で稼ぐ会社か
事業の中身は有料老人ホームの運営である。中心は介護付きホームで、「チャームスイート」などのブランドを首都圏と近畿圏に展開する。2025年6月末は105ホーム・7,155室で、首都圏が50ホーム、近畿圏が55ホームだった。2026年6月期にはホーム数が115に増えた。
収入は3本ある。入居金と月額の家賃・管理費、介護保険から入る介護サービス料、そして生活支援などの自費サービスである。売上のおよそ9割が介護事業で、残りが不動産やその他だ。不動産事業は他社が運営するホームの開発・売却で、利益が大きく振れる。会社は2026年6月期の調布市国領の案件を最後に、この事業から撤退する方針を出した。
成長は自前の開設とM&Aの両輪で進んできた。ライクやCMケアなどの運営会社を取り込み、ケア21のホームも引き継いだ。ケア21ホームの入居率は2025年6月末で45.7%と低く、再生が続いている。ホスピス事業は子会社のグッドパートナーズが担い、6施設の開設が決まっている。
現場の人員配置では、1ホームで「入居者3人に職員0.9人」という特例の認可を得た。人件費が単純計算で約1割減る見込みで、10ホームで実証を進めている。社員の平均年収は465万円で、定期昇給とベースアップを毎年7月に行っている。
優良さと弱いところ
堀は、立地ごとの運営ノウハウと入居率の高さである。開設2年以上の既存ホームの入居率は2025年6月期で94.4%、2026年3月期末で97.5%と報じられた。介護付きホームは建物と人員を整えないと開けられないため、参入には時間と資金がかかる。
だが、この堀は広くない。ホームの料金のうち介護保険の部分は国が決め、事業者が自由に値上げできるのは家賃と管理費だけだ。大手のベネッセスタイルケアやSOMPOケア、学研ココファンも同じ都市部で開設を競う。筆者は、堀の強さを「普通」と置く。
資本効率は悪くない。過去10年のROEの中央値は19.4%で、2026年6月期は17.6%だった。純有利子負債はほぼゼロだ。ただし、これは見かけである。借りているホームの家賃は年80億円を超え、契約残高は2,000億円を超える。2028年3月期から新リース会計が始まると、この約束が貸借対照表に載る。自己資本比率の43.6%は、そこで大きく下がる。
弱みは、買収の目利きと人材の確保だ。2025年6月期は、買収したホームの利益への影響が約5億円のマイナスだった。新卒採用も、計画80人に対して62人にとどまった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
介護付き有料老人ホームの市場は、高齢化で数量が伸びる成熟前の市場だ。厚生労働省の調査では、2024年6月の有料老人ホームは全国で約1.65万施設、定員は約64.6万人である。サービス付き高齢者向け住宅は約5,200施設・約31万人で、高齢者の住まいは競合が多い。チャーム・ケアの7,155室は、有料老人ホームの定員のおよそ1.1%にあたる。
需要は人口で決まる。85歳以上は2040年ごろまで増え、要介護の人も増える。一方、供給は人手と建物の用地で絞られる。都市部ほど空きが少なく、入居率は高く保たれやすい。
競合は、ベネッセスタイルケア、SOMPOケア、学研ココファン、ツクイなどの大手と、地域の中小である。大手どうしの差は、立地と運営の質、職員を確保できるかどうかだ。小さい事業者の売り物件は増えており、M&Aで規模を取る余地はある。
価格は、介護保険の部分が報酬改定で決まる。2024年度の改定は賃上げの原資を含んだが、物価と賃金が毎年3%で上がる世界では、改定が後追いになる年が出る。10年の構造的な負け筋は、国の費用抑制が強まり、賃金だけが先に上がる姿である。人員配置の特例が広がれば、その逆の追い風にもなる。
資本政策と M&A
資本政策は、成長投資を優先しつつ、配当を着実に増やす形だ。配当性向は30%以上が方針で、2025年6月期は性向が初めて30%を超えた。2027年6月期の予想性向は約39%まで上がる。中期計画の期間(2026〜28年6月期)には、還元の総額を35億円以上とする計画も示された。
営業キャッシュフローは、新ホームの開設、株主還元、大型M&Aのための待機資金に回す。借入は少なく、現金とほぼ同額である。ホームの多くを借りて開設するため、投資の負担は比較的軽い。
M&Aは、事業部門の切り出しや運営の譲渡を中心にする。東急不動産との提携によるシニアレジデンス事業も検討に入っている。不動産事業から撤退して介護に集中する判断は、筆者は資本の使い方として前向きに見る。
大株主は、エス・ティー・ケーが約29%、創業者の下村隆彦氏が個人で約16%である。両者を合わせると支配的な持株になり、少数株主の意向が通りにくい面がある。一方、TOBの可能性は、kabufuの推定で10年以内に26.3%と、低くない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
85歳以上の人口は2040年ごろまで増え続け、都市部の介護付きホームは慢性的に足りない。しかも新しい競合が参入するには、用地と人員の準備に数年かかる。実際、既存ホームの入居率は94%を超え、2026年3月期末には97.5%まで上がった。開設の計画も、年10ホームから15〜20ホームへ引き上げられている。
収益の質も変わり始めた。不動産事業からの撤退で、売却益に左右される年がなくなる。人員配置の特例(3対0.9)が認可され、10ホームでの実証が進めば、人件費は単純計算で1割減る。ケア21ホームの入居率も45.7%から改善が続いており、満室に近づけば利益の上乗せは大きい。
2026年6月期は営業利益が前期から4割近く増え、会社予想も上回った。2027年6月期も増益が続く。配当は年々増え、性向も30%台後半まで上がる。ROEは中期で15%を目指す。この伸びが10年続けば、売上1,000億円・経常100億円という会社の目標にも手が届く。
慎重な見方
介護の価格は国が決め、賃金は市場が決める。この構造は変わらない。物価が年3%で上がる世界では、報酬改定は賃金に遅れ、事業者の利益を削る。大手でも赤字に落ちた例があり、利益の振れは小さくない。
借りたホームの家賃は年80億円超で、契約残高は2,000億円を超える。売上が落ちても、家賃は減らない。入居率が1割下がれば、利益は大きく崩れる。新リース会計で、この約束が貸借対照表に載ると、見かけの財務の強さは消える。
人も足りない。新卒採用は計画80人に対して62人だった。ホームを開けても、職員が集まらなければ入居者を迎えられない。M&Aで得たホームは、2025年6月期に約5億円のマイナスをもたらした。3対0.9の配置特例も、まだ1ホームの認可にすぎず、全体に広がる保証はない。
2026年6月期の利益は不動産の売却益など一時の要因も含む。介護事業そのものの実力は、見た目の増益より小さい。来期の予想では、営業利益は伸びても純利益はほぼ横ばいである。成長が利益に出るまで、時間がかかることを示している。
どちらに重みを置いたか
需要の確かさと入居率の高さでは、強気の見方が勝つ。しかし固定家賃、報酬改定の遅れ、人手の確保という3つの綱引きは、利益率の上限を押さえる。このため中立は営業利益率を過去の山(11%台)にとどめた。
確率は、慎重な側にやや寄せた。やや悲観を28%、悲観を12%に置き、中立を33%とした。強気側は合わせて27%である。それでも確率を重ねた本質価値は、今の時価総額を3割ほど上回った。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 3,816 円1,247 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 616 円201 億円)。 今の値に割り戻すと 2,281 円745 億円、今との差 +65.0%、 期待の年率 +12.4%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 7,900 円2,582 億円 | 964 円315 億円 | +541.4% | +20.4% | 621 円203 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,290 円2,056 億円 | 841 円275 億円 | +416.0% | +17.8% | 1,426 円466 億円 |
| 中立 | 33% | 4,834 円1,580 億円 | 731 円239 億円 | +302.7% | +14.9% | 1,837 円600 億円 |
| やや悲観 | 28% | 1,308 円427 億円 | 413 円135 億円 | +24.5% | +2.2% | 482 円157 億円 |
| 悲観 | 12% | 366 円120 億円 | 193 円63 億円 | −59.6% | −8.7% | 67 円22 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,816 円1,247 億円 | 616 円201 億円 | +220.7% | +12.4% | 4,432 円1,449 億円 |
今の株価時価総額 1,382 円452 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 介護の需要を取りこぼさず、運営の効率化も実る10年 利益 123 億円 · PER 20.5 倍 · 株価時価総額 7,900 円2,582 億円
85歳以上の人口が増え続け、都市部の介護付きホームは供給が追いつかない。チャーム・ケアは関西と首都圏の既存網に加え、名古屋圏や埼玉・千葉へ広げ、年10ホームを超えるペースで開設を重ねる。旧ケア21ホームの入居率も90%台に戻り、買収ホームの赤字は消える。
人員配置の特例(3対0.9)が全ホームに広がり、人件費は単純計算で1割近く下がる。職員の定着も進み、採用費と派遣費が減る。入居者1人あたりの売上は、自費のサービスと上位ホームの比率が上がって、物価をやや上回る。
営業利益率は10年前の山を少し超えて13%台に乗り、会社が掲げる売上1,000億円・経常利益100億円の目標を上回る。家賃の固定費は重いが、売上の伸びが吸収する。
- 有料老人ホーム運営ほか(介護付きが中心):数量 12,000(年間の平均入居者数(人))× 価格 1,030(入居者1人あたりの年間売上(万円))→ 売上 1,236 億円・営業利益 167 億円。平均入居者1.2万人。開設の加速と入居率の回復で伸びる
倍率:事業の純利益 123 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.5 倍。全体の PER 20.53 倍、時価総額 2,525 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:85歳以上の人口増に乗って居室を増やし、3対0.9の配置特例が全ホームに広がる必要がある。複数の好条件が重なるので確率は低いが、入居率94%台の運営実績があるため1割弱は置く。
やや楽観 20% 出店と入居率が計画どおり進む10年 利益 100 億円 · PER 20.0 倍 · 株価時価総額 6,290 円2,056 億円
年8ホーム前後の開設が続き、居室数は10年で約1.7倍になる。入居率は既存ホームで94%前後を保ち、旧ケア21ホームも少しずつ埋まる。会社の中期計画どおりに進む、素直な上振れである。
報酬改定は賃金の上昇分をおおむね取り込み、入居者1人あたりの売上は物価並みに上がる。3対0.9の配置は一部のホームに広がり、人件費の伸びを少し抑える。営業利益率は12%台に乗る。
不動産事業からは撤退し、介護に集中する原点回帰が利益の質を高める。配当は性向40%前後で増え、株主への還元も厚くなる。大型のM&Aは実行せず、開設中心の成長にとどまる。
- 有料老人ホーム運営ほか(介護付きが中心):数量 11,000(年間の平均入居者数(人))× 価格 1,000(入居者1人あたりの年間売上(万円))→ 売上 1,100 億円・営業利益 136 億円。平均入居者1.1万人。出店と入居率が計画どおり
倍率:事業の純利益 100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.0 倍。全体の PER 19.96 倍、時価総額 1,996 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画どおりに出店が続き、入居率が9割台で保たれる、現実的な上振れ。実績(FY24 までの利益率の改善)が裏づけになる。
中立 33% 出店は続くが、人手と家賃の重さが利益率を抑える10年 利益 79 億円 · PER 19.2 倍 · 株価時価総額 4,834 円1,580 億円
居室数は年5〜6%のペースで増え、10年で約1.5倍になる。出店は年10ホーム前後で、買収ホームの再生には時間がかかる。入居率は9割台前半で落ち着く。
介護報酬は賃金の上昇に遅れて改定されるため、入居者1人あたりの売上は、物価並みの上昇にわずかに届かない。賃金も年3%で上がるので、営業利益率は過去の山(11%台)を超えない。
3対0.9の配置特例は、実証が終わる頃に一部で使える程度とみる。不動産事業は撤退済みで、売却益に頼る年はなくなる。純利益は10年で2倍弱になり、還元は性向40%を保つ。大型の買収は実行せず、借入も増やさない。
- 有料老人ホーム運営ほか(介護付きが中心):数量 10,000(年間の平均入居者数(人))× 価格 975(入居者1人あたりの年間売上(万円))→ 売上 975 億円・営業利益 110 億円。平均入居者1万人。賃金上昇が報酬改定に先行し利益率は山を超えない
倍率:事業の純利益 79 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.2 倍。全体の PER 19.2 倍、時価総額 1,517 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:高齢者人口の増加は確実だが、人手不足と家賃の重さが利益を抑える。会社の中期計画(FY28 の営業利益率 11.9%)には届かない手前で止まる、最も起こりやすい姿として最大の重みを置く。
やや悲観 28% 人手不足で出店が遅れ、報酬が賃金に追いつかない10年 利益 37 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,308 円427 億円
採用難で新ホームの開設が遅れ、居室数は10年で1.3倍にとどまる。既存ホームの入居率は保たれるが、買収で得たホームの再生が長引き、利益の足を引っ張る。
賃金は物価どおりに上がるのに、介護報酬の改定はそれに追いつかない。入居者1人あたりの売上は、物価の上昇を下回る。家賃の更新でも、貸主から値上げを求められる。
家賃は固定費として残り、売上が伸びない分だけ利益率を削る。営業利益率は7%まで下がり、純利益は今と同水準にとどまる。減配はしないが、還元の余力は小さい。新ホームの投資も絞られ、成長は止まりかける。
- 有料老人ホーム運営ほか(介護付きが中心):数量 8,600(年間の平均入居者数(人))× 価格 880(入居者1人あたりの年間売上(万円))→ 売上 757 億円・営業利益 53 億円。平均入居者8,600人。賃金が先行して利益率が下がる
倍率:ROE 7.7%。RONIC = k 7.5% + 1/2 ×(7.7% − 7.25%)= 7.5%、g 3.75% から正当化 PER = (1 − 3.75÷7.5)÷(7.25 − 3.75) = 14.2 倍。構造的に利益率が下がる筋書きなので、やや悲観は上限の 7 割(約 10.0 倍)に置いた。
確率:介護職の採用難と報酬改定の遅れは現に起きている構造で、出店が計画を下回る可能性は小さくない。FY25 の買収ホームの赤字(約4.9億円)も実例なので、確率を厚めに置く。
悲観 12% 賃金と固定家賃に押されて収益力を失う10年 利益 11 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 366 円120 億円
介護報酬が賃金の上昇に追いつかない状態が続き、人手を確保できないホームは新規入居を止めざるをえなくなる。居室数は増えず、入居者は今より減る。生成AIによる業務の効率化も、人が付き添う介護の人手を大きくは減らさない。
入居者1人あたりの売上は物価を大きく下回る。それでも家賃は契約どおり払い続けるため、固定費が利益を食う。営業利益率は3%まで落ち、純利益は10億円前後になる。
配当は性向30%の下限まで下がる。残る価値は、自社で持つホームの不動産と、家賃を払い続けても残る運営の稼ぎである。借入は少なく、すぐに資金が尽きることはないが、優良な成長企業ではなくなっている。
- 有料老人ホーム運営ほか(介護付きが中心):数量 7,200(年間の平均入居者数(人))× 価格 760(入居者1人あたりの年間売上(万円))→ 売上 547 億円・営業利益 16 億円。平均入居者7,200人。固定家賃が利益を食う
倍率:ROE 2.8% は k 7.5% 以下なので、稼ぐ力は 1÷k = 13.8 倍が上限になり、純利益 11 億円の約 6 割では 90 億円に届かない。そこで床は自社所有のホームなど売れる資産(簿価約 165 億円の約 7 割=約 120 億円)で測り、今の自己資本 230 億円に PBR 0.52 倍を掛けた。
確率:国の費用抑制が強まり、職員の確保にも失敗して稼働が落ちる、構造的な負け筋。固定の家賃が利益を直撃する形で、確度は低いが1割は置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
有料老人ホーム運営ほか(介護付きが中心)
首都圏と近畿圏で介護付き有料老人ホーム「チャームスイート」などを運営し、入居金・月額利用料・介護保険収入を得る。ホスピス、入居者紹介、不動産賃貸を含む。
| 数量年間の平均入居者数(人) | 価格入居者1人あたりの年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 6,600 | 744 | 491 | 53 |
| 10 年後 中立 | 10,000 | 975 | 975 | 110 |
取り方:全社の売上491億円(2026年6月期)を、年間の平均入居者数で割って1人あたりの年間売上を逆算した。入居者数は、2025年6月末の7,155室と2026年6月末の115ホームから居室数を約7,800室と推定し、年間の平均入居率を約85%(旧ケア21ホームの低い入居率を含む)として約6,600人とした。売上には介護事業(約9割)のほか、不動産売却などの収入(約50億円)が入るため、価格は744万円と高めに出る。営業利益53億円は連結の実績。セグメントごとの利益は確かめられなかったので、1つにまとめた。
リスクと懸念
固定家賃の重さ
借りているホームの家賃は年80億円を超え、契約残高は2,000億円超(提出会社)。入居率や単価が崩れても家賃は減らず、利益が大きく振れる。2028年3月期からの新リース会計では、この約束が貸借対照表に載り、自己資本比率が大きく下がる。
介護報酬の改定が賃金に遅れる
介護保険の価格は国が決める。賃金が年3%で上がる世界では、報酬の改定が後追いになる年が出る。入居者1人あたりの売上が物価に届かなければ、利益率はじわじわ削られる。
人手の確保
新卒採用は2025年4月入社で計画80人に対して62人だった。職員が足りなければ、新ホームの開設が遅れ、入居の受け入れも止まる。選択制の週休3日制など処遇の改善は進むが、人件費の上昇につながる。
M&Aで得たホームの再生
2025年6月期は、M&Aで得たホームの利益への影響が約4.9億円のマイナスだった。ケア21のホームは入居率が45.7%と低い。買収のたびに同じ問題が出れば、成長の質が下がる。
人員配置の特例が広がらない可能性
「入居者3人に職員0.9人」の配置は、現時点で1ホームの認可にとどまる。10ホームの実証で品質や安全の問題が出れば、全体への展開は遅れる。人件費の1割減という効果は、見込みにすぎない。
創業者一族に近い株主構成
筆頭株主のエス・ティー・ケーが約29%、創業者の下村隆彦氏が約16%を持つ。少数株主の意向が通りにくい面があり、一方でTOBが起きる可能性もある。
介護事故・不祥事
入居者の事故や虐待の事案、行政処分が起きると、ブランドと入居率に長く響く。業界全体で指導監督の強化が議論されており、囲い込み対策などの規制が費用を増やす可能性もある。
今後の分かれ目
- 人員配置の特例(3対0.9)が全ホームに広がれば
- 人件費が約1割下がり、営業利益率が1〜2ポイント上がる。本質価値は楽観の筋書きに近づく。
- 開設が年15〜20ホームの計画どおり進めば
- 居室数が10年で1.7倍以上になり、純利益も100億円に近づく。本質価値は上振れる。
- ケア21のホームの入居率が9割台に戻れば
- 買収の赤字が消え、利益が数億円単位で上乗せされる。
- 介護報酬の改定が賃金の上昇に追いつかない年が続けば
- 入居者1人あたりの売上が物価を下回り、利益率が下がる。やや悲観の筋書きに近づく。
- 職員の確保に失敗して新規入居を止めるホームが出れば
- 家賃の固定費が利益を直撃し、悲観の筋書きに近づく。
- 新リース会計で見かけの自己資本比率が大きく下がれば
- 価値は変わらないが、借り入れの条件や市場の見方に影響が出る。
見ておくもの
- 既存ホームの入居率と、ケア21ホームの入居率の回復
- 開設ホーム数(計画は年15〜20ホーム)
- 営業利益率と、人件費・採用費の伸び
- 人員配置の特例(3対0.9)の実証結果と全体への展開
- 次の介護報酬改定の内容
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER(約 11 倍)を見て筋書きを作ってはいない。先に入居者数(居室数×入居率)と 1 人あたり売上を積み上げ、10 年後の利益から倍率を決めた。倍率は ROE と資本コスト 7.5%、g 3.75% から出した正当化 PER の 7.5 割(中立)で、堀は普通(残る割合 1/2)とした。営業利益率は過去の山(11%台)を超えない。家賃は営業費用に入っており、新リース会計では家賃が減価償却と利息に分かれて営業利益が少し増え、純有利子負債にリース負債が加わる。ここでは今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。結果が割安に出たのは、10 年で入居者が 1.5 倍になる筋書きを素直に積んだためで、今の株価に寄せたわけではない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.95→20.53 倍・やや楽観 PER 15.33→19.96 倍・中立 PER 13.68→19.2 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。