結論
Finatext は、証券会社や保険会社の裏方のシステムをクラウドで貸す会社だ。口座の管理から注文の処理までを、月額と取引量に応じた料金で引き受ける。ここにデータ分析とデジタル支援が加わる。筆者の結論は、事業の筋はよいが、今の値段は先の成長を先取りしすぎている、というものだ。
稼ぎ頭は金融インフラと、ナウキャストのデータ解析だ。直近の売上は 110 億円、営業利益は 19 億円で、いずれも前の年のほぼ 2 倍になった。会社は来期に営業利益 33 億円を見込む。証券の基幹システムは、いったん入れると何年も使われる。この切り替えの重さが、この会社の堀、つまり他社がまねしにくい強みだ。
弱い所もはっきりしている。相手は、国内の証券口座の約半分を預かる野村総合研究所だ。顧客は大手の数社に偏りやすく、社長が株の 4 割近くを持つ。配当は出していない。
10 年先の中立は、売上が 5 倍ほど、営業利益が 145 億円ほどだ。これを割り引いて今に戻すと、時価総額 788 億円に対して 1 割から 2 割ほど足りない。会社の計画どおり進む上振れの筋は十分にある。ただ、そこまで払う値段ではないと筆者は見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るべき点は 3 つある。堀があるか、利益が現金になるか、払う値段に余裕があるかだ。
堀は、確かにある。基幹システムは、一度入れれば何年も使われる。収入は口座と取引量に連動し、積み上がる。ここは、長く持ちたいと思う型の事業だ。ただ、堀の広さは、大手との勝負で決まる。国内の口座の約半分を管理する相手に、勝ち続けられるかは未知だ。
利益の質は、まだ判断しきれない。直近の 2 期で利益が出始めたばかりで、赤字は 5 期続いていた。数字が良くなったのは、売上が大きくなり固定費を薄められたからだ。この傾向が続くかどうか、あと数年は見たい。
値段は、成長の多くを先に払っている。売上が 5 倍になる中立の筋でも、10 年後の価値は今の値段に届かない。会社の計画どおりに行く筋でようやく届く。つまり、成功を前提にしないと割に合わない。
筆者の結論は、事業は魅力的だが、安全域は薄いというものだ。同じ事業が半値になれば、改めて検討したい。
何で稼ぐ会社か
事業は 3 つに分かれる。
中心は金融インフラ事業だ。証券会社が自前で持つと重い基幹システムを、クラウド上の部品としてまとめて貸す。口座の開設、売買の約定、顧客への報告までを含む。「証券 BaaS」と呼ぶこの仕組みの上で動くサービスは、直近で 28 に増えた。三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券も使い始めた。同じ技術を保険とクレジットにも広げている。売上は 66 億円で、全体の 6 割だ。
2 つ目はビッグデータ解析事業だ。ナウキャストが、消費や物価などの統計に近いデータを作り、金融機関や事業会社に売る。みずほ証券のデータ活用と AI 開発も支援している。売上は 29 億円で、利益率は 3 割に近い。
3 つ目はフィンテックシフト事業だ。金融機関のデジタル化や販促を手伝う。売上は 15 億円と小さく、利益はほぼ出ていない。
稼ぎ方の違いが大事だ。金融インフラは、口座の数と取引量に応じて料金が入る。立ち上げのときは費用が先に出るが、口座がたまるほど利益が厚くなる。データ事業は契約を重ねる形で、1 社あたりの単価が上がりやすい。従業員は 414 名のグループで、人に頼る部分が大きい。
優良さと弱いところ
強みは、切り替えの重さだ。証券の基幹システムは、顧客の口座と記録をすべて預かる。他社へ移すには何年もかかり、失敗すれば信用を失う。一度入ったシステムは長く残る。この点で、この会社は単なる受託開発とは違う。
新しいやり方で作ったことも強みだ。大手の古いシステムを足していった会社と違い、最初からクラウドと部品化を前提にしている。新しい証券会社が低い費用で参入できる。
弱みは 3 つある。1 つ目は規模だ。野村総合研究所の主力製品は 70 社を超える顧客を持ち、実績で上回る。2 つ目は顧客の偏りだ。大口が出ていけば、数字が大きく動く。3 つ目は人だ。優秀な技術者の確保が成長の天井になる。
資本の面では、2021 年末の上場時の資金がまだ厚く、純現金は 21 億円ある。ただ、赤字の年が 5 期続いた事業だ。ROE が黒字になったのは直近 2 期だけで、実績は薄い。筆者が確かめたいのは、利益が出るようになった後も、投資を絞らずに堀を広げ続けられるかだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
証券の裏方システムは、国内で数千億円の市場だ。会社は証券インフラだけで 3,700 億円超と見る。この市場は、ほぼ野村総合研究所の独壇場だった。主力製品「THE STAR」は 70 社以上が使い、国内の個人口座の約半分を管理する。みずほ証券と組んだ日本証券テクノロジーもある。
風向きが変わった理由は 3 つある。1 つ目は、新 NISA で口座が増え、システムの負担が重くなったことだ。2 つ目は、大手の費用への不満だ。ネット証券の経営者が、野村総研への支払いの大きさを公に批判した例がある。3 つ目は、証券会社が機能を足すスピードを求めていることだ。クラウドと部品化は、この要望に合う。
保険とクレジットにも同じ流れがある。古い基幹システムの更新時期が重なり、新しい事業者がクラウドで入り込む余地が生まれている。
一方、見通しが外れる筋もある。生成 AI でシステムを作る費用が下がれば、大手は自前で同じものを持てる。価格競争が起きれば、利益率は下がる。データ解析の側は、公的統計や大手調査会社との競争がある。筆者は、金融機関が自前主義に戻るか、委託を増やすかが 10 年の分かれ目だと見る。
資本政策と M&A
配当は出していない。設立以来ずっとゼロで、会社は成長のための投資を優先する構えだ。自社株買いもない。
筆頭株主は林良太社長で、持ち株は 36.5% だ。auフィナンシャルホールディングスが 6% 台で続く。社長が大株主であるため、買収を仕掛けられる可能性は低く、経営の方向は速く決まる。反面、少数株主の目線とずれる場合の歯止めは弱い。
役員と従業員にはストックオプションを出している。行使が進めば株数が増え、1 株あたりの利益は薄まる。本分析は時価総額で測るため、この増加は成長のための支払いとして利益率の見積りに含めた。
純現金は 21 億円で、時価総額の 3% にもならない。余った現金として別枠で足す額ではない。当面は、利益の出る事業に再投資する段階が続くと筆者は見る。配当が始まるのは、成長が鈍る 2030 年代になるだろう。
点検済み:中立の営業利益率27%は過去の山(17.2%)を超えるが、赤字から毎年上がってきた実績(−23%→4%→12%→17%)の延長で、会社の再来期予想(25.6%)とほぼ同じ。会社の2028年度の売上計画(300億円)には数年遅れる置き方で、大手との競争で3割弱で頭打ちとしてある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内の証券システムは、大手一社の力が強すぎる。ここに、クラウドで部品化された仕組みが入り込む余地は大きい。実績はすでに出ている。基盤の上で動くサービスは 19 から 28 に増え、大手の三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券も使い始めた。売上は 4 年で 4 倍になり、営業利益は黒字に転じ、直近では倍増した。
収入は口座と取引量に連動するため、いったん立ち上がれば、人を増やさなくても売上が積み上がる。会社は 2028 年度に売上 300 億円、EBITDA 100 億円を掲げ、年率 40% の成長を見込む。
証券で作った仕組みは、保険とクレジットにも使える。市場が広がれば、売上は 10 年で 10 倍になりうる。データ事業も、みずほ証券のような大手との取引が広がり、生成 AI の需要が追い風になる。
利益率が 3 割を超える水準まで上がれば、営業利益は 300 億円を超え、今の時価総額は小さく見えるはずだ。
慎重な見方
今の売上 110 億円は、金融インフラの顧客数社に支えられている。大口が 1 つ動けば、数字が崩れる。しかも、相手は国内の個人口座の約半分を管理する大手だ。顧客の信用、実績、人材の厚みで、新興は劣る。
大手は、クラウド化を進め、費用を下げ始めている。価格を下げられれば、新興の優位は消える。生成 AI でシステムを作る費用が下がれば、証券会社は自前でも持てる。基幹システムの堀そのものが薄まる恐れがある。
成長を引っ張るのは人だ。技術者の採用費と給与は年 3% 以上のペースで上がる。会社が掲げる年率 40% の成長は、人を同じ速さで増やさないと実現しない。利益率の改善は、その分遅れる。
そして、今の値段は計画の達成を先取りしている。会社の計画どおりに進む筋でようやく値段に追いつく。少し外れれば、配当もなく、持ち続ける理由が薄れる。社長の持ち株比率が高く、少数株主の声は届きにくい。
加えて、ストックオプションで株数は増え続ける。人の確保に頼る事業で、費用の重さは表に出にくい。保険とクレジットも立ち上げの費用が先に出る。事業を広げるほど、利益が出るまでの道のりは長くなる。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には実績の裏付けがあり、軽くは扱えない。上振れの確率は、同じ領域の会社より少し厚くした。ただ、慎重な見方の指摘は重い。大手との勝負と顧客の偏りは、数字で測れない。確率は中立に最大の重みを置き、悲観側をやや厚くした。結果、10 年の価値は今の値段をわずかに下回った。事業の質ではなく、値段の問題だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,982 円1,548 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 234 円122 億円)。 今の値に割り戻すと 1,475 円765 億円、今との差 +0.2%、 期待の年率 +8.1%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 7,750 円4,022 億円 | 578 円300 億円 | +466.2% | +18.9% | 750 円389 億円 |
| やや楽観 | 21% | 5,049 円2,620 億円 | 385 円200 億円 | +269.4% | +14.0% | 1,141 円592 億円 |
| 中立 | 33% | 3,046 円1,581 億円 | 250 円130 億円 | +124.1% | +8.4% | 1,088 円565 億円 |
| やや悲観 | 24% | 880 円457 億円 | 77 円40 億円 | −34.9% | −4.2% | 230 円119 億円 |
| 悲観 | 13% | 63 円33 億円 | 0 円0 億円 | −95.7% | −27.0% | 8 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,982 円1,548 億円 | 234 円122 億円 | +118.6% | +8.1% | 3,216 円1,669 億円 |
今の株価時価総額 1,471 円763 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 9% 証券・保険・クレジットの標準になり、売上が 1,000 億円を超える 10 年 利益 238 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 7,750 円4,022 億円
三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券に続き、大手の証券会社が次々と基幹システムの更新を決める。ネット証券の新規参入も増え、基盤の上で動くサービスは数倍に増える。証券で磨いた仕組みは、保険とクレジットにも広がる。口座の積み上がりで、1 サービスあたりの収入も厚くなる。
データ事業は、金融機関の生成 AI の活用を支える相手として、大口の契約が増える。利益率は、基盤の固定費が薄まり 3 割を超える。
売上は 1,000 億円を超え、営業利益は 300 億円を超える。配当も始まる。ただし、この筋は、野村総合研究所が取りこぼした顧客を受け止める力と、人材の採用の両方がうまくいく必要がある。
- 金融インフラストラクチャ事業:数量 330(標準サービス換算の稼働数(1 サービス=今の平均的な規模))× 価格 2.62(1 標準サービスあたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 863 億円・営業利益 276 億円。標準サービス換算 330。大手証券の更新に加え保険・クレジットへ展開
- ビッグデータ解析事業:数量 400(継続して取引のある顧客・案件の数(推定))× 価格 0.43(1 顧客・案件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 173 億円・営業利益 57 億円。顧客・案件 400。生成 AI の需要で大口が増える
- フィンテックシフト事業:数量 70.0(支援する金融機関・プロジェクトの数(推定))× 価格 0.51(1 件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 35 億円・営業利益 4 億円。金融機関の支援 70 件
倍率:事業の純利益 238 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 24.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.9 倍、時価総額 4,022 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:大手の牙城を崩し、保険・クレジットにも同時に広げる必要があり、全部がうまくいく筋なので薄く置く。会社の計画に近い。
やや楽観 21% 証券の更新需要を着実に取り、売上が 800 億円に迫る 10 年 利益 160 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 5,049 円2,620 億円
証券の基幹システムの更新時期が続き、中堅の証券会社の移行が進む。基盤の上で動くサービスは 3 倍以上に増える。保険とクレジットでは、小さな事業者の採用が増えるが、標準にまでは至らない。
データ事業は、大手金融機関の取引が広がり、年 13% 前後で伸びる。利益率は 3 割に届く。
売上は 780 億円ほど、営業利益は 226 億円ほどになる。配当は 2 割を目安に出し始める。大手の牙城は崩れていないが、新規の案件では対等に戦える位置を得る。
三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券のような大口の顧客が数社増え、口座の積み上がりが売上を押し上げる。人の採用は追いつかせるため、営業利益率は 3 割弱で頭打ちになる。
- 金融インフラストラクチャ事業:数量 235(標準サービス換算の稼働数(1 サービス=今の平均的な規模))× 価格 2.62(1 標準サービスあたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 614 億円・営業利益 184 億円。標準サービス換算 235。証券の更新需要を中心に取る
- ビッグデータ解析事業:数量 300(継続して取引のある顧客・案件の数(推定))× 価格 0.43(1 顧客・案件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 130 億円・営業利益 39 億円。顧客・案件 300
- フィンテックシフト事業:数量 60.0(支援する金融機関・プロジェクトの数(推定))× 価格 0.51(1 件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 30 億円・営業利益 3 億円。金融機関の支援 60 件
倍率:事業の純利益 160 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.5% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.3 倍、時価総額 2,608 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:証券の更新需要の取り込みは、すでに実績が出ている。保険・クレジットは一部にとどまる、手堅い上振れ。
中立 33% 証券で 1 割弱のシェアを握り、売上が 5 倍に育つ 10 年 利益 103 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 3,046 円1,581 億円
基盤の上で動くサービスは約 90 まで増える。1 サービスあたりの規模も 1.7 倍に育ち、標準サービス換算では 157 になる。証券インフラの市場の 7% 前後を押さえる計算だ。保険とクレジットは、補う程度の規模にとどまる。
データ事業は年 13% で伸び、売上は 100 億円になる。フィンテックシフトは、人手に頼る受託のままで伸びが鈍く、25 億円ほどだ。
会社の計画する 2028 年度の 300 億円には、数年遅れで届く。その後は成長が年 1 割前後に落ち着く。売上は 535 億円、営業利益は 145 億円になる。利益率は 27% で、大手との競争で伸びは止まる。配当は純利益の 2 割ほどを出す。
- 金融インフラストラクチャ事業:数量 157(標準サービス換算の稼働数(1 サービス=今の平均的な規模))× 価格 2.62(1 標準サービスあたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 411 億円・営業利益 115 億円。標準サービス換算 157。稼働数は約 90 に増え、規模は 1.7 倍
- ビッグデータ解析事業:数量 230(継続して取引のある顧客・案件の数(推定))× 価格 0.43(1 顧客・案件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 100 億円・営業利益 28 億円。顧客・案件 230
- フィンテックシフト事業:数量 50.0(支援する金融機関・プロジェクトの数(推定))× 価格 0.51(1 件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 25 億円・営業利益 2 億円。金融機関の支援 50 件
倍率:事業の純利益 103 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.8% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.19 倍、時価総額 1,565 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:実績と会社の計画を割り引き、競争による鈍化を織り込んだ、最も重みを置く筋書き。
やや悲観 24% 大手との値下げ競争で伸びが止まり、利益率が戻らない 10 年 利益 49 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 880 円457 億円
大手のベンダーが、クラウド化と値下げで巻き返す。新しい証券会社の取り込みは進むが、既存の大口の乗り換えは止まる。基盤の上の標準サービス換算は 100 にとどまり、利益率は 2 割に落ち着く。
生成 AI でシステムを作る費用が下がり、中堅の証券会社は自前で持つ選択を取り戻す。データ事業も、公的統計との競争で、伸びは年 8% に落ちる。
売上は 350 億円ほど、営業利益は 68 億円ほどになる。会社は成長のための投資を続け、配当は小さい。株主にとっては、期待を下回る 10 年になる。
事業そのものは残る。顧客は去らず、稼ぎも続く。ただ、口座の積み上がりで利益が一気に厚くなる局面は来ず、上場時に描いた成長の絵とは遠い。社長の持ち株が大きいため、買収や再編で状況が変わる余地も小さい。
- 金融インフラストラクチャ事業:数量 100(標準サービス換算の稼働数(1 サービス=今の平均的な規模))× 価格 2.62(1 標準サービスあたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 262 億円・営業利益 52 億円。標準サービス換算 100。大手の値下げで伸びが止まる
- ビッグデータ解析事業:数量 150(継続して取引のある顧客・案件の数(推定))× 価格 0.43(1 顧客・案件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 65 億円・営業利益 16 億円。顧客・案件 150
- フィンテックシフト事業:数量 40.0(支援する金融機関・プロジェクトの数(推定))× 価格 0.51(1 件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 20 億円・営業利益 0 億円。金融機関の支援 40 件で利益はほぼ出ない
倍率:ROE 11.0%。RONIC = k 8.5% + 残る割合 1/2 ×(11.0% − 8.25%)= 9.6%、g 4.0% から正当化 PER の上限は 13.8 倍。値下げ競争で成長が止まり、利益の質が低い筋書きなので、上限の 6.5 割(9.0 倍)に置いた。
確率:大手の値下げと、生成 AI による参入障壁の低下が、同時に来る筋。事業が若く顧客が偏るため、同じ領域の会社より厚く置いた。
悲観 13% 大手に顧客を奪われ、単価が下がり続ける構造的な後退の 10 年 利益 5 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 63 円33 億円
三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券など大手の移行が止まり、大口の顧客が大手ベンダーのサービスへ戻る。生成 AI でシステムを作る費用が下がり、証券会社は自前で持つ選択を取り戻す。単価は物価の分すら取れず、値下げが続く。
基盤の上の標準サービス換算は 45 にとどまり、利益率は 6% に落ちる。データ事業も競争で価格が下がり、フィンテックシフトは赤字に戻る。
売上は 150 億円ほどで、営業利益は 8 億円しか残らない。純利益は 5 億円だ。稼ぐ力は小さく、純現金のほかに売れる資産はほとんどない。株主還元はない。
- 金融インフラストラクチャ事業:数量 45.0(標準サービス換算の稼働数(1 サービス=今の平均的な規模))× 価格 2.62(1 標準サービスあたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 118 億円・営業利益 7 億円。標準サービス換算 45。大口が離れ単価が下がる
- ビッグデータ解析事業:数量 80.0(継続して取引のある顧客・案件の数(推定))× 価格 0.30(1 顧客・案件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 24 億円・営業利益 2 億円。顧客・案件 80。価格競争で物価分の値上げができない
- フィンテックシフト事業:数量 30.0(支援する金融機関・プロジェクトの数(推定))× 価格 0.40(1 件あたりの年間売上(億円。物価の指数))→ 売上 12 億円・営業利益 −1 億円。金融機関の支援 30 件で赤字
倍率:構造的に負け、稼ぐ力は純利益 5 億円で、資本コスト 8.5% で割ると約 60 億円だが、構造的に負けた姿で利益の振れも大きい。純現金 21 億円はこれより小さい。稼ぐ力 5 億円に、やや悲観の 9.0 倍より低い約 6.5 倍(1÷k の約 5 割)を掛けた約 33 億円(純現金 21 億円を上回る)を床とし、今の自己資本 105 億円に PBR 0.31 を掛けた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.31 倍・時価総額 33 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:顧客が偏る若い事業で、大口の離脱と AI による参入障壁の低下が同時に起きる筋。起これば構造的な打撃になる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
金融インフラストラクチャ事業
証券・保険・クレジットの基幹システムをクラウドで貸す。口座数・取引量に応じた料金で稼ぐ。
| 数量標準サービス換算の稼働数(1 サービス=今の平均的な規模) | 価格1 標準サービスあたりの年間売上(億円。物価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 34.0 | 1.95 | 66 | 9 |
| 10 年後 中立 | 157 | 2.62 | 411 | 115 |
取り方:証券 BaaS 上の稼働サービスは 28(開示)、保険・クレジットを 6 と推定して合計 34。売上 66.4 億円を 34 で割り、1 サービスあたり約 1.95 億円とした。将来は、稼働の実数の増加と口座の積み上がりによる規模の拡大を数量に、物価の分を価格の 10 年 1.34 倍に入れる。競争による値下がりは中立では置かない。 数量は実物(稼働サービスの数と規模)で、名目の市場の伸びからは置いていない。
ビッグデータ解析事業
ナウキャストが、消費・物価などのデータと AI 支援を金融機関・事業会社に提供する。
| 数量継続して取引のある顧客・案件の数(推定) | 価格1 顧客・案件あたりの年間売上(億円。物価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 90.0 | 0.32 | 29 | 8 |
| 10 年後 中立 | 230 | 0.43 | 100 | 28 |
取り方:顧客数は開示がないため、売上 29.1 億円と大手金融機関向けの案件規模から約 90 と推定した。1 顧客あたり約 0.32 億円。将来の価格は物価の 1.34 倍。 数量は実物(顧客・案件の数)で、名目の市場の伸びからは置いていない。
フィンテックシフト事業
金融機関のデジタル化とデジタル販促の支援。人月に近い受託型の収益。
| 数量支援する金融機関・プロジェクトの数(推定) | 価格1 件あたりの年間売上(億円。物価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 0.38 | 15 | 0 |
| 10 年後 中立 | 50.0 | 0.51 | 25 | 2 |
取り方:件数は開示がなく、売上 15.1 億円を約 40 件と推定した。将来の価格は物価の 1.34 倍。受託型で人件費が価格を決めるので、物価並みに上がると置いた。
リスクと懸念
大手ベンダーの巻き返し
野村総合研究所の「THE STAR」は 70 社超が使い、国内の個人口座の約半分を管理する。同社が値下げやクラウド化を進めれば、新興の価格優位は消える。既存の大口顧客の乗り換えも止まる。
顧客の偏りと大口の離脱
金融インフラは大手の証券会社が重い比重を占める。大口 1 社が離れると、売上と利益が大きく動く。切り替えが重いことは堀だが、大口の交渉力が強いことも意味する。
生成 AI によるシステムの内製化
システムを作る費用が下がれば、証券会社は自前でも同じものを持てる。基幹システムを貸す事業の理由が薄まる。競合の新しい参入者も増えやすくなる。
人材の確保と人件費
成長は技術者の数で決まる。給与は年 3% 以上で上がり、採用費も重い。売上の伸びに人が追いつかないと、利益率の改善が遅れる。
社長の持ち株が大きいことによる統治
林良太社長が株の 36.5% を持ち、経営の判断は速い。反面、少数株主の声が届きにくい。配当がゼロで、還元の方針も未定だ。
新しい事業への投資の失敗
保険とクレジットの基盤は、立ち上げの費用が先に出る。取り込みが遅れれば、証券で得た利益を食う。フィンテックシフトは利益がほぼ出ていない。
ストックオプションによる株数の増加
役員と従業員に新株の権利を出している。行使が進めば株数が増え、1 株あたりの価値が薄まる。人材の確保の代償として避けにくい。
今後の分かれ目
- 三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券に続き、大手の証券会社が基盤の採用を決める
- 大手の牙城に入り込めたことが確認され、10 年の楽観側の確度が上がる。
- 野村総合研究所が大幅な値下げに動く
- 新興の価格優位が消え、10 年のやや悲観・悲観側の筋に近づく。
- 保険・クレジットの基盤で、採用する事業者が急に増える
- 証券に続く第 2・第 3 の柱が育ち、売上の上限が大きく広がる。
- 大口の顧客が基盤の利用を止める
- 売上と利益が一度に落ち、顧客の偏りという弱みが現実になる。悲観の確率を上げて見直す。
- 配当や自社株買いが始まる
- 利益が現金になっていることが確認され、利益の質の見立てが改善する。
- 生成 AI で大手が自前の基幹システムを作る動きが広がる
- 貸すという事業の理由が薄まり、価格が下がる筋に近づく。
見ておくもの
- 証券 BaaS 上の稼働サービス数と、大手証券の新規採用の発表
- 金融インフラ事業の売上と利益率の四半期ごとの推移
- 保険・クレジットの基盤の採用事業者数
- ビッグデータ解析事業の契約数と、大手金融機関との取引の広がり
- 配当・自社株買いの方針、ストックオプションの行使による株数の動き
倍率と資本コストの決め方
先に 3 つの事業ごとに数量×価格で 10 年後を積み、そこから純利益と自己資本を流して ROE を出した。倍率は式の上限の 6.5〜8.5 割で、利益の質に応じて置いた。今の PER・PBR は使っていない。10 年後の数字は、リース会計の新基準が適用される前の形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。事務所は賃借だが、規模が小さく、固定の約束の重さは小さい。結論を今の株価に寄せてはいない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.2→16.9 倍・やや楽観 PER 13.5→16.3 倍・中立 PER 12.5→15.19 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に、4 つの目安の合計 +0.75% を足した。赤字は解消に向かっているので上乗せは付けない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 8.50%。