結論
エランは、病院や介護施設に入院生活用品をまとめて貸し出す会社だ。タオル、寝衣、日用品を日割りの定額で提供し、患者は手ぶらで入院できる。契約は約 2,800 施設で、この分野の最大手である。エムスリーが株の 55% を持つ。
筆者の結論は、10 年の本質価値が今の値段を 18% ほど上回る「やや割安」だ。理由は、施設が 1 つ増えるたびに毎月の売上が積み上がり、解約も少ないことにある。契約は 10 年で 4,700 施設ほどに増えるとみる。
ただし、磨き上げた事業ではない。粗利率は 7 年で 26% から 21% に落ち、解約率は 3% 台に上がった。新規参入も増えている。そこで中立の営業利益率は 8.3% と、過去の山の 9.3% より低く置いた。
中立の 10 年後は、純利益 67 億円、PER 約 15 倍で、時価総額は約 1,000 億円になる。今の約 2.3 倍だ。配当性向は 30% で、利益の 7 割は社内にたまる。ROE は今の 19% から 14% ほどに下がる。
資本コストは 7%。強気と慎重の筋書きを確率で重ね、今に割り引くと、本質価値は今の時価総額を 18% ほど上回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、エランは「悪くないが、堀が薄い」会社だ。毎月の契約料が積み上がる安定した稼ぎと、無借金に近い財務は良い。ROE も 19% と高い。
一方で、利益のうち再投資に消える分が見かけより多い。貸し出すリネンや患者衣は使うほど傷み、洗濯の工場と配送車も要る。決算書の利益がそのまま株主の取り分にはならない。粗利率が 7 年で 5 ポイント下がった事実は、値段を自分で決める力が弱いことを示している。
資本の使い方は、まだ評価が定まらない。配当性向 30% で利益の大半をためる方針で、買収の成否がこれから問われる。ベトナムの 2 社は利益が小さいままだ。ためた現金が ROE の低い使い方に回れば、価値は薄まる。
親会社が 55% を握る点は、持ち続ける側にとって注意だ。顧客網の共有という追い風がある反面、少数株主の発言力は弱い。
10 年後も病院に入院セットを貸す商売は残るとみる。契約は積み上がり、物価分の値上げも通る。その意味で、今の値段には一定の安全域がある。ただし、中立の利益率を過去の山より低く置いても、安全域は「やや割安」止まりだ。確信が持てる事業ではないので、判断の重みも軽くしている。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は単純だ。病院や介護施設と契約し、患者が使うタオル、寝衣、おむつ、日用品を日割りの定額で貸す。商品名は「CSセット」。エランは 2003 年に国内で初めてこの形を始めた。料金は 1 日数百円で、患者が自分で買いそろえる手間と、病院の看護師が家族に説明する手間が消える。
契約施設は 2025 年末で 2,830。月に約 50 万人が使う。国内売上は 532 億円で、1 施設あたり約 1,880 万円になる。洗濯、配送、在庫の管理まで自社グループで回す。配送先は 2024 年末に 376 施設あり、拠点を増やしている。
新しい柱も作っている。患者衣の「リフテ」は、着替えやすさを売りに導入を広げる。エムスリーとは病院経営の支援サービスを共同で進め、実現した案件は 116 件に達した。
グループには、入院セットの運営会社の請求や問い合わせを引き受けるエランサービス、配送のエラン・ロジスティクス、業務請負のエランクルールがある。これらが、病院が自前で運営するより手間がかからない理由だ。
海外はベトナムの病院向けランドリー 2 社を連結し、インドにも出資する。海外の売上は 22 億円で、全体の 4% ほどだ。まだ利益への寄与は小さい。事業の中身は、洗濯と衛生管理の請負に近い。
2025 年 12 月期の売上は 554 億円、営業利益は 43 億円、営業利益率は 7.7%。純現金は 61 億円ある。
優良さと弱いところ
エランの堀、つまり他社がまねしにくい強みは、全国 47 都道府県をカバーする洗濯と配送の網にある。契約施設が増えるほど 1 施設あたりの配送効率が上がる。病院にとっては、看護業務の負担と院内感染の心配が減る。一度入れると外しにくい。解約は年に 3% 前後で、閉院を除けば 2.7% だ。
ただし、この堀は広くない。2024 年の解約の中身を見ると、閉院や統合は 2 割にすぎず、7 割は他社への乗り換えだ。新規参入は増え、リネン大手のワタキューセイモアは給食や清掃とまとめて売れる。粗利率が 26% から 21% に落ちたのは、値上げが原価高に追いつかなかった跡だ。
一方で、資本効率は良い。ROE は 19% で、無借金に近く、純現金が 61 億円ある。過去 10 年に赤字の年は一度もない。
経営は生え抜きの峯崎社長が率いる。創業者は 2025 年 3 月に引退した。筆者がいちばん気にするのは、親会社の存在だ。エムスリーは株の 55% を持つ。顧客網の共有は強みだが、少数株主の立場は強くない。
規模が小さい分、1 回の原価高や 1 施設の解約が利益率を動かしやすい。優良さは中くらいと筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この市場の天井は、病院の数で決まる。病院は 2025 年に 7,998 と前年から 62 減り、8,000 を割った。閉院と統合は今後も増える。エラン自身も、解約の一部は閉院だと説明している。
一方で、入院セットの普及はまだ途中だ。全体の導入率は約 6 割と言われる。エランが入る 50 床以上の病院は約 8,000 あり、同社の導入は 2 割ほどにとどまる。老健や特養、有料老人ホームなどの介護施設は、これからの開拓先だ。高齢化で入所者は増える。
最近の契約は小規模な施設や長期入所型が増えた。利用者の伸び 7% は、施設数の伸び 10% より低い。1 施設あたりの利用者は減っている。
競合は、リネン最大手のワタキューセイモア(非上場)、中部に強いトーカイ(9729)、そして新規参入組だ。値段の競争が起きれば、価格転嫁の遅れが利益を削る。2026 年はリネンとおむつの原価が上がり、第 3 四半期以降の値上げが焦点になる。
10 年の構造的な負け筋は 2 つある。病院の統合閉鎖が続いて契約の母数が縮むこと。大手が総合サービスで包んで入院セットの単価を叩くことだ。医療費の抑制で病院の経営が苦しくなると、用品の値下げを迫られる。
需要の底は固い。入院はどんな景気でも起き、患者が減るのは人口が減る速さだけだ。景気で売上が大きく振れる業ではない。逆に言えば、需要の急な伸びも期待できず、増収は契約の獲得と値上げの積み重ねで決まる。
この領域の他社とは性格が違う。エムスリーのように会員を持つ場でも、検査会社のように診療報酬で守られる業でもない。物を貸して回収する、実物の商売である。
資本政策と M&A
資本政策は、成長に使う姿勢だ。配当性向は 30% を維持し、2026 年は配当を増やす見込みだ。会社は「還元を強める局面ではない」とし、現金は成長投資、システム投資、M&A に回す考えだ。自社株買いの実績はない。
M&A は 2024 年のベトナム 2 社が代表だ。のれんは約 8 億円で 10 年かけて償却する。海外は 2026 年の中間期に、既存顧客との取引を見直しており、のれん償却後の利益はごく小さい。
親会社のエムスリーは 2024 年に公開買付けでエランを子会社にした。買付価格は今の株価より高かった。エムスリーは上場を維持する方針だが、完全子会社化の可能性は残る。kabufu の推定では 10 年以内の買収確率は 21%。少数株主には上振れの種だが、筆者は筋書きの確率には直接入れていない。
中計は ROE 25% を下限と掲げる。配当性向が 30% のままなら、ためた利益で自己資本が膨らみ ROE は下がる。下限を守るには、利益の伸びか還元の引き上げが要る。ここは会社の実行を見る点だ。
ガバナンスでは、創業者の引退(2025 年 3 月)と親会社の持ち分 55% が焦点になる。大きな不祥事は確認していない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社の強みは、積み上がる契約だ。施設が増えるたび、毎月の売上が足されていく。2025 年は 260 施設が純増し、会社は国内で年約 10% の成長を見込む。導入は 50 床以上の病院の 2 割にすぎない。残り 8 割に加え、老健、特養、有料老人ホームという大きな市場が残っている。
粗利率の低下は、止まりつつある。2026 年の第 2 四半期は粗利率が 22.6% に戻り、営業利益は 28% 増えた。リフテの償却を 3 年に分けた会計の変更が主因だが、価格転嫁も一部で通り始めた。原価高の一巡と値上げの定着で、営業利益率は 9% 台に乗せられる。
エムスリーという後ろ盾は、他社にない武器だ。約 6,000 の病院に接点を持つ会社と組み、病院経営の支援サービスを売る。実現した案件は 116 件と、立ち上がりは速い。CS セットの付加価値が上がれば解約も減る。
中計は ROE 25% を下限に置いた。実現には利益の伸びだけでなく、ためた現金の活用と還元の見直しが避けられない。経営が数字の責任を明確にした点は、これまでと違う。
海外は小さな種だが、ベトナムで病院ランドリーの首位を取り、インドへ広げる。当たれば第二の柱になる。成長は国内だけでは終わらない。
慎重な見方
粗利率は 2018 年の約 26% から 2025 年の約 21% まで落ちた。会社自身が「海外を除く売上の伸びが鈍化し、粗利率は低下し、解約率は上昇傾向」と認めている。2026 年の増益の大半は、会計処理の変更による見かけの改善にすぎない。
2024 年の解約の約 7 割は他社への乗り換えだった。ワタキューセイモアは給食、清掃、売店と組み合わせて売れる。トーカイは地元で強く、新規参入も増える。入院セットは病院が簡単に乗り換えられるため、値上げで利益を稼ぐのが難しい。
市場の母数も縮む。病院は 8,000 を割り、閉院と統合が続く。新規契約は小さな施設が中心で、1 施設の利用者は減っている。契約数が伸びても、売上は同じペースで伸びない。
資本の使い方も不安だ。配当性向は 30% で、残りは社内に積まれ、ROE は下がる。海外の 2 社は利益がほとんど出ない。買収をさらに重ねれば、のれんの減損が利益を削る。
親子上場の弱みもある。エムスリーが 55% を握り、少数株主が決められることは少ない。中計の ROE 25% も、実現の道筋が見えない。今の PER は 16 倍で、これは成長が続く前提の値付けだ。つまずけば倍率は縮む。
どちらに重みを置いたか
契約が積み上がる性格と、無借金に近い財務、親会社の顧客網では、強気の見方が一歩先を行く。一方で、粗利率の低下と他社への流出が、堀の薄さを示している。会社自身が認める弱点でもあるので、無視できない。
そこで中立の営業利益率を過去の山より低く置き、倍率も上限の 8 割にとどめた。確率は、慎重な筋書き(やや悲観と悲観)にやや厚く置いた。それでも、契約の積み上がりが効き、10 年の本質価値は今の値段を 18% ほど上回る。結論は「やや割安」で、確信は強くない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 1,973 円1,196 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 212 円128 億円)。 今の値に割り戻すと 1,154 円699 億円、今との差 +59.8%、 期待の年率 +11.7%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 3,694 円2,238 億円 | 342 円207 億円 | +458.9% | +18.8% | 242 円147 億円 |
| やや楽観 | 19% | 3,033 円1,838 億円 | 259 円157 億円 | +355.9% | +16.4% | 625 円379 億円 |
| 中立 | 37% | 2,495 円1,512 億円 | 231 円140 億円 | +277.5% | +14.2% | 1,008 円611 億円 |
| やや悲観 | 28% | 837 円507 億円 | 168 円102 億円 | +39.3% | +3.4% | 282 円171 億円 |
| 悲観 | 10% | 179 円109 億円 | 94 円57 億円 | −62.2% | −9.3% | 27 円17 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,973 円1,196 億円 | 212 円128 億円 | +202.6% | +11.7% | 2,185 円1,324 億円 |
今の株価時価総額 722 円438 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 値上げが定着し、契約が毎年 260 施設ずつ増え続ける 10 年 利益 97 億円 · PER 22.3 倍 · 株価時価総額 3,694 円2,238 億円
契約の純増は毎年 260 施設前後で続き、病院の導入率は 3 割を超える。老健や特養、有料老人ホームでも導入が進み、2035 年には 5,400 施設になる。原価高は値上げで吸収され、粗利率は 24% 台まで戻る。リフテと病院経営支援サービスが 1 施設あたりの売上を押し上げ、物価の分以上の単価が保たれる。
エムスリーとの共同事業が解約を減らし、共同購買が原価を下げる。営業利益率は 9.6% と、過去の山を少し超える。中計が掲げた ROE 25% の経営が機能し、還元も厚くなる。
海外はベトナムの首位を足場にインドへ広がり、第二の柱として育つ。ためた現金は買収に使われ、成果が出る。会社の描く姿にほぼ近い、うまくいった 10 年である。
- 国内CSセット(病院・介護施設向け入院生活用品レンタル):数量 5,400(契約施設数(施設))× 価格 2,520(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 1,361 億円・営業利益 131 億円。国内 5,400 施設 × 1 施設 2,520 万円
- 海外(ベトナム・インド):数量 500(取引先の病院・施設数(施設、当社推定))× 価格 2,100(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 105 億円・営業利益 12 億円。海外 500 施設 × 2,100 万円。ベトナムとインドで広がる
倍率:事業の純利益 97 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 25.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.3 倍。全体の PER 22.32 倍、時価総額 2,174 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:契約の純増が毎年 260 施設前後で続き、値上げと原価削減が同時に効く必要があり、重なる確率は低い。実績(売上は過去 10 年で年約 20% の伸び)があるので 5% 以上は置く。
やや楽観 19% 粗利率が戻り、介護施設の開拓が進む 10 年 利益 81 億円 · PER 21.9 倍 · 株価時価総額 3,033 円1,838 億円
国内の契約は年 220 施設ほどのペースで増え、2035 年に 5,050 施設になる。病院の縮小を介護施設の開拓で上回る。値上げは物価の分をおおむね通し、リフテなどの付加価値で 1 施設あたりの売上が上がる。原価高は 1〜2 年で吸収され、営業利益率は 8.9% まで戻る。
エムスリーとの連携で解約が減り、新規の獲得も安定する。海外はベトナムで着実に広がり、のれん償却を除いた利益が出始める。
還元は配当性向 30% のままで、利益の 7 割は社内にたまるが、設備の更新と小さな買収に使われる。粗利率の低下に歯止めがかかった、堅実な 10 年である。
- 国内CSセット(病院・介護施設向け入院生活用品レンタル):数量 5,050(契約施設数(施設))× 価格 2,450(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 1,237 億円・営業利益 110 億円。国内 5,050 施設 × 2,450 万円
- 海外(ベトナム・インド):数量 420(取引先の病院・施設数(施設、当社推定))× 価格 2,000(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 84 億円・営業利益 8 億円。海外 420 施設 × 2,000 万円
倍率:事業の純利益 81 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.9 倍。全体の PER 21.85 倍、時価総額 1,763 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の見通し(国内で年約 10%)が数年続き、原価高も値上げでこなす現実的な上振れ。
中立 37% 病院は縮むが、介護施設で契約が増え、利益率は緩やかに戻る 10 年 利益 67 億円 · PER 21.4 倍 · 株価時価総額 2,495 円1,512 億円
病院は統合で数が減るが、介護施設での導入が進み、契約は年 190 施設ほど増えて 2035 年に 4,700 施設になる。新規契約が小規模な施設に偏るため、1 施設あたりの売上は物価ほどには上がらず、10 年で 1.27 倍にとどまる。
原価高は値上げで少しずつ転嫁されるが、競合の攻勢で全額は通らない。営業利益率は 8.3% と、2026 年の見通しと同程度で落ち着く。過去の山の 9.3% には届かない。
海外は小さな黒字の事業にとどまる。配当性向は 30% で、ためた利益が自己資本を押し上げ、ROE は 14% ほどに下がる。エムスリーとの協業は続くが、劇的な変化はない。派手さはないが、契約が積み上がる性格が効く標準的な 10 年である。
- 国内CSセット(病院・介護施設向け入院生活用品レンタル):数量 4,700(契約施設数(施設))× 価格 2,390(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 1,123 億円・営業利益 93 億円。国内 4,700 施設 × 2,390 万円。病院は縮み、介護施設で増える
- 海外(ベトナム・インド):数量 350(取引先の病院・施設数(施設、当社推定))× 価格 1,915(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 67 億円・営業利益 6 億円。海外 350 施設 × 1,915 万円。現地のインフレは高いが円換算で目減りし、価格は 10 年で 1.2 倍にとどまる
倍率:事業の純利益 67 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.4 倍。全体の PER 21.41 倍、時価総額 1,439 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:病院の縮小、介護施設の開拓、物価並みの値上げがつり合う標準的な姿。最も重みを置く。
やや悲観 28% 他社への流出が増え、値上げが通らず利益率が足踏みする 10 年 利益 39 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 837 円507 億円
粗利率の低下が止まらない。ワタキューセイモアなどの総合サービスと新規参入組が値引きで攻め、解約が年 4% を超える。契約は年 120 施設の増加にとどまり、2035 年に 4,000 施設になる。値上げは原価高に追いつかず、1 施設の売上は 1.2 倍止まりだ。
営業利益率は 6.2% まで下がる。リフテなどの新サービスは付加価値にならず、解約の歯止めにもならない。
海外の投資は回収が遅れ、のれんの一部を減損する。M&A も実績が乏しい。ROE は 10% まで下がる。堀が薄い会社の弱さが出た 10 年だ。
- 国内CSセット(病院・介護施設向け入院生活用品レンタル):数量 4,000(契約施設数(施設))× 価格 2,250(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 900 億円・営業利益 56 億円。国内 4,000 施設 × 2,250 万円。流出が増え値上げが通らない
- 海外(ベトナム・インド):数量 250(取引先の病院・施設数(施設、当社推定))× 価格 1,700(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 43 億円・営業利益 3 億円。海外 250 施設 × 1,700 万円
倍率:ROE 10.3%。RONIC = k 7% + 残る割合 1/2 ×(10.3% − 7.25%)= 8.8%、長期の g 3.75% から正当化 PER = (1 − 3.75÷8.8)÷(7.25 − 3.75) = 16.4 倍。成長が止まり、堀の薄さが表に出る筋書きなので割り引く。やや悲観は上限の約 7 割(11.46 倍)に置いた。
確率:粗利率の低下と解約率の上昇という会社自身が認める傾向が続く姿。足元の傾向の延長で、中立に近い重みを置く。
悲観 10% 病院の閉鎖と大手の価格攻勢で、契約も単価も縮む 10 年 利益 13 億円 · PER 8.3 倍 · 株価時価総額 179 円109 億円
病院の統合閉鎖が年 1% 超で続き、母数が縮む。大手が給食や清掃と一括で入院セットを売り、価格を叩く。エランの契約は 2035 年に 3,100 施設と、純増がほぼ止まる。1 施設あたりの売上は 1.0 倍と、物価が上がっても単価は据え置きに近い。
営業利益率は 3.5% まで下がる。リネンの原価高は転嫁できず、洗濯と配送の固定費が残る。海外は撤退・縮小し、買収で積んだ現金は失敗した投資とシステム更新で食われる。
親会社の意向で再編が進む可能性もあるが、買収価格が上がる保証はない。優良ではなくなった会社の姿である。
- 国内CSセット(病院・介護施設向け入院生活用品レンタル):数量 3,100(契約施設数(施設))× 価格 1,900(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 589 億円・営業利益 21 億円。国内 3,100 施設 × 1,900 万円。大手の総合サービスに価格を叩かれる
- 海外(ベトナム・インド):数量 120(取引先の病院・施設数(施設、当社推定))× 価格 1,300(1 施設あたり年間売上(万円))→ 売上 16 億円・営業利益 0 億円。海外 120 施設 × 1,300 万円。撤退・縮小
倍率:ROE 4.7% は k 7% 以下なので、正当化 PER は 1÷k = 13.8 倍が上限。大手の価格攻勢と病院の縮小で契約も単価も縮む構造的な負けの筋書きなので、稼ぐ力(純利益 13.1 億円)にその約 6 割(8.28 倍)を掛けた。やや悲観の 11.46 倍より低く置く。床は帳簿の自己資本でなく稼ぐ力で測る。
確率:病院の統合閉鎖と大手の価格攻勢が同時に進む構造的な負け。確度は低いが、解約の約 7 割が他社への乗り換えで無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内CSセット(病院・介護施設向け入院生活用品レンタル)
病院や介護施設と契約し、患者が使うタオル・寝衣・日用品を日割りの定額で貸す。洗濯と配送まで自社グループで行う。
| 数量契約施設数(施設) | 価格1 施設あたり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,830 | 1,880 | 532 | 42 |
| 10 年後 中立 | 4,700 | 2,390 | 1,123 | 93 |
取り方:契約施設 2,830 と国内売上 532.14 億円(会社開示)から 1 施設あたり約 1,880 万円を出した。営業利益 42 億円は全社の 43 億円から海外の約 1 億円を除いた推定。施設には病院と介護施設が混ざる。
海外(ベトナム・インド)
ベトナムの病院向けランドリー 2 社を連結し、インドにも出資する。
| 数量取引先の病院・施設数(施設、当社推定) | 価格1 施設あたり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 140 | 1,596 | 22 | 1 |
| 10 年後 中立 | 350 | 1,915 | 67 | 6 |
取り方:海外売上 22.34 億円(会社開示)を、取引先を約 140 施設と推定して割った。施設数は非開示なので当社の推定。現地通貨のインフレは日本より高いが、円換算では通貨安で目減りするため、価格は 10 年で物価並みの 1.34 倍に届かず 1.2 倍と置く。営業利益は 2026 年 2Q の実績(償却前 9.6%、償却後 2.2%)と 2025 年のわずかな寄与から約 1 億円と置いた。
リスクと懸念
粗利率の低下と原価高
粗利率は 2018 年の約 26% から約 21% に落ちた。リネンやおむつの原価高は 2026 年の第 3 四半期以降に広がる見込みで、値上げが遅れると利益率がさらに削られる。2026 年の増益は会計処理の変更の寄与が大きく、実力の改善とは限らない。
他社への流出と新規参入
2024 年の解約の約 7 割は他社への乗り換えだった。リネン大手のワタキューセイモア、トーカイ、新規参入組が値段で攻めれば、解約率は 3% 台からさらに上がる。入院セットは病院が比較的簡単に切り替えられる。
病院の統合・閉鎖
病院は 2025 年に 7,998 と前年から 62 減った。統合と閉院が続けば、契約の母数が縮む。会社自身も、閉院・統合による解約は今後増えると説明している。
契約の小規模化
新規契約は小規模施設と長期入所型が中心で、1 施設あたりの利用者は減っている。契約数は伸びても、売上や利益が同じ速さで伸びるとは限らない。
親会社への依存と少数株主の立場
エムスリーが株の 55% を持つ。顧客網の共有は追い風だが、少数株主の発言力は弱い。完全子会社化されれば上振れもありうるが、時期と条件は親会社が握る。
海外・M&A の投資回収
ベトナム 2 社の買収で、のれんは約 8 億円ある。2026 年の中間期には一部の既存顧客との取引を見直した。回収が遅れると減損が出る。インドなど新しい国への展開は、実績が乏しい。
ROE 25% 目標と資本配分
配当性向 30% では、ためた利益で自己資本が増え、ROE は下がる。中計の ROE 25% 下限を守るには、利益の伸びか還元の引き上げが必要で、会社の方針は途中だ。
今後の分かれ目
- 2026 年後半の値上げが原価高を吸収し、粗利率が 22% 台で定着すれば
- 営業利益率が 8〜9% に乗り、本質価値は中立から強気の筋書きに近づく。
- 解約率が 3% を超えて上がり続け、他社への流出が増えれば
- 価格が下がり契約も伸びず、やや悲観〜悲観の筋書きに近づく。
- エムスリーが完全子会社化の公開買付けを出せば
- 買付価格しだいで少数株主は上振れる。ただし、その価格が本質価値を上回るかは別に見る。
- 病院の統合閉鎖が早まり、病院数が毎年 1% 超減れば
- 契約の母数が縮み、契約数の伸びは鈍る。介護施設の開拓で埋められるかが分かれ目になる。
- ベトナム・インドの事業が黒字化し、のれん償却後で利益が出れば
- 海外が第二の柱になる可能性が出る。逆に減損なら、利益と自己資本が目減りする。
- 配当性向を引き上げる、または自社株買いを始めれば
- ROE の低下が止まる。ROE 25% 下限の実現に向けた具体策として、評価を改める。
見ておくもの
- 契約施設数の純増数と解約率(四半期)
- 粗利率と、リネン・おむつなどの原価高の転嫁
- 1 施設あたりの国内売上(施設単価)
- エムスリーとの共同事業の件数と、病院経営支援の収益化
- 海外(ベトナム・インド)の利益と、のれんの減損
- 配当性向と、自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER を見て筋書きを作っていない。先に国内を「契約施設数 × 1 施設あたり売上」、海外を「取引先施設数 × 1 施設あたり売上」で 10 年分積み、その結果から ROE と資本コスト 7% で倍率を決めた。中立は正当化 PER の 8 割に置いた。中立の営業利益率は 8.3% で、過去 12 年の山の 9.3% を下回る。
価値の中心は、10 年後の純利益 67 億円と、2 割前後の確率で起きる強気の上振れだ。結果がやや割安に出たのは、契約が積み上がる性格が効いたからで、今の値段に寄せたわけではない。会計処理の変更による営業利益の見かけの改善は、利益率の根拠に使っていない。
新リース会計基準(2028 年 3 月期から)は、今と同じ「家賃を営業費用に入れた形」に揃えて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 18.2→22.32 倍・やや楽観 PER 16.37→21.85 倍・中立 PER 14.88→21.41 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。