結論
H.U.グループは、病院から血液などの検査を請け負う国内最大級の受託会社である。もう一つの顔が、認知症の血液検査で世界初の米国承認を取った診断薬メーカー、富士レビオだ。筆者は、利益の質で見ると診断薬だけが光り、検査受託は薄利のままだと見ている。
稼ぎの源は三つある。国内の検査受託、世界に売る診断薬と抗体、病院向けの滅菌・手術支援だ。今の営業利益は 48 億円、売上の 2% にすぎない。検査受託がほぼゼロで、診断薬の 91 億円がグループを支えている。会社は 2029 年度に営業利益率 11% を掲げるが、2025 年に出した前の計画は 3% 台だった。数字の置き換えが大きい点を、筆者は割り引いて見る。
10 年後の中立は、営業利益が 240 億円前後、純利益が 150 億円ほどだ。診断薬が伸び、検査受託は国が決める検査料に縛られて 4% 台の利益率にとどまる。資本コストは 8.5% に置いた。確率を重ねて今に割り引くと、本質価値は今の時価総額を 17% ほど下回り、筆者はやや割高と見る。立て直しが成功した場合の上振れは大きいが、まだ実績が伴わない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「優良な事業」と「そうでない事業」が同居している。診断薬は、装置を入れれば試薬が売れ続ける。長く持ちたい事業である。検査受託は、規模は大きいが価格を決める力がなく、利益が出にくい。
筆者は、2025 年に会社が出した 2029 年度の計画(営業利益率 3% 台)と、2026 年に出した修正計画(11%)の落差に目が行く。計画を立て直した直後の数字を、そのまま信じる理由はない。信じるのは、実績で確かめられた分だけだ。実績は、営業利益 48 億円と ROE 5% である。
経営の資本配分は、利益を上回る還元を続けてきた。稼ぐ力が戻る前の還元は、自己資本を減らす。それでも財務は厚く、すぐに崩れる会社ではない。安全域はない。本質価値が今の値段を下回るので、割安とは言えない。診断薬の成功は大きな上振れ材料だが、それだけで全体の評価を引き上げるには、実績がまだ足りない。
何で稼ぐ会社か
事業は三つに分かれる。売上の 6 割を占める検査・関連サービス(LTS)、診断薬の IVD、病院向けのヘルスケア関連サービス(HS)である。
LTS は、病院や診療所が自前で行わない血液・尿・組織の検査を請け負う。国内の受託市場は約 6,200 億円で、H.U.は 2021 年度に 23% のシェアを持つ首位だった。ビー・エム・エルとLSIメディエンスを合わせた上位 3 社で、市場の 6 割近くを占める寡占だ。検査料は国が決める。そのため、売上が大きくても利益は薄い。2025 年度は営業利益がほぼゼロで、東京・あきる野の大型ラボの稼働率を上げることが課題になっている。
IVD は、全自動の免疫測定装置「ルミパルス」と専用試薬を、世界の病院と検査会社に売る。装置を一度入れると試薬を買い続けてもらえる、替えにくい商売だ。認知症の血液検査(pTau217 とアミロイドの比)は 2025 年に米国で承認を取り、日本でも申請中である。製薬会社向けに抗体を作る受託製造も持つが、中国向けが落ち込んでいる。
HS は、手術器材の滅菌や手術室まわりの業務を病院から請け負う。安定しているが、成長は小さい。
優良さと弱いところ
筆者がいちばん評価するのは、診断薬の「装置と試薬」の仕組みだ。ルミパルスは装置を据え付けると、その病院が毎年試薬を買い続ける。認知症の血液検査で米国の承認を先に取ったことは、この分野で信頼を得る足がかりになる。診断薬の営業利益率は 15% で、会社の目標は 25% である。
一方、検査受託は堀が浅い。国内首位級でも、価格は国が決める検査料に縛られ、人件費は物価で上がる。2022 年 3 月期の営業利益 505 億円は、コロナの検査特需で出た山にすぎなかった。2024 年 3 月期には 40 億円の赤字に落ちた。波に乗って利益が出る事業で、持続する強みとは言いにくい。
資本の使い方にも課題がある。自己資本比率は 51% と厚いが、過去 10 年の ROE の中央値は 3.5% にとどまる。会社は配当に加えて 2025 年度に 50 億円の自社株買いをしたが、稼ぐ力が資本コストに届かないうちの還元は、中身が痩せていく恐れがある。経営の立て直しはこれからだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の臨床検査は、高齢化で検査の件数は増えるが、検査料の引き下げが続いてきた。数量は微増、価格は横ばいという構図である。受託大手の再編は進み、2025 年 10 月には H.U.も傘下の検査 3 社を統合した。人手不足で病院が検査を外注する流れは、受託会社には追い風になる。
診断薬の世界は、ロシュ、アボット、シーメンス、ベックマンなど欧米の大手が握る。ルミパルスは国内で一定の地位を持つが、世界では小さい。勝ち筋は、認知症や感染症のような専門領域に絞ることだ。認知症の薬が広がれば、血液検査で患者を見つける需要は大きく伸びる。ただし大手も同じ検査を開発しており、先行の利益を長く守れる保証はない。
病院向けの滅菌・手術支援は、人手不足を背景に外部委託が増える。市場は小さく、参入する会社も多い。
10 年の構造論点は二つある。一つは国の検査料の動きだ。もう一つは認知症の血液検査が世界標準になるかである。AI による画像診断や院内で完結する検査機器の普及は、外注する検体を減らす恐れとして残る。
検査の外注は景気に左右されにくく、需要は安定している。
資本政策と M&A
資本政策は配当を軸に、自社株買いを加える形だ。会社の計画は、2025 年度から 5 年間で営業キャッシュフロー 1,500 億円、配当 360 億円以上、自社株買い 200 億円である。配当は 2026 年 3 月期に年約 70 億円、自社株買いは 50 億円で、還元は純利益の 68 億円を上回った。
純利益 68 億円は、資産売却益を含む。本業の力はそれより小さい。2027 年 3 月期の会社予想は純利益 50 億円だ。純有利子負債は 122 億円、自己資本比率は 51% で、財務に急ぐ事情はない。
M&A で傘下に収めた富士レビオが、利益の柱に育った。一方、福祉用具の事業は連結から外した。事業の選別は続いている。10 年以内の買収・TOB の確率は、kabufu の推定で 17% だ。検査受託の再編や診断薬の売却が起きる余地はある。経営者の人事や不祥事など、個別に確かめられた論点は今回は見つかっていない。
10 年の還元は、中計の配当 360 億円以上・自社株買い 200 億円の方針の範囲。取得ずみの約 44 億円は株数に反映ずみなので、還元の合計から除いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
診断薬は、世界で最も早く血液による認知症検査の米国承認を取った。認知症の薬が広がれば、薬を使うかどうかを決める検査の需要が増える。装置を入れた病院は試薬を買い続けるので、検査 1 回あたりの利益が積み上がる。診断薬の営業利益率は今 15% で、会社の目標は 25% だ。グループ全体では 2022 年 3 月期に営業利益率 18% を出した実績もある。
検査受託も、立て直しは進んでいる。2025 年度は価格の見直しとコスト削減で黒字に戻り、あきる野の大型ラボは自動化と AI で収益を上げる計画だ。人手不足で病院は検査を外注する。上位 3 社が市場の 6 割を握る寡占で、価格の競争は激しくない。
財務は厚い。自己資本比率が 51% で、純有利子負債も小さい。配当を守りながら自社株買いもできる。10 年先に営業利益率が 11% に届けば、利益は今の 5 倍以上になる。今の営業利益 48 億円は、谷の水準にすぎない。
慎重な見方
会社の計画は、この 1 年で 3% 台から 11% に変わった。目標の置き換えが大きく、達成の確かさは低い。今の営業利益は 48 億円で、売上の 2% にすぎない。過去 10 年の ROE の中央値も 3.5% にとどまる。2022 年の利益は、コロナの検査特需による一時の山だった。
検査受託は、国が決める検査料に縛られる。人件費は物価で上がるのに、価格は据え置きか引き下げだ。外注先を AI や院内検査機器が代替する恐れもある。あきる野の大型ラボは、稼働率が上がらなければ固定費の重荷になる。
診断薬も安心ではない。中国向けの抗体は落ち込み、営業利益は前年から 2 割減った。認知症の血液検査は、欧米の大手が追い上げている。先行の利益はいつまで守れるかわからない。
配当と自社株買いは、純利益を上回って続いている。稼ぐ力が戻らないうちの還元は、将来の自己資本を削る。
さらに、会社の自己資本を支える利益は 1 つの事業に偏る。診断薬が崩れれば、グループ全体の利益は一気に薄くなる。
どちらに重みを置いたか
診断薬が良い事業であることは、強気の見方に分がある。ただし全体の利益の 8 割が診断薬に偏り、検査受託が稼げていない現実は、慎重な見方のほうが重い。実績の乏しさと計画の大きな変更を考え、確率は中立と、やや悲観に厚く置いた。楽観はこの会社が持つ上振れの大きさを反映して 7%、悲観は検査料と大手の台頭が同時に起きる筋として 10% とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,620 円1,966 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,668 円906 億円)。 今の値に割り戻すと 2,711 円1,472 億円、今との差 −27.4%、 期待の年率 +3.5%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 9,718 円5,279 億円 | 2,681 円1,456 億円 | +231.9% | +12.7% | 868 円471 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,222 円3,380 億円 | 2,220 円1,206 億円 | +126.0% | +8.5% | 1,688 円917 億円 |
| 中立 | 38% | 3,467 円1,883 億円 | 1,760 円956 億円 | +39.9% | +3.4% | 1,986 円1,079 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,197 円650 億円 | 1,208 円656 億円 | −35.6% | −4.3% | 601 円327 億円 |
| 悲観 | 10% | 792 円430 億円 | 655 円356 億円 | −61.3% | −9.0% | 145 円79 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,620 円1,966 億円 | 1,668 円906 億円 | +41.6% | +3.5% | 5,288 円2,872 億円 |
今の株価時価総額 3,736 円2,029 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 血液検査が世界標準になり、診断薬が稼ぎ頭になる 10 年 利益 341 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 9,718 円5,279 億円
米国で先に承認された血液検査が日本と欧州にも広がり、ルミパルスの据え付けが進む。診断薬の取り扱いは今の 2 倍になり、製薬会社向けの抗体の受託も戻る。検査受託はあきる野の大型ラボが埋まり、特殊検査の比率が上がって収益性が改善する。病院向けの滅菌は人手不足で外部委託が進む。営業利益率は会社の目標の 11% を超える。
それでも検査料は国が決めるため、検査受託の利益率は 1 割に届かない。診断薬の利益率は 23% まで上がるが、大手との競争は続く。グループの利益の 7 割ほどを診断薬が稼ぐ姿になる。計画どおりに進んだ、理想に近い 10 年だ。
- 臨床検査の受託(LTS):数量 1,736(受託臨床検査市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.25(検査料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 2,202 億円・営業利益 198 億円。市場は実質で横ばい、シェア 28% へ。特殊検査が厚くなり、収益は物価に近づく
- 診断薬と抗体(IVD・富士レビオ):数量 1,200(世界の免疫測定・抗体の対象市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.34(試薬・抗体の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 1,627 億円・営業利益 374 億円。血液検査が世界標準になり、取り扱いが 2 倍へ。価格は物価並み
- 病院向けサービス(HS):数量 305(病院の滅菌・手術関連の外部委託市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.34(委託料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 413 億円・営業利益 33 億円。手術・滅菌の外部委託が広がる。価格は物価並み
倍率:事業の純利益 341 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.48 倍、時価総額 5,279 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:認知症の血液検査が世界で標準になり、中国向けの抗体も戻り、検査受託も計画どおり黒字化する必要がある。条件が重なるので低く置くが、米国で承認済みの実績があり、無視はしない。
やや楽観 20% 診断薬が伸び、検査受託は薄利のまま黒字を保つ 10 年 利益 236 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 6,222 円3,380 億円
診断薬は血液検査の広がりで 1.7 倍になる。中国向けの抗体は戻り、NEURO 向けの新製品も出る。検査受託はシェアを守りながら特殊検査を増やし、検査料の抑制を相殺する。利益率は 7% 前後で、会社の目標の 10% には届かない。病院向けは安定する。
全体の営業利益率は 10% 前後まで戻る。それでも 2022 年のような検査特需の山には及ばない。会社の計画の 7 割ほどが実現する、現実的な上振れの 10 年である。診断薬が利益の 7 割を稼ぐ構図は変わらない。
検査料の動きと診断薬の海外展開の両方が、会社の計画の半ばまでは進む。ただし、あきる野ラボの固定費の重さは残り、検査受託の黒字化は緩やかにしか進まない。
- 臨床検査の受託(LTS):数量 1,674(受託臨床検査市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.18(検査料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 2,005 億円・営業利益 140 億円。シェア 27%。検査料の抑制は続くが、特殊検査で相殺
- 診断薬と抗体(IVD・富士レビオ):数量 1,020(世界の免疫測定・抗体の対象市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.32(試薬・抗体の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 1,362 億円・営業利益 286 億円。血液検査が広がり 1.7 倍。中国向け抗体は戻る
- 病院向けサービス(HS):数量 290(病院の滅菌・手術関連の外部委託市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.33(委託料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 390 億円・営業利益 29 億円。ほぼ横ばい。値上げは物価に近い
倍率:ROE 14.0%。RONIC = k 8.5% + 1/2 ×(14.0% − 7.5%)= 10.8%、g 4.0% から正当化 PER = (1 − 4.0÷10.8)÷3.5 = 17.9 倍。診断薬の海外拡大が実証途上なので上限の約 8.4 割(14.32 倍)に置いた。
確率:会社の中計の方向は妥当だが、利益率の目標(営業利益率 11%)はこれまで 2 回引き上げ・引き下げされてきた。計画の 7 割ほどの達成を現実的な上振れとして置く。
中立 38% 診断薬が伸びる一方、検査料の抑制が利益を削る 10 年 利益 151 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,467 円1,883 億円
診断薬は血液検査と海外で、取り扱いが 1.5 倍になる。ただし中国向けの抗体は戻りが鈍い。検査受託は特殊検査で差をつけるが、検査料は 10 年で 1 割ほどしか上がらない。人件費は物価並みに上がるため、利益率は 4% 台までしか戻らない。病院向けは横ばいだ。
全体の営業利益率は 7% 前後に戻る。会社の目標の 11% には届かないが、今の 2% からは大きな改善だ。配当は守られ、自社株買いは利益の範囲に収まる。診断薬が稼ぎ頭であり続け、検査受託は黒字を保つ、標準的な 10 年である。
人件費の上昇と検査料の抑制が綱引きを続ける。診断薬の血液検査は海外で伸びるが、競合が増えるため価格の上げ幅は物価を下回る。
- 臨床検査の受託(LTS):数量 1,627(受託臨床検査市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.10(検査料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 1,816 億円・営業利益 82 億円。シェア 26%。検査料は 10 年で 1 割ほどしか上がらない
- 診断薬と抗体(IVD・富士レビオ):数量 900(世界の免疫測定・抗体の対象市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.30(試薬・抗体の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 1,184 億円・営業利益 219 億円。血液検査と海外が伸び、取り扱いは 1.5 倍。価格は物価をやや下回る
- 病院向けサービス(HS):数量 290(病院の滅菌・手術関連の外部委託市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.30(委託料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 381 億円・営業利益 25 億円。数量は横ばい。値段は物価並みに近い
倍率:事業の純利益 151 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.47 倍、時価総額 1,883 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:診断薬は伸びる根拠があるが、検査受託の収益性は国の検査料に縛られる。計画の達成と未達の間に最も重みを置く。
やや悲観 25% 診断薬の伸びが鈍り、検査受託は低収益のまま動かない 10 年 利益 47 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,197 円650 億円
血液検査では欧米の大手に押され、診断薬の伸びは 1.15 倍にとどまる。中国向けの抗体は戻らない。検査受託は検査料の据え置きが続き、人件費だけが上がるので、利益率は 2% 台から動かない。病院向けは数量が減る。
名目の営業利益は今の水準からほとんど増えず、物価で考えれば実質では目減りする。配当は守られるが、自社株買いは細る。事業の価値は稼ぐ力より、診断薬を売ったときの価値のほうが大きく見える。投資家からの再編の圧力も強まる 10 年だ。
診断薬の海外展開が思うように進まず、中国向けの抗体も戻らない。結果として、会社は再び計画を引き直すことになり、投資家の信頼を失っていく。
- 臨床検査の受託(LTS):数量 1,550(受託臨床検査市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.05(検査料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 1,652 億円・営業利益 41 億円。検査料の据え置きが続き、価格はほぼ上がらない。数量は横ばい
- 診断薬と抗体(IVD・富士レビオ):数量 690(世界の免疫測定・抗体の対象市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.15(試薬・抗体の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 803 億円・営業利益 96 億円。競合の血液検査に押され、伸びは 1.15 倍にとどまる
- 病院向けサービス(HS):数量 276(病院の滅菌・手術関連の外部委託市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.25(委託料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 349 億円・営業利益 17 億円。数量が減り、値上げも物価に届かない
倍率:ROE 4.1% は k 8.5% を下回る。稼ぐ力だけなら PER は 1÷k(13.3 倍)が上限で、事業全体の価値は 440 億円ほどにとどまる。床は帳簿でなく診断薬事業の売却価値に置き、今の自己資本に掛けた倍率(0.47 倍)で書いた。
確率:現在の利益水準そのものが、すでにこの筋書きに近い。計画を 2 度作り直した会社なので、停滞が続く確率を厚く置く。
悲観 10% 検査料の引き下げと大手の台頭で、事業を縮める 10 年 利益 −12 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 792 円430 億円
国が検査料を下げ続け、検査受託は赤字に戻る。AI による画像診断や院内での検査機器の普及で、外注する検体が減る。診断薬は中国向けの抗体が縮み、血液検査でも大手に押される。会社は事業の一部を売って配当を守るが、10 年の後半には減配に追い込まれる。
還元の額が純利益の合計を上回るのは、事業や資産の売却代金で払うためだ。M&A の対象になりうる位置にあるが、買い手がつく価格は低い。優良とは言えなくなった会社が、売れる部分を切り売りして縮んでいく 10 年である。
診断薬は大手との競争に敗れ、装置の設置が進まない。会社は検査受託から撤退する案も検討するが、撤退費用が重く、動けない。
- 臨床検査の受託(LTS):数量 1,399(受託臨床検査市場(実質、億円)× シェア)× 価格 0.95(検査料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 1,349 億円・営業利益 −13 億円。検査料の引き下げと AI 診断の普及で数量・価格とも下がる
- 診断薬と抗体(IVD・富士レビオ):数量 540(世界の免疫測定・抗体の対象市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.00(試薬・抗体の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 546 億円・営業利益 44 億円。中国向け抗体の縮小と大手の血液検査に押される
- 病院向けサービス(HS):数量 261(病院の滅菌・手術関連の外部委託市場(実質、億円)× シェア)× 価格 1.15(委託料の価格指数(今 = 1.0))→ 売上 303 億円・営業利益 9 億円。拠点の統廃合で数量が減る
倍率:赤字なので PER は使わない。床は帳簿の自己資本でなく、売れる資産の税後(診断薬事業・土地・有価証券)に置き、今の自己資本に掛けた倍率(0.31 倍)で書いた。
確率:検査料の持続的な引き下げと、認知症の血液検査での敗北が同時に起きる構造的な負けの筋書き。起きる確度は低いが、財務に余力が薄い会社なので 1 割は置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
臨床検査の受託(LTS)
病院・診療所から血液や組織の検査を請け負う。国内の受託検査で首位級で、遺伝子検査などの特殊検査にも広げている。
| 数量受託臨床検査市場(実質、億円)× シェア | 価格検査料の価格指数(今 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,550 | 1.00 | 1,573 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1,627 | 1.10 | 1,816 | 82 |
取り方:受託臨床検査市場は約 6,200 億円(矢野経済研究所)。国内シェアは 2021 年度に 23.2% と開示されており、その後の再編を考えて 25% とみて 1,550 億円相当を置いた。売上 1,573 億円との差は検査周辺のサービス。営業利益は会社開示でほぼゼロ。
診断薬と抗体(IVD・富士レビオ)
全自動の免疫測定装置「ルミパルス」と専用の試薬を世界に売る。認知症の血液検査、感染症の検査、製薬会社向けの抗体の受託製造が柱。
| 数量世界の免疫測定・抗体の対象市場(実質、億円)× シェア | 価格試薬・抗体の価格指数(今 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 1.00 | 607 | 91 |
| 10 年後 中立 | 900 | 1.30 | 1,184 | 219 |
取り方:売上 607 億円・営業利益 91 億円は会社開示。世界の免疫測定の市場は約 2 兆円と当社で推定し、シェアを約 3% とみて 600 億円相当を置いた(開示は無く推定)。 数量は市場の実質(今の値段)×シェアで、名目の市場の伸びではない。
病院向けサービス(HS)
手術器材の滅菌や手術室まわりの業務を、病院から請け負う。福祉用具は連結から外れた。
| 数量病院の滅菌・手術関連の外部委託市場(実質、億円)× シェア | 価格委託料の価格指数(今 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 290 | 1.00 | 293 | 18 |
| 10 年後 中立 | 290 | 1.30 | 381 | 25 |
取り方:売上 293 億円・営業利益 18 億円は会社開示。市場の大きさは開示が無く、当社の推定で 2,000 億円、シェア約 14.5% とみて 290 億円相当を置いた。
リスクと懸念
検査料の引き下げ
検査受託の価格は国が決める。引き下げが続くと、検体数が増えても利益は伸びない。人件費は物価で上がり続けるため、利益率の改善を直接にそぐ。
計画の信頼性
2025 年に出した計画の 2029 年度の営業利益率は 3% 台だった。2026 年の修正計画では 11% に上がった。この落差の理由を示せないままでは、達成の確かさは低い。
認知症の血液検査での競争
米国の承認を先に取ったが、欧米の大手も同じ検査の開発を進めている。装置の設置台数で劣るため、先行の利益を維持できない恐れがある。
中国向け抗体の落ち込み
製薬会社向けの抗体の受託製造は、中国向けの落ち込みで IVD の利益を 2 割押し下げた。現地の調達の国産化が進めば、戻らない可能性もある。
あきる野ラボの稼働
大型ラボの固定費は重い。受託の検体が想定どおり集まらなければ、検査受託の黒字化は遠のく。
還元が利益を上回る
2026 年 3 月期の配当と自社株買いは純利益を上回った。稼ぐ力が戻る前にこれを続けると、自己資本が減っていく。
今後の分かれ目
- 認知症の血液検査が日本・欧州でも承認され、各国の病院に広がれば
- 診断薬の取り扱いが大きく伸び、本質価値は楽観の筋書きに近づく。
- 検査料の引き下げが強まれば
- 検査受託の利益率は 2% 台から動かず、本質価値はやや悲観の筋書きに寄る。
- あきる野ラボの稼働が上がり、検査受託が 2029 年度に利益率 10% へ近づけば
- 会社の計画どおりに進んだことになり、本質価値は上振れる。
- 中国向け抗体の落ち込みが続き、診断薬の営業利益が 2 割減を超えて落ちれば
- グループの稼ぎ頭が細り、本質価値は大きく下がる。
- 診断薬事業を売る動きが出れば
- 売却価値が床になり、悲観の筋書きでも価値は大きくは崩れない。
- 検査受託の再編が進み、他社との統合が出れば
- 価格競争が和らぎ、利益率の改善が前倒しになる。
見ておくもの
- LTS の営業利益率(2029 年度の目標は 10%)の四半期の推移
- IVD の営業利益率(目標は 25%)と中国向け抗体の動き
- 認知症の血液検査の日本での承認と、各国での採用の広がり
- 診療報酬改定での検体検査実施料の動き
- 還元の額と純利益の差(自己資本の増減)
倍率と資本コストの決め方
今の株価と PER は見ずに、セグメントごとに市場規模 × シェアと価格の指数で 10 年を積んだ。倍率は、ROE から出る正当化 PER の上限の 7〜9 割に置き、中立は下限の 1÷k に合わせず上限の約 8.8 割とした。やや悲観・悲観は、稼ぐ力と診断薬事業の売却価値から置き、過去の PBR の底は使っていない。純有利子負債 122 億円は会社が示す 262 億円(リース等を含む形とみられる)より小さく、2028 年 3 月期からの新リース会計で BS の形が変わる点は、今と同じ形(家賃を費用に入れる形)にそろえて置いた。金利は純負債が小さく、利払いの変化は 10 年で −3 億円と小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17→15.48 倍・やや楽観 PER 15→14.32 倍・中立 PER 13.4→12.47 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。