結論
ABホテルは、愛知県を地盤に、駅前やインターチェンジ近くでビジネスホテルを営む会社だ。38 店・約 4,900 室を 16 都府県に持つ。筆者の結論は「割安」。営業利益率が 4 割に届くほどの稼ぐ力があるのに、株価はその稼ぎの 6 倍ほどにとどまる。
稼ぎの源は、徹底した低コストにある。宴会場や会議室を持たず、客室に集中する。建物は安く建て、清掃は一部を自前でこなし、支配人に運営を委ねる。1 店の投資は 8 億〜10 億円で、120 室前後の店を作る。この仕組みで、直近の営業利益は 49 億円、利益率は 39.8% と過去最高になった。
成長の道筋も見える。会社は年 3 店以上の出店を続け、長期では 100 店の体制を目ざす。出店の基準は、稼働率 80% で経常利益率 35% を確保できる立地だ。10 年後の中立の営業利益は 90 億円台と、今の 2 倍近い。
弱みは三つある。利益率が過去最高で、これ以上は伸びにくいこと。既存店の稼働率が 3 ポイント下がっていること。そして親会社の東祥が過半を握り、現金が少数株主に回りにくいことだ。それでも、これらを厳しく見積もっても、中立の価値は今の時価総額を大きく超える。
筆者は、今の値段が、コロナ禍の赤字寸前の記憶を引きずっていると見る。景気の波に弱いのは確かだが、その分は悲観の確率に織り込んだ。
配当は、直近で普通配当に特別配当が加わったが、性向は 15% 台と低い。現金は新店に回る前提で、株主への還元は当面、控えめと見ておくのがよい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ホテルは資本を食う事業だ。建物を建て、維持し、数年ごとに改装しなければならない。この会社が優れているのは、その資本の使い方が、極端に効率的な点である。
株主が自由に使える利益、つまり再投資を引いた利益は、今は純利益の半分ほどだ。出店に毎年 25 億円ほどを使い、残りが現金に積み上がる。出店が続く間は、成長に資本を回す方が、配当より株主の利益になる。投資の稼ぎが資本コストを大きく上回るからだ。
ただ、ここに落とし穴がある。ホテルの稼ぎは、立地の良い店から先に出て、後の店ほど落ちる。100 店という目標が、利益率の維持と両立するかは、疑ってかかるべきだ。
経営者への評価は、実績の面では高い。稼働率が下がる中でも、客室単価で補い、増益を続けた。親会社との関係も、役員の兼任がなく、事前承認の事項もないと開示している。
安全域は、稼ぎに対する値段の安さから生まれる。純利益の 6 倍ほどという値段は、利益率が半分に落ちても、まだ割に合う水準だ。筆者は、この安さと、悲観の確率の厚さを天秤にかけて、割安と判断する。
最後に、株主還元について。現金が積み上がる会社は、使い道を示すべきだ。会社は出店を最優先とするが、出店の稼ぎが落ちたとき、余った現金をどう扱うかは、まだ見えない。
何で稼ぐ会社か
ABホテルは、「ABホテル」の名で宿泊に特化したビジネスホテルを運営する。単一事業で、直近の売上は 123 億円、前の期から 15% 増えた。
店は東海に集中する。愛知に 15 店、岐阜に 5 店、滋賀に 3 店と続き、売上の約 58% を東海が占める。関西が約 24%、関東が約 10% だ。2026 年 6 月時点で、全国 16 都府県に 38 店を持つ。客室は 4,938 室で、1 店は平均 130 室になる。
客は主にビジネス客だ。観光客、特に関西ではインバウンドも泊まる。親子連れや、女性の一人旅にも配慮した。全店に大浴場があり、無料の Wi-Fi、コインランドリー、女性専用フロアを備える。チェックアウトは自動精算機で、人手を省く。
運営の仕組みも特徴的だ。一部の店は、支配人と副支配人に、予約管理、フロント、朝食、清掃を業務委託する。報酬は固定に、稼働率に連動する部分が付く。本部は口コミと市場を調べて、品質を管理する。単体の従業員は 103 人で、臨時社員が約 250 人と、少人数で回す。
土地は賃借が中心で、建物は自社で建てる。土地等の年間の賃借料は約 4.5 億円で、備品はリースを使う。直近はセール・アンド・リースバックで 4.6 億円の資金も得た。
創業は 1999 年。親会社の東祥が、「ホテルサンルート三河安城」をフランチャイジーとして開業したのが始まりだ。東祥は 52.8% を持つ。
売上の増え方も見ておきたい。2023 年 3 月期の 88 億円から、2026 年 3 月期の 123 億円まで、3 年で 4 割増えた。店数が増えたことに加え、客室単価が上がったことが効いている。2027 年 3 月期の会社予想は、売上 128 億円、営業利益 51 億円で、伸びは鈍る。
優良さと弱いところ
優良さを一言でいえば、「安く建てて稼ぐ、財務の健全な小さな勝ち組」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、そう深くない。
強みは三つある。一つ目は、低コストの出店モデルだ。1 室あたりの投資は 700 万円ほどと軽く、駅前や IC 近くの立地を選べば、稼働率 80% で経常利益率 35% を確保できる。二つ目は、宿泊に特化した運営の軽さで、宴会場もなく、フロントや清掃を少人数で回す。三つ目は、現金が厚く、借入に頼らず出店できる財務だ。
弱みも三つある。一つ目は、価格を自分で決められない点だ。宿泊料金は楽天トラベルなどの外部サイトと、競合との兼ね合いで決まる。二つ目は、景気の波に弱い点で、2021 年 3 月期は営業利益がほぼゼロまで落ちた。三つ目は、固定費の重さだ。土地の賃借料、減価償却、人件費は、客が減っても減らない。
資本の使い方は、成長優先だ。配当性向は 15% と低く、稼いだ現金を新店に回す。投資の稼ぎ(1 店あたりの営業利益を投資額で割った値)は 15% を超え、資本コストを大きく上回る。この点は高く評価できる。
ただし、直近は稼働率が 3 ポイント下がった。客室単価の上昇で補ったが、こうした値上げがいつまで通るかは、確かめるべき点だ。
財務の質は高い。自己資本比率は 53%、営業利益は支払利息の 54 倍を稼ぐ。2021 年 3 月期の赤字寸前の局面でも、借入の返済に困らなかった。ただ、この財務の厚さは、出店のたびに現金と借入を使うことで、少しずつ削られる性質のものだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のビジネスホテル市場は、需要が堅調な一方、供給も増える局面にある。2025 年の国内の延べ宿泊者数は約 6.5 億人泊と、3 年連続で 6 億人泊を超えた。外国人は 1.78 億人泊で過去最高、日本人は 4.76 億人泊と前年から 4% 減っている。国内の稼働率は約 8 割と高いが、成長は鈍っている。
ABホテルの客は、主にビジネス客だ。出張の需要は、景気には敏感でも、人口減の影響は緩やかに出る。東海は製造業の出張が多く、インバウンドに頼らない点は強みである。
追い風は、宿泊料金の上昇だ。人件費と建築費の上昇を、ホテル各社は客室単価に転嫁してきた。直近の客室単価の上昇が、稼働率の低下を補った。
向かい風は、競合の出店と建築費の高騰である。東横イン、ルートイン、ドーミーインなどの大手が、同じ地方都市に出店を続ける。建築費の上昇で、新店の投資額は膨らむ。人手不足で、清掃や朝食の人員も確保しにくい。
10 年先を見ると、地方のビジネス客は人口減で細るが、客室単価は物価並みに上がり、全体では横ばいから緩やかな増加となる。勝ち残るのは、低コストで高い稼働を保てる会社だ。再編も進みやすく、運営の弱い会社が淘汰される中、財務の厚いABホテルは有利な位置にいる。
価格の面では、人件費と建築費の上昇が物価を超えて続いてきた。宿泊料金は、需要が強い間は転嫁できるが、需要が弱まれば真っ先に崩れる。数量の面では、国内の宿泊者数は人口減で伸びにくく、ABホテルの量の増加は、ほぼ新店の出店で決まる。
資本政策と M&A
資本政策の主役は、新規出店への再投資だ。会社は、内部留保を新規出店に充てる方針で、配当性向は 15% 台にとどめる。直近の期末配当は、普通配当に、上場の重複を解消したことに伴う特別配当を加えたものだった。
出店は、年 3 店以上を目標とする。計画中の 7 店は、1 店 8 億〜10 億円で、客室は 120〜136 室だ。茅野、大野神戸インター、倉敷水島、東広島、美濃加茂などが並ぶ。中期経営計画は、2026 年 5 月に上方修正され、2027 年 3 月期の経常利益を 50 億円とした。
財務は健全だ。現金は 77 億円あり、借入は 71 億円。未使用のコミットメントラインが 40 億円ある。営業キャッシュフローは 45 億円で、投資の 20 億円を十分に賄う。
親会社の東祥が 52.8% を持つ。東祥とは、本社事務所や一部店舗の土地の賃借、宿泊取引がある。親子上場であるため、現金を少数株主に還元するかは、親会社の判断次第だ。この点を織り込み、余った現金の価値は帳簿の半分に見積もった。
M&A は目立たない。出店は自前の開発が中心だ。親会社による完全子会社化(TOB)の可能性は、常に残る。その場合、価格が適正かは、少数株主にとって別の論点になる。
出店以外の使い道は、改装と設備の更新だ。開業から 10 年を超える店が増え、客室の改装と空調などの更新に、年に数億円がかかる。この支出は減価償却を上回る現金の流出となり、中立の筋書きでも、余った現金の積み上がりを遅らせる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
まず、稼ぎの質が高い。営業利益率は 4 割に迫り、1 店の投資は 9 億円ほどで済む。1 店が稼ぐ営業利益は、年に 1.3 億円を超え、投資の回収は 7 年ほどだ。この水準の稼ぎ方は、同業にはない。
次に、成長が見える。計画中の 7 店は、すでに土地と資金の手当てが済んだ段階にある。年 3 店のペースで 10 年続ければ、店は 38 から 65 に増える。長期の 100 店は、そのさらに先の話だが、地方の駅前には、まだ空きがある。
さらに、景気の波に備えた財務だ。現金が厚く、借入に頼らずに出店できる。コロナ禍でも赤字を避けた。客室単価も、物価を超えて上げてきた実績がある。
最後に、値段が安い。純利益の 6 倍ほどという水準は、成長を半分に見積もっても、割安だ。親会社が完全子会社化に動けば、プレミアムがつく可能性もある。
最後に、親会社の存在を前向きに見る。東祥は、同じ業界で長く事業を営み、土地の仕入れと運営に通じている。親会社の支えは、出店の土地の確保や、景気が悪い局面の資金面で、強みとして働く可能性がある。
さらに、コロナ禍を経て、ビジネスホテルの需要の回復の速さが実証された。2023 年 3 月期には、売上が 4 割近く増え、営業利益は 3 倍に戻った。
慎重な見方
まず、利益率が過去最高だ。営業利益率は 2017 年 3 月期の 28% から、直近は 39.8% まで上がった。これ以上は伸びにくく、競合の出店と人件費の上昇で、下がる可能性の方が高い。既存店の稼働率は 3 ポイント下がっており、すでに天井が見えている。
次に、ホテルは固定費の事業だ。土地の賃借料、減価償却、人件費は、客が減っても減らない。2021 年 3 月期には、売上が 4 分の 3 に減っただけで、営業利益が消えた。景気が悪化すれば、同じことが起きる。
さらに、親会社が過半を握っている。現金は積み上がるが、少数株主に回る保証はない。配当性向は 15% 台と低く、新店に回し続ければ、資本効率は下がる。
最後に、建築費の高騰だ。新店の投資額は、物価を超えて上がり続ける。後の店ほど立地が悪くなり、稼働率も落ちる。100 店の目標は、利益率の維持と両立しにくい。
最後に、数字の見え方の問題がある。今の営業利益率が、過去 10 年で最も高い期だという事実だ。2016 年 3 月期から 2020 年 3 月期までの 5 年は、利益率が 34% から 21% まで下がり続けた。この傾向が戻れば、今の稼ぎの水準を前提とした値付けは、大きく崩れる。
どちらに重みを置いたか
強気の見方が強い。稼ぎの質と財務の厚さは本物で、慎重な見方が指摘する利益率の天井や固定費の重さを織り込んでも、中立の価値は今の時価総額を大きく超える。ただ、慎重な見方の指摘は、確率に反映した。ホテルは景気の波が大きく、コロナ禍で利益が消えた事実があるため、悲観を 1 割台半ば、やや悲観を 3 割近くに置いた。親会社が過半を握る点は、余った現金を半値で数えることで織り込んだ。
数字の面では、強気の見方に分がある。稼ぎに対して株価が安く、悲観の筋書きでも、今の時価総額を割る水準にはなりにくい。ただ、利益率が過去最高であることは、慎重な見方が指摘するとおり重い事実で、中立の利益率を出店基準の 35% より低く置く形で反映した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,977 円847 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 620 円88 億円)。 今の値に割り戻すと 3,260 円462 億円、今との差 +160.0%、 期待の年率 +18.1%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 11,799 円1,673 億円 | 1,065 円151 億円 | +925.8% | +26.2% | 772 円109 億円 |
| やや楽観 | 16% | 9,811 円1,391 億円 | 825 円117 億円 | +748.2% | +23.8% | 1,702 円241 億円 |
| 中立 | 34% | 7,997 円1,134 億円 | 663 円94 億円 | +590.6% | +21.3% | 2,944 円417 億円 |
| やや悲観 | 28% | 2,957 円419 億円 | 529 円75 億円 | +178.0% | +10.8% | 976 円138 億円 |
| 悲観 | 16% | 950 円135 億円 | 317 円45 億円 | +1.0% | +0.1% | 203 円29 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,977 円847 億円 | 620 円88 億円 | +426.1% | +18.1% | 6,597 円935 億円 |
今の株価時価総額 1,254 円178 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 6% 低コスト出店が続き、稼ぎが定着 利益 89 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 11,799 円1,673 億円
年 4 店の出店が 10 年続き、店は 70 を超える。駅前や IC 近くの好立地を押さえ、稼働率は 83% を保つ。客室単価は物価を上回って上がり、インバウンドの多い関西でも伸びる。
営業利益は 130 億円台になり、利益率は 38% を保つ。建築費の上昇を、客室単価の上昇が吸収する。親会社も、成長を重視して高い内部留保を許容する。
現金は積み上がるが、新店と改装に回る分も大きい。10 年後の自己資本は 600 億円規模になり、ROE は 20% に近い。ホテル業界で最も稼ぐ会社の一つとして評価される。
出店の土地は、親会社の情報網と自前の開発で確保でき、新店の稼働も早く立ち上がる。景気の下振れは小さく、配当も増えていく。
- ビジネスホテル:数量 288(販売客室数(万泊。実質))× 価格 1.23(1泊あたり売上(万円・名目))→ 売上 353 億円・営業利益 136 億円。288 万泊 × 1 泊あたり 1.226 万円、利益率 38.5%
倍率:事業の純利益 86 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 12.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)139 億円。全体の PER 17.75 倍、時価総額 1,672 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:稼働率と客室単価が高止まりし、年 4 店の出店も続く筋書き。利益率が過去最高の近くを保つ必要があり、低く置いた。
やや楽観 16% 出店が順調で、利益率が高めに残る 利益 75 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 9,811 円1,391 億円
年 3〜4 店の出店が続き、店は 60 台半ばになる。稼働率は 82% を保ち、客室単価は物価をやや上回って上がる。競合の出店はあるが、低コストの強みが働く。
営業利益は 110 億円ほどで、利益率は 36% 台だ。新店の減価償却が重くなるが、客室単価の上昇が補う。配当は少しずつ増え、現金は積み上がる。
既存の店は改装の時期を迎えるが、費用は吸収できる範囲にとどまる。会社の掲げる 100 店という目標には届かないが、堅実な拡大を続ける姿だ。
新店の立ち上がりは順調で、既存店の稼働率の低下も 1〜2 ポイントにとどまる。余った現金は積み上がり、株主還元の議論も出るが、親会社の意向で限定的になる。
10 年後の自己資本は 570 億円ほどで、ROE は 19% 近くを保つ。
- ビジネスホテル:数量 260(販売客室数(万泊。実質))× 価格 1.19(1泊あたり売上(万円・名目))→ 売上 310 億円・営業利益 113 億円。260 万泊 × 1 泊あたり 1.191 万円、利益率 36.5%
倍率:事業の純利益 72 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 11.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)142 億円。全体の PER 17.35 倍、時価総額 1,391 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:出店が順調で、客室単価が物価を上回って上がる筋書き。会社の目標に近い姿で、有力な上振れとして置いた。
中立 34% 出店で量が増え、利益率は少し下がる 利益 62 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 7,997 円1,134 億円
年 3 店のペースで出店を続け、店は 60 前後に増える。稼働率は 80% に落ち着き、客室単価は物価並みに上がる。販売する客室数は、今の 1.7 倍近くになる。
営業利益は 93 億円ほどで、利益率は 34% だ。今ある建物の減価償却は取得時の値段のままだが、新店は建築費の上昇で 1 店あたり 12 億円前後に膨らみ、償却費は 10 年後に 30 億円ほどになる。稼働率の低下と人件費の上昇も響き、利益率は今から 6 ポイント下がる。
現金は積み上がり、10 年後には 200 億円規模になる。うち出店に使う分を除いた余りを 185 億円と置く。配当性向は 20% に上がるが、親会社の意向で、現金は大きくは戻らない。
- ビジネスホテル:数量 237(販売客室数(万泊。実質))× 価格 1.16(1泊あたり売上(万円・名目))→ 売上 274 億円・営業利益 93 億円。237 万泊 × 1 泊あたり 1.157 万円、利益率 34.0%
倍率:事業の純利益 59 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)139 億円。全体の PER 16.83 倍、時価総額 1,134 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:稼働率は 80% に落ち着き、客室単価は物価並み。出店は年 3 店のペースで進み、利益率は出店基準の 35% の近くに下がる、標準的な姿。
やや悲観 28% 競合の出店と人手不足で採算が細る 利益 38 億円 · PER 9.1 倍 · 株価時価総額 2,957 円419 億円
競合の出店と建築費の高騰で、好立地の確保が難しくなり、出店は年 2 店に減る。稼働率は 76% に下がり、客室単価も物価に届かない。人手不足で、清掃や朝食の人員の確保も重くなる。
営業利益は 57 億円ほどで、利益率は 27% に落ちる。固定費の重さが効き、増収でも増益にならない局面が続く。出店の投資が回収期間を延ばし、資本の効率は下がる。
財務の体力は残り、配当は守られる。ただ、改装の時期が重なり、現金の積み上がりは中立より遅い。地方の人口減が、じわじわと稼働率を押し下げる。
10 年後の自己資本は 380 億円ほどで、ROE は 10% 台に落ちる。それでも財務は堅く、ホテル業界の中では優良な部類にとどまる。
- ビジネスホテル:数量 197(販売客室数(万泊。実質))× 価格 1.08(1泊あたり売上(万円・名目))→ 売上 213 億円・営業利益 57 億円。197 万泊 × 1 泊あたり 1.079 万円、利益率 27.0%
倍率:事業の ROE 13.8%(余った現金 115 億円とその利息 1.6 億円を除く)。RONIC = 10.44%、g 4% から正当化 PER = 13.0 倍。固定費の重さと競合の出店で稼ぎが細る局面で、悲観側は式の値の 7 割の 9.1 倍に置いた。時価総額 =(純利益 − 余った現金 × 1.4%)× PER + 余った現金 × 0.5。
確率:競合の出店と建築費の高騰で、出店のペースが落ち、稼働率も下がる筋書き。利益率が過去最高で、固定費も重いため、中立に近い厚みで置いた。
悲観 16% 需要の落ち込みと価格競争で稼ぎが崩れる 利益 11 億円 · PER 6.6 倍 · 株価時価総額 950 円135 億円
景気の悪化と、競合との価格競争が重なる。稼働率は 7 割を割り、客室単価は上がらない。固定費の重さで、営業利益は 15 億円ほどに落ちる。出店は 3 年で止まり、不採算の店は閉める。
減損で自己資本が 40 億円ほど減る。配当は維持しようとするが、額は小さくなる。親会社が現金の使い道を握ったまま、少数株主には戻らない。
財務の体力は残るが、優良なホテルチェーンとは見られなくなる。再編の対象になる可能性が高い。コロナ禍で利益が消えた経験が、より長く続く形だ。
10 年後の自己資本は 200 億円ほどで、ROE は 5% 台に落ちる。会社は、不採算の店の売却と、新規出店の凍結で、財務の回復を急ぐ。
- ビジネスホテル:数量 137(販売客室数(万泊。実質))× 価格 0.93(1泊あたり売上(万円・名目))→ 売上 127 億円・営業利益 15 億円。137 万泊 × 1 泊あたり 0.932 万円、利益率 12.0%
倍率:事業の ROE 9.3%(余った現金 95 億円とその利息 1.3 億円を除く)。構造的に優良でなくなった姿で、RONIC = 8.95%、g 4% から正当化 PER = 11.6 倍。稼働率 7 割弱で固定費が重く、利益の持続性が低いため、式の値の 6 割 5 分の 6.55 倍に置いた。時価総額 =(純利益 − 余った現金 × 1.4%)× PER + 余った現金 × 0.5。
確率:景気の悪化か、競合との価格競争で、稼働率が 7 割を割る筋書き。2021 年 3 月期に利益が消えた実績と、固定費の重さから、1 割台半ばに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ビジネスホテル
宿泊に特化したビジネスホテルの運営。東海を中心に 38 店・4,938 室。稼ぎの全てを占める単一事業。
| 数量販売客室数(万泊。実質) | 価格1泊あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 142 | 0.86 | 123 | 49 |
| 10 年後 中立 | 237 | 1.16 | 274 | 93 |
取り方:売上 122.94 億円・営業利益 48.92 億円(有報)。数量は、期中の平均客室数(約 4,700 室)× 365 日 × 稼働率(既存店 84.7%、新店のならしで約 83%)から、年間の販売客室数(宿泊数)を約 142 万泊と推定した。1 泊あたり売上(約 0.8633 万円)が価格で、宿泊料金に朝食などを含み、物価の分は価格に入る。客室数は 36 店・4,804 室(前期末)、38 店・4,938 室(2026 年 6 月)の集計による。
リスクと懸念
景気と旅行需要の落ち込み
ホテルは固定費が重く、客が減ると利益が急に消える。2021 年 3 月期は、売上が 4 分の 3 に減っただけで営業利益がほぼゼロになった。今の営業利益率 39.8% は、固定費が稼働率の高さで薄まった結果で、景気が悪化すれば、同じ速さで逆回転する。この逆回転は、立地の良い店でも避けられない。
既存店の稼働率の低下
既存 34 店の平均稼働率は 84.7% と、前年から 3.0 ポイント下がった。客室単価の上昇で補ったが、値上げが通らなくなれば、稼ぎは減る。出店基準の稼働率は 80% で、そこまで下がっても、利益率 35% は確保できる設計だが、それ以下は未知数だ。ここを注視すべきだ。
競合の出店と建築費の高騰
東横イン、ルートイン、ドーミーインなどの大手が、同じ地方都市で出店を続ける。建築費は物価を超えて上がり、1 店の投資額が膨らむ。好立地は先に埋まり、後の店ほど稼働率が落ちる。100 店の長期目標は、利益率の維持と両立しにくい。新店の稼ぎが落ちれば、投資の回収期間が延び、現金の積み上がりも遅れる。
人手不足と人件費の上昇
ホテルは人が支える事業で、清掃、朝食、フロントに人手が要る。単体の従業員は 103 人、臨時社員は約 250 人と少人数で回しており、人件費の上昇や採用難の影響を受けやすい。業務委託先の支配人の確保も、出店の足かせになりうる。賃金の上昇は、価格に転嫁できなければ、そのまま利益率を削る。
親会社への依存と少数株主の立場
東祥が 52.8% を持ち、土地の賃借や宿泊取引もある。現金は積み上がるが、少数株主に回るかは親会社の判断だ。配当性向は 15% 台と低い。完全子会社化の際に、価格が適正でない危険もある。少数株主として、現金の使い道に口を出せる立場にない。
土地賃借とリースの固定費
土地等の年間賃借料は約 4.5 億円、備品のリースも年に約 1 億円ある。直近はセール・アンド・リースバックで 4.6 億円の資金も得た。業績が悪化しても、これらは減らない固定の約束で、2028 年 3 月期からの新リース会計基準では、借地の分が貸借対照表に載る。
今後の分かれ目
- 既存店の稼働率が 2 期続けて 80% を下回ったら
- 客室単価の上昇では補えなくなったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 年 3 店以上の出店が、2 期続けて達成できなかったら
- 好立地の確保が難しくなったと見て、中立の客室数を下方に直す。
- 新店の稼働率が、開業 2 年目で 75% を超えたら
- 出店モデルの再現性が確かめられ、楽観側の確率を少し増やす。
- 東祥による完全子会社化の TOB が発表されたら
- 価格が余った現金と稼ぎを反映するかが分かれ目。反映するなら価値を押し上げる。
- 客室単価の上昇率が物価を下回り始めたら
- 値上げの余地が尽きたと見て、利益率を下方に直す。
- 自社株買いや配当性向 30% 以上への引き上げが出たら
- 余った現金の戻り方を 0.5 から 1.0 へ上げ、価値が大きく増える。
見ておくもの
- 既存店の稼働率と客室単価
- 新規出店の数と、新店の稼働率の立ち上がり
- 営業利益率と、減価償却費・賃借料の推移
- 現金と借入、コミットメントラインの使い方
- 東祥との取引と、持株比率の変化
- 競合の出店状況と、建築費の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE(余った現金とその利息を除く)が資本コスト k 7.75%(基本 7.5% + quality 1.25%)を上回る前提で、堀は弱いとして残る割合を 1/3 に置き、式の正当化 PER に 6.5〜8 割を掛けて置いた。余った現金は PER に混ぜず、純利益から利息分を除いて別に足し、戻り方 0.5 を掛けた。今の株価や PER、同業の倍率を見てから決めたわけではない。10 年後の利益率は、今の 39.8% が過去最高であることから、出店基準の 35% より低く置いた。減価償却は、今ある建物の分(約 9.2 億円)を取得時の値段のまま置き、新店の投資は建築費の上昇で膨らむとして、償却を 10 年後に約 30 億円まで積み増した。更新の投資は、償却を上回る現金の支出として自己資本の流れに入れた。余った現金は、10 年後の現金から出店と運転に必要な 25 億円を除いた額である。土地賃借料(年約 4.5 億円)とセール・アンド・リースバックは固定の約束として利益率に入れ、2028 年 3 月期からの新リース会計基準では借地の分が BS に載るが、数字は今と同じ形(賃借料を営業費用に入れた形)でそろえた。株主優待はない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.25% = 8.75%。理由は quality_why。個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 7.75%。