結論
コプロ・ホールディングスは、施工管理などの建設技術者を建設会社へ派遣する会社だ。人手不足を追い風に売上は年々伸び、買収で規模が一気に広がった。筆者の結論は、10 年の本質価値は今の時価総額を下回る見立てだ。
現場に出る体の仕事なので、AI エージェントには置き換わりにくい。ただ、買収で純負債が自己資本の 2 倍に膨らみ、利息とのれんの負担が重い。利益の質は、買収した会社の統合しだいだ。
派遣料金が賃金の上昇に追いつかない点も、利益率を押し下げる。借金の重さが、安全域を削っている。経営の舵取りは、人を増やして伸ばす力と、借金を返す力の両方が問われる局面だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、現場に出る体の仕事で、人手不足の追い風が続く点は好ましい。ただ、買収で借金が膨らみ、自己資本比率は 2 割しかない。買収した会社の統合の成否は、外から見えにくい。
借金が重い会社は、利益が少し下がるだけで株主の取り分が大きく減る。派遣料金が賃金の上昇に追いつかない構造も、利益を圧迫する。確かな堀が見えない事業に、借金の重さが加われば、今の値段に安全域は薄い。経営者が借金を返しきる前に景気が崩れる場合を、筆者は最も警戒している。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、建設・設備の技術者派遣である。施工管理などの技術者を建設会社へ送り、料金から賃金を引いた差を取る。利益率は 1 割に届かない。紹介の手数料もある。2026 年 3 月期に、TE ホールディングスなどを新規連結し、規模が大きく広がった。
機械設計と IT の技術者派遣は小さい部門だ。IT のエンジニア派遣は、2026 年 1 月に吸収分割で他社へ承継すると決めた。セグメントごとの売上は開示を確かめられず、筆者の推定である。顧客は主に建設会社で、派遣先の数は多く、1 社への依存は小さい。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、建設の人手不足という追い風と、買収で広げた技術者の人数だ。派遣先の建設会社にとって、施工管理の技術者は不足が続き、需要は底堅い。
弱みは、借金の重さと利益の低さだ。純負債は自己資本の 2 倍を超え、自己資本比率は 2 割しかない。派遣料金は派遣先との交渉で決まり、賃金の上昇を全部は転嫁しにくい。堀は普通とみる。買収した会社の統合が成否を分ける。技術者の採用力は、数少ない資産であり、ここを維持できるかが分かれ目だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
建設業界は、技術者の高齢化と若手不足が深刻だ。建設投資は名目では底堅いが、人口減少で実質の需要は細る。そのため施工管理の技術者の派遣や紹介には、長く需要が続く。
競争は厳しい。大手の人材会社や、技術者派遣の同業が多く、地方の中堅会社も参入するため、技術者の採用競争が料金と利益率を決める。AI エージェントは図面や書類の事務を助けるが、現場の管理そのものは人が担う。派遣法の規制や、同一労働同一賃金の動きも利益に響く。海外の建設ブームの影響は小さく、国内の需給が全てを決める。技術者の高齢化は、紹介の需要を長く支える。
資本政策と M&A
資本政策の焦点は、買収で膨らんだ借金の返済だ。純負債は 2026 年 3 月期末で 204 億円と、自己資本の 2 倍を超える。2025 年 10 月には株式を 1 株から 2 株に分けた。
中期経営計画の目標数字と、株主還元の具体的な数字の約束は、確認できる資料の中では見つからなかった。数字の約束がない以上、配当は利益の 3 割台にとどまる見込みだ。借金の返済が先で、増配の余地は限られる。買収は規模を買う手段だが、価格が高ければ株主の価値を壊す。
見通しをどちらに寄せたか
強気の材料は建設の人手不足と現場仕事で AI に置き換わりにくい点で、慎重な材料は買収の借金とのれん、派遣料金の転嫁の弱さだ。AI エージェントを売り物にして売上が出た金額の開示は無く、AI の置き換えは現場部分には効きにくい。借金の重さから、やや悲観と悲観を合わせて 37% とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,328 円509 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 230 円88 億円)。 今の値に割り戻すと 772 円296 億円、今との差 −17.6%、 期待の年率 +5.2%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,688 円1,030 億円 | 379 円145 億円 | +227.3% | +12.6% | 215 円82 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,125 円815 億円 | 316 円121 億円 | +160.5% | +10.0% | 488 円187 億円 |
| 中立 | 36% | 1,657 円635 億円 | 263 円101 億円 | +104.9% | +7.4% | 691 円265 億円 |
| やや悲観 | 25% | 455 円174 億円 | 134 円51 億円 | −37.2% | −4.5% | 147 円56 億円 |
| 悲観 | 12% | 39 円15 億円 | 103 円40 億円 | −84.8% | −17.2% | 17 円7 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,328 円509 億円 | 230 円88 億円 | +66.3% | +5.2% | 1,558 円597 億円 |
今の株価時価総額 937 円359 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 建設の人手不足が深まり、単価も物価並み 利益 59 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 2,688 円1,030 億円
建設現場の人手不足が深まり、施工管理の技術者は買い手市場が続く。派遣の稼働人数は今の 1.45 倍になり、料金も物価並みに上がる。買収した会社との統合が進み、借金は利益で早く返せる。利益率は 9% 台に上がる。10 年後の売上は今の 1.9 倍に近い。
- 建設・設備の技術者派遣・紹介:数量 1.2(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 871(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 1,004 億円・営業利益 95 億円。現場の体で稼ぐ型
- 機械設計・IT の技術者派遣:数量 0.1(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 670(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 72 億円・営業利益 5 億円。人月で売る型
倍率:事業の純利益 59 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 24.2% と k 8.0%、RONIC 16.1%、g 3.0%(g_long)から正当化 PER 16.3 倍の上限そのものに置く。時価総額 962 億円。
確率:AI エージェントを売り物にして売上が出た金額の開示は無い。現場の技術者派遣は伸びるが、楽観でも 1.45 倍までと置き、7%。
やや楽観 20% 技術者の派遣は伸び、統合も順調 利益 47 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 2,125 円815 億円
施工管理の技術者の派遣は、建設会社の人手不足に支えられて今の 1.3 倍に増える。料金は物価に近い 1.31 倍まで上がるが、派遣先との交渉で全部は転嫁できない。IT の部門は承継で小さくなる。買収の統合費用は数年で一巡し、借金は着実に減る。10 年後の純利益は今の 2 倍を超える。
- 建設・設備の技術者派遣・紹介:数量 1.0(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 852(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 881 億円・営業利益 79 億円。現場の体で稼ぐ型
- 機械設計・IT の技術者派遣:数量 0.1(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 650(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 62 億円・営業利益 4 億円。人月で売る型
倍率:事業の ROE 22.5% と k 8.0%、RONIC 15.3%、g 3.0% から正当化 PER 16.1 倍の上限そのものに置く。時価総額 749 億円。
確率:建設の人手不足が追い風になる一方、料金交渉の力は限られる筋書き。20%。
中立 36% 人手不足は続くが、単価は伸び切らない 利益 36 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 1,657 円635 億円
建設技術者の派遣は、人手不足の下でも今の 1.15 倍にとどまる。料金は物価に近い 1.3 倍だが、派遣先の値下げ要請で全部は乗らない。機械設計と IT は事務作業の自動化で今の 0.7 倍に縮む。買収で増えた借金は利益で返し、利息の負担は緩やかに減る。配当は性向 3 割台で続く。
- 建設・設備の技術者派遣・紹介:数量 0.9(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 845(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 772 億円・営業利益 66 億円。価格 1.30 倍は、派遣先の値下げ要請で賃金の上昇の全部は乗らないため物価に届かない
- 機械設計・IT の技術者派遣:数量 0.1(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 625(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 53 億円・営業利益 3 億円。価格 1.25 倍は人月型の値下げ圧力で物価に届かない
倍率:事業の ROE 20.7% と k 8.0%、RONIC 14.4%、g 3.0% から正当化 PER 15.8 倍の上限そのものに置く。時価総額 571 億円。
確率:建設の人手不足が続くが、派遣料金の上昇が賃金の上昇に届かない筋書きを中立とし、36%。
やや悲観 25% 建設投資が細り、派遣料金が下がる 利益 10 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 455 円174 億円
建設投資が伸びず、派遣先が料金を絞る。技術者の稼働人数は今の 0.85 倍に減り、料金は物価に届かない 1.12 倍。のれんの償却と利息の負担が重く、利益率は 6% に下がる。統合の効果は出ず、買収した会社の人材も流出する。配当は利益に合わせて縮む。
- 建設・設備の技術者派遣・紹介:数量 0.7(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 728(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 492 億円・営業利益 30 億円。現場の体で稼ぐ型
- 機械設計・IT の技術者派遣:数量 0.1(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 550(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 40 億円・営業利益 1 億円。人月で売る型
倍率:事業の ROE 9.1% と k 8.0%、g 3.0% から PER 13.0 倍。時価総額 134 億円。
確率:建設投資が細り、派遣先が料金を絞る筋書き。やや悲観と悲観で 37%。
悲観 12% 買収の借金が重荷になり、稼ぐ力が細る 利益 −3 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 39 円15 億円
建設不況で派遣先が技術者の受け入れを絞り、稼働人数は今の 0.65 倍に減る。料金も下がり、利益はほとんど消える。買収で増えた借金は重く、のれんの減損も出る。稼ぐ力では値が付かず、会社に残る価値は派遣の人材基盤と売掛金だけになる。配当は止まり、借金の返済が優先される。
- 建設・設備の技術者派遣・紹介:数量 0.5(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 618(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 319 億円・営業利益 11 億円。現場の体で稼ぐ型
- 機械設計・IT の技術者派遣:数量 0.0(派遣技術者の稼働人数(万人、推定))× 価格 450(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 22 億円・営業利益 0 億円。人月で売る型
倍率:悲観の床は稼ぐ力でなく、買収ののれんの減損後に残る価値 15 億円を今の自己資本 99 億円で割った 0.15 倍。EV ÷ 営業利益で見ると約 100 倍で、借金が重く利益の倍率では価値を言えない。純負債 204 億円は今の値のまま残る。
確率:建設の不況と派遣先の絞り込みで、買収の借金が重荷になる筋書き。12%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建設・設備の技術者派遣・紹介
施工管理などの建設技術者を建設会社へ派遣し、紹介も行う。買収した子会社を含む。
| 数量派遣技術者の稼働人数(万人、推定) | 価格1 人当たり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 650 | 517 | 44 |
| 10 年後 中立 | 0.9 | 845 | 772 | 66 |
取り方:セグメント別の開示を確かめられず、筆者の推定(軽い版)。26 年 3 月期の期中に TE ホールディングスなど 2 社を新規連結したため、27 年 3 月期の会社予想(売上 577 億円・営業利益 39 億円)を通期の起点に置いた。建設技術者は約 8 千人、1 人年約 650 万円と推定。【AI エージェント代替】現場に出る体の仕事が中心で、置き換わりにくい。
機械設計・IT の技術者派遣
機械設計の技術者派遣と、IT 技術者の派遣。IT のエンジニア派遣は 2026 年 1 月に他社へ承継を決めた。
| 数量派遣技術者の稼働人数(万人、推定) | 価格1 人当たり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.1 | 500 | 60 | 4 |
| 10 年後 中立 | 0.1 | 625 | 53 | 3 |
取り方:売上を約 60 億円、利益を約 4 億円と推定。IT 技術者派遣(SES)は吸収分割で承継するため縮小する。【AI エージェント代替】設計と IT の事務作業は人月型で、置き換わりやすい。
リスクと懸念
買収で膨らんだ借金とのれん
純負債は自己資本の 2 倍を超える。統合に失敗すればのれんの減損が出て、自己資本が大きく減る。金利の上昇で、利息の負担が年 5 億円ほど増える。
派遣料金が賃金の上昇に届かない
派遣先との交渉で、賃金の上昇を全部は料金に転嫁できない。中立では料金を物価に届かない 1.3 倍と置いた。利益率は 8% 台にとどまる。
建設投資の細り
建設投資が細れば、派遣先が技術者の受け入れを絞る。景気悪化の局面では稼働人数が一度に減り、固定の人件費が利益を削る。
AI エージェントによる設計・IT 事務の置き換え
機械設計と IT の技術者派遣は人月型で、AI エージェントが事務作業を担えば人数が減る。中立では数量を今の 0.7 倍と置いた。IT 派遣は承継で縮む。
今後の分かれ目
- 買収した子会社の売上と利益が、計画どおり通期で寄与する
- 統合が順調な証拠。借金は利益で早く返せ、やや楽観に近づく。
- 派遣料金の改定が賃金の上昇率を上回って通る
- 利益率が改善し、楽観の筋書きに近づく。
- 建設投資が大きく減り、稼働人数が前年を割る
- 借金の重さが利益を削り、やや悲観の筋書きに近づく。
- のれんの減損が発表される
- 買収の失敗が確かになり、悲観の筋書きに近づく。
見ておくもの
- 派遣技術者の稼働人数と 1 人当たり売上
- 純負債の減り方と金利の動き
- 買収した子会社ののれんの減損の有無
- 28 年 3 月期の純利益が予想の 32 億円に届くか
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や同業の倍率を見ずに、事業の ROE・k・g から式で置いた。k は 7.5% に quality +0.5% を足した 8.0%。g_long は 3%。セグメントの構成と買収の規模は開示を確かめられず推定で、27 年 3 月期の会社予想を起点にした。リースの会計は新基準で 2028/03 期から BS に載るが、10 年後の数字は今と同じ形にそろえた。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。