結論
リニカルは、製薬会社から新薬の治験の運営を請け負う CRO だ。抗がん剤の治験に強く、日本からアジア、米国、欧州へ拠点を広げてきた。筆者の結論は「割高」だ。いちばんの理由は、稼ぐ力そのものが崩れていることにある。
かつては営業利益率が 20% を超える優良な会社だった。ところが日本では新薬の治験が海外に流れる「ドラッグ・ロス」が進み、海外の拠点は赤字を重ねた。2026 年 3 月期は減損と繰延税金資産の取崩しで純損失 33 億円を出し、自己資本はほぼ半分になった。2027 年 3 月期の第 1 四半期も売上が 27% 減り、赤字が広がった。
会社は米国のバイオテックからの大型の国際共同治験で回復を見込む。受注残は 117 億円あり、年の売上を上回る。ただ治験の運営は人の工数で売る仕事で、AI が書類の作成やデータの点検を担うほど、1 本の治験に要る人手は減る。筆者は、回復しても利益率はかつての半分以下と見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「かつての堀が埋まった事業」だ。
抗がん剤の治験に強い専門性は、日本の大手製薬会社が国内で治験をする限り、高い利益を生んだ。その前提が崩れた。新薬の開発の舞台は米国のバイオテックに移り、そこでは大手の CRO が規模で勝つ。リニカルの海外拠点は小さく、価格でも規模でも優位に立てない。
しかも治験の運営は、人の工数で売る仕事だ。AI が書類とデータの点検を担うほど、工数は減り、単価は下がる。10 年先の稼ぐ力を確信を持って見通せない事業に、高い値段は払えない。
値段は売上の半分ほどで、安く見える。だが自己資本は赤字で削られ、現金の多くは他人の金だ。筆者は、受注残の回復が利益に結びつくのを確かめるまで、安全域は無いと見る。値段の安さは、稼ぐ力の崩れをそのまま映したものだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、治験を運営する専門家の工数だ。CRO は、製薬会社に代わって病院を選び、治験の手順どおりに進んでいるかを確かめ、データを集めて整える。その中心は、病院を訪ねてデータを点検するモニターと呼ばれる専門職である。売上は、治験の期間を通じた人の働きの対価として入る。
リニカルは抗がん剤の治験に強みを持つ。がんの治験は手順が複雑で、経験のあるモニターが要るため、単価が高い。日本の大手製薬会社を顧客に育ち、韓国、台湾、中国などアジアに広げ、2018 年には米国の CRO を買って欧米に進出した。
受注残は 117 億円で、日本 31 億円、米国 33 億円、欧州 37 億円、アジア 16 億円だ。日本の比率は下がり、欧米のバイオテックからの国際共同治験が増えている。治験は 1〜3 年かけて進み、契約の変更で規模が増えたり減ったりする。開始が遅れれば、人を抱えたまま売上が立たない。
貸借対照表には、治験の病院に払うための預り金と前受金が 42 億円ある。現金は 47 億円あるが、その多くは他人の金である。
優良さと弱いところ
リニカルの優良さは、今は低い。かつての強みが、環境の変化で弱みに変わった。
抗がん剤の治験に特化した専門性は本物だ。日本で育ったモニターの質は、国内の大手製薬会社から評価されてきた。2010 年代半ばには営業利益率が 25% に達した。
強みが崩れたのは、日本の治験そのものが減ったためだ。新薬の開発は米国のバイオテックが主役になり、日本で治験をしない新薬が増えた。日本の大型案件の中止や縮小が重なり、売上の柱が細った。
海外への進出も実を結んでいない。米国と欧州の拠点は、大手の CRO と比べて規模が小さく、案件の開始が遅れるたびに赤字になる。欧州ののれんは 2026 年 3 月期に減損した。
財務は細い。自己資本比率は 29% で、現金の多くは預り金と前受金だ。赤字があと数年続けば、借入に頼る場面が来る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
CRO の市場は世界で伸びている。新薬の開発費は増え続け、製薬会社は治験の運営を外に任せる割合を高めている。世界の CRO 市場は、名目で年 6〜8% の伸びが見込まれる。主役は米国のバイオテックで、大手の IQVIA、ICON、パレクセルなどが規模で受注を集める。
日本の市場は逆風だ。新薬が日本で承認されない、または開発すらされない「ドラッグ・ロス」が社会の課題になっている。国は規制を緩めて治験を呼び戻そうとしているが、効果はまだ見えない。日本の CRO は、国際共同治験の日本の部分を取りにいく形に変わりつつある。
AI は治験の仕事の形を変える。書類の作成、データの点検、病院とのやりとりの多くは、AI エージェントが担えるようになる。遠隔でデータを確かめる手法も広がり、病院を訪ねる回数は減る。治験の数は増えても、1 本あたりに要るモニターの工数は減るとみるのが自然だ。一方、規制の下で責任者が確認する仕事は残り、全部が置き換わるわけではない。
筆者は、日本の工数は 10 年で 2 割減り、欧米の工数は治験の増加と AI の効率化が打ち消し合ってほぼ横ばいと見る。
資本政策と M&A
配当は 1 株あたりの額を保ち、2026 年 3 月期は利益が無い中でも配当を続けた。総額は年 2 億円弱で、2027 年 3 月期も同じ額を予定する。自社株買いは過去に行ったが、今は余力が無い。
借入は 18 億円あり、短期の借入を返しながら回している。現金 47 億円のうち 42 億円は預り金と前受金に見合い、自由に使える現金は乏しい。
創業者が大株主で、経営の主導権を持つ。値段が大きく下がった今、創業者による非公開化や、大手の CRO による買収の候補にもなりうる。ただ赤字の海外拠点を抱えたままでは、買い手にとっての魅力は限られる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
受注は戻り始めている。受注残は 117 億円で、年の売上を上回る。米国の政府機関の閉鎖で止まっていた大型の国際共同治験が 4 月から動き出し、工数を増やす契約の変更も完了した。契約前の案件の内諾もあり、受注残はさらに積み上がる。2027 年 3 月期は売上 107 億円、営業黒字の予想だ。
抗がん剤の治験に強い専門性は、米国のバイオテックにも通用する。バイオテックは自前の開発の組織を持たず、日本やアジアを含む国際共同治験を任せられる中堅の CRO を求めている。リニカルは日本、アジア、欧米を一つの会社で回せる数少ない中堅だ。
減損と繰延税金資産の取崩しは済み、膿は出し切った。人員の稼働率が戻れば、利益率は一気に回復する。値段は売上の半分ほどで、かつての利益率の半分に戻るだけでも、今の値段は安すぎる。大手の CRO が規模を追うほど、小回りの利く中堅に任せたい顧客は残る。台湾や韓国のバイオテックからの打診も増えている。
慎重な見方
日本の治験は戻らない。ドラッグ・ロスは構造の問題で、日本の大型案件の中止と縮小が続いた。日本の受注残は 1 四半期で 2 割減った。アジアの受注残も減っている。かつての稼ぎ頭が細り続けている。
海外は規模で負ける。米国と欧州の拠点は大手の CRO に比べて小さく、案件の開始が遅れるたびに人を抱えて赤字になる。欧州ののれんは減損した。2027 年 3 月期の第 1 四半期は売上が 27% 減り、営業赤字は 7 億円に広がった。黒字の予想は下期の大型案件の稼働に頼っている。
AI はこの仕事の中身を削る。書類の作成とデータの点検は AI エージェントが担い、遠隔の点検で病院への訪問は減る。治験の数が増えても、モニターの工数は増えない。自己資本は 32 億円まで減り、現金の多くは預り金と前受金だ。赤字が続けば、増資か借入が要る。経験のあるモニターが去れば、強みの専門性も一緒に消える。黒字の予想が外れれば、その時点で財務の余裕は無くなる。
どちらに重みを置いたか
受注残の回復は事実だが、稼ぐ力の崩れという慎重な見方の指摘の方が重い。日本の治験の減少、海外の規模の不利、AI による工数の目減りは、どれも構造の問題だ。中立は利益率をかつての半分以下の 6% に置き、確率はやや悲観と悲観に 4 割を置いた。それでも回復を織り込んだ中立の値段は、今の値段に届かない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 177 円40 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 14 円3 億円)。 今の値に割り戻すと 80 円18 億円、今との差 −60.8%、 期待の年率 −0.7%(資本コスト 9.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 532 円120 億円 | 46 円10 億円 | +181.7% | +10.9% | 46 円10 億円 |
| やや楽観 | 17% | 281 円63 億円 | 27 円6 億円 | +49.9% | +4.1% | 52 円12 億円 |
| 中立 | 35% | 190 円43 億円 | 17 円4 億円 | +0.8% | +0.1% | 72 円16 億円 |
| やや悲観 | 25% | 63 円14 億円 | 0 円0 億円 | −69.1% | −11.1% | 16 円4 億円 |
| 悲観 | 15% | 28 円6 億円 | 0 円0 億円 | −86.2% | −18.0% | 4 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 177 円40 億円 | 14 円3 億円 | −6.9% | −0.7% | 191 円43 億円 |
今の株価時価総額 205 円46 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 国際共同治験の受託で専門性が生き、利益率が戻る 利益 9 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 532 円120 億円
米国のバイオテックからの国際共同治験の受託が続き、日本・アジア・欧米を一つで回せる中堅としての立ち位置が固まる。国の施策で日本の治験も一部が戻る。AI で書類とデータの点検を効率化し、浮いた人手で案件を増やす。工数は日本・アジアで今の 0.95 倍、欧米で 1.3 倍になり、単価は物価並みに上がる。日本・アジアの利益率は 18%、欧米は 11% に戻り、営業利益は 15 億円を超える。かつての 25% には届かないが、資本コストを上回って稼ぐ。自己資本は利益の積み上げで 50 億円台まで戻り、配当も増える。大手の CRO が日本とアジアの窓口として提携や買収を持ちかける筋も、この中に入る。
- 日本・アジア:数量 3.0(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 201(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 11 億円。工数 2.97 千人月 × 単価(今の 1.34 倍)、利益率 18%
- 米国・欧州:数量 2.1(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 335(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 70 億円・営業利益 8 億円。工数 2.08 千人月 × 単価(今の 1.34 倍)、利益率 11%
倍率:事業の純利益 9 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.4% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 12.97 倍、時価総額 115 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:バイオテックの大型案件を続けて取り、日本の治験も戻り、AI で効率を上げて単価を保つ両立が要る。受注残の回復は事実だが、AI を売り物にした受注の開示は無く、確率は低い。
やや楽観 17% 受注残が利益になり、利益率 9% 台に戻る 利益 5 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 281 円63 億円
2027 年 3 月期に黒字に戻り、その後も米国と欧州の大型案件が切れ目なく続く。日本の工数は 1 割減るが、欧米は 1.15 倍に増える。単価は賃金に合わせて上がるが、AI で工数が減る分の値下げ圧力もあり、物価をやや下回る。日本・アジアの利益率は 14%、欧米は 9% になり、営業利益は 10 億円台に乗る。配当は続き、自己資本は少しずつ戻る。台湾や韓国のバイオテックの国際共同治験も取り込み、アジアの拠点が日本の目減りを一部埋める。AI を使った効率化で、工数あたりの利益は少し上がる。ROE は資本コストを上回る。
- 日本・アジア:数量 2.8(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 195(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 55 億円・営業利益 8 億円。工数 2.8 千人月 × 単価(今の 1.30 倍)、利益率 14%
- 米国・欧州:数量 1.8(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 325(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 5 億円。工数 1.84 千人月 × 単価(今の 1.30 倍)、利益率 9%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.6 倍。全体の PER 11.64 倍、時価総額 63 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残 117 億円と内諾の案件が順に稼働すれば、2027 年 3 月期の黒字の予想は届く。その先も稼働率が保てる筋として、中立の次に置く。
中立 35% 黒字には戻るが、利益率はかつての半分以下 利益 4 億円 · PER 10.9 倍 · 株価時価総額 190 円43 億円
2027 年 3 月期から数年かけて黒字が定着する。ただ日本の治験は戻らず、日本・アジアの工数は今の 0.8 倍に減る。欧米は治験の増加と AI の効率化が打ち消し合い、工数はほぼ横ばいだ。単価は賃金の上昇を一部しか載せられず、10 年で 1.30 倍にとどまる。日本・アジアの利益率は 13%、欧米は 8% で、全社の営業利益率は 6% になる。配当は続くが、ためた利益は資本コストを稼がない。会社は残るが、かつての優良な CRO の姿には戻らない。人員は工数の減りに合わせて絞られ、稼働率の改善で赤字の年は無くなる。
- 日本・アジア:数量 2.5(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 195(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 49 億円・営業利益 6 億円。工数 2.5 千人月 × 単価(今の 1.30 倍)、利益率 13%
- 米国・欧州:数量 1.6(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 325(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 52 億円・営業利益 4 億円。工数 1.6 千人月 × 単価(今の 1.30 倍)、利益率 8%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 10.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.9 倍。全体の PER 10.9 倍、時価総額 42 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残の回復で黒字には戻るが、日本の治験の減少と AI による工数の目減りが続き、利益率は 6% 前後にとどまるとみて、中立に最大の確率を置く。
やや悲観 25% 赤字と黒字を行き来し、規模が縮む 利益 0 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 63 円14 億円
大型案件の稼働は遅れがちで、案件の切れ目ごとに赤字が出る。日本の工数は今の 0.7 倍まで減り、欧米も大手の CRO に案件を取られて 0.85 倍になる。AI で工数が減るほど、顧客は単価の引き下げを求める。利益率は日本・アジアで 6%、欧米で 2% にとどまり、本社費を賄うのがやっとだ。配当は減り、自己資本はほぼ横ばいのまま。人材の流出も続き、専門性の強みは薄れる。海外の拠点の一部は閉じられ、のれんの減損がさらに出る。自己資本は赤字で削られ、配当を続ける余力も無くなる。ROE は資本コストに遠く届かない。
- 日本・アジア:数量 2.2(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 183(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 2 億円。工数 2.2 千人月 × 単価(今の 1.22 倍)、利益率 6%
- 米国・欧州:数量 1.4(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 295(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 1 億円。工数 1.36 千人月 × 単価(今の 1.18 倍)、利益率 2%
倍率:利益がほぼ出ないので PBR とし、2026 年 3 月末の自己資本 39.8 億円(第 1 四半期の赤字で 32.1 億円に減った)に、資本コストを稼がない事業の価値として 0.36 倍を掛けた。
確率:第 1 四半期の赤字の拡大と日本の受注残の 2 割減は、回復の遅れを示す。AI の代替の型ではやや悲観と悲観に 35% 以上を置く決まりで、その中心をここに置く。
悲観 15% AI と海外の不利で事業が縮み、資金繰りに詰まる 利益 −5 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 28 円6 億円
AI エージェントが治験の書類とデータの点検を担い、製薬会社は CRO への発注を絞る。日本の工数は今の 0.55 倍、欧米は 0.65 倍に縮む。単価も物価を下回り、赤字が続く。運転資金の不足を埋めるために増資か借入の積み増しに追い込まれ、既存の株主の取り分は薄まる。会社の価値は、事業の稼ぐ力でなく、海外拠点の売却や撤退の後に残る資産に近づく。預り金と前受金を除けば手元の現金は乏しく、床は低い。上場を続ける意味も問われ、事業の切り売りか、大手への身売りが現実の選択肢になる。株主に残るものは少ない。
- 日本・アジア:数量 1.7(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 173(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 −1 億円。工数 1.72 千人月 × 単価(今の 1.15 倍)、利益率 −2%
- 米国・欧州:数量 1.0(モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定))× 価格 275(1 人月あたりの請求単価(万円・名目))→ 売上 29 億円・営業利益 −1 億円。工数 1.04 千人月 × 単価(今の 1.10 倍)、利益率 −5%
倍率:赤字が続く筋書きなので PBR とし、床は売掛金と立替金の回収から撤退の費用を引いた残り(floor_assets)で、2026 年 3 月末の自己資本の 0.16 倍に置いた。
確率:日本の治験の減少、海外の規模の不利、AI の代替が同時に進む筋。赤字が 3 期続き財務が細った今、現実味がある。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本・アジア
日本・韓国・台湾・中国の製薬会社とバイオテックから治験の運営を請け負う。
| 数量モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定) | 価格1 人月あたりの請求単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.1 | 150 | 47 | −5 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 195 | 49 | 6 |
取り方:2026 年 3 月期の売上 86.7 億円を、受注残の地域の割合(日本・アジアで約 4 割強)と日本の大型案件の縮小から、日本・アジア約 47 億円と推定。1 人月 150 万円の請求として工数を約 3.1 千人月とした推定。地域別の利益は開示が無く、日本の営業赤字の説明から −5 億円と置いた。
米国・欧州
米国のバイオテックを中心に、米国・欧州・豪州にまたがる国際共同治験の運営を請け負う。
| 数量モニターなどの稼働の工数(千人月・年、推定) | 価格1 人月あたりの請求単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.6 | 250 | 40 | −10 |
| 10 年後 中立 | 1.6 | 325 | 52 | 4 |
取り方:売上の残り約 40 億円を米国・欧州とした推定。欧米は請求単価が高く 1 人月 250 万円として工数を約 1.6 千人月と置いた。米国の大幅な減収と欧州の損失の拡大の説明から −10 億円と置き、残りの約 −6 億円は本社費とのれん償却。
リスクと懸念
日本の治験の減少(ドラッグ・ロス)
新薬の開発の舞台が米国のバイオテックに移り、日本で治験をしない新薬が増えた。日本の受注残は 1 四半期で 2 割減った。かつての稼ぎ頭が細り続ければ、全社の黒字化は遠のく。
AI エージェント代替
治験の書類の作成、データの点検、病院とのやりとりは AI エージェントが担えるようになる。遠隔の点検も広がり、1 本の治験に要るモニターの工数は減る。人の工数で売る CRO の売上と単価の両方を削る。
海外の規模の不利
米国と欧州の拠点は大手の CRO に比べて小さい。案件の開始が遅れるたびに人を抱えたまま赤字になり、欧州ののれんは 2026 年 3 月期に減損した。
大型案件への依存
回復の見込みは、米国、欧州、豪州にまたがる少数の大型の国際共同治験に頼る。中止や縮小、開始の遅れが出れば、2027 年 3 月期の黒字の予想は崩れる。
財務の細り
自己資本は 32 億円まで減り、自己資本比率は 29% だ。現金 47 億円のうち 42 億円は預り金と前受金に見合う。赤字が続けば、増資や借入の積み増しが要る。
人材の流出
経験のあるモニターは大手の CRO や製薬会社に引き抜かれやすい。業績の悪化で処遇を上げられなければ、強みの専門性そのものが流れ出る。
今後の分かれ目
- 2027 年 3 月期に営業黒字を達成し、受注残が 130 億円を超えたら
- 回復が実際の利益に結びついた証拠とみて、やや楽観に確率を寄せる。
- 下期も営業赤字が続き、2027 年 3 月期が 3 期連続の赤字になったら
- やや悲観と悲観の確率を上げ、資金繰りの筋を厚く見る。
- 国の施策で日本の治験の件数が増えに転じたら
- 日本の工数の前提を上げる。
- AI を使った治験の効率化を自社の売り物にして受注を伸ばしたら
- 工数の目減りを単価で取り戻せる証拠とみて、寿命の上乗せを下げる。
- 増資や大きな借入をしたら
- 株主の取り分の目減りを数え、悲観の確率を上げる。
- 創業者による非公開化や大手の CRO による買収が発表されたら
- 分析の対象から外す。
見ておくもの
- 四半期の営業損益と人員の稼働率
- 受注残(日本・米国・欧州・アジア)
- 大型の国際共同治験の開始と契約の変更
- 日本の治験の届出の件数
- 自己資本と借入の残高
倍率と資本コストの決め方
数量はモニターの工数(推定の人月)で実質に置き、賃金と物価は単価に入れた。AI エージェントの代替は工数の数量と寿命の上乗せの 2 か所で見て、確率と倍率の g では重ねて引いていない。中立の利益率は 6% で、過去 10 年の中央値 10% を下回る。k は 9.5%(赤字続きの上乗せ 1% を含む)で、ROE が k に届かない筋書きは PER を 1÷k 以下に置いた。今の PER や売上の倍率は見ていない。現金は預り金と前受金に見合うので余った現金に数えなかった。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.36→12.97 倍・やや楽観 PER 10→11.64 倍・中立 PER 10→10.9 倍)。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 1.0%。