結論
アルトナーは、自動車・半導体装置・精密機器メーカーに設計開発の技術者を派遣し、受託案件も担う会社である。筆者の結論は「割高」だ。利益を伸ばしてきた経営の質は認めるが、人の稼働時間を売る仕組みを十年後も同じ強さで値付けできるとは考えない。現在の時価総額約197億円は、技術者不足が長く続き、顧客が開発工数を今と同じように買い続けることへの期待を含む。
この会社の実力は小さくない。2026年1月期の売上高は120億円を超え、営業利益率は15%台、純利益は約13億円である。翌期も売上140億円を見込むが、その伸びが十年続くとは限らない。技術者単価の引き上げと高い稼働率で固定費を吸収し、過去十年以上の増収増益を積み上げてきた。配当も厚く、顧客が自動車の電動化や半導体装置の開発を急ぐ限り、必要とされる人材を確保する価値は残る。
ただし、売上のほぼすべては結局、人の時間と技能に対する対価である。AIエージェントが組み込みソフト、設計図面、試験文書を少人数で作れるようにすれば、顧客の研究開発予算が増えても派遣工数は減りうる。実機の評価や安全責任は残るが、現在の稼働者数をそのまま十年先へ延ばす根拠にはならない。
加えて、2025年に買収した二社は、単純合算の純利益より大きいのれん償却負担を抱える。今後は採用と値上げだけでなく、成果物を売る力へ転換できるかが分かれ目になる。五つの筋書きで事業価値と還元を割り引くと、現在の株価には十分な安全域が見えない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主が買っているのは、今日の技術者数より、十年後も繰り返し生まれる現金である。アルトナーはこの点で二つの顔を持つ。現場を知る技術者を育てて顧客へ送り込む能力は貴重で、採用費と研修費を回収した後の利益率も高い。半導体装置の実機評価や自動車の安全試験は、画面の中だけでは完結しない。
しかし、顧客が同じ成果を半分の工数で得られるようになったとき、派遣単価を二倍にする権利があるわけではない。今までの高いROEは、少ない純資産で多くの人月を売れた結果であり、独自の規格やデータを所有することで守られた利益ではない。AI導入を担う人材の需要増だけを強調し、失われる請求時間を無視するのは危険である。高い利益率が続く確率より、稼ぎ方自体が変わる確率を慎重に考える。
経営者の資本配分も厳しく点検する。増配は株主にとって実物の利益であり、手元資金を無目的に貯め込まない点を評価できる。一方、二件の買収は、稼いだ現金が高い買値でのれんに変わる局面を作った。買収先の人材が辞め、期待した取引の相乗効果が出なければ、帳簿上の自己資本は株主の安全を十分に守らない。
私が支払う値段を考えるなら、高ROEをそのまま永続させず、AIで請求工数が減った後の利益と、実際に配られる現金に注目する。会社が優良であることと、どんな価格でも長期保有にふさわしいことは別問題だ。派遣から成果物へ収益を変える証拠が積み上がるまでは、安全域を大きく要求する。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は技術者派遣である。ホンダをはじめとする完成車・部品メーカー、半導体製造装置、精密機器の開発拠点に技術者を配置し、稼働人数と稼働時間に応じて料金を受け取る。人材紹介の一回限りの成功報酬と違い、派遣先で働いている限り月々の売上が積み上がる。会社自身が重視する指標も、技術者数、稼働率、一時間当たり技術者単価、労働工数である。
2026年1月期の単体売上は、派遣が約103億円、請負・受託が約16億円、その他が約0.5億円である。全社を連結に切り替えた影響を含めた売上は約120.5億円となる。請負・受託は顧客の開発仕事をまとまりとして引き受け、協力会社への外注費と自社技術者の労務費を負担する。契約形態が派遣と違っても、成果報酬へ完全に転換したという開示はない。
技術領域は、組み込み・モデルベース設計、ITソリューション、電気電子、機械の四つにまたがる。ソフトウェア系の単体売上が約45%、電気電子・機械が約55%である。ただし機械の設計図面や電気回路の作図にも自動化余地があり、後者の全てがAIに守られるわけではない。反対に実機での耐久性評価、設備への適合確認、安全性の検証には、人の現場判断が残りやすい。
高稼働を維持する教育・研修と採用の仕組みが利益率を支える。2026年1月期は期末技術者1,315人、平均稼働率98.1%、平均単価4,713円/時、月164時間であった。契約社員の単純な頭数と年間の売上換算人年は一致しないため、数量モデルでは年間の請求相当人年に直す。二社の買収を経て連結期末技術者は1,452人となった。
優良さと弱いところ
経営の強みは、採用した技術者を遊ばせず、顧客が求める開発工程に配属する現場運営である。稼働率98%前後を長く維持しながら、付加価値の高い工程への配置換えで単価も上げてきた。売上が2015年の約43億円から約120億円に増え、営業利益率が一桁台から15%台に上がった実績は、営業の再現性を示している。過去十年のROE中央値も約23%と高く、運転設備の少ない事業の長所が表れている。
しかし、これは顧客を囲い込む独占的な堀ではない。技術者を引き抜き、配置先を変更することは競合にもできる。メイテック、アルプス技研、テクノプロ系、オープンアップ系などが同じ製造業の開発予算を争う。会社は値上げを実行してきたが、それは人手不足と個々の技術者の熟練が支えたもので、他社の参入を防ぐ価格決定権とは違う。
最大の長所は高い資本効率と現金創出である。2026年1月期の自己資本は約52億円、純現金は約37億円で、短期的な資金繰りには余裕がある。だが顧客上位十社への売上依存が約52%あり、製造業の研究開発投資が一斉に細れば配属を維持できない。2010年1月期には大幅な営業赤字を経験した事実も、好不況に関係なく安定して稼げる独占企業ではないことを物語る。
利益を再投資する場所にも注意したい。採用・研修への投資は比較的少額で高い利益を生んできたが、買収では事情が違う。取得子会社二社の直近単純合算利益は約0.8億円なのに、のれんの年間償却見込みは約1.5億円である。収益力の改善を証明するまでは、買収資本の増分利回りが資本コストを上回ると断言できない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
技術者派遣の市場は、会社が厚生労働省の統計をもとに推計した2025年ごろの規模で約1.2兆~1.5兆円である。大手製造業向けに限っても多数の派遣会社が競い、アルトナーの派遣売上約103億円は市場の約0.7~0.9%にすぎない。請負・受託も同じ開発予算から出るため、二つの市場を独立の需要として足し合わせるべきではない。小さなシェアは成長余地であるが、顧客が工数を削減する局面では守られた地位の弱さにもなる。
需要側では、ソフトウェア定義型自動車、車載半導体、電池制御、先進運転支援、半導体製造装置の高度化が開発案件を生む。国内の若手技術者不足も、熟練者の単価には追い風である。ホンダ、ニコン、レーザーテック、ボッシュなどの顧客群が研究開発費を維持できれば、派遣人数が伸び悩んでも高難度の仕事は残る。これは長期の業務需要を支える材料である。
一方、AIエージェントは図面の初稿、コード生成、テスト、設計変更の影響調査を安く速くする。顧客は成果物の総量を増やしても、外部から買う人月を減らせる。物理試作や規制上の責任者は消えないが、ソフトの開発だけでなく機械・電子の設計工数も削減対象になる。製造の現場作業員を供給する会社と異なり、設計技術者派遣には、知的労働の自動化を真正面から考える必要がある。
メイテックやアルプス技研は採用力と大企業への深い取引関係で競い、テクノプロ系やオープンアップ系は広い人材供給網を持つ。アルトナーは上流設計の比率を上げて単価を引き上げる戦い方だが、2030年に技術者2,250人という目標を達成するには採用市場でも勝たねばならない。前中計は技術者数の目標1,600人に対し実績1,251人であった。市場規模そのものの成長と、一社が実際に雇える人数を混同しないことが大切だ。
資本政策と M&A
資本政策は配当中心で、配当性向50%以上を基本とし、減配を避けながら増配する姿勢を示している。2022年1月期以降の配当性向はおおむね50~76%で、2026年1月期は約70%だった。2026年3月には約0.5億円の自社株買いも実施した。株式分割後の株数には実施済みの買い戻しを反映させ、十年間の還元には再度計上しない。
2030年1月期を最終年度とする中期経営計画は、連結売上高200億円、営業利益率15%、技術者2,250人以上、ROE20%以上、配当性向50%以上を掲げる。中計期間の資金配分は営業キャッシュフロー約88億円と負債活用約10億円を原資に、成長投資約48億円、株主還元約50億円である。DOEの下限、総還元性向の固定比率、将来の自社株買い額については数字の約束がない。
過去の設備投資は重くなかったが、2025年に組み込みソフトのクリップソフトと設計開発の情報技研を買収し、連結経営へ移った。両社の直近単純合算の売上は約12.8億円、純利益は約0.8億円で、取得に伴うのれんは約15.2億円ある。年間約1.5億円の償却を上回る成果を作れるかが資本配分の試金石だ。
会社は月商約三か月分を運転資金として確保する方針である。したがって純現金を丸ごと余剰資産とはみなさず、株主に戻る分だけ別に評価する。配当の実績から現金の戻り方は全額相当を認めるが、悲観の期間は減配もありうる。公開買付けや上場廃止の決定は確認されず、同業に買われる思惑を価値に加算しない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
設計開発の仕事は単純な資料作りではない。自動車の機能安全、組み込み制御、半導体装置の実機評価には、顧客の現場で試作し、失敗したときの原因を追える技術者が必要である。AIが普及すれば製造メーカーは研究開発の試行回数を増やし、むしろ実機と現場の技術者が足りなくなるかもしれない。アルトナーが高付加価値の上流工程へ移る戦略は、この変化に備えた合理的な手である。
会社は十二期連続の増収・営業増益を達成し、平均稼働率を98%台に保った。採用が難しい中でも時給単価を引き上げ、営業利益率は15%台に達した。技術者派遣全体で約1.2兆~1.5兆円の市場に対し、シェアはまだ1%未満である。大手メーカーとの取引実績が採用と受注の双方に効けば、競合から少しずつ仕事を取る余地は残っている。
現金は厚く、借金は限定的で、配当も十分である。クリップソフトと情報技研を迎えたことで、組み込みから設計検証までをまとめて受注できれば、顧客が買うものを人月から成果へ移せる。AIを使う技術者の質で差がつき、請負・受託の採算が改善すれば、高いROEを保ちながら成長する道はある。中計の高い採用目標も、需要だけを見るなら不可能ではない。
慎重な見方
収益構造を突き詰めれば、アルトナーの売上は依然として技術者の人数と請求時間の積である。すでにソフトウェア領域が単体売上の約45%を占め、残る機械や電気電子にも図面生成、試験自動化、設計変更の影響解析が多い。AIエージェントが開発作業の一部を代替すれば、顧客は研究開発予算を増やしながら外注工数を減らせる。値上げの実績だけでは、顧客の購買数量の落ち込みを補えない。
この会社には、独占規格や大量の契約データなど、競合と顧客を縛る資産がない。技術者は転職でき、顧客はメイテック、アルプス技研、他の技術者派遣会社や自社採用に切り替えられる。上位十社への売上集中が約52%ある中で、自動車産業が開発投資を削れば稼働率も単価も同時に下がる。過去の不況では大幅な赤字を経験しており、高稼働を常態として将来に延ばすのは危うい。
買収した二社は、単純合算利益では年間のれん償却約1.5億円を賄えない。人材の定着や共同受注が想定以下なら、買収資金を使った分だけ現金の防波堤が薄くなる。さらに、前中計は採用計画を約350人下回った。人材を大量に集めれば成長するという計画は、すでに一度つまずいている。企業そのものは残っても、株主が高い倍率を払える利益の寿命は短いかもしれない。
どちらに重みを置いたか
顧客の開発需要、長年の単価上昇、高稼働、厚い配当は強みであり、会社が十年後に不要になるとは考えない。ただ、派遣と受託の両方が人月・工数に依存し、独自データや規制基盤による二重の堀の証拠はない。中立ではAIによる工数削減を数量と長期成長率に織り込み、確率には重ねていない。下に寄せる理由は、上位顧客への集中、前中計の採用未達、のれんを伴う買収の採算という個別要因である。好業績企業として評価しても、現在の時価総額には株主が必要とする安全域が足りない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/01 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 723 円153 億円(+ 還元の換算額還元の合計 342 円72 億円)。 今の値に割り戻すと 600 円127 億円、今との差 −36.1%、 期待の年率 +1.5%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,438 円305 億円 | 543 円115 億円 | +111.1% | +9.3% | 158 円34 億円 |
| やや楽観 | 18% | 1,201 円255 億円 | 476 円101 億円 | +78.9% | +7.2% | 302 円64 億円 |
| 中立 | 34% | 835 円177 億円 | 377 円80 億円 | +29.2% | +3.1% | 412 円87 億円 |
| やや悲観 | 26% | 315 円67 億円 | 274 円58 億円 | −37.3% | −5.8% | 153 円32 億円 |
| 悲観 | 14% | 185 円39 億円 | 94 円20 億円 | −70.3% | −13.1% | 39 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 723 円153 億円 | 342 円72 億円 | +13.5% | +1.5% | 1,065 円226 億円 |
今の株価時価総額 938 円199 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% 実機開発とAI活用の両立 利益 20 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,438 円305 億円
設計現場の実機検証とAIの補助作業が分業し、顧客の研究開発案件はむしろ増える。半導体装置の立上げ、車載制御の安全確認、複雑な電気電子の評価では経験豊かな技術者の需要が続く。アルトナーは採用競争を乗り越えて大手企業の上流開発へ食い込み、全体の技術者市場で1%を超えるシェアを確保する。人工知能が仕事を効率化しても、派遣で請求できる実効人年を現在と同程度に維持する。
顧客との長年の開発実績で単価上昇を通し、十年間の累積上昇は物価並みに達する。クリップソフトと情報技研はグループ内で共同案件を獲得し、年間ののれん償却を補って余りある利益を生む。請負・受託は仕事の中身を高度化し、顧客が結果に払う比率も増える。利益率は十年前より高い水準を保ち、増配を続けながら研究開発の知見を人材育成へ還元できる。これは既存の高収益構造を最も長く守れた筋書きである。
- 技術者派遣:数量 1,137(年間請求相当の技術者人年(実効人年、推定))× 価格 0.12(実効人年当たり派遣売上高(億円/人年、名目))→ 売上 139 億円・営業利益 24 億円。AIを補助に使い実機評価の請求人年を維持。技術者派遣市場のシェアは高難度案件を中心にやや上昇。
- 請負・受託:数量 171(請負・受託に要する年間請求相当技術者人年(推定))× 価格 0.12(実効人年当たり請負売上高(億円/人年、名目))→ 売上 21 億円・営業利益 3 億円。請負も時間依存のままであり、数量は1.00倍が楽観上限。単価1.34倍。
- 取得子会社・その他:数量 147(連結認識期間に換算した年間実効人年(取得初年度の部分寄与、推定))× 価格 0.12(実効人年当たり売上高(億円/人年、名目))→ 売上 18 億円・営業利益 2 億円。取得子会社の実績通期化147実効人年を基準に数量1.00倍。買収初年度の短期連結とは比較しない。
倍率:資本コストk=7.25%、10年後の事業ROE約19.9%(純利益から余剰現金7億円への税後利息0.098億円を除いて算定)、moat=weakの残る割合1/3により増分資本利益率RONIC約11.5%。AIエージェント代替により2036年以降の名目g_long=0%とするので、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.7931倍。上限そのものを採用し、事業利益に掛けた後、余剰現金7億円(戻り方1.0)を加算する。今・過去・同業の市場PERを根拠としない。
確率:AIエージェントで工数が減る一方でも、上流・実機評価を中心に請求人年が減らず、買収の相乗効果も出る必要がある。実現余地はあるが連続成功の条件が厳しい。
やや楽観 18% 上流工程で踏みとどまる 利益 16 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,201 円255 億円
自動車の電動化や半導体装置の研究開発は継続し、熟練した設計者を確保する難しさも続く。企業はAIを開発環境に導入するが、実験設備や顧客ごとの複雑な仕様を扱う技術者までは一度に置き換えられない。アルトナーは上流工程の配属を増やすことでシェアを保ち、技術者派遣の請求人年は十年後も現在の九割にとどまる。請負・受託は工数の効率化が先に進むため、数量は現在の85%程度となる。
実機に近い高付加価値の業務には物価相当の値上げをおおむね通す。取得した子会社は通期寄与を織り込んだ後、開発案件を維持し、買収関連費用は売上で吸収されていく。採用人数は会社計画を下回るものの、質を高めることで営業利益率の低下を抑える。配当原資も増えるが、顧客が直接AIを使う分だけ、過去十年のような稼働人数の急増は期待できない。
- 技術者派遣:数量 1,023(年間請求相当の技術者人年(実効人年、推定))× 価格 0.12(実効人年当たり派遣売上高(億円/人年、名目))→ 売上 124 億円・営業利益 19 億円。工数0.90倍、単価1.33倍。現場・上流への配属で需要の減少を抑える。
- 請負・受託:数量 145(請負・受託に要する年間請求相当技術者人年(推定))× 価格 0.12(実効人年当たり請負売上高(億円/人年、名目))→ 売上 18 億円・営業利益 3 億円。工数0.85倍、単価1.33倍。価値の高い案件に集中。
- 取得子会社・その他:数量 125(連結認識期間に換算した年間実効人年(取得初年度の部分寄与、推定))× 価格 0.12(実効人年当たり売上高(億円/人年、名目))→ 売上 15 億円・営業利益 2 億円。買収子会社の通期化数量に対して約0.85倍。物価近い単価を維持。
倍率:資本コストk=7.25%、10年後の事業ROE約16.9%(純利益から余剰現金7億円への税後利息0.098億円を除いて算定)、moat=weakの残る割合1/3により増分資本利益率RONIC約10.5%。AIエージェント代替により2036年以降の名目g_long=0%とするので、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.7931倍。上限そのものを採用し、事業利益に掛けた後、余剰現金7億円(戻り方1.0)を加算する。今・過去・同業の市場PERを根拠としない。
確率:既存顧客の製品開発と実験の需要、単価上昇の実績が支える。他方、工数縮小をほぼ吸収するだけの新規案件獲得は当然ではない。
中立 34% 自動化で請求工数が減る 利益 10 億円 · PER 13.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 835 円177 億円
自動車の電子化と半導体装置の複雑化で設計需要は残る。しかし、AIエージェントがコード、図面、試験表、設計変更の影響調査を肩代わりし、顧客は同じ開発成果に必要な外部技術者の工数を徐々に減らす。派遣の実効請求人年は現在の72%、請負・受託は62%となる。会社が掲げる採用目標の達成や市場シェア拡大を、数量の伸びの根拠にはしない。
高付加価値領域では価格交渉力を維持し、派遣単価は十年間で約32%上がる。受託の価格には顧客の自動化効果が一部転嫁され、物価上昇に少し届かない。二社の取得会社は通期連結の規模を基準にしても仕事量が細り、のれん償却と販管費が重荷になる。景気の谷を過度に長引かせない一方、営業利益率は過去の高水準から正常化する。人材への再投資は続くがROEは過去十年の中央値を下回り、配当額も業績に応じて緩やかに縮む。
- 技術者派遣:数量 819(年間請求相当の技術者人年(実効人年、推定))× 価格 0.12(実効人年当たり派遣売上高(億円/人年、名目))→ 売上 98 億円・営業利益 13 億円。AIエージェント代替で人月数量0.72倍、単価は賃上げに伴い1.32倍。
- 請負・受託:数量 106(請負・受託に要する年間請求相当技術者人年(推定))× 価格 0.12(実効人年当たり請負売上高(億円/人年、名目))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。成果報酬化の証拠がなくAIエージェント代替の人月型。数量0.62倍、単価1.28倍。
- 取得子会社・その他:数量 95.6(連結認識期間に換算した年間実効人年(取得初年度の部分寄与、推定))× 価格 0.12(実効人年当たり売上高(億円/人年、名目))→ 売上 11 億円・営業利益 1 億円。買収子会社の通期化数量147に対して0.65倍。2026年の16.5からの増加は会計上の連結期間差。
倍率:資本コストk=7.25%、10年後の事業ROE約11.8%(純利益から余剰現金7億円への税後利息0.098億円を除いて算定)、moat=weakの残る割合1/3により増分資本利益率RONIC約8.8%。AIエージェント代替により2036年以降の名目g_long=0%とするので、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.7931倍。上限そのものを採用し、事業利益に掛けた後、余剰現金7億円(戻り方1.0)を加算する。今・過去・同業の市場PERを根拠としない。
確率:派遣は実効人年0.72倍、受託0.62倍でAIエージェントによる開発工数の縮小を数量に織り込み、値上げも一部通す。会社計画の人数増を外挿せず、実機需要も消えない中間像。
やや悲観 26% 顧客の内製化で仕事が薄くなる 利益 4 億円 · PER 10.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 315 円67 億円
顧客企業がAIエージェントを設計標準に取り込み、外部技術者の仕事をまず日常的なコード改修や図面作成から減らす。電気電子・機械の開発でも試験計画やシミュレーションの自動化が進み、残るのは実機への適用と事故責任に近い少人数の仕事である。派遣の請求人年は現在の53%、請負・受託は47%に縮む。大手メーカーの内製化と競合の価格競争で新卒採用が重荷になり、稼働率が落ちる。
物価が上がっても、顧客は短時間で終わる作業の値上げを全額は認めない。受託案件は協力会社の外注費が残り、採算が薄くなる。買収した二社は人材の離職と顧客の重複で相乗効果を出せず、営業利益率は一桁まで低下する。配当はそれまでの積み上げを含むが、新しい利益の縮みに合わせて引き下げざるをえない。営業は黒字を保っても、資本コストに見合う利益を生めなくなる。
- 技術者派遣:数量 603(年間請求相当の技術者人年(実効人年、推定))× 価格 0.11(実効人年当たり派遣売上高(億円/人年、名目))→ 売上 65 億円・営業利益 6 億円。顧客内製化・AIで数量0.53倍、単価1.19倍。派遣先の採用選別が強まる。
- 請負・受託:数量 80.4(請負・受託に要する年間請求相当技術者人年(推定))× 価格 0.11(実効人年当たり請負売上高(億円/人年、名目))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。数量0.47倍、単価1.18倍。外注費負担に対して稼ぎが薄い。
- 取得子会社・その他:数量 66.2(連結認識期間に換算した年間実効人年(取得初年度の部分寄与、推定))× 価格 0.11(実効人年当たり売上高(億円/人年、名目))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。買収子会社の通期化数量147に対して0.45倍。人材流出で相乗効果が弱い。
倍率:純利益4.4億円、自己資本79.2億円でROE約5.6%と資本コスト7.25%を下回る。10年以降のg_longはAIエージェント代替により名目0%。稼ぐ力の上限1÷7.25%=13.79倍以下とし、弱い受注構造を反映する10.2倍。余剰現金は7億円の75%の5.25億円とし、帰属利息1.4%の重複を除く。
確率:下に寄せる理由:顧客上位十社への売上依存約52%、前中計の採用目標未達に加え、二社買収ののれん償却が独立利益を超えることが個別の下振れ材料。AI縮小の重ね引きではない。
悲観 14% 人月型の稼ぎ方が壊れる 利益 −3 億円 · PBR 0.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 185 円39 億円
設計補助の大部分がAIエージェントとメーカー内製の開発基盤に置き換わる。自動車完成メーカーと半導体装置メーカーは、外注先の熟練者だけを少数残し、定型的な組み込み・図面・評価文書の派遣を大量に解約する。派遣の請求人年は現在の32%、請負・受託は30%まで落ち込む。設計開発の発注市場が縮む中で、アルトナーは他社からシェアを奪えず、価格も物価を十分に転嫁できない。
社員を抱える固定費と研修拠点の維持費は急には減らせない。採用を絞り、再配置と退職対応の費用を負担しても、技術者の高稼働は戻らない。クリップソフトと情報技研の買収に伴うのれんは価値を失い、減損・償却の負担が生じる。配当は大幅に細り、かつての高ROE企業ではなくなる。事業の純利益が赤字に転じるため、残る純現金と換価可能な資産を守りの物差しとする。ただし少数株主がすぐに会社を清算できるわけではなく、額面の全てが直ちに受け取れるとは限らない。
- 技術者派遣:数量 364(年間請求相当の技術者人年(実効人年、推定))× 価格 0.10(実効人年当たり派遣売上高(億円/人年、名目))→ 売上 36 億円・営業利益 0 億円。外注時間0.32倍、単価1.10倍。固定費は迅速には削れず部門採算は均衡。
- 請負・受託:数量 51.3(請負・受託に要する年間請求相当技術者人年(推定))× 価格 0.10(実効人年当たり請負売上高(億円/人年、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。数量0.30倍、単価1.05倍。赤字の受託契約が残る。
- 取得子会社・その他:数量 44.1(連結認識期間に換算した年間実効人年(取得初年度の部分寄与、推定))× 価格 0.10(実効人年当たり売上高(億円/人年、名目))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。買収子会社の通期化数量147に対して0.30倍。のれん減損を検討。
倍率:最悪期の構造的赤字ではPERを使えない。現在の自己資本52.2億円からのれん15.19億円を除いた有形純資産約37.0億円を悲観床とする。PBRは将来自己資本ではなく現在の52.2億円に対して0.75倍、39.15億円とし、資産床37.0億円を上回る。過去の株価や市場PBRから決めていない。
確率:下に寄せる理由:自動車・半導体関連の大口顧客に集中し、採用と買収で拡大した費用が解約後にも残る。十年で利益が赤字になる構造的敗北の低頻度だが無視できない事例。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
技術者派遣
自動車・半導体製造装置などの開発現場へ技術者を派遣し、稼働時間と時間単価で稼ぐ主力事業。
| 数量年間請求相当の技術者人年(実効人年、推定) | 価格実効人年当たり派遣売上高(億円/人年、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 1,137 | 0.09 | 103 | 17 |
| 10 年後 中立 | 819 | 0.12 | 98 | 13 |
取り方:2026年1月期の単体事業別売上高103.43億円は会社のセグメント情報。平均単価4,713円/時、月164時間、稼働率98.1%(会社の「売上構成要素」https://www.artner.co.jp/ir/individual/element/ )から一人年当たり4,713×164×12×0.981÷1億=0.09099億円と推計し、103.43億円÷年額=約1,137実効人年と算出した。期末在籍1,315人とは異なる。会社推計の技術者派遣市場1.2~1.5兆円に対し同社の派遣売上の比は0.69~0.86%(2025年度統合報告書の同社シェア推定0.7~0.9%と整合)。会社が事業別営業利益を公表していないため16.8億円は派遣稼働の高粗利を前提とする分析上の配分推定であり開示値ではない。AIエージェント代替は人月型。
請負・受託
開発工程や設計成果物の仕事をまとめて受け、社内技術者の人件費と協力会社外注費を負担する。
| 数量請負・受託に要する年間請求相当技術者人年(推定) | 価格実効人年当たり請負売上高(億円/人年、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 171 | 0.09 | 16 | 2 |
| 10 年後 中立 | 106 | 0.12 | 12 | 1 |
取り方:2026年1月期単体の請負・受託売上15.57億円は会社開示。案件数・契約単価・専任技術者数の別掲がないため、会社全体の平均4,713円/時×164時間/月×12か月×稼働率98.1%の実効単価を仮に共通として約171人年を逆算した。したがって契約数や実人数と同一視できず、請負の外注費を含むことで単価に推定誤差がある。研究開発の発注予算は派遣市場と重複し、独立した市場規模や厳密なシェアを資料から確定できない。15.57億円は技術者派遣市場の約0.10~0.13%に相当する参考比率にすぎない。営業利益2.35億円も推定配分。AIエージェント代替は人月・工数型で、成果報酬化を証明する金額開示は未確認。
取得子会社・その他
2025年に取得したクリップソフトと情報技研、および親会社その他売上を合わせる。初年度は連結範囲に入った期間が短い。
| 数量連結認識期間に換算した年間実効人年(取得初年度の部分寄与、推定) | 価格実効人年当たり売上高(億円/人年、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 16.5 | 0.09 | 2 | −1 |
| 10 年後 中立 | 95.6 | 0.12 | 11 | 1 |
取り方:全社連結売上120.5億円から、親会社の技術者派遣103.43億円と請負受託15.57億円を控除した残差1.5億円。親会社その他0.53億円と、短期連結したクリップソフト等の売上が混在する。全社の時間単価から16.5実効人年を逆算したが、買収先の実人数開示ではない。両子会社の独立直近通期売上の単純合算は2.79+10.05=12.84億円、これに親会社その他0.53億円を足した13.37億円を10年比較用の通期平準化起点とし、13.37÷0.090909≒147実効人年とした。将来の147人年への見かけの増加は買収の初年度連結月数差であり事業数量増ではない。営業利益−0.95億円は買収のれん償却・連結調整負担を含めた分析上の暫定配分で、会社が事業別営業利益を発表したものではない。AIエージェント代替は同じく人月型。
リスクと懸念
AIエージェント代替による請求工数の減少
設計図面、コード、試験計画、仕様変更の影響解析などが自動化されれば、顧客は研究開発費を維持しても人月を減らせる。単体売上の約45%を占めるソフト領域だけでなく、機械・電気電子の設計業務も対象になる。技術者派遣と請負受託の両方が時間型のままであり、案件数の増加が売上増に直結しなくなる。中立の数量と長期成長率に既に織り込むため、同じ危険を資本コストの寿命項目へ重ねていない。
大口顧客と自動車開発投資への集中
単体売上の約44%が輸送用機器向けであり、顧客上位十社が売上の約52%を占める。ホンダや関連する部品企業が次世代車の開発を内製化したり、設備投資と研究開発を同時に減らしたりすれば、待機する技術者の給与が利益を圧迫する。受注先を分散することは可能でも、採用済みの人員を短期間で別の開発工程に適応させるには費用がかかる。
採用競争の長期化と人件費先行
前中期計画では技術者1,600人の目標に対し実績が1,251人にとどまった。次の計画は2030年に連結2,250人以上を目指すが、人口減少に伴う採用難、初任給の上昇、研修費、離職率が利益の制約になる。採れないと売上を伸ばせず、無理に採ると未配属者の給与と採用広告費が先行する。AI環境への再教育が追加で必要になれば、粗利はさらに薄くなる。
買収のれんと増分投資採算
2025年に取得したクリップソフトと情報技研ののれんは合計約15.2億円で、年間償却は約1.5億円となる。買収先二社の独立直近期の純利益は合計約0.8億円にすぎず、既存の親会社と合わせて相乗効果を作る前提である。人材が退職し、顧客の開発案件が重複すれば、当初見込んだ回収期間が延びる。悲観時にはのれんを換価資産の床から全額除く。
派遣・請負の法規制と偽装請負対応
派遣法に基づく許可、均等待遇、労働時間管理、顧客と受託側の指揮命令の分離などを守る必要がある。請負へのシフトを急ぎ、実態が派遣とみなされれば、取引形態の是正や管理コスト増が発生しうる。新しい規制や社会保険負担を単価へ転嫁できなければ、低い資本集約度でも営業利益率は維持できない。法令対応力だけで顧客を長期拘束する堀があるとは考えない。
高配当と事業転換投資の両立
配当性向は直近で約70%と厚い。会社は中計期間に約50億円の株主還元と約48億円の成長投資を想定するが、AIの普及で工数収入が減ると双方の原資が縮む。減配回避へのこだわりが投資不足を招く場合も、利益以上に配当を維持して現金を減らす場合も株主価値を傷つける。現在の純現金を全額余剰資産とみなさず、三か月分の給与・運転資金を確保する必要がある。
今後の分かれ目
- 技術者単価が毎年上がり、実効請求人年も数年続けて増加したら
- 実機・上流開発の需要がAIによる工数削減を吸収している証拠になる。楽観側の数量前提を引き上げ、派遣市場でのシェア獲得が実現しているか確認する。
- 会社が人月と切り離した成果物単価での請負売上と継続受注額を開示したら
- 成果報酬への転換実績が金額で確認できる部分のみ、人月型の数量減少前提を緩める。専有データや規制基盤まで伴わなければ長期の堀を直ちに強いとはしない。
- ソフトウェア領域の技術者数が増えても請求工数が減り始めたら
- AIエージェント代替が顧客への請求単位を侵食しているとみなし、まず派遣数量と請負の採算を下方修正する。単価上昇だけで売上を補えるかを分けて検証する。
- 買収子会社の経常利益が年間のれん償却約1.5億円を継続的に超えたら
- 買収資本の増分利回りへの懸念を緩め、連結費用の配分とROEを見直す。逆に人材流出や減損が判明すれば下方の資産床と確率を見直す。
- 2030年の2,250人目標に近づく一方で稼働率が大きく低下したら
- 採用の質より量を優先した副作用と判断する。派遣の実効人年と採用費・待機給与の増加を反映し、利益率を下げる。
- 顧客上位十社への依存度が下がり、半導体装置・医療機器・産業設備へ取引が分散したら
- 自動車の開発投資に連動する循環リスクを緩める。価格決定力の証拠にはしないが、悲観シナリオの単一業種集中による下落余地を縮める。
見ておくもの
- 四半期の技術者数、稼働率、平均時間単価、平均月間工数の四指標と、それらから逆算する実効人年
- 技術者派遣103億円と請負・受託16億円の売上構成、請負案件の成果物課金比率と営業採算
- ソフトウェア系の売上比率および実機検証・機械電気系の外注人月の推移
- ホンダ関連を含む上位十社の売上構成と自動車向け構成比、半導体装置向け受注
- クリップソフトと情報技研の通期連結売上・営業利益、のれん償却1.5億円と減損の有無
- 2030年中計の技術者2,250人、営業利益率15%、ROE20%、配当性向50%以上の進捗
- 会社の保有現金対月商三か月分、借入残高、増配と買収の資本配分
倍率と資本コストの決め方
出発点は2026年1月期の連結売上120.5億円、営業利益18.2億円、純利益12.6億円、自己資本52.2億円で、価格と株数は添付factsの2026年10月19日基準を用いた。部門の実効請求人年は時間単価・工数・稼働率から計算し、取得子会社は連結期間の短さを通期化して比較した。中立の数量は人月型のAIエージェント代替の規則から派遣0.72倍、請負0.62倍、子会社の通期量0.65倍とし、名目価格は物価と顧客の値下げ圧力を分けた。十年より先の名目成長はゼロとし、kの寿命に重ねなかった。PERはkとRONICの式から導き、現在・過去・同業の市場PERへ寄せていない。悲観の帳簿床からのれんを全額除き、成長・還元・借入の二重計上を避ける。日本基準の新リース会計による表示変更は採用後も家賃を費用とする同じ経済実態で比べる。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。