結論
プラスアルファ・コンサルティングは、人事データを一か所に集めて分析する「タレントパレット」で稼ぐ会社だ。売上の約 8 割がこの人事向けクラウドで、営業利益率は 4 割に近い。解約は月 0.4% 前後と極めて低い。
筆者は、この事業の質は高いと見る。顧客は従業員数千人規模の大企業が中心で、一度入れると乗り換えにくい。価格改定を通しながら顧客も増やしてきた。借金は無く、純現金が積み上がっている。
懸念は 2 つある。人事システムの大手と、生成 AI が同じ領域に入ってくることだ。さらに 2026 年 7 月、ラクスが議決権の 22% を持つ株主になった。経営の独立性は尊重される約束だが、将来の再編の火種ではある。
10 年の中立は、顧客が 1.8 倍、1 社あたりの売上が 1.45 倍になり、純利益が今の 2 倍弱になる姿だ。強気は大手を押し返して伸び続ける姿、悲観は AI と大手の機能に市場を奪われる姿である。確率で重ねた本質価値は、今の時価総額を 1 割弱下回った。筆者は適正圏と見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見たい点は 3 つある。
1 つ目は、事業が 10 年後も残るか。人事データを預かる月額課金の事業で、解約が極めて少ない。残る可能性は高い。ただ競合は大手で、生成 AI という新しい敵もいる。堀は狭くないが、広がるとは言い切れない。
2 つ目は、稼いだ現金の使い道だ。利益のほとんどが設備投資なしで手元に残る。配当で戻すか、有望な買収に使うか。過去の買収は成功とは言えない。配当方針が改まったことは評価できる。
3 つ目は、払う値段に安全域があるか。強気の 10 年なら、価値は今の 2 倍を超える。一方、AI と大手に侵食されると、今の値段の 2 割を切るところまで落ちうる。上下の幅が広く、先を読みやすい事業とは言えない。
オーナーとして持ちたい事業だと筆者は思う。ただ、値段が適正圏にある以上、安全域は薄い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、人事向けクラウド「タレントパレット」だ。社員のスキル・評価・異動・サーベイなどのデータを一つにまとめ、配置や育成、離職予防の分析に使う。契約は月額課金で、期末の月額収入は 9 億円を超える。顧客は 2,000 社を超えた。
大企業に強い。従業員 5,000 名超の企業が継続収入の約 3 割を占め、1,000 名超まで広げると 7 割を超える。大企業ほど必要な機能が多く、オプションも増えるので、1 社あたりの単価が伸びた。直近は価格改定とオプションで単価が約 14% 上がった。
もう 1 つの柱が、口コミや問い合わせの文章を分析する「見える化エンジン」などのマーケティング事業だ。売上は 38 億円ほどで、人事向けの約 3 割。ただ顧客は小さな会社を中心に減っており、成長は止まっている。
ここに人事コンサルが加わる。件数は前年の倍近くまで増え、ツールを入れたあとの運用を支える役になった。コンサルを使う顧客は約 450 社で、まだ 1 割にとどまる。伸ばす余地がある。
販売の形も変わってきた。マイナビとの OEM(他社ブランドでの提供)、ラクスとの提携で、他社の顧客網を使い始めた。小規模企業向けの入り口は他社に任せ、自社は大企業に集中する分担だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、人事データの蓄積と乗り換えの重さにある。一度入れると、評価や異動の履歴、独自の分析画面が積み上がる。解約率は月 0.36% で、年に直すと 4% ほどだ。
値決め力もある。価格改定を通したあとも解約は増えなかった。単価の上昇のうち約半分が値上げで、残りがオプションと上位プランへの移行だ。
資本効率は高い。営業利益率は 37%、直近 5 年の ROE の中央値は 28%。借金はなく、自己資本比率は 79%。大きな設備はいらず、稼いだ現金がそのまま残る。
弱みは 3 つある。1 つ目は、事業が人事向けの 1 本足に近いこと。2 つ目は、競合が強いこと(後述)。3 つ目は買収の実績だ。2024 年に連結に入れた子会社のうち 2 社ののれんを、2025 年 9 月期に 11.5 億円減損した。買収の目利きは、まだ信頼を置けない。
マーケティング事業は解約が月 1.3% と高く、顧客が減っている。堀は人事の側にだけあると見るべきだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の人事システムは、労務・給与の手続き系と、人材を活かすタレントマネジメント系に分かれる。タレントパレットは後者だ。人的資本の開示が始まり、人材を数字で管理する需要が続いている。調査会社は、この市場が 2030 年まで年 12% ほど伸びると見る。
競合を並べて市場の大きさを見積もる。カオナビの継続収入は約 93 億円(2025 年 3 月期)。タレントパレットの人事向けの継続収入は 110 億円ほどだ。ここに SmartHR、Workday、SAP、ミイダス、HRBrain などが加わる。主要な数社を足して 500 億円前後、周辺を含めて 1,000 億円規模と筆者は推定する。タレントパレットのシェアは 1 割強になる。
競争は 2 層だ。大企業では SAP SuccessFactors や Workday などの海外勢と、国産の人事基幹システムが相手になる。中堅ではカオナビと SmartHR が手強い。SmartHR は 2030 年に売上 1,000 億円を掲げ、タレントマネジメントを強めている。労務の入り口から人事の全領域へ広げる戦略で、PAC の顧客層に近づいてくる。
生成 AI の影響は両面がある。分析や画面づくりの手間は下がるので、機能の差が縮み、価格競争になるおそれがある。逆に、人事データを抱える会社が AI を載せる強みも増す。PAC は 2026 年に AI エージェントを製品に組み込んだ。
10 年後の市場は、名目で 2.5 倍の 2,500 億円前後と置く。タレントパレットが 14% 前後を取れば、人事向けの売上は 350 億円ほどになる。
資本政策と M&A
還元は強まっている。2026 年 5 月に配当方針を改め、配当性向 40% と純資産配当率(DOE)8% の高い方を目安にした。2026 年 9 月期の期末配当は期初の計画から増やし、配当性向は 4 割ほどになる見込みだ。自己株式(発行済みの約 1%)は 2025 年 11 月に消却を決めた。
純現金は 146 億円で、時価総額の 15% に当たる。使い道は M&A と還元の 2 つだ。経営計画は M&A を成長手段に挙げるが、これまでの買収は減損が出ており、筆者は大型の買収を前向きには見ない。
株主の動きが大きい。2026 年 5〜6 月に香港のオアシスが 16% 超を取得して筆頭株主になった。7 月にそのすべてをラクスが 231 億円で引き取り、ラクスは議決権の 22% を持つ持分法適用の関連会社とした。ラクスは経営の独立性を尊重し、事前の承諾なしに買い増さないと約束している。TOB(株式公開買付け)は当面ない。ただ 10 年の間に、ラクスとの統合や再編が起きる余地は残る。
三室克哉社長の持株は、上場時の 3 割台から 12% まで下がった。社長の支配が薄れ、外部の株主が経営に口を出しやすい構図になっている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
人事データのクラウドは、入れると外せない事業だ。解約は月 0.36% で、3 四半期のあいだ変わらない。顧客は大企業が中心で、5,000 名超の企業だけで継続収入の約 3 割を占める。この層は機能も予算も大きく、単価が毎年上がっている。
成長の余地は大きい。コンサルを使う顧客はまだ約 1 割で、使う会社は継続して買う。AI エージェントの搭載で、分析の作業はさらに楽になり、人事部の依存は強まる。マイナビとラクスの提携で、小さな会社向けの売り口も開いた。
利益の質も高い。営業利益率は 4 割に近く、人事向けは 5 割を超える。借金は無く、現金は積み上がる。配当の目安が DOE 8% になり、現金は株主に戻る。
ラクスが 22% の株主になった意味も大きい。ラクスは中小企業向けのクラウドで大きな顧客網を持つ。2 社の人事の商品が組み合わされば、大企業から中小企業までを面で押さえられる。中期計画の売上 285 億円(2029 年 9 月期)を超え、10 年後に 600 億円規模になる道が見える。
慎重な見方
人事システムは、大手が束ねる市場に向かっている。SmartHR は労務の入り口から人事全体へ広げ、2030 年に売上 1,000 億円を狙う。SAP と Workday は大企業の基幹に食い込む。PAC は、そのすき間で伸びているにすぎない。
生成 AI は、PAC の付加価値をいちばん直接に削る。分析の画面や集計は、対話で作れる時代になる。そうなると、高い月額を払う理由が弱くなる。価格改定の余地が消え、単価は物価にも届かなくなるおそれがある。
拡大の質にも疑問がある。直近の買収で 11.5 億円を減損した。マーケティング事業は顧客が減り続けている。人事の顧客の増加には OEM 経由が混ざり、小口が増えて平均の単価を薄める。
株主の構図も不安定だ。オアシスが抜け、ラクスが 22% を持った。市場は還元強化の期待が後退したと受け止め、株価は急落した。ラクスの意向しだいで、少数株主に不利な再編が起きる余地もある。
利益率は 4 割に近いが、人件費は物価で上がる。値上げが止まれば、利益率は 10 年で 3 割を切る。
どちらに重みを置いたか
事業の質は強気の言い分が強い。解約の低さと価格改定の通過は、競合の中でも珍しい実績だ。ただ、生成 AI と大手の機能という脅威は、まだ試されていない。
そこで確率は、中立に 3 分の 1 を置き、残りを悲観側へやや寄せた(悲観側 40%、楽観側 27%)。10 年は長く、技術の置き換えが起きやすい。買収と少数株主の扱いにも不安が残る。結果として、本質価値は今の時価総額を 1 割弱下回る適正圏に収まった。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 4,604 円1,931 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 751 円315 億円)。 今の値に割り戻すと 2,699 円1,132 億円、今との差 +16.3%、 期待の年率 +8.7%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 10,593 円4,444 億円 | 1,235 円518 億円 | +409.6% | +17.7% | 828 円347 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,742 円3,248 億円 | 982 円412 億円 | +275.9% | +14.2% | 1,745 円732 億円 |
| 中立 | 33% | 5,560 円2,333 億円 | 803 円337 億円 | +174.2% | +10.6% | 2,100 円881 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,649 円692 億円 | 613 円257 億円 | −2.6% | −0.3% | 611 円256 億円 |
| 悲観 | 13% | 261 円110 億円 | 286 円120 億円 | −76.4% | −13.5% | 71 円30 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,604 円1,931 億円 | 751 円315 億円 | +130.7% | +8.7% | 5,355 円2,246 億円 |
今の株価時価総額 2,321 円974 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 大手を押し返し、人事の標準の一つになる 10 年 利益 177 億円 · PER 24.6 倍 · 株価時価総額 10,593 円4,444 億円
タレントパレットは大企業の標準的な人事データ基盤の一つになる。5,000 名超の顧客が増え、AI エージェントとコンサルが一体で売れて、1 社あたりの売上は 1.65 倍に伸びる。顧客数は 5,200 社まで増える。マイナビやラクスなど他社の販売網を通じて、中堅・中小企業にも広がる。
マーケティング事業は AI を使った新製品で顧客減が止まり、小さく伸びる。利益率は人事向けで 5 割を保つ。買収は人事の周辺に絞って成功し、のれんの減損は出ない。配当は DOE 8% を下限に厚くなり、積み上がった現金の多くが株主に戻る。会社が掲げる売上 300 億円・営業利益 100 億円の先に、10 年後は売上 600 億円規模まで届く最善の道である。
- 人事向けソリューション(タレントパレット・人事コンサル):数量 5,200(顧客数(社、期末))× 価格 1,088(1 社あたり年間売上(万円。継続収入とコンサルを含む))→ 売上 566 億円・営業利益 283 億円。顧客 5,200 社 × 1 社あたり 1,088 万円(1.65 倍)。大企業の比率上昇と AI・コンサルの追加で単価が物価を上回って伸びる
- マーケティング向けソリューション(見える化エンジンなど):数量 800(顧客数(社、期末の推定))× 価格 793(1 社あたり年間売上(万円))→ 売上 64 億円・営業利益 27 億円。顧客 800 社に反転、AI の新製品で単価 1.55 倍
倍率:事業の純利益 176 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 96.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 52.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 24.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 24.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)50 億円。全体の PER 24.62 倍、時価総額 4,383 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:大手の機能追加と生成 AI の両方をはね返し、顧客も単価も伸ばし続ける連続成功が要る。会社の中期計画の延長線上にあるが、競合が強く、10 年続く確度は高くない。
やや楽観 20% 会社の計画をおおむね満たし、人事向けが 2 倍半になる 10 年 利益 130 億円 · PER 24.5 倍 · 株価時価総額 7,742 円3,248 億円
中期計画をほぼ達成し、そのあとも大企業の需要に沿って伸びる。顧客は 4,400 社、1 社あたりの売上は 1.52 倍になる。競合に押される場面はあるが、大企業の顧客基盤とコンサルで単価を保つ。
マーケティング事業は下げ止まり、横ばいから小さな伸びになる。人事向けの利益率は 48% で、会社の今の水準に近い高さを保つ。AI エージェントとコンサルの追加で、1 社が払う額は着実に増える。買収は小さな案件が中心で、減損は限られる。配当は方針どおり厚く出し、現金の多くは戻る。堅実に伸びるが、大手を押し返すほどの勢いは出ない。会社の言う売上 300 億円・営業利益 100 億円には 10 年のうちに届き、そのあとも緩やかに伸びる、良い方の 10 年だ。ラクスとの関係は穏やかに続く。
- 人事向けソリューション(タレントパレット・人事コンサル):数量 4,400(顧客数(社、期末))× 価格 1,003(1 社あたり年間売上(万円。継続収入とコンサルを含む))→ 売上 441 億円・営業利益 212 億円。顧客 4,400 社 × 1 社あたり 1,003 万円(1.52 倍)
- マーケティング向けソリューション(見える化エンジンなど):数量 700(顧客数(社、期末の推定))× 価格 742(1 社あたり年間売上(万円))→ 売上 52 億円・営業利益 21 億円。顧客 700 社で下げ止まり、単価 1.45 倍
倍率:事業の純利益 128 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 89.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 48.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 24.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 24.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)50 億円。全体の PER 24.47 倍、時価総額 3,192 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:解約の低さと価格改定の実績が続けば無理のない筋書き。ただ会社の計画(2029 年 9 月期の売上 285 億円)にいくらか届かない程度の、やや緩い想定にした。
中立 33% 顧客は 1.8 倍、単価は物価をやや上回る。堅実だが急がない 10 年 利益 95 億円 · PER 23.9 倍 · 株価時価総額 5,560 円2,333 億円
人事向けの顧客は 3,600 社に増える。年 6% ほどの伸びで、直近の 10% 台からは落ちる。1 社あたりの売上は 1.45 倍。物価の 1.34 倍に、大企業の比率の上昇とオプションの分が少し乗る。タレントパレットは 14% 前後のシェアを保つ。
SmartHR などの攻勢で、小口の顧客は取りにくくなる。AI で分析の差が縮み、人事向けの利益率は今の 4 割台後半から 46% へ緩む。マーケティング事業は顧客が 620 社まで減り、売上は横ばいに近い。
本社費が膨らみ、全体の営業利益率は 34% になる。買収は小さな案件にとどまり、配当は性向 4 割台で出る。ラクスは 2 割の株主のまま独立を尊重する。大きく外れず、しかし急がない、平凡に良い 10 年だ。
- 人事向けソリューション(タレントパレット・人事コンサル):数量 3,600(顧客数(社、期末))× 価格 956(1 社あたり年間売上(万円。継続収入とコンサルを含む))→ 売上 344 億円・営業利益 158 億円。顧客 3,600 社 × 1 社あたり 956 万円(1.45 倍)。市場 2,500 億円 × シェア約 14% とも整合
- マーケティング向けソリューション(見える化エンジンなど):数量 620(顧客数(社、期末の推定))× 価格 722(1 社あたり年間売上(万円))→ 売上 45 億円・営業利益 17 億円。顧客 620 社まで減少、単価 1.41 倍
倍率:事業の純利益 94 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 68.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 38.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 23.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 23.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)50 億円。全体の PER 23.86 倍、時価総額 2,283 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:最も重みを置く筋書き。競合は強いが、解約の低さと価格改定の通過という実績があり、顧客も年 6% 程度のペースなら伸びる。強気・慎重の言い分の落としどころ。
やや悲観 27% 大手と AI に押され、単価が物価に届かない 10 年 利益 56 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,649 円692 億円
SmartHR と海外の大手が、タレントマネジメントの機能を標準で付け始める。タレントパレットの新規は鈍り、顧客は 3,000 社にとどまる。単価は値上げが通りにくくなり、1.30 倍と物価に届かない。OEM 経由の小口が増え、平均単価も薄まる。
AI で分析画面の差が縮み、大企業でも自前の分析に切り替える動きが出る。人事向けの利益率は 40% に下がる。マーケティング事業は顧客が 500 社まで減り、利益率も 3 割に落ちる。人件費は物価で上がるので、本社費の負担は重くなる。
営業利益は今の 75 億円(会社予想)前後から伸びない。買収に使った現金が一部失われ、配当は DOE の下限にとどまる。事業は黒字で残るが、成長の物語は終わる 10 年だ。
- 人事向けソリューション(タレントパレット・人事コンサル):数量 3,000(顧客数(社、期末))× 価格 858(1 社あたり年間売上(万円。継続収入とコンサルを含む))→ 売上 257 億円・営業利益 103 億円。顧客 3,000 社 × 1 社あたり 857 万円(1.30 倍)。大手の標準機能と値下げ圧力
- マーケティング向けソリューション(見える化エンジンなど):数量 500(顧客数(社、期末の推定))× 価格 614(1 社あたり年間売上(万円))→ 売上 31 億円・営業利益 9 億円。顧客 500 社まで減、単価 1.20 倍
倍率:事業の ROE 約 16%。g を 2% まで落とした正当化 PER は約 14.5 倍。値上げが止まり成長が終わった構造的な負けなので、上限の約 7.5 割(11 倍)に置いた。余った現金は谷で使われる前提で今の 0.75 倍の 75 億円を分けた。
確率:大手のタレントマネジメント機能の追加と、生成 AI による機能差の縮小は、実際に起きつつある流れ。単価が物価に届かない程度の負けは、起こりやすい。
悲観 13% 生成 AI と大手の機能に置き換えられ、優良事業ではなくなる 10 年 利益 8 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 261 円110 億円
人事データの分析は、対話型の AI が数分でこなす作業になる。大手の人事基幹システムも同じ機能を標準で付ける。タレントパレットは高い月額を払う理由を失い、値下げと解約が続く。顧客は 2,300 社で頭打ち、単価は名目で今と同じ水準に落ちる。
マーケティング事業は AI に置き換えられて、ほぼ消える。人件費は物価で上がるのに、売上は縮むので、利益率は 2 割台に落ち、本社費を引くと営業利益はほぼ消える。買収で使った現金は戻らず、のれんの減損も出る。ラクスなど大株主との再編も、少数株主に有利な条件にはなりにくい。
稼ぐ力は小さく、価値は手元の現金と、顧客基盤を売って得られる額に近づく。
- 人事向けソリューション(タレントパレット・人事コンサル):数量 2,300(顧客数(社、期末))× 価格 660(1 社あたり年間売上(万円。継続収入とコンサルを含む))→ 売上 152 億円・営業利益 33 億円。顧客 2,300 社 × 1 社あたり 660 万円(名目で据え置き)。値下げと解約
- マーケティング向けソリューション(見える化エンジンなど):数量 300(顧客数(社、期末の推定))× 価格 461(1 社あたり年間売上(万円))→ 売上 14 億円・営業利益 1 億円。顧客 300 社まで縮小、単価 0.9 倍
倍率:構造的に負け、稼ぐ力は純利益 8 億円ほどに縮む。床は純現金から流動負債(約 37 億円)を引いた約 109 億円で、今の自己資本 148 億円に PBR 0.74 を掛けた値。ためた利益や顧客基盤の売却益は床に足さない。
確率:対話型の AI が分析画面を代替し、大手が同機能を無償に近い形で付ける構造変化が必要で、起こる確度は高くないが、起これば不可逆の打撃になる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
人事向けソリューション(タレントパレット・人事コンサル)
人事データを集めて分析するクラウドの月額課金と、人事コンサル。顧客数 × 1 社あたり年間売上で稼ぐ。
| 数量顧客数(社、期末) | 価格1 社あたり年間売上(万円。継続収入とコンサルを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 2,008 | 660 | 132 | 63 |
| 10 年後 中立 | 3,600 | 956 | 344 | 158 |
取り方:2025/09 期の人事向けの顧客数 2,008 社(期末)に、セグメント売上 132.4 億円から逆算した 1 社あたり年間売上(約 660 万円)を掛けた。顧客は 2026 年 3 月に 2,259 社まで増えた。価格は 1 社あたりの売上の指数で、物価の 3% に、大企業の比率が上がることとオプションの追加を加えて、中立で 10 年 1.45 倍(物価の 1.34 倍より少し上)と置く。理由は、単価が直近 1 年で 14% 上がり、その半分が値上げ、半分がオプションと上位プランだったため。 数量は実物(顧客数)で、名目の市場の伸びからは置いていない。
マーケティング向けソリューション(見える化エンジンなど)
口コミや問い合わせの文章を分析するツールなど。顧客数 × 1 社あたり年間売上で稼ぐ。顧客は減少が続く。
| 数量顧客数(社、期末の推定) | 価格1 社あたり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 750 | 512 | 38 | 17 |
| 10 年後 中立 | 620 | 722 | 45 | 17 |
取り方:全体の顧客数 2,995 社(2026 年 3 月)から人事向け 2,259 社を引いた約 740 社と、前年比 −93 社の減少から、2025/09 期末を約 750 社と推定した。売上 38.4 億円を割った 1 社あたり約 510 万円が価格。価格の指数は物価に沿って上げるが、AI の新製品の分を少し足し、中立で 10 年 1.41 倍と置く。
リスクと懸念
SmartHR や海外大手による市場の取り込み
SmartHR は労務の入り口から人事全体へ広がり、2030 年に売上 1,000 億円を掲げる。SAP や Workday は大企業の基幹に食い込む。タレントマネジメントが標準機能になれば、PAC の新規は鈍り、価格改定の余地も狭まる。
生成 AI による機能差の縮小
人事データの集計や分析は、対話型の AI で簡単に作れるようになりつつある。PAC は AI エージェントを組み込み、むしろ強みにすると言う。ただ、月額を払う理由が薄れる方向に働けば、単価が物価に届かなくなる。
ラクスの持株と将来の再編
2026 年 7 月、ラクスが議決権の 22% を持つ持分法適用の関連会社とした。独立性は尊重され、事前の承諾なしの買い増しはしない約束だ。ただ 10 年の間に統合や条件付きの再編が持ち上がれば、少数株主の扱いが問題になりうる。
買収の失敗と現金の使い方
2024 年に連結に入れた子会社のうち 2 社ののれん 11.5 億円を、2025 年 9 月期に減損した。経営計画は M&A を成長の手段に挙げる。純現金の約 146 億円が割高な買収に使われると、資本効率が落ちる。
マーケティング事業の縮小
見える化エンジンなどの顧客は前年より 93 社減り、解約も月 1.3% と高い。AI の新サービスで下げ止まりを狙うが、利益の約 2 割を占める事業が縮み続ければ、全体の成長を引き下げる。
人件費の上昇と人材の確保
事業の中身はエンジニアとコンサルの人件費だ。物価 3% の世界では賃金も上がる。大企業向けの運用支援で人手を増やす局面では、売上が伸びても利益率が緩みやすい。
今後の分かれ目
- タレントパレットの解約率が月 0.5% を超えて上がる
- 堀が崩れ始めた合図で、やや悲観・悲観の確度が上がる。単価の伸びも止まる可能性が高い。
- 価格改定とオプションで 1 社あたりの単価が伸び続ける(年 8% 以上)
- 大企業の取り込みと値決め力が続いており、やや楽観・楽観の筋書きに近づく。
- SmartHR や SAP が大企業向けのタレントマネジメントを標準機能として値下げする
- 新規の獲得単価と価格改定の余地が狭まり、中立より下の筋書きに近づく。
- ラクスが持株を引き上げる、または統合・TOB の話が出る
- 再編の条件しだいで価値の見方が変わる。少数株主に不利な条件でなければ、事業の統合効果で上振れる。
- 大型の買収を発表する
- 過去の減損が示すとおり、資本効率が落ちる方向に働く。人事の周辺で小さく積む形なら影響は小さい。
- マーケティング事業の顧客減が止まり、AI の新サービスが伸びる
- 全体の成長の足かせが外れ、中立の利益に上振れの余地が出る。
見ておくもの
- タレントパレットの顧客数・1 社あたりの単価・月次の解約率(四半期の説明資料)
- 人事向けセグメントの営業利益率(5 割前後を保てるか)
- コンサル実施社数と継続率(コンサルが堀の厚みになるか)
- ラクスとの提携の進み方と持株比率の変化
- 配当(性向 40% と DOE 8%)の実行と自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
自己資本は今の値に純利益の合計を足し還元を引いて流し(ROE は結果)、余った現金 100 億円を除いた事業の ROE から、資本コスト 7.75%(基本 7.5% + quality 0.25%)の上で正当化 PER を出した。残る割合は普通の 1/2、g は 4%。倍率は上限の 8 割(中立)、強気は 9 割、やや強気は 8.5 割。やや悲観は成長が止まった前提で g を落として置き、悲観は稼ぐ力と純現金から床を置いた。今の PER・PBR や、オアシスからラクスへの譲渡価格は倍率に使っていない。オフィスの賃借は小さく、新リース会計(2028/03 期から)の影響は軽いと見て、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 19→24.62 倍・やや楽観 PER 17.3→24.47 倍・中立 PER 15.6→23.86 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。