結論
M&Aキャピタルパートナーズは、中堅・中小企業の売り手と買い手を引き合わせ、成約したら成功報酬を受け取る仲介会社だ。大型案件に絞った戦略で、営業利益率は3割台半ばから4割近い。
筆者の結論は「ほぼ適正」である。事業の質は同業でも指折りだが、利益は景気と少数の大型案件、そして人に左右される。10年で見ると、今の値段はその強さをほぼ織り込んでいる。
稼ぎの芯は、手数料が1億円を超える大型案件だ。2025年9月期の成約248件のうち、62件がこれに当たる。1件の売上は約9,000万円で、小口が中心の最大手の2倍を超える。今期は売上283億円、営業利益109億円と過去最高を見込む。
成長の源は人数だ。コンサルタントは276名で、会社は3年で大きく増やす計画を掲げる。ただ、人を増やして件数を買う成長は、固定費の増加と質の低下を伴う。筆者は、会社の計画のうち件数の伸びは割り引いて見ている。
財務に借金はない。現金と定期預金は約460億円で、時価総額の3割を超える。問題はその行き先だ。配当は純利益の2割台、自社株買いはない。社長が4割強を持つ会社で、現金が株主に戻る保証は弱い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「稼いだ利益が株主の手に届くか」を見る。この会社は事業に資本をほとんど要らず、本来なら利益の大半を返せる。それなのに、実際の還元は2割台にとどまる。現金は積み上がるが、返ってくる保証は弱い。
次に、利益が10年先も続くかを見る。事業は、経営者の一生に一度の決断を手伝う仕事だ。信用が命で、その信用を担うのは少数の人だ。人が辞めれば利益も辞める。この点を、筆者は最も重く見ている。
堀は広くない。大型案件を任される実績は強みだが、参入が容易で、報酬の水準も規制と競争の両方から削られていく。値段を自分で決める力は、時間とともに弱まる方向にある。
資本の使い方は評価が分かれる。借金に頼らず、無理な買収も避けてきた。半面、利益を使わずに寝かせている。買収の前例も、レコフの減損が示す通り成功ばかりではない。
安全域はどうか。中立の10年後の価値は、今の水準に近い。割安と言える余裕はなく、割高と切り捨てるほどでもない。件数の計画が達成できるか、現金が株主に向くか。この2つが見えるまでは、確信は持てない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は成約報酬だ。企業を売りたい経営者と買いたい会社を引き合わせ、契約がまとまった時に報酬を受け取る。売り手の多くは、後継者のいない中堅・中小企業と、事業を切り出したい大企業の子会社だ。
特徴は案件の大きさにある。手数料が1億円以上の案件を大型と呼び、2025年9月期は成約248件のうち62件を占めた。前の期の44件から4割増えた。大型が増えるほど、1件あたりの売上は上がる。
人の力が収益を決める。コンサルタントは2026年3月の時点で276名。子会社のレコフを含む数字だ。1人が1年にまとめられる案件は限られるため、件数は人数と経験で決まる。会社は採用を急ぎ、今期末に320名を目指している。
もう1つの柱が、2016年に約30億円で買収したレコフだ。M&A専門誌やデータベースを持つ老舗で、成約は年20件前後と小さい。2025年9月期には、のれんの減損を6億円ほど出した。買収の効果は、まだ限られている。
費用の中心は人件費と賃料だ。コンサルタントの報酬は成果に連動する部分が大きく、景気が良い時は膨らみ、悪い時は減る。ただし事務所の賃借料は固定で、残るリース負債は約31億円ある。
このほか、ファンドなど投資の収益が少しある。年によって増減が大きく、本業の稼ぐ力とは別に見る必要がある。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、大型案件を任される信用と、案件をさばく専門チームにある。数十億円規模の会社を売る経営者は、実績のある相手を選ぶ。公認会計士や弁護士を含めた体制で、短い期間にまとめ切る力が選ばれる理由になっている。
ただ、堀は広くない。仲介そのものは誰でも始められ、競う相手は多い。日本M&Aセンターは件数で最大手、ストライクは金融機関との連携で伸びている。大型案件では、証券会社や銀行系の助言会社とも競り合う。
人への依存が強いことが最大の弱みだ。成果は、大型案件を担う少数の上位コンサルタントに集まりやすい。引き抜かれれば案件ごと失うおそれがあり、高い報酬で引き留め続けなければならない。
資本効率は優れている。工場も在庫も要らず、必要な資本はごくわずかだ。過去10年のROEは中央値で17%近い。ただし最近は現金が積み上がり、ROEは10%台前半まで下がった。事業の力が落ちたのではなく、使わない現金がたまったためだ。
経営は社長の中村悟氏が率い、同氏が4割強の株を持つ。意思決定は速いが、少数株主の目線で現金を返す圧力は弱い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のM&Aは、2025年に過去最多の5,115件、取引額は約36兆円となった。経営者の高齢化と後継者難は構造的で、今後10年も需要の土台は崩れない。大企業が事業を整理して売る動きも増えている。
一方で、仲介会社は増えた。中小企業庁に登録されたM&A支援機関は2,781件に上り、銀行や会計事務所系の参入が相次ぐ。市場が伸びても、1社あたりの取り分は広がりにくい。
競争の形は二極化している。小口の事業承継を数多くこなす日本M&Aセンターと、大型・中堅に強いM&Aキャピタルパートナーズやストライクだ。後者は件数は少ないが、1件の報酬が大きい。2026年9月期の上期では、M&Aキャピタルパートナーズの売上の伸びがストライクを上回った。
規制の風向きも変わった。中小M&Aガイドラインは2024年に第3版となり、手数料の算定方法や最低手数料を契約前に書面で示すことを求めた。上限を決める規制ではない。それでも、売り手が料率を比べて値引きを求める時代に入る。両面から手数料を取る構造への批判も続く。
技術面では、生成AIが案件の発掘や企業価値の見積もりを軽くする。仲介会社の事務は減り、利益率には追い風だ。ただし、売り手と買い手が自分で相手を探せるようになれば、仲介の価値そのものが薄れる。
景気には敏感だ。買い手の資金調達が細ると、成約は止まる。リーマン後の2009年9月期は、この会社も赤字に沈んだ。
資本政策と M&A
還元は薄い。配当性向の目安は30%で、2025年9月期に実際に払った配当は純利益の約25%だった。自社株買いはしていない。上方修正に合わせて増配しているが、利益を超えて返す姿勢はない。
手元には約460億円の現金と定期預金がある。2025年9月期に、300億円を定期預金に回した。リース負債約31億円と、運転資金、賞与・納税の支払いを除いた約350億円は、事業に要らない現金とみる。
この現金は、株主のものになりにくい。社長が4割強を持つ筆頭株主で、現金は10年で14億円から460億円へ積み上がった。会社は資料で、流通株式比率の観点から自社株買いを検討するとしているが、実行はまだない。
買収は大きな実績がない。2016年のレコフ買収は約30億円で、2025年9月期に減損が出た。成長は買収でなく、採用でまかなう。新しいM&Aで現金を使うなら、失敗の前例が重い。
買われる側になる可能性は、kabufuの試算で10年以内に約17%。人が資産の会社を買うのは難しく、筆者は低めに見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
大型案件は、経営者が最も慎重に選ぶ領域だ。実績と専門チームのある会社に、案件は集まる。2025年9月期は大型が62件と、前の期から4割増えた。この流れは続く。
今期の見通しは売上283億円、営業利益109億円と、期初から上方修正された。成約は第3四半期までに201件、前年を20件上回る。単価の高い案件が積み上がり、利益率は38%台に戻る。
人材の拡充が追い風になる。コンサルタントは276名から増え続け、会社は3年で件数を年2割のペースで伸ばす計画だ。1人あたりの成約が今の水準を保てば、10年で件数は2倍を超える。
経営者の高齢化は止まらず、大企業の事業再編も増える。売り手の数が増え、1件の規模も上がる。報酬は物価に連動し、大型の比率が上がれば、1件の売上は物価を上回って伸びる。
生成AIは、案件の下調べを軽くし、1人の担当できる件数を増やす。利益率はさらに上がる。
財務は無借金で、現金は460億円ある。株式の流通を増やす必要から、増配や自社株買いに踏み切れば、積み上がった現金は株主の価値に変わる。10年で営業利益は3倍近くに伸びうる。
慎重な見方
国内の仲介会社は増え続け、大型案件でも証券会社や銀行系が競っている。成約が景気で止まるのは、リーマン後に赤字となった歴史が示している。今期の好調は、景気の追い風を受けた面が大きい。
件数は人数で決まるのに、人材は高騰している。コンサルタントを短期間で増やせば、質が下がる。引き抜きも起きやすく、人件費は固定費として残る。会社の計画は件数を年2割ずつ増やす想定で、実現の難しさは高い。
手数料への目は厳しい。ガイドライン第3版は算定方法の事前提示を求め、売り手は複数社を比べて値切るようになる。売り手と買い手の両方から報酬を取る構造への批判が強まれば、1件の売上が物価に届かない。
レコフの買収は減損を出した。新たなM&Aに現金を使えば、同じ失敗を繰り返すおそれがある。しかも社長が4割強を持つ会社で、460億円の現金は返ってこない。配当は純利益の2割台にすぎない。
生成AIで売り手が自分で買い手を探せるようになれば、仲介の価値は薄れる。件数が頭打ちになり、報酬も下がれば、利益は今より小さくなる。
どちらに重みを置いたか
事業の質では、強気の見方が優勢だ。大型案件の実績と、今期の過去最高益は確かな強みである。ただ、慎重な見方が突く2点は重い。件数の伸びを人数で買う成長の限界と、現金が株主に届かないことだ。
確率は中立に厚く、やや悲観を楽観側と同じ程度に置いた。会社の計画する件数の伸びは、10年では半分程度にとどまると見た。悲観では、利益率が1割台まで落ちる。総合では本質価値が今の時価総額に近く、適正の範囲に入る。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 11,174 円3,552 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,632 円519 億円)。 今の値に割り戻すと 6,559 円2,085 億円、今との差 +54.0%、 期待の年率 +11.6%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 21,360 円6,789 億円 | 2,501 円795 億円 | +460.1% | +18.8% | 2,386 円758 億円 |
| やや楽観 | 20% | 17,035 円5,415 億円 | 1,897 円603 億円 | +344.4% | +16.1% | 3,787 円1,204 億円 |
| 中立 | 38% | 13,142 円4,177 億円 | 1,561 円496 億円 | +245.1% | +13.2% | 5,587 円1,776 億円 |
| やや悲観 | 20% | 2,759 円877 億円 | 1,579 円502 億円 | +1.8% | +0.2% | 868 円276 億円 |
| 悲観 | 12% | 714 円227 億円 | 783 円249 億円 | −64.9% | −9.9% | 180 円57 億円 |
| 加重平均 | 100% | 11,174 円3,552 億円 | 1,632 円519 億円 | +200.6% | +11.6% | 12,807 円4,071 億円 |
今の株価時価総額 4,260 円1,354 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 件数と単価がともに伸び、大型の最大手になる 利益 234 億円 · PER 27.5 倍 · 株価時価総額 21,360 円6,789 億円
大型案件の比率が上がり、成約は年560件に達する。コンサルタントは増えても質が保たれ、大企業の事業整理と後継者難の両方から案件が集まる。1件の売上は物価を上回り、今の約1.55倍の1.4億円になる。手数料規制は開示の範囲にとどまり、料率は崩れない。生成AIが案件の下調べを軽くして、営業利益率は4割に届く。同業との競争は続くが、大型で選ばれる会社として地位を固める。レコフも成約を伸ばす。還元は引き上がり、自社株買いも始まる。現金は積み上がらず、約半分が株主に戻る。人の力と信用が10年間、同時に働いた最良の姿である。
- M&A仲介(大型・中堅案件が中心):数量 560(年間の成約件数(件))× 価格 1.40(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 786 億円・営業利益 314 億円。成約560件 × 1件1.403億円、売上786億円、営業利益率40%
倍率:事業の純利益 220 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 203.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 105.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 27.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 27.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)732 億円。全体の PER 27.45 倍、時価総額 6,789 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:件数の回復と大型化、手数料規制の穏やかさが同時に起きる必要がある。人材の確保にも失敗がない。連続して噛み合う確率は低い。
やや楽観 20% 件数が計画の6割ほど伸び、単価も上がる 利益 186 億円 · PER 27.2 倍 · 株価時価総額 17,035 円5,415 億円
成約は年495件まで増える。会社の計画の約6割にあたる伸びだ。採用の難しさで、計画ほどは伸びない。1件の売上は物価を少し上回り、今の約1.45倍になる。大型の比率はやや上がる。手数料の開示義務は料率を大きくは動かさない。人件費も物価で上がり、営業利益率は38%にとどまる。競合は増え続けるが、大型案件では信用で選ばれる。生成AIは下調べを軽くするが、売り手が自力で買い手を探すほどには進まない。ファンドの売却益は毎期は出ない。還元は性向を引き上げ、現金は積み上がりながらも一部は返る。中立より一段よい10年だが、人材と手数料の重しは外れない。
- M&A仲介(大型・中堅案件が中心):数量 495(年間の成約件数(件))× 価格 1.31(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 650 億円・営業利益 247 億円。成約495件 × 1件1.312億円、売上650億円、営業利益率38%
倍率:事業の純利益 173 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 166.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 87.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 27.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 27.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)700 億円。全体の PER 27.22 倍、時価総額 5,414 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画は強気だが、件数は人数に縛られる。それでも2026年の好調が示すように、一段よい10年は十分にありうる。
中立 38% 件数は緩やかに増え、単価は物価並みに上がる 利益 143 億円 · PER 27.0 倍 · 株価時価総額 13,142 円4,177 億円
成約は年430件と、今より7割ほど増える。後継者難と大企業の事業整理が需要を支えるが、同業の増加とコンサルタントの確保が伸びを抑える。1件の売上は物価並みの約1.34倍、1.21億円になる。大型の比率は今の水準にとどまる。手数料の開示で値引き圧力は強まるが、料率は大きくは崩れない。人件費も物価で上がり、営業利益率は36%に落ち着く。今期の38%から下がるのは、採用で固定費が重くなるためだ。還元は性向を5割まで引き上げる。それでも現金は積み上がり、事業に要らない現金は10年後に約850億円へふくらむ。大きな成功も失敗もない、人の力で稼ぎ続ける10年である。
- M&A仲介(大型・中堅案件が中心):数量 430(年間の成約件数(件))× 価格 1.21(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 521 億円・営業利益 188 億円。成約430件 × 1件1.213億円、売上521億円、営業利益率36%
倍率:事業の純利益 131 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 141.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 74.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 27.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 27.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)628 億円。全体の PER 27.01 倍、時価総額 4,177 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要は強いが、競合と規制が伸びを抑える。件数は人数に縛られ、1件の売上は物価並みに収まる。いちばん素直な筋書きである。
やや悲観 20% 件数が頭打ちになり、手数料に圧力がかかる 利益 71 億円 · PER 10.1 倍 · 株価時価総額 2,759 円877 億円
成約は年325件にとどまる。採用は進むが、新人の生産性が低く、案件の質も落ちる。売り手が複数社の料率を比べ、値引きが広がる。1件の売上は物価の分に届かず、今の約1.12倍にとどまる。営業利益率は29%に下がる。景気の谷が来れば、一時的に件数が3割落ちる。買収の失敗や投資の損失で、自己資本は約120億円減る。会社は生き残り、配当も維持する。レコフの再建は進まず、新たな買収も実らない。ただし現金は積み上がらず、事業に要らない現金は今の3/4に減る。大型案件の優位は残るが、利益の伸びは物価の分より小さくなる。
- M&A仲介(大型・中堅案件が中心):数量 325(年間の成約件数(件))× 価格 1.01(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 329 億円・営業利益 96 億円。成約325件 × 1件1.014億円、売上329億円、営業利益率29%
倍率:ROE 37.6%(現金の利息を除く事業の純利益÷(自己資本−余った現金))。k 7.5%。RONIC=k+残る割合1/2×(ROE−k)=23.0%。g 4%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=18.4倍。成長と堀の持ちを低く見て、上限の5.50割(PER 10.10倍)に置いた。余った現金は今の3/4(262億円)を、戻り方0.5を掛けて足した。
確率:同業の急増と手数料の開示が続けば、件数は伸びず、単価も物価に届かない。起きやすい筋書きなので、楽観側と同じ程度に置いた。
悲観 12% 規制と競争、AIで高収益を失う 利益 16 億円 · PER 7.1 倍 · 株価時価総額 714 円227 億円
手数料の透明化が進み、売り手が値切るのが当たり前になる。1件の売上は物価の上昇を打ち消され、今より1割低い水準まで下がる。両面から報酬を取る構造への批判が強まり、行政の指導や訴訟も起きる。上位のコンサルタントが他社へ移り、成約は年200件まで減る。生成AIで売り手が自分で買い手を探せるようになり、仲介の価値が薄れる。人件費と賃料は固定費として残るため、営業利益率は1割台前半まで下がる。買収の失敗で自己資本は約200億円減る。会社は存続するが、高収益の大型仲介会社ではなくなる。配当は純利益の減少に合わせて縮み、現金は立て直しに使われる。
- M&A仲介(大型・中堅案件が中心):数量 200(年間の成約件数(件))× 価格 0.81(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 163 億円・営業利益 20 億円。成約200件 × 1件0.815億円、売上163億円、営業利益率12%
倍率:ROE 8.2%(現金の利息を除く事業の純利益÷(自己資本−余った現金))が k 7.5% 以下なので、伸びても価値は増えず正当化PERは1÷k=11.8倍。稼ぐ力と堀が細る筋書きなので、稼ぐ力の上限の6.00割(PER 7.06倍)に置いた。余った現金は今の半分(175億円)を、戻り方0.5を掛けて足した。
確率:手数料の規制強化、人材の流出、AIによる中抜き、買収の失敗のいくつかが重なる複合の筋書き。単独でも起こりうるが、重なる確率は低い。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
M&A仲介(大型・中堅案件が中心)
中堅・中小企業の事業承継と大企業の事業整理を中心にM&Aを仲介し、成約時に成功報酬を受け取る。子会社レコフとファンド等の小さな収益も含める。
| 数量年間の成約件数(件) | 価格1件あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 248 | 0.91 | 224 | 78 |
| 10 年後 中立 | 430 | 1.21 | 521 | 188 |
取り方:2025年9月期の連結成約は248件(単体230件、レコフ18件)、うち大型62件。売上224億円を248件×0.905億円(約9,050万円)と置いた。数量は件数(実質)、物価の分は1件あたりの売上に入れる。営業利益78億円は実績(のれん減損を除くIFRSの営業利益は約79億円)。数量は実物(成約件数)。伸びの理由は事業承継の需要と仲介人員の増加で、名目の市場規模の伸びを置いたものではない。物価は 1 件あたりの売上に入れた。
リスクと懸念
景気と大型案件への集中
買い手の資金調達が細ると、成約は止まる。大型案件は1件の金額が大きく、数件の先送りが四半期の利益を大きく動かす。リーマン後の2009年9月期は赤字だった。報酬は成約した時にしか入らず、人件費と賃料は残る。
人材の流出と人件費
成果は少数の上位コンサルタントに集まる。同業が高い報酬で引き抜けば、案件ごと失うおそれがある。引き留めの報酬は物価で上がり、固定費として重くなる。採用を急げば、質の低下も起きる。
手数料の開示と規制
中小M&Aガイドライン第3版は、手数料の算定方法や最低手数料を契約前に示すことを求めた。上限規制までは進んでいないが、売り手が料率を比べて値切るようになれば、1件の売上が物価に追いつかず、利益率が構造的に縮む。
件数の計画の達成
会社は3年で件数を年2割ずつ伸ばし、コンサルタントを大きく増やす計画を掲げる。報じられる数字には食い違いがあり、達成は確かめられない。人を増やしても件数が伸びなければ、利益率が下がる。
買収の失敗
2016年に約30億円で買ったレコフは、2025年9月期にのれんの減損を6億円ほど出した。460億円の現金を新たなM&Aに使えば、同じ失敗を繰り返すおそれがある。
現金が株主に届かない
社長が4割強を持つ会社で、現金は10年で460億円に積み上がった。配当は純利益の2割台、自社株買いはない。流通株式比率の改善などで還元が増える余地はあるが、実行は確かめられていない。
生成AIによる中抜き
AIが案件の発掘と企業価値の見積もりを担えば、売り手が自分で買い手を探せる。事務が減って利益率が上がる面もあるが、仲介が選ばれる理由そのものが薄れる面もある。
今後の分かれ目
- 成約件数と大型案件が2期連続で計画を上回ったら
- 中立から強気寄りに確率を移す。採用を増やしても質が保たれていることを示す。
- 金融庁や中小企業庁が手数料に上限や詳細な開示を設けたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。料率が下がれば、1件の売上が物価に届かない。
- 上位コンサルタントの流出や、同業による大量の引き抜きが表面化したら
- 人への依存が現実になった証拠として、悲観の確率を上げる。案件の継続性が揺らぐ。
- 自社株買いや大幅な増配を発表したら
- 現金が株主に向く証拠で、余った現金の戻り方を見直す余地が出る。中立の価値が上がる。
- レコフ以外の大型買収に踏み切ったら
- 失敗の前例が重い。買収額と事業の稼ぐ力を確かめ、必要なら悲観の確率を上げる。
- 景気後退で買い手の資金調達が細ったら
- 件数が3〜4割落ちる谷として、やや悲観に近づく。固定費が重く、利益は件数の落ち込み以上に減る。
見ておくもの
- 四半期の成約件数と大型案件の件数
- コンサルタント数と1人あたりの成約件数
- 中小M&Aガイドラインの改訂と手数料への行政の動き
- 配当性向と自社株買いの実施
- 営業利益率(ファンド益を除く)
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から決めた。資本コストは基本7.5%に質の上乗せ1.0%を足した8.5%。長期の成長率は4%、残る割合は並みの1/2で正当化PERを出し、中立はその7.2割に置いた。ファンド益の混在、人への依存、景気での件数の振れを考え、上限には寄せていない。今の株価と今のPERは倍率に使っていない。数量は成約件数(実質)、物価は1件あたり売上の側に入れた。事務所の賃借は営業費用に入る固定費で、今と同じ家賃を費用に入れる形でそろえた。新リース会計基準で数字の形が変わる点は、10年後の置き方に影響させていない。現金は定期預金を含めた約460億円から、リース・運転資金・賞与納税を引いた約350億円を余った現金とした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 18.18→27.45 倍・やや楽観 PER 16.97→27.22 倍・中立 PER 15.15→27.01 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。