結論
ユーラシア旅行社は、添乗員が全行程に付く海外の企画旅行を、50 代以上の旅行好きに売る会社だ。筆者の結論はやや割高。最大の理由は、利益が小さいことにある。
現預金は 20 億円あり借金は無い。時価総額 28 億円の大半を、現金が支えているように見える。ただ、現金の半分は、旅行代金の前受金という客の預かり金だ。事業に要らない余りは 8 億円ほどに過ぎない。
旅行業は利幅が薄い。営業利益率はコロナ前でも 2〜3% で、今期は中東情勢と円安で営業利益がゼロの予想になった。それでも会社は、配当を据え置き、株主資本配当率(DOE)10% 以上を掲げる。配当は利益を上回り、自己資本は減っている。
好材料もある。会社は赤字の予想でも、配当の方針を変えていない。全員添乗員の現場主義、燃油サーチャージを込みにした総額表示、追加費用を会社が負う姿勢は、客の安心を買う。10 年後も存在感のある会社だが、利益の水準では今の値段を支えきれない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、「株主に残る利益」を見る。この会社の純利益は年 1 億円前後で、配当はそれを上回る。利益で配当を賄えない状態が続けば、自己資本は目減りする。
現預金 20 億円は魅力に見えるが、旅行代金の前受金 9.7 億円は客の預かり金で、株主のものではない。余りは 8 億円ほどで、時価総額の 3 割にとどまる。しかも、オーナーが 5 割を持ち、使い道は経営者が決める。清算されない限り、現金は少数株主に平等に戻るとは限らない。
事業の質は悪くない。全員添乗員の文化と、総額表示で追加費用を取らない姿勢は、長い目で信頼を積み上げる。ただ、旅行業の利幅は薄く、外部のショックで利益が飛ぶ。安全域は、利益ではなく現金の側にある。
払う値段に安全域があるかと問えば、中立の筋書きでも今の値段に届かない。成功しても 10 年で 2 億円台の利益で、倍率に限りがある。待つ価値のある会社だが、今は買う側の理由が弱い。
何で稼ぐ会社か
事業は海外旅行の企画・販売が中心だ。世界 170 か国を対象に、手配、添乗、帰国後のフォローまで自社で一貫して行う。社員の全員が添乗員を務める文化があり、現地の事情に通じた人が客に付く。大量に集客して安く売る旅とは、対極の売り方だ。
客の中心は円熟層、つまり時間とお金に余裕のある 50 代以上の旅行好きだ。値段は燃油サーチャージや空港税を込みにした総額で示し、不測の追加費用は会社が負う方針を取る。客にとっては安心だが、為替や燃油が急に動いた年は、会社の利益が直接削られる。無借金のため、需要が止まった年も倒れずに耐えた実績がある。
事業は海外(アウトバウンド)、国内、訪日客向け(インバウンド)の三つ。インバウンドは欧米豪・中南米・アフリカの客を集め、2026 年は前年の 2.5 倍以上を見込むが、金額はまだ小さい。
開示は単一セグメントで、内訳は開示を確かめられなかった。ここでは海外・国内を 98%、インバウンドを 2% 弱と推定して使う。数字は、決算の説明資料にある「旅行者数の増加と単価の上昇」という説明に合わせた粗い見積もりだ。
優良さと弱いところ
筆者は、この会社の優良さを「中くらい」と見る。堀は薄いが、顧客の信頼は厚い。
強みは、現場主義で 170 か国の手配ノウハウを積んでいることだ。現地を知る添乗員が付くことで、大手の量販のパッケージには出せない商品が作れる。
弱みは三つある。まず、ノウハウが人に頼っていて、会社自身も属人化を課題に挙げる。次に、値決めの力が弱い。為替や燃油の急変を価格に転嫁するのに時間がかかり、今期の営業利益ゼロはその結果だ。最後に、旅行は外部のショックに弱い。2021 年 9 月期の売上は 2 億円まで落ち、赤字が 4 期続いた。
経営は、2026 年 7 月を構造改革の起点とし、イン・アウト双方向の成長を掲げる。マネージャー層を増やし、現地情報をデジタルと AI で整理して業務効率を 2 割上げる計画だ。実行力は、これから数字で確かめる段階にある。
オーナーが約 5 割を持つ体制は、意思決定が速い反面、少数株主の声は届きにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
旅行業は、コロナで一度ほぼ止まった。国内外の移動が戻り、旅行会社の売上も回復した。ただ、構造は変わった。個人がネットで航空券と宿を手配する流れが定着し、パッケージ旅行の出番は減っている。AI が旅程を組む道具が広がれば、手配だけで稼ぐ会社はさらに苦しくなる。
一方、添乗員が付く旅は、手配の手間ではなく、安心と案内に価値がある。秘境や治安の読みにくい国は、個人で行くのに不安がある。ここは AI が簡単には置き換えにくい。ユーラシア旅行社は、この領域に絞る強みを持つ。
客層の円熟層は、人口の中で厚い層だ。団塊の世代が旅から退いていく一方、その下の世代が新しい客になる。ただ、人数は長期で緩やかに減る。
外部要因は大きい。中東の情勢、為替、燃油サーチャージは、旅行代金や原価に直接響く。大手のエイチ・アイ・エス、KNT-CT ホールディングスも、海外旅行の回復と原価の上昇という同じ問題に向き合っている。大手と違い、この会社は特定の地域や顧客層に絞った商品で勝負する。商品の魅力が、そのまま業績を左右する。インバウンドは今後も伸びる市場で、170 か国の現地手配力が生きる可能性がある。
資本政策と M&A
株主還元の方針は、DOE(株主資本配当率)10% 以上、ROE10% 以上を目指すというものだ。今期の年間配当は営業利益ゼロの予想でも据え置く。配当の総額は年 1.85 億円ほどで、利益を上回り、自己資本は 2025 年 9 月末から 2.4 億円ほど減った。
現預金のうち 2 億円を 3 年かけて成長投資に使う計画で、期待リターンは 15%、株主資本コストは 8〜10% と会社は見ている。小規模な計画だが、実行しだいで利益率が変わる。
会長の井上氏が約 5 割、ホワイトサクセスが約 1 割を持つオーナー支配だ。上場子会社ではないが、少数株主の取り分は経営者の考えに左右される。TOB の可能性は、確認した範囲では報じられていない。
借入は無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
無借金で現預金が厚い、数少ない旅行会社だ。コロナで売上が 2 億円まで落ちても、倒れずに乗り切った。この財務の強さは、10 年のうちに何度か来る外部ショックを耐える力になる。
事業の質も良い。全員添乗員で 170 か国をカバーし、燃油サーチャージ込みの総額表示で追加費用を取らない。この安心を求める円熟層は、人口の中で厚く、団塊の世代の次の世代も旅行に使うお金がある。今期は中東情勢と円安で営業利益がゼロの予想だが、会社は来期に価格転嫁と為替ヘッジで解消すると説明している。
ビジョン 2029 は、イン・アウト双方向の成長、マネージャー層の拡充、デジタルと AI による業務効率の 2 割向上と具体的だ。DOE 10% の還元方針も、株主の目を意識している。インバウンドは前年の 2.5 倍を見込み、170 か国の手配力を外国人にも売れる。小さな時価総額で、成功すれば利益の伸びは大きく見える。配当を出し続けてきた実績も、少数株主の目には安心材料になる。
慎重な見方
旅行業の利幅は、コロナ前でも 2〜3% しかなかった。今期は営業利益がゼロで、通期は純損失の予想だ。それでも配当を据え置き、利益を超えて払っている。自己資本はこの 1 年弱で 2.4 億円減った。方針を守るほど、会社の体力が減っていく。
現預金 20 億円の半分は、旅行代金の前受金という客の預かり金だ。事業に要らない余りは 8 億円ほど。時価総額 28 億円に見合う利益は、10 年先の中立でも出てこない。
しかも、オーナーが 5 割を持つ。現金が少数株主に回るのは、経営者が配当を選ぶ間だけだ。清算が起きない限り、使い道は経営者が決める。
旅行は外部のショックに弱い。赤字は 7 期あり、2021 年 9 月期は売上が 2 億円まで落ちた。AI とネット予約で個人が自分で手配する流れも強まる。添乗員付きの旅が AI で置き換わらない保証は無い。DOE 10% を守るための配当は、余りの現金を取り崩す形で続いている。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がやや強い。無借金と現場主義は本物だが、利益が小さく、現金の半分は客の預かり金で、オーナー支配だ。確率は、楽観側に 25%、やや悲観と悲観に 37% を置いた。事業が悪くないぶん、悲観は 12% にとどめた。無借金という最後の支えがあり、清算に近い筋書きまでは置かない。現預金の価値は、前受金を除いた分だけを数えた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/09 期)
確率で加重した株価時価総額 765 円28 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 339 円13 億円)。 今の値に割り戻すと 575 円21 億円、今との差 −23.1%、 期待の年率 +4.0%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,943 円72 億円 | 596 円22 億円 | +239.9% | +13.0% | 203 円7 億円 |
| やや楽観 | 17% | 1,233 円46 億円 | 461 円17 億円 | +126.7% | +8.5% | 288 円11 億円 |
| 中立 | 38% | 865 円32 億円 | 393 円15 億円 | +68.3% | +5.3% | 478 円18 億円 |
| やや悲観 | 25% | 230 円9 億円 | 217 円8 億円 | −40.1% | −5.0% | 112 円4 億円 |
| 悲観 | 12% | 119 円4 億円 | 81 円3 億円 | −73.2% | −12.3% | 24 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 765 円28 億円 | 339 円13 億円 | +47.9% | +4.0% | 1,105 円41 億円 |
今の株価時価総額 747 円28 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:円熟層の厚みと双方向経営が効き、旅行の取扱いが 1.5 倍に近づく 利益 4 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 1,943 円72 億円
団塊の世代が退いたあとも、50〜70 代の旅行好きは厚い。人数は 10 年で 4 割強増える。添乗員が全行程に付き、総額表示で追加費用を取らない商品は、安心を買う客に選ばれ続ける。
インバウンドは欧米豪の客を 170 か国の現地手配力で受け止め、今の 14 倍の規模になる。数量は伸びても、価格は為替の影響で物価並みに上げるのがやっとだ。
現地情報のデジタル・AI 化で業務効率が 2 割上がり、営業利益率は 4% に乗る。純利益は 4 億円近く、配当は純利益の 5〜6 割を保ちつつ増える。それでも、旅行は外部の出来事に利益が左右される。倍率は式の上限を超えない。
- 旅行事業(海外・国内):数量 19,865(参加人数(人・推定))× 価格 47(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 94 億円・営業利益 4 億円。参加人数 1.45 倍・単価 1.38 倍・営業利益率 4%
- インバウンド(訪日客向け旅行):数量 3,500(参加人数(人・推定))× 価格 55(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 19 億円・営業利益 2 億円。インバウンド 14 倍・単価 1.38 倍・利益率 8%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 29.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 15.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)6 億円。全体の PER 17.34 倍、時価総額 72 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社自身が示す成長策(インバウンド 2.5 倍、業務効率 20% 向上)が、すべて実を結ぶ筋書き。実績はまだ小さく、確率は低めに置く。
やや楽観 17% やや楽観:円熟層の需要が戻り、インバウンドが小さく積み上がる 利益 3 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 1,233 円46 億円
参加人数は 10 年で 3 割強増え、2019 年の水準を超える。単価は物価並みの 1.36 倍まで上がる。為替のヘッジと価格転嫁が定着し、今期のような原価の突き上げは繰り返さない。
インバウンドは 9 倍の規模になるが、まだ全体の 15% 弱にとどまる。
営業利益率は 3.2% 前後。純利益は 2 億円台前半になる。配当は DOE 10% の方針に近い水準を保ち、現預金の一部を成長投資に回す。2 億円の投資が期待どおりの 15% を稼ぐかどうかが、上振れの分かれ目になる。借入の無い会社なので、投資が外れても財務は傷まない。
- 旅行事業(海外・国内):数量 18,084(参加人数(人・推定))× 価格 47(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 84 億円・営業利益 3 億円。参加人数 1.32 倍・単価 1.36 倍・営業利益率 3.2%
- インバウンド(訪日客向け旅行):数量 2,250(参加人数(人・推定))× 価格 54(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。インバウンド 9 倍・単価 1.36 倍・利益率 5%
倍率:事業の純利益 2 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 23.9% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 13.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)6 億円。全体の PER 16.54 倍、時価総額 46 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2019 年の売上(57 億円)を超える流れは見えている。今期の予想は 56.6 億円。実績を足場に、需要が伸びる筋書きは十分ありうる。
中立 38% 中立:人数は 2 割増、単価は物価並み。利益は小さいまま 利益 2 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 865 円32 億円
参加人数は 10 年で 2 割増える。コロナ前の水準には戻るが、そこから大きくは伸びない。単価は人件費と航空運賃の上昇を価格に転嫁して、物価並みの 1.34 倍となる。
営業利益率は 2.5% にとどまる。旅行は仕入れの大半が外貨と航空運賃で、値上げが追いつかない年が続くからだ。今期の営業利益ゼロは、その一例になる。
インバウンドは 6 倍に増えるが、規模はまだ小さい。配当は純利益に近い額を払い、自己資本は 15 億円台で変わらない。余った現金も、そのまま残る。旅行業としては十分に健全だが、成長で報いる筋書きではない。
- 旅行事業(海外・国内):数量 16,440(参加人数(人・推定))× 価格 46(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 75 億円・営業利益 2 億円。参加人数 1.2 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 2.5%
- インバウンド(訪日客向け旅行):数量 1,500(参加人数(人・推定))× 価格 54(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 8 億円・営業利益 0 億円。インバウンド 6 倍・単価 1.34 倍・利益率 3%
倍率:事業の純利益 2 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.7% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 13.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)6 億円。全体の PER 16.32 倍、時価総額 32 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の予想(今期は営業利益ゼロ、来期は 3% 台の回復)と、2019 年までの利益率(2〜3%)が示す水準に近い。旅行業は利幅が薄い構造が続く。
やや悲観 25% やや悲観:外部ショックが繰り返され、AI とネット予約に客が流れる 利益 1 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 230 円9 億円
戦争・感染症・為替の急変が 10 年に数回起き、利益は赤字と黒字を行き来する。参加人数は 5% 減る。団塊の世代が旅から退き、後に続く世代はネットで自分で手配する割合が増える。AI が旅程を組み、現地ガイドをつなぐ手段が普及すれば、パッケージの出番はさらに減る。
価格は競争で物価に届かず、1.28 倍にとどまる。営業利益率は 1.5% に落ちる。
純利益は 0.7 億円ほどで、配当は DOE 10% を守れず、減らさざるをえない。無借金で現預金が厚いため、倒れはしない。ただ、稼ぐ力は細る。経営は構造改革を続けるが、旅行の需要そのものが外から削られるため、改革の効果は薄い。
- 旅行事業(海外・国内):数量 13,015(参加人数(人・推定))× 価格 44(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 57 億円・営業利益 1 億円。参加人数 0.95 倍・単価 1.28 倍・営業利益率 1.5%
- インバウンド(訪日客向け旅行):数量 750(参加人数(人・推定))× 価格 51(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。インバウンド 3 倍・単価 1.28 倍・利益率 0%
倍率:稼ぐ力が弱く ROE が k を下回る筋書き。PER は 1÷k(11.1 倍)以下に置く決まりで、利益の質の低さを入れて 1÷k の 7 割(7.8 倍)とした。余った現金は筋書きの額(今の 0.75 倍=6 億円)に戻り方 0.75 を掛けた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 6.5 倍・時価総額 8 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中東情勢・円安・燃油高が同時に利益を削った今期の姿は、10 年のうちに何度か繰り返しうる。旅行は外の出来事に振られる業種で、この筋書きの確率は高い。
悲観 12% 悲観:パンデミック級の停止が再び起き、本業が構造的に縮む 利益 −1 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 119 円4 億円
再び旅行が止まる年が来て、そこから需要は元の 6 割までしか戻らない。参加人数は 4 割減り、AI とネット予約が個人旅行を押さえる。価格もさらに競争になる。
営業赤字が続き、配当は大きく削られる。倍率に値する利益が無く、価値は現預金から旅行前受金を引いた分に近づく。
筆者は、無借金で現預金が厚いことが最後の支えだと見る。ただ、オーナーが 5 割を握る会社で、現金が株主に平等に戻る保証はない。清算されない限り、現金は経営者が使い道を決める。現預金から前受金を除いた余りも、半分程度しか株主に戻らない前提に置く。10 年後の時価総額は、その現金の価値に近づく。
- 旅行事業(海外・国内):数量 8,220(参加人数(人・推定))× 価格 39(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 32 億円・営業利益 −1 億円。参加人数 0.6 倍・単価 1.15 倍・営業利益率 −2%
- インバウンド(訪日客向け旅行):数量 0.0(参加人数(人・推定))× 価格 40(1 人あたりの営業収益(万円・推定))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。インバウンドは撤退
倍率:赤字の筋書きなので PBR で置く。今の自己資本 18.4 億円(2025 年 9 月期末)に 0.24 倍。現預金から旅行前受金などの預り金と退職給付を引いた分に、戻り方 0.5 を掛けた水準に近い。
確率:2021 年 9 月期の売上は 2 億円まで落ちた。同じ規模の停止は 10 年に一度は起きうる。さらに団塊世代の引退と AI の置き換えが重なる筋書き。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
旅行事業(海外・国内)
海外・国内の企画旅行を、添乗員同行を基本に、170 か国を対象として販売する。
| 数量参加人数(人・推定) | 価格1 人あたりの営業収益(万円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 13,700 | 34 | 47 | 1 |
| 10 年後 中立 | 16,440 | 46 | 75 | 2 |
取り方:売上 47.9 億円のうち 98% をこの事業とした推定。参加人数 1.37 万人・1 人あたり 34 万円は開示を確かめられず推定(会社説明に「旅行者数の増加と単価の上昇」とある)。営業利益 1.2 億円は全社の営業利益 1.15 億円にインバウンドの小さな赤字を足し戻した。
インバウンド(訪日客向け旅行)
欧米豪・中南米・アフリカなどの外国人を日本へ誘致して手配する。
| 数量参加人数(人・推定) | 価格1 人あたりの営業収益(万円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 250 | 40 | 1 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1,500 | 54 | 8 | 0 |
取り方:取扱額はまだ小さいと会社が説明している。売上の 2% 前後(1 億円)を推定し、250 人・1 人 40 万円とした。2026 年に前年比 2.5 倍以上の見込み(会社説明)。損益は立ち上がりで小さな赤字と推定した。
リスクと懸念
中東情勢・為替・燃油の急変
今期は代替ルートと延泊の追加費用、燃油サーチャージの未転嫁、円安で営業利益がゼロの予想になった。総額表示で追加費用を会社が負う方針のため、外部の急変は利益に直撃する。10 年のうちに何度も起きうる。
パンデミック級の停止
2021 年 9 月期の売上は 2 億円まで落ち、4 期続けて赤字になった。無借金で乗り切ったが、同じ規模の停止が再び来れば、配当を保てず、現預金も取り崩しが進む。
AI とネット予約による個人手配の拡大
AI が旅程や手配を組む道具が広がり、ネットで直接予約する流れが強まれば、手配だけで稼ぐ領域は縮む。添乗員付きの旅は置き換えにくいが、人数が減る方向には働く。
配当が利益を上回る
年 1.85 億円の配当は、今期の純損失の予想を上回る。自己資本は減っている。方針を守るほど体力が減り、続けにくくなったときに減配のリスクがある。
オーナー支配と少数株主の取り分
会長が約 5 割、ホワイトサクセスが約 1 割を持つ。現金の使い道や配当は経営者の判断になる。成長投資の 2 億円が期待リターン 15% を稼がなければ、株主の価値が目減りする。
属人化と円熟層の世代交代
170 か国のノウハウは人に依存し、会社も課題に挙げる。団塊の世代が旅行から退く中、次の世代の客を確保できるかが課題になる。
今後の分かれ目
- 今期の営業利益がゼロを割り、赤字が拡大したら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。配当を維持するための現金の取り崩しが加速する。
- 来期に価格転嫁と為替ヘッジが効き、営業利益率が 3% に戻ったら
- 中立の利益率 2.5% を引き上げ、楽観側の確率を増やす。
- インバウンドの取扱額が 5 億円を超えたら
- 楽観の筋書きが現実に近づく。インバウンドの利益率を 5% 以上として見直す。
- 配当を減らし、成長投資に回す方針に転じたら
- 現金の戻り方を見直す。自己資本の目減りが止まり、安全域は上がる。
- オーナーによる公開買付けや非公開化の話が出たら
- 価格が本質価値を下回るなら応じない。この分析は公開買付け後は意味を失う。
見ておくもの
- 四半期ごとの営業収益と参加人数・単価
- 為替・燃油サーチャージの転嫁の進み具合
- 配当と自己資本・現預金の推移
- インバウンドの取扱額と利益率
- ビジョン 2029 のマネージャー比率・業務効率の進捗
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(正当化 PER)から出し、今の株価の高さから逆算していない。ROE が k をわずかに超える中立は、決まりの下限である 1÷k に置いた。余った現金は旅行前受金と退職給付を引いて 8 億円に絞り、戻り方 0.75 を掛けた。利益の質が低く、今の時価総額を支える利益は 10 年後の中立でも出ないため、結論は割高寄りになった。今の値段に寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.67→17.34 倍・やや楽観 PER 11.71→16.54 倍・中立 PER 11.11→16.32 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5%。同じ領域の KNT-CT(+1.5%)と並べた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.25%。