結論
いちごは、古くなったビルやホテルを買い、手を入れて貸し、頃合いで売る不動産会社だ。ほかに上場 REIT(不動産投資信託)の運用と太陽光発電も手がける。直近の事業利益は 280 億円で過去最高になった。
筆者の結論は「やや割高」だ。最大の理由は、利益の質にある。稼ぎの 3 割近くは物件の売却益で、市況が崩れれば消える。リーマン後に赤字と増資を経験した会社でもある。
10 年の見立ては、物価で賃料も物件価格も上がる一方、金利の上昇が利益を削る。借入金利は 1.4% 台から 3.5% 前後へ向かい、利払いは年に 60 億円ほど重くなる。固定価格買取の高い太陽光発電所も、2033 年ごろから契約が順に終わる。
中立では、10 年後の純利益は今よりやや低い 150 億円前後にとどまる。資本コストは 8.5% で見る。確率で重みをつけた 10 年の価値は、今の時価総額を約 12% 下回る。
会社は長期ビジョン「いちご2030」で、ROE15% 以上と、株主資本配当率(DOE)5% 以上を掲げる。支配株主が議決権の 56% を持ち、還元にも積極的だ。ただ、値段に見合うだけの安全域は薄いと筆者は見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、いちごは「安く買い、手を入れて、高く売る」を毎年くり返す会社だ。この腕は本物に見える。ただし利益が毎年同じように出るわけではない。
株主が自由に使える利益、つまりオーナー利益を考えると、まず確かなのは賃料などのストック収益から固定費を引いた分だ。売却益は上乗せで、市況の悪い年には消える。
堀、つまり他社がまねできない強みは、物件を見つけて手を入れる人材とノウハウだ。ブランドや規制で守られた堀ではない。同じ腕を持つ競争相手は多く、堀は広くない。
資本の使い方は上手だ。含み益は 835 億円まで積み上がり、自社株買いも続く。ただし借金は重く、金利が上がる 10 年は逆風になる。
値段には安全域が要る。含み益の税引き後を足した実質の純資産は約 1,730 億円で、今の時価総額に近い。筆者は、10 年後の利益が今を下回ると見るので、安全域はほとんどないと考える。悪くない会社だが、割安とまでは言えない。
何で稼ぐ会社か
いちごは、古くなった不動産に手を入れて価値を上げ、貸して稼ぎ、頃合いで売る会社だ。社内ではこれを「心築」と呼ぶ。事業は 5 つに分かれる。
最大の稼ぎ頭は心築だ。オフィスや商業ビル、物流施設を扱い、直近の事業利益は 131 億円だった。取得から売却までは過去の実績で 3.2 年。賃料を受け取りながら、入居率と賃料を引き上げる。
ホテルは、保有するホテルの賃料と、自社運営の「ワンファイブホテルズ」、収益管理ソフト「PROPERA」の利用料からなる。事業利益は 72 億円だ。
いちごオーナーズは、東京都心の新築レジデンスを企画して売る。建設は外部に任せる。直近は 25 棟を売り、事業利益は 38 億円だった。
アセットマネジメントは、いちごオフィス、いちごホテル、いちごグリーンインフラの 3 つの上場投資法人などを運用する。運用残高は 3,660 億円で、受け取るのは運用報酬だ。
クリーンエネルギーは、全国 49 か所、出力 159 メガワットの太陽光・風力発電所を持つ。売電収入が中心で、売却益は出ない。事業利益は 16 億円だ。
保有する不動産は取得簿価で 3,050 億円、鑑定評価ベースの含み益は 835 億円ある。
稼ぎの形は 2 つある。賃料や運用報酬の「ストック収益」が 243 億円、物件の売却益などの「フロー収益」が 178 億円だ。ストック収益だけで固定費の 2 倍近くをまかなえる点を、会社は強みとして示す。
優良さと弱いところ
いちごの強みは目利きと資金繰りの安定だ。弱みは、利益の山が景気に左右されることと、借金の重さにある。
目利きの腕は数字に出ている。心築では、取得後に物件の純収益を 25% ほど上げた実績がある。売却益は含み益の 1.5〜2.9 倍で出てきた。ただし売る相手の資金力しだいという点は変わらない。
財務は 15 年前と別物になった。借入の平均期間は 2.8 年から 8.9 年へ伸び、3 年以内に返す割合は 93% から 24% へ下がった。リーマン後の増資の経験が、今の守りの形を作っている。
それでも借金は重い。純負債は自己資本の 2.2 倍あり、営業利益は支払利息の 4.5 倍しかない。借入金利は 1.4% 台と低く、3.5% 前後になれば利払いは大きく増える。
資本効率は高い。自己資本利益率(ROE)は直近 14.6% だ。ただし純利益の 3 割近くは売却益に支えられる。これを毎年の稼ぐ力と見るのは危うい。
会社の自己評価も厳しい。固定費に対するストック収益の倍率を 200% 以上に高める目標を掲げるが、直近は 195% と届いていない。この数字を見る限り、売却益に頼らない土台づくりは道半ばだ。
株主との関係は良好だ。支配株主が議決権の 56% を持ち、取締役会の過半は独立社外取締役が占める。支配株主との取引はないと開示している。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
事業環境は、賃料に追い風、金利に逆風という形だ。
東京のオフィスは空室率が 1% 前後で、賃料は前年比で 1 割を超えて上がっている(JLL の 2026 年 1〜3 月期調査)。物件を買って改装する側には追い風だ。一方、日本銀行の利上げで長期金利は上がり、J-REIT 全体の時価総額は 2026 年 9 月に 15 兆円を割った。REIT は物件の買い手でもあるので、金利の高い局面では売却先が細る。
国内の不動産投資市場は活発で、2026 年 1〜3 月期の投資額は 2 兆円台だった。内訳はオフィスが約半分、ホテルが 15% を占める。いちごの得意分野と重なる。
ホテルは訪日客が支える。2025 年の訪日客は 4,268 万人で過去最多だった。政府は 2030 年に 6,000 万人を目標にする。ただし新規の開業も増え、いちごのホテル事業は前期の大型売却の反動で 21% の減益になった。
太陽光は逆風が強い。固定価格買取の期間が終われば、売電単価は市場価格に近づく。出力制御(発電を止められること)も九州などで増えている。会社は蓄電池やバイオマス発電へ軸足を移している途中だ。
競争相手は、大手デベロッパー、中堅の不動産会社、国内外の不動産ファンドだ。いちごオフィスリートは中規模のオフィスに特化し、日本ビルファンドのような大型 REIT とは物件の大きさで分かれる。手間のかかる中小の物件で腕を磨くのが、いちごの居場所になる。
資本政策と M&A
還元は厚く、さらに増やす方向だ。2027 年 2 月期は株主資本配当率(DOE)の目標を 4% 以上から 5% 以上へ引き上げ、配当を前期比 35% 増やす計画だ。減配しない累進配当を掲げる。
自社株買いは 2018 年 2 月期からの累計が 433 億円になった。直近期は 98 億円を買い、発行済み株式の 7% を消却した。今期も 100 億円の取得を決めている。
還元は純利益の 8 割を超える。その分、成長の資金は借入と物件の回転でまかなう。自己資本は 1,161 億円で、増え方は緩やかだ。
M&A は、会社を買う型ではなく物件を取得する型だ。直近期は 795 億円を買い、735 億円を売った。TOB(株式公開買付け)については、支配株主が議決権の 56% を持つため、この株主が応じない限り第三者は動けない。支配株主は「長期安定株主として保有する方針」と開示している。
10 年の還元は、DOE 5% 以上の累進配当と自社株買いの方針の範囲(純利益の合計の 8 割弱)。2027 年 2 月期の枠 100 億円のうち取得ずみの約 42 億円は株数に反映ずみなので、還元の合計から除いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
いちごは、金利が上がる世界でも利益を伸ばしてきた。直近の事業利益は 280 億円で、5 年前の 2.7 倍だ。賃料が上がる局面では心築の腕が効く。東京のオフィスは空室がほとんどなく、家具・設備つきのセットアップオフィスの賃料は平均で 66% 上がった。
財務は固い。借入の平均期間は 8.9 年で、金利の約 6 割は固定してある。ストック収益は固定費の 2 倍近くあり、売却益が出ない年でも黒字を守れる。
還元も強い。配当の目標を引き上げ、100 億円の自社株買いを続ける。発行済み株式は 7% 減り、1 株あたりの利益は増えていく。会社は 2027 年 2 月期に事業利益 340 億円、純利益 180 億円を見込み、長期目標の ROE15% も達成圏にある。
含み益は 835 億円ある。売れば帳簿より高く現金になる。支配株主が長期で持つので、経営の方向もぶれにくい。
物価が毎年 3% 上がれば、賃料も物件価格も 10 年で 3 割強上がる。この果実を最も取りやすい形の事業を、いちごは持っている。
慎重な見方
いちごの利益は、景気の良い今に高く出ている。売却益が事業利益の 3 割近くを占め、市況が変わればすぐ縮む。
金利の上昇は 2 重に効く。まず利払いだ。借入金利は 1.4% 台と低いが、借り換えのたびに 3.5% 前後へ上がる。純負債は 2,552 億円あり、10 年で利払いは年に 60 億円強増える。次に物件価格だ。長期金利が 3% に近づけば買い手の求める利回りも上がり、物件価格は賃料ほどには上がらない。簿価ベースの利回りは 5.7% で、借入金利との差は薄くなる。
固定価格買取の高い太陽光発電所は、2033 年ごろから順に期間が終わる。売電収入は大きく下がる。ホテルは前期に売却益 26 億円を計上した。この水準が続くと見るのは強すぎる。
リーマンの時は赤字に転じ、増資に追い込まれた。今は借入期間が長いが、純負債は自己資本の 2.2 倍ある。市況が崩れれば、売りたい時に売れない。
会社が見込む 2027 年 2 月期の純利益 180 億円は、2 期連続の過去最高益という高い山の上にある。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠があるが、慎重な見方がやや強い。賃料の上昇と財務の固さは本物だ。ただ、利払いの増加と売却益の振れは、10 年後の純利益を今より低く見る理由になる。
確率は中立に 34% と最も重く置いた。慎重側(やや悲観と悲観)の合計は 38% で、強気側(楽観とやや楽観)の 28% より厚い。支配株主の長期保有と 100 億円規模の自社株買いは下支えになるが、価値の計算を変えるほどではない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 516 円2,020 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 257 円1,005 億円)。 今の値に割り戻すと 399 円1,562 億円、今との差 −5.1%、 期待の年率 +6.3%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,036 円4,060 億円 | 398 円1,558 億円 | +241.4% | +13.1% | 115 円449 億円 |
| やや楽観 | 20% | 789 円3,091 億円 | 347 円1,358 億円 | +170.4% | +10.5% | 227 円890 億円 |
| 中立 | 34% | 584 円2,287 億円 | 308 円1,208 億円 | +112.4% | +7.8% | 303 円1,188 億円 |
| やや悲観 | 25% | 242 円950 億円 | 168 円658 億円 | −2.3% | −0.2% | 103 円402 億円 |
| 悲観 | 13% | 122 円480 億円 | 66 円258 億円 | −55.2% | −7.7% | 24 円96 億円 |
| 加重平均 | 100% | 516 円2,020 億円 | 257 円1,005 億円 | +83.9% | +6.3% | 772 円3,025 億円 |
今の株価時価総額 420 円1,645 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 物価が賃料に波及し、売却益が高い水準で続く10年 利益 249 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 1,036 円4,060 億円
物価の上昇が賃料に波及し、東京のオフィス賃料は 10 年で 5 割近く上がる。長期金利は 3% に落ち着き、買い手が求める利回りも安定して、物件価格は賃料に沿って上がる。心築は取得の件数を増やし、売却益が毎年高い水準で出る。いちごオーナーズは年 38 棟を売る。
ホテルは訪日客 6,000 万人の目標が近づき、客室の稼ぎが伸びる。アセットマネジメントは、3 つの上場 REIT が物件を増やし、運用残高が 5,000 億円を超える。太陽光は市場価格に上乗せする制度(FIP)への移行と蓄電池で、発電の価値が保たれる。
借入は増えるが、利益の伸びが利払いの増加を吸収する。自社株買いも続き、会社が掲げる ROE15% の目標がほぼ守られる姿だ。
- 心築:数量 1,950(保有する心築資産の規模(取得簿価ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.36(簿価 1 億円あたりの売上(賃料+売却額・億円)の指数)→ 売上 706 億円・営業利益 226 億円。件数が増え、売却益が高い水準で続く
- ホテル:数量 1,150(保有ホテル資産の規模(簿価・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.23(簿価 1 億円あたりの売上(賃料・運営収益・売却額・億円)の指数)→ 売上 264 億円・営業利益 122 億円。訪日客の増加で客室の稼ぎが伸びる
- いちごオーナーズ:数量 38.0(1 年に売る物件の数(棟))× 価格 22(1 棟あたりの売上(億円)の指数)→ 売上 835 億円・営業利益 100 億円。年 38 棟を売る
- アセットマネジメント:数量 5,200(運用資産残高(取得価格ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.01(運用残高 1 億円あたりの収入(ベース運用フィー+成果報酬など・億円)の指数)→ 売上 76 億円・営業利益 38 億円。3 つの REIT の資産が増える
- クリーンエネルギー:数量 200(稼働中の発電出力(メガワット))× 価格 0.26(1 メガワットあたりの売電収入(億円)の指数)→ 売上 51 億円・営業利益 21 億円。FIP 移行と蓄電池で収入を保つ
倍率:事業の純利益 249 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.2% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍。全体の PER 14.73 倍、時価総額 3,662 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利が 3% 前後で落ち着き、東京の賃料上昇と訪日客の増加がそろい、売却の相手も資金を出し続ける。会社の実績は強いが、10 年間すべてがそろう確度は高くない。
やや楽観 20% 賃料は伸び、金利の重さを売却益で吸収する10年 利益 194 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 789 円3,091 億円
東京の賃料上昇は続くが、長期金利の上昇で物件価格の伸びは賃料より緩やかになる。心築は今の規模をやや広げ、売却益は今の高い水準を保つ。ホテルは運営と賃料が伸び、いちごオーナーズも年 34 棟を安定して売る。
アセットマネジメントの運用残高は 4,600 億円まで増える。太陽光は買取期間の終わりが来るが、蓄電池とバイオマスが一部を補う。借入金利は 3.5% 前後へ上がり、利払いは増えるものの、事業利益の伸びが上回る。
自社株買いと累進配当は維持され、純利益は今の水準を 2 割ほど上回る。ROE は 12% 台にとどまり、会社が掲げる 15% には届かない。
- 心築:数量 1,780(保有する心築資産の規模(取得簿価ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.35(簿価 1 億円あたりの売上(賃料+売却額・億円)の指数)→ 売上 622 億円・営業利益 187 億円。売却益が今の水準を保つ
- ホテル:数量 1,050(保有ホテル資産の規模(簿価・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.22(簿価 1 億円あたりの売上(賃料・運営収益・売却額・億円)の指数)→ 売上 228 億円・営業利益 98 億円。運営と賃料が伸びる
- いちごオーナーズ:数量 34.0(1 年に売る物件の数(棟))× 価格 21(1 棟あたりの売上(億円)の指数)→ 売上 726 億円・営業利益 80 億円。年 34 棟
- アセットマネジメント:数量 4,600(運用資産残高(取得価格ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.01(運用残高 1 億円あたりの収入(ベース運用フィー+成果報酬など・億円)の指数)→ 売上 67 億円・営業利益 31 億円。REIT が着実に増える
- クリーンエネルギー:数量 185(稼働中の発電出力(メガワット))× 価格 0.25(1 メガワットあたりの売電収入(億円)の指数)→ 売上 45 億円・営業利益 16 億円。買取期間の終わりを蓄電池が一部補う
倍率:事業の純利益 194 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.73 倍、時価総額 2,666 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の足元の勢いと、賃料の上昇が当面続く見通しから、上振れの確率を比較的厚く置いた。ただし売却益の振れと金利の重しが残るため、中立よりは薄い。
中立 34% 賃料は物価並みに上がり、利払いと売却益の正常化が利益を押さえる10年 利益 146 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 584 円2,287 億円
物価と同じ 3% で賃料も物件価格も上がり、心築・ホテル・いちごオーナーズの事業利益は、記録的な今の売却益の水準から少し戻った形で 10 年後に落ち着く。保有規模は実質でほぼ横ばいだ。還元に利益の大半を回すので、資産を大きく増やす余力はない。
一方、借り換えが進んで借入金利は 1.4% 台から 3.5% 前後へ向かい、利払いは年に 60 億円強増える。高い買取価格の太陽光発電所は 2033 年ごろから期間が終わり、クリーンエネルギーの収入は 2 割ほど下がる。
この結果、10 年後の事業利益は約 330 億円、純利益は約 150 億円になる。今の純利益 166 億円を名目でも下回るが、これは今が売却益の山にいることと、金利が正常化することの表れだ。
- 心築:数量 1,600(保有する心築資産の規模(取得簿価ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.33(簿価 1 億円あたりの売上(賃料+売却額・億円)の指数)→ 売上 535 億円・営業利益 150 億円。規模はほぼ横ばい、価格は物価並み
- ホテル:数量 950(保有ホテル資産の規模(簿価・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.21(簿価 1 億円あたりの売上(賃料・運営収益・売却額・億円)の指数)→ 売上 195 億円・営業利益 78 億円。賃料と運営収益が物価並みに上がる
- いちごオーナーズ:数量 30.0(1 年に売る物件の数(棟))× 価格 21(1 棟あたりの売上(億円)の指数)→ 売上 622 億円・営業利益 62 億円。年 30 棟
- アセットマネジメント:数量 4,000(運用資産残高(取得価格ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.01(運用残高 1 億円あたりの収入(ベース運用フィー+成果報酬など・億円)の指数)→ 売上 59 億円・営業利益 25 億円。運用残高は小幅に増える
- クリーンエネルギー:数量 175(稼働中の発電出力(メガワット))× 価格 0.23(1 メガワットあたりの売電収入(億円)の指数)→ 売上 41 億円・営業利益 13 億円。高い買取価格の発電所が期間満了
倍率:事業の純利益 146 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.6 倍。全体の PER 12.57 倍、時価総額 1,833 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:最も多くの材料が重なる、利益が今とほぼ同じ水準で推移する姿。強気側と慎重側の言い分が、ほぼ釣り合う中心に置いた。
やや悲観 25% 金利と供給過剰で売却益が半分に縮む10年 利益 50 億円 · PBR 0.8 倍 · 株価時価総額 242 円950 億円
長期金利が 3% を超えて動き、買い手が求める利回りが上がって、物件価格は賃料の伸びほどには上がらない。心築は取得を絞り、売却益が今の半分近くに縮む。いちごオーナーズは年 22 棟に減り、在庫の回転も遅れる。
ホテルは新規の供給が増えて客室単価が頭打ちになり、利益率が下がる。J-REIT の時価総額が縮むため、アセットマネジメントの運用残高も減る。太陽光は買取期間の終わりと出力制御で収入が減る。
一方、借入金利は 3.5% 前後へ上がって利払いが重くなり、純利益は 50 億円ほどに落ちる。自社株買いは止まり、配当を守る範囲の還元になる。ROE は資本コストを大きく下回る。
- 心築:数量 1,400(保有する心築資産の規模(取得簿価ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.29(簿価 1 億円あたりの売上(賃料+売却額・億円)の指数)→ 売上 402 億円・営業利益 88 億円。売却益が半分に縮む
- ホテル:数量 800(保有ホテル資産の規模(簿価・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.18(簿価 1 億円あたりの売上(賃料・運営収益・売却額・億円)の指数)→ 売上 141 億円・営業利益 42 億円。客室が供給過剰になり利益率が下がる
- いちごオーナーズ:数量 22.0(1 年に売る物件の数(棟))× 価格 19(1 棟あたりの売上(億円)の指数)→ 売上 409 億円・営業利益 29 億円。年 22 棟に減る
- アセットマネジメント:数量 3,300(運用資産残高(取得価格ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.01(運用残高 1 億円あたりの収入(ベース運用フィー+成果報酬など・億円)の指数)→ 売上 43 億円・営業利益 13 億円。REIT の売却先が細り縮む
- クリーンエネルギー:数量 165(稼働中の発電出力(メガワット))× 価格 0.21(1 メガワットあたりの売電収入(億円)の指数)→ 売上 35 億円・営業利益 8 億円。出力制御と期間満了で収入減
倍率:ROE 3.8% は資本コスト以下で、稼ぐ力(純利益÷k)は約 590 億円。ただし資産を売れば返せる分があり、売れる資産の税後(約 900 億円)の 9 割ほどにあたる 880 億円を、今の自己資本の 0.76 倍で表した。EV÷営業利益は約 19 倍。
確率:長期金利の上昇で買い手が細り、売却益が縮むのは、10 年のどこかで起こる確度が高い。金利の上昇とホテルの供給増を重く見て、中立に近い厚さで置いた。
悲観 13% 金利の上昇と市況の崩れで、回転の事業が止まる10年 利益 −120 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 122 円480 億円
長期金利が上がり、不動産の買い手が資金を引き、鑑定評価が 2 割以上下がる。売りたい時に売れず、心築・オーナーズは在庫を抱える。売却益は消え、物件によっては評価損が出る。
借入金利は借り換えのたびに上がり、純負債は自己資本の 2 倍超のまま。利払いが事業利益を上回って赤字になる。自社株買いは止まり、配当も削る。
ホテルと REIT の運用も縮み、太陽光の買取期間も終わる。いちごは、物件を安く手放して借金を返す守りの会社に変わる。リーマン後と同じように、自己資本を守るための増資が出る可能性もある。
- 心築:数量 1,100(保有する心築資産の規模(取得簿価ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.24(簿価 1 億円あたりの売上(賃料+売却額・億円)の指数)→ 売上 261 億円・営業利益 16 億円。売却益が消え、保有物件の価値も下がる
- ホテル:数量 650(保有ホテル資産の規模(簿価・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.15(簿価 1 億円あたりの売上(賃料・運営収益・売却額・億円)の指数)→ 売上 95 億円・営業利益 11 億円。運営と賃料が落ち込む
- いちごオーナーズ:数量 12.0(1 年に売る物件の数(棟))× 価格 15(1 棟あたりの売上(億円)の指数)→ 売上 186 億円・営業利益 4 億円。年 12 棟まで減り在庫が残る
- アセットマネジメント:数量 2,600(運用資産残高(取得価格ベース・億円。今の値段のままの実質))× 価格 0.01(運用残高 1 億円あたりの収入(ベース運用フィー+成果報酬など・億円)の指数)→ 売上 28 億円・営業利益 4 億円。REIT の拡大が止まり報酬が減る
- クリーンエネルギー:数量 150(稼働中の発電出力(メガワット))× 価格 0.18(1 メガワットあたりの売電収入(億円)の指数)→ 売上 26 億円・営業利益 3 億円。買取期間満了と価格低下
倍率:赤字のため稼ぐ力では測れない。保有不動産の鑑定が 25% 下がった場合に借金を返したあと残る資産の税後(約 450 億円)に近い 480 億円を、今の自己資本の 0.41 倍で置いた。EV÷営業利益は約 80 倍で、利益では測れない。
確率:10 年のどこかで市況が崩れ、借入が重いままリーマンのような局面が来る確度は低くない。確率は、構造的な負けとして低くしすぎず置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
心築
オフィス・商業ビル・物流施設・底地などの現存不動産を取得し、改装と入居の入れ替えで価値を上げ、賃料を受け取りながら頃合いで売る。いちごの中核事業。
| 数量保有する心築資産の規模(取得簿価ベース・億円。今の値段のままの実質) | 価格簿価 1 億円あたりの売上(賃料+売却額・億円)の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 1,518 | 0.25 | 379 | 131 |
| 10 年後 中立 | 1,600 | 0.33 | 535 | 150 |
取り方:数量は心築セグメントの販売用不動産 572 億円と固定資産 946 億円の合計(簿価)。売上は賃貸などのストック収益 90 億円と売却額 289 億円(心築 9 物件 232 億円、その他 2 件 57 億円)の合計で、セグメント間の消去前の概算。事業利益は開示の 131 億円(営業利益+心築資産の売却損益)。先の価格は賃料と売却額が物価並みに上がる前提で 10 年 1.34 倍が基本。
ホテル
保有ホテルの賃料、自社運営のワンファイブホテルズ、収益管理ソフト PROPERA の利用料、ホテルの売却益。2026 年 2 月期から独立したセグメント。
| 数量保有ホテル資産の規模(簿価・億円。今の値段のままの実質) | 価格簿価 1 億円あたりの売上(賃料・運営収益・売却額・億円)の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 908 | 0.15 | 139 | 72 |
| 10 年後 中立 | 950 | 0.21 | 195 | 78 |
取り方:数量はホテルセグメントの販売用不動産 474 億円と固定資産 434 億円の合計(簿価)。売上はストック収益 71.5 億円(賃料 56 億円・運営と PROPERA 15 億円)と売却額 67.6 億円(1 物件)の合計で概算。事業利益は開示の 72 億円(売却益 26 億円を含む)。
いちごオーナーズ
東京都心の新築レジデンス(GRAN PASEO)を企画し、建設を外部に任せて完成後に機関投資家・事業会社・個人・自社の私募ファンドへ売る。
| 数量1 年に売る物件の数(棟) | 価格1 棟あたりの売上(億円)の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 25.0 | 15 | 387 | 38 |
| 10 年後 中立 | 30.0 | 21 | 622 | 62 |
取り方:2026 年 2 月期に 25 棟を売り、売却額は 378 億円。これに賃貸収益 8 億円を足して 1 棟あたり 15.5 億円とした。事業利益は開示の 38 億円。先の価格は物価並み(10 年 1.34 倍)が基本。
アセットマネジメント
上場 3 投資法人(いちごオフィス・いちごホテル・いちごグリーンインフラ)、私募リート・ファンド、セキュリティ・トークンの運用。運用残高に応じた報酬と、売却時の成果報酬を受け取る。
| 数量運用資産残高(取得価格ベース・億円。今の値段のままの実質) | 価格運用残高 1 億円あたりの収入(ベース運用フィー+成果報酬など・億円)の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 3,660 | 0.01 | 40 | 23 |
| 10 年後 中立 | 4,000 | 0.01 | 59 | 25 |
取り方:数量は 2026 年 2 月期末の運用資産残高 3,660 億円。収入はストック収益 27 億円とフロー収益 13 億円の合計 40 億円。事業利益は開示の 23 億円(販管費控除後)。先の収入率は物件の価格・賃料に連動して物価並みに上がる前提。
クリーンエネルギー
遊休地を使った太陽光・風力発電所の保有と売電。固定価格買取制度(FIT)の収入が中心で、系統用蓄電池とバイオマス発電を新しく開発中。
| 数量稼働中の発電出力(メガワット) | 価格1 メガワットあたりの売電収入(億円)の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 159 | 0.29 | 46 | 17 |
| 10 年後 中立 | 175 | 0.23 | 41 | 13 |
取り方:数量は稼働中の太陽光・風力 49 か所の合計 158.8 メガワット。売電収入は 46.4 億円で、1 メガワットあたり 0.29 億円。事業利益は開示の 16.5 億円。FIT は固定価格なので、先の価格は物価で上げず、買取期間の終わりで下がる前提(2033 年から順に 20 年の期間が終わる)。
リスクと懸念
金利の上昇で利払いが重くなる
借入金利は 1.4% 台と低く、借り換えのたびに 3.5% 前後へ上がる。純負債は 2,552 億円で、10 年で利払いは年に 60 億円強増える。金利固定は 6 割ほど進めているが、10 年では全部が入れ替わる。純利益の 3 割に近い額が消える計算だ。
売却益の振れが大きい
事業利益の 3 割近くは物件の売却益で、買い手の資金と市況に左右される。直近は過去最高の水準にある。リーマン後には営業赤字と増資を経験しており、売却益が消える局面では利益の土台が一気に細る。
物件価格の下落と借金の重さ
純負債は自己資本の 2.2 倍ある。長期金利が上がって買い手の求める利回りが上がると、鑑定評価が下がり、含み益 835 億円が縮む。売りたい時に売れない局面では、借り換えの条件も悪くなる。
太陽光の買取期間の終わり
固定価格買取の価格が特に高い初期の発電所は、2033 年ごろから順に期間が終わる。市場価格に近づくと売電収入は大きく下がる。出力制御(発電を止める指示)も増えており、蓄電池やバイオマスで補えるかが課題だ。
ホテルの供給増と訪日客の変動
訪日客は 2025 年に過去最多となったが、中国からの客は 12 月に前年を大きく割った。新規のホテルも増え、客室単価が頭打ちになれば、保有ホテルの賃料と売却益の両方に響く。
支配株主の議決権と少数株主
支配株主が議決権の 56% を持ち、比率は年々上がっている。長期保有の方針は安定材料だが、少数株主の意見が通りにくい面もある。取締役会の過半は独立社外取締役だが、支配株主が動けば経営の方向は大きく変わりうる。
今後の分かれ目
- 長期金利が 3% を超えて上がり続けたら
- 物件の買い手が資金を引き、売却益と利払いの両面で利益が下振れする。慎重な見方の確率を上げる。
- 東京のオフィス賃料が物価を超えて伸び続けたら
- 心築の賃料収入と売却益が上振れする。強気の見方の確率を上げる。
- いちごオフィスリートなど上場 3 REIT が物件を増やし運用残高が 4,000 億円を超えたら
- アセットマネジメントの報酬が伸び、ストック収益が厚くなる。利益の質が上がるので強気の見方を強める。
- 売却益が 2 年続けて前年を大きく下回ったら
- 物件市場が冷えたとみて、慎重な見方の確率を上げる。含み益の実現が進んでいるかを確認する。
- 支配株主が議決権の比率をさらに高めたり、非上場化を示したりしたら
- 少数株主への影響を見直す。TOB などの条件が出た場合は、10 年の価値と比べて判断する。
- 太陽光の買取期間満了後の売電単価が、想定より低いままなら
- クリーンエネルギーの利益を下げ、蓄電池などの新規事業の進み方をより重く見る。
見ておくもの
- 心築・ホテル・いちごオーナーズの売却益と、売却額が含み益を上回っているか
- 長期金利と、いちごの借入金利(加重平均 1.43%)の推移
- 東京のオフィス空室率と賃料の伸び
- 上場 3 REIT の運用資産残高と、ホテルの客室 1 室あたり売上(RevPAR)
- 自社株買いの進み方と、DOE 5% 以上の配当方針が守られるか
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から出した。中立は ROE 9.9%・資本コスト 8.5%・成長 4% から正当化 PER 12.6 倍で、売却益の割合が高いという利益の質を見て、ROE が資本コストを上回る会社の下限(1÷k)の 11.8 倍に置いた。今の株価は見ていない。
純利益は、事業利益(営業利益+心築・ホテル資産の売却損益)から、借入金利の上昇分(年 64 億円)を含む金融費用を引き、税 31.3% を掛けて出した。op_oku は売却益込みの事業利益で書いており、営業利益ベースの過去の比とは形が違う。
店舗を借りて営む会社ではない。ホテルの運営会社の賃借は小さく、新リース会計基準(2028 年 2 月期から)で営業利益と純負債の形が少し変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(賃料を営業費用に入れた形)でそろえた。今の時価総額と比べたのは最後だけで、倍率を今の株価に寄せてはいない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.2→14.73 倍・やや楽観 PER 12.3→13.73 倍・中立 PER 11.8→12.57 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.0% = 8.5%。事業は傾いていないので extra は置かない。支配株主が議決権の過半を持つこと、売却益の振れなどの個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。