結論
アイビスは、世界的なペイントアプリ「ibisPaint」を持つ日本のソフトウェア会社である。筆者の結論は「やや割安」だ。ただし、安全域は大きくない。独自の利用者基盤を持つモバイル事業には価値があるが、受託開発にはAIエージェントによる構造的な代替圧力があり、主力アプリも生成AIとの競争を免れない。
最大の資産は、世界約4,000万人の月間利用者である。2025年末の有料契約数は約39.8万件にすぎず、無料利用者の一部が有料に移るだけで、利用者数を増やさずに収入を伸ばせる。2026年上期には有料契約数が約48.5万件に達した。会社は2035年に有料契約200万件を目指すが、中立ではそこまでの成功を前提にしない。生成AIの普及、無料利用者の低い支払意思、解約率の非開示を考え、課金への転換が途中で鈍る可能性を残す。
もう一つの柱であるIT技術者派遣と受託開発は、売上の約4割を占める。足元では受託案件が伸びているものの、長く持つ株主には人月と工数の価格決定力を慎重に見る必要がある。AIで開発効率が数倍になっても、その便益を発注者が受け取れば、売れる工数は減る。AIを使えることと、AIによって高い利益を取り続けられることは違う。
10年後の中立では、ペイントアプリの有料利用が成長する一方、開発サービスの数量は縮む。高い利益をすべて再投資する必要がないため現金は積み上がるが、株主還元はまだ厚いとはいえない。五つの筋書きで測った現在価値は約156億円で、基準時価総額約140億円を約12%上回る。企業価値が伸びる余地はあるものの、AIへの対応と有料契約の定着を見誤れば、この差は容易に消える。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の見方では、まず「この事業を10年後も所有したいか」と問う。アイビスの答えは、ペイントアプリについては条件付きで肯定、受託開発については慎重、となる。世界中の創作者が日常的に使う道具を持ち、無料版から有料版へ自然に移行させられる会社には魅力がある。設備を大量に持たずに収入を増やせるため、新しい契約から生まれる利益のかなりの部分を、将来のオーナー利益に変えられる可能性がある。
ただし、習熟した利用者が多いことと、解約しない有料顧客が多いことは同じではない。顧客の継続率、値上げ後の獲得単価、広告費を差し引いた増分利益が見えなければ、現在の高い利益率を永久のものとは認めにくい。自分で筆を動かす人は残るだろうが、AIが絵の制作そのものを変えるなら、製品の使われ方は大きく変化する。強い製品であっても、10年後の収入まで予測できるとは限らない。
もう一つ確認したいのは、稼いだ資金の使い道である。会社は純現金を持ち、配当を増やしている一方、株主還元率はまだ高くない。利益を生む本業に投じればよいが、買収価格の高い技術企業に資金を使えば、現金の額面ほどの価値は株主に戻らない。受託開発がAIで効率化した場合も、減った工数を売上の減少として受け入れ、新たな高付加価値事業へ移せるかが問われる。
筆者は、世界的な製品の価値と現在の純現金を評価する。ただし、2035年の会社目標をそのまま信じて高い値段を払うつもりはない。現時点の本質価値は市場評価を少し上回るが、十分に厚い安全域とは言いにくい。これからの決算では契約数の増加だけでなく、利用者の定着と資本配分の規律を確かめたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、スマートフォンやパソコンで絵を描くための「ibisPaint」である。無料版では広告を表示し、機能を使い込む利用者には月額・年額の有料サービスや買い切り版を販売する。2025年のモバイル事業売上は約28.3億円で、そのうちサブスクリプションが約12.0億円、広告が約13.5億円を占めた。無料で大勢を集め、熱心な創作者を有料顧客に育てる仕組みである。
利益の生まれ方には大きな特徴がある。ペイントアプリは、利用者が増えてもソフトウェアそのものの追加製造費が小さい。2025年のモバイル事業は約15.0億円のセグメント利益を稼ぎ、同事業売上に対する利益率は約53%に達した。ただし、この利益から本社費や研究開発、広告宣伝を賄う必要があり、全社で同じ利益率が残るわけではない。2026年上期には有料課金が大きく伸びる一方、アプリ広告収入は前年同期比で減少した。
ソリューション事業では、企業向けのIT技術者派遣と受託開発を営む。2025年の売上は約20.6億円で、派遣がおよそ15.1億円、受託開発が約5.5億円という構成である。2025年末のITエンジニア数は約254人であり、人員稼働と案件単価が収益の主要な決定要因になる。2026年上期は受託開発が大きく成長したが、その中には買収した事業の寄与もあるため、既存事業の生産性向上とは分けて評価する。
第三の事業は、歌声合成ソフト「VoiSona」などのAI歌声合成である。2025年の売上は約1.2億円で、まだ赤字だった。独自の歌声技術や権利処理済み音声ライブラリーには商品価値があるが、生成音楽技術が急速に進歩するため、独立した大きな利益の柱になるかは不透明である。会社はペイント、歌声、動画などを結ぶ創作基盤を構想しているものの、未実現の事業価値を現在の利益に先取りしてはいない。
優良さと弱いところ
アイビスの最も強い堀、つまり競争相手が簡単には奪えない資産は、長年かけて集めた創作者と製品の習熟である。複雑な絵を描く操作を覚え、作品を蓄積し、制作手順を身につけた利用者は、単純な値下げだけでは他のソフトに移らない。動画で描き方を共有する文化や口コミも、新しい利用者の獲得を助ける。会社が示す若年利用者層での高いシェアは、この存在感を裏づける。ただし、その数字は特定の競合アプリとの利用者比較であり、世界の創作ソフト市場全体の売上シェアではない。
値決め力には、期待と未検証の部分が同居する。2026年に世界の多くの地域でサブスクリプション料金を引き上げたことは前進だ。しかし会社自身が、新規登録の初動には減少が見られ、値上げの効果を判断するには時間が必要だと説明している。低い解約率や継続的な値上げ成功を示す十分な数字は開示されていない。価格を上げられた事実と、長年にわたり価格を上げ続けられる力は区別したい。
2025年の自己資本利益率は約30%と高く、純現金も厚い。これは軽い資本でソフトウェア収入を得られる長所である。一方、同社は2023年上場で、長期間にわたる増分投下資本利益率の検証には限界がある。近年の高い利益率が、製品への長年の先行投資の回収期を映している可能性もある。今後は増えた課金売上に対し、広告宣伝費、開発費、買収費用を引いた利益がどれだけ増えるかが重要だ。
会社全体を強い堀とまでは判定しない。ペイントアプリの習熟と世界的な利用者基盤には競争優位があるものの、全社売上の相当部分はAI代替が進みやすい人月型事業である。生成AIが創作工程を変えるリスクも残る。製品の強さを評価しながら、その強さがすべての利益に及ぶとは考えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
デジタル作画市場では、セルシスの「CLIP STUDIO PAINT」、Procreate、Adobeの創作ソフト、MediBang Paintなどが競争相手となる。競争は料金だけでなく、筆の描き心地、対応端末、作品形式、制作工程、利用者同士の交流によって決まる。スマートフォンで手軽に描く若い利用者を長年集めてきたことは、アイビスに有利に働く。ただし、競合ごとの世界全体の課金売上や、有料契約数の統一された市場シェア統計は確認できない。利用者シェアと収益シェアを混同して評価を膨らませるべきではない。
需要の大きな変化は、生成AIが完成画像を短時間で作れるようになったことである。趣味として自分の手で描く楽しさは消えないが、仕事で納品する画像や簡単な素材なら、筆を使う必要が減る可能性がある。逆に、手描きと生成AIを組み合わせる編集環境になれれば、創作活動全体の中で役割を残せる。会社も3D機能、AI機能、従量制課金などを構想している。しかし、機能の予定だけで売上を増やす根拠にはしない。
広告事業では、無料利用者の数だけでなく、広告表示回数と一回当たりの広告単価が効く。2026年上期には利用者規模を保ちながら広告収入が減少した。世界の広告市場が拡大しても、利用者の多い国の広告単価が低い、広告表示が制限される、配信事業者への依存が強まる、といった事情で売上は伸びないことがある。したがって、無料利用者の数量と広告・買い切り収益の単価を別々に予測する。
ソリューション事業の競争相手は、国内の多数のSI企業、技術者派遣会社、顧客企業の内製開発組織である。会社資料が示す対象市場に対して、アイビスのシェアは派遣で約0.25%、受託開発で約0.02%にとどまる概算で、価格支配力を持つ立場ではない。今後はAIエージェントが仕様整理、プログラム作成、試験、保守の多くを引き受ける。技術者不足による単価上昇と、必要工数の減少が同時に起きうる点が、従来の人手不足相場とは違う。
AI歌声合成は独自の技術とライブラリーを売る市場だが、音声生成・音楽生成の基盤モデルとの競争が激しく、比較可能な世界市場の数量とシェアを確定できない。主力ペイントの市場と一緒に大きな成長市場だと扱わず、独立した小さな事業として見る。
資本政策と M&A
資本配分では、自社製品への投資を続けながら、近年は株主への現金還元を増やしている。配当総額は2024年の約1.46億円から2025年の約1.84億円へ増え、2026年には約2.20億円を計画する。配当性向も17.4%から21.6%、計画では23.4%へ上がる。現在の方針は配当性向20~25%を目安とするものであり、DOEや総還元性向、自社株買いの金額については具体的な数字の約束がない。
2026年に公表した3カ年計画は、2028年12月期の連結売上高74.27億円、営業利益19.87億円、純利益13.39億円、ROE27.0%を目指す。有料契約数は約85.4万件を計画し、2035年には連結売上高150億円と有料契約200万件を長期目標に掲げる。目標の魅力は大きいが、10年の株主価値を考えると、達成後も利益を保てるか、資金を再投資しすぎないかがより重要である。
買収では2025年にテクノスピーチを連結し、ゼロイチスタートも取得した。2026年には後者を吸収合併している。歌声合成の技術獲得と受託開発の拡大には意味があるが、のれんや技術関連資産の償却が将来利益に残る。AI市場を追う大型買収が増えれば、今の高い資本効率を損なうおそれがある。経営者側の持株比率が高いことも踏まえ、少数株主への現金の戻り方は満額ではなく慎重に評価する。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ibisPaintの最大の強みは、同じ国の顧客を奪い合う国内アプリではなく、世界各地の創作者から選ばれてきた事実にある。2025年に約4,000万人の月間利用者を抱えながら、有料契約者は約40万人にとどまる。無料利用者のわずかな割合が課金するだけでも、収入は大きく増える。競合に比べて小さな広告費で世界の利用者へ自社製品を告知できることも有利だ。利用者が制作過程を動画で公開し、互いに学ぶ文化は、新規利用者を呼び込む販路として機能している。
2026年上期には有料契約数が約48.5万件に達し、課金売上は前年同期比で大きく伸びた。会社は世界の多くの地域で価格改定を実施し、マルチデバイス化も進めている。創作者がスマートフォンからパソコンへ移っても、使い慣れた道具を継続できれば利用期間は長くなる。手描きの楽しさ、細部を自分で制御したい需要、作品づくりの学習には、完成画像を自動生成するAIでは置き換えにくい部分がある。
世界の絵を描く人すべてが有料になる必要はない。熱心な利用者の課金率を高め、広告依存を下げれば、安定した現金収入が増える。受託開発の競争が厳しくなっても、アプリが利益の主役であるため、全社の成長が止まるとは限らない。歌声合成も確かな売上を持つ製品であり、買収した技術と既存の創作基盤が結びつけば上振れ余地が生まれる。高い自己資本比率と純現金は、新しい機能への投資を続ける余力となる。
慎重な見方
最大の弱点は、製品の操作画面を使い続けてもらうことが収益の前提になっている点だ。生成AIの完成画像が十分に使えるなら、素材づくりや業務用の絵を従来の方法で描く人は減りうる。若年層で高い利用率を持つことも、将来の課金を保証しない。無料で使う人が多い市場では、価格を上げるほど新規契約が減り、他の無料製品へ移る選択肢もある。2026年の価格改定について、会社は初動で新規登録の減少を認め、解約の具体的な数字は公表していない。
2026年上期のアプリ広告収入は前年同期比で減少した。これは利用者が多ければ自動的に広告収入も増えるわけではないことを示す。広告配信事業者の単価、利用国の構成、アプリストアの規則変更に収益が左右される。競合のCLIP STUDIO PAINT、Procreate、Adobe製品に加え、生成AIの編集ツールが創作工程を奪い合う。今の利用者数を10年後の恒久的な独占と解釈することはできない。
ソリューション事業では、AIエージェントの普及が技術者の稼働時間という販売単位を直接侵食する。会社自身もAIで開発効率が数倍になったと説明しているが、競合も同じ技術を使える。顧客は必要な工数の削減を要求し、人月単価が少し上がっても総売上は減りうる。歌声合成事業は赤字であり、買収に伴うのれんと技術関連資産が残る。新しい創作基盤への投資や買収を重ねて成果が出なければ、純現金の強さも薄れる。高い過去のROEだけでは、この構造変化から株主を守れない。
どちらに重みを置いたか
世界約4,000万人の利用者基盤と、有料契約への移行実績は強い材料である。一方、値上げ後の継続率が十分に示されておらず、人月型事業ではAI代替の圧力が明確だ。中立では有料契約が増えるが、会社の2035年目標には届かず、ソリューション事業は縮む。確率は楽観側30%、中立32%、慎重側38%とした。下方を重めにしたのは、アプリの将来の利用形態と受託開発の数量がともに変わりうるためである。ただし同じAIリスクを資本コストに重ねて上乗せしていない。現時点では小幅な割安という判断だが、確信度は高くない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 1,502 円277 億円(+ 還元の換算額還元の合計 143 円26 億円)。 今の値に割り戻すと 847 円156 億円、今との差 +12.5%、 期待の年率 +8.6%(資本コスト 7.2%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,870 円715 億円 | 287 円53 億円 | +452.1% | +19.8% | 333 円61 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,584 円477 億円 | 217 円40 億円 | +271.9% | +14.9% | 616 円114 億円 |
| 中立 | 32% | 1,693 円313 億円 | 171 円32 億円 | +147.5% | +10.1% | 596 円110 億円 |
| やや悲観 | 24% | 279 円52 億円 | 65 円12 億円 | −54.3% | −8.2% | 83 円15 億円 |
| 悲観 | 14% | 108 円20 億円 | 17 円3 億円 | −83.4% | −17.2% | 17 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,502 円277 億円 | 143 円26 億円 | +118.5% | +8.6% | 1,645 円304 億円 |
今の株価時価総額 753 円139 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% 世界の創作基盤として定着 利益 40 億円 · PER 16.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3,870 円715 億円
ibisPaintは、自分で描くことと生成AIを使うことを自然につなぐ創作環境へ進化する。利用者がスマートフォンからパソコンへ移っても作品と操作の習熟を引き継げるため、熱心な創作者の有料契約が定着する。2035年の年間平均有料契約数は190万件となり、会社が掲げる期末200万件という長期目標に近づく。無料利用者の数も高水準を保ち、広告単価の回復と買い切り販売が収入を支える。
料金改定後も利用者が離れず、創作機能の充実によって契約当たり収入は増える。CLIP STUDIO PAINTやProcreateとの競争は続くが、若年層に親しまれるモバイル製品としての地位を守り、アプリ事業の利益率は高いまま残る。新たなAI機能の収益は、金額の実績が確認できていないため独立した売上には加えず、既存の契約数と実現単価への効果として扱う。
ソリューション事業ではAIエージェントが工数を減らすが、高い専門性の案件に絞ることで売上をおおむね維持する。VoiSonaも黒字化し、ペイントとの連携から一定の収入を得る。研究開発や広告への支出を継続しながら配当を増やし、買収では大きな失敗を避ける。世界的な製品の強みが利益と現金の両方に表れる筋書きである。
- ibisPaint・サブスクリプション:数量 1,900,000(年間平均の有料契約数・件)× 価格 4,700(有料契約1件当たり年間実現売上・円)→ 売上 89 億円・営業利益 49 億円。年間平均有料契約190万件。2035年の会社目標である期末200万件にほぼ到達し、実現単価も上昇する。
- ibisPaint・広告、買い切りアプリ等:数量 42,000,000(代表的な月間利用者数・人)× 価格 55(月間利用者1人当たり年間換算の広告・買い切り等売上・円)→ 売上 23 億円・営業利益 10 億円。MAU4,200万人を維持し、広告単価と買い切り収入が改善する。
- ソリューション・IT技術者派遣:数量 190(年間稼働技術者相当数・人年)× 価格 0.10(技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 19 億円・営業利益 2 億円。高度な技術者への需要が残り、数量は現状比0.95倍。AI効率化を契約単価にも反映する。
- ソリューション・受託開発:数量 54.0(年間の開発技術者相当数・人年)× 価格 0.13(開発技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 7 億円・営業利益 1 億円。数量は現状維持。成果責任を負う高付加価値案件へ移り、単価は物価相当まで上昇する。
- AI歌声合成・VoiSona等:数量 40,000(1万円相当の売上換算販売単位・件)× 価格 11,000(売上換算販売単位当たり名目金額・円)→ 売上 4 億円・営業利益 1 億円。音声ライブラリーとライセンスの販売が広がる。ただし売上換算件数であり実契約数ではない。
倍率:資本コストk7.25%、10年後以降の名目成長g1.5%、堀はnormalで超過利益の残存割合1/2。2035年の余剰現金125億円に係る税後利息1.75億円を除いた事業純利益38.13億円、事業自己資本95.7億円からROE約39.8%、RONIC約23.55%を得る。正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限約16.28倍を適用し、余剰現金の帰属価値93.75億円を別に足す。現在や同業の市場PERは根拠に用いていない。
確率:ペイントアプリが生成AI時代にも制作の中心に残り、有料契約が会社の長期目標にほぼ達し、値上げと利益率を維持する複数の成功が必要になる。実現可能性はあるが、10年間の連続成功として確率は低めにした。
やや楽観 22% 課金転換が続き高収益を維持 利益 26 億円 · PER 16.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 2,584 円477 億円
ibisPaintの世界的な認知と描きやすさは10年後も保たれる。生成AIで簡単な画像制作が自動化される一方、手描きの細かな表現、漫画、イラスト制作、制作過程の共有には引き続き需要がある。会社は既存利用者に向けて有料機能を改善し、パソコン版の利用も広げる。年間平均の有料契約は140万件に増え、無料利用者からの課金転換が会社の利益を押し上げる。
広告は、利用者が一定数残っても急成長しない。海外の広告単価に左右されるため、課金事業ほど収入は伸びない。それでも有料契約の増収が広告の停滞を補う。料金改定を段階的に続けられ、利用者の流出は管理できる範囲に収まる。競合のCLIP STUDIO PAINT、Procreate、Adobe製品に対しては、手軽なモバイル創作と世界的な利用者基盤で差別化する。
ソリューション事業ではAIによって必要な人月が減る。派遣と受託開発の数量を縮めるが、専門性が高い開発を残すことで利益率は維持する。VoiSonaは小幅ながら黒字化し、買収で取得した技術も無理なく活用できる。本社費や開発費は増えるが、軽い資本構造によって多くの現金が残る。会社の長期目標を完全には達成しなくても、十分な利益成長が実現する筋書きである。
- ibisPaint・サブスクリプション:数量 1,400,000(年間平均の有料契約数・件)× 価格 4,450(有料契約1件当たり年間実現売上・円)→ 売上 62 億円・営業利益 33 億円。有料契約140万件。利用者基盤の定着と値上げ効果が続くが、会社の200万件目標には届かない。
- ibisPaint・広告、買い切りアプリ等:数量 39,000,000(代表的な月間利用者数・人)× 価格 48(月間利用者1人当たり年間換算の広告・買い切り等売上・円)→ 売上 19 億円・営業利益 8 億円。MAUはほぼ横ばい。広告単価は緩やかに上向く。
- ソリューション・IT技術者派遣:数量 160(年間稼働技術者相当数・人年)× 価格 0.10(技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 16 億円・営業利益 2 億円。AIエージェント代替で数量は2025年の0.80倍。専門人材の価格上昇が一部を相殺する。
- ソリューション・受託開発:数量 49.0(年間の開発技術者相当数・人年)× 価格 0.13(開発技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 6 億円・営業利益 1 億円。受託開発の数量は0.91倍。高付加価値案件への転換に一定の成功を収める。
- AI歌声合成・VoiSona等:数量 28,000(1万円相当の売上換算販売単位・件)× 価格 11,000(売上換算販売単位当たり名目金額・円)→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。音声製品は安定的に販売されるが、事業規模は限定的。
倍率:資本コスト7.25%、g_long1.5%、normalの残存割合1/2。余剰現金100億円の税後利息1.4億円を除いた事業利益24.67億円と事業自己資本60.7億円からROE約40.6%、RONIC約23.95%を見込む。正当化PERの上限16.30倍を適用し、現金帰属価値75億円を別に足す。成長率を二重計上せず、現在の株価や過去PERから倍率を決めていない。
確率:2026年上期の契約増加と世界的な利用者基盤は確かな材料である。ただし年を追うごとに課金率の上昇は難しくなるため、会社の長期目標より控えめな成功にとどめた。
中立 32% 有料化は進むが成長は成熟 利益 17 億円 · PER 15.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,693 円313 億円
ibisPaintは10年後も、スマートフォンで自分の絵を描きたい人の定番製品の一つとして使われる。利用者数はやや減るものの、世界で3,500万人を超える月間利用者を維持する。無料版を使う人の一部が、機能制限を外し、高度な制作機能を使うために有料契約へ移る。年間平均の有料契約は100万件に増えるが、会社が目標とする200万件には届かない。
生成AIは簡単なイラストや素材を短時間で作るため、従来の手描き作業の一部を置き換える。それでも、手を動かして描く趣味、独自の線や色の調整、作画の学習には需要が残る。CLIP STUDIO PAINT、Procreate、Adobe製品との競争が続き、値上げ余地は限定される。無料利用者の広告収入は、広告単価と地域構成に左右され、物価ほどには増えない。課金売上の増加が利益を支える一方、広告宣伝費と開発費も必要になる。
ソリューション事業は、AIエージェント代替で派遣稼働が200人年相当から135人年相当に、受託開発が54人年相当から38人年相当に縮む。単価は上昇するが工数の減少を埋められない。VoiSonaは小幅黒字にとどまり、買収効果を過大評価しない。2035年の売上は約77億円、営業利益は約24億円になる。純利益の多くは留保されるため自己資本と現金が増え、表面上のROEは過去の高水準から下がるが、株主に帰属する価値は緩やかに成長する。
- ibisPaint・サブスクリプション:数量 1,000,000(年間平均の有料契約数・件)× 価格 4,200(有料契約1件当たり年間実現売上・円)→ 売上 42 億円・営業利益 22 億円。年間平均有料契約100万件。MAUに対する有料化率は約3%弱で、会社の長期目標5%に届かない。
- ibisPaint・広告、買い切りアプリ等:数量 35,500,000(代表的な月間利用者数・人)× 価格 44(月間利用者1人当たり年間換算の広告・買い切り等売上・円)→ 売上 16 億円・営業利益 6 億円。MAUは2025年比約0.89倍。広告単価の伸びは物価を下回り、買い切り販売も伸び悩む。
- ソリューション・IT技術者派遣:数量 135(年間稼働技術者相当数・人年)× 価格 0.10(技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。AIエージェント代替により実質稼働数量は0.675倍。単価は1.26倍で、物価上昇率を超えない。
- ソリューション・受託開発:数量 38.0(年間の開発技術者相当数・人年)× 価格 0.12(開発技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 5 億円・営業利益 1 億円。AIエージェント代替で開発数量は0.70倍。単価は1.21倍で、工数削減の影響が勝る。
- AI歌声合成・VoiSona等:数量 18,000(1万円相当の売上換算販売単位・件)× 価格 10,500(売上換算販売単位当たり名目金額・円)→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。音声ライブラリー販売が残るが、生成音楽との競争で利益率は低い。
倍率:資本コスト7.25%、10年より先のg1.5%、normalの残存割合1/2。余剰現金80億円の税後利息1.12億円を除いた事業純利益15.935億円を、余剰現金を除いた事業自己資本59.8億円で割ると事業ROE約26.6%。RONIC約16.95%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)は15.85倍。上限そのものを用い、現金の株主帰属価値60億円を足す。過去や同業の市場倍率は根拠にしていない。
確率:無料利用者から有料契約への転換は続く一方、生成AIの普及と競争によって会社の2035年目標の全面達成は難しいと見る。足元の契約増加実績と長期の不確実性の折衷となる筋書きである。
やや悲観 24% 手描き需要の縮小と工数競争 利益 4 億円 · PER 11.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 279 円52 億円
生成AIの画像制作が広がり、簡単なイラストや素材を自分で描く人が減る。ibisPaintは趣味の作画や学習の道具として残るが、無料利用者数は2,800万人まで低下する。有料契約への転換も途中で頭打ちになり、年間平均契約数は55万件にとどまる。製品はなくならないものの、会社が描く2035年の収益拡大は実現しない。
競合のCLIP STUDIO PAINT、Procreate、Adobe製品は、AI機能と既存の制作環境を組み合わせて利用者を囲い込む。アプリストアや広告配信事業者への依存も収益を圧迫する。世界的な利用者数が減ることに加え、無料利用者1人当たりの広告・買い切り収入も低下する。広告宣伝を増やしても利用者獲得の効率が悪化し、モバイル事業の利益率は下がる。
IT技術者派遣ではAIエージェントによって必要工数が減り、年間稼働数量は120人年相当になる。受託開発も31人年相当まで縮む。受注を確保するための価格競争で、単価上昇は限定的だ。VoiSonaは黒字化できず、小幅な赤字が続く。のれんの償却、本社費、研究開発費が残り、全社の営業利益は約5億円まで落ちる。配当は利益に合わせて減らし、過去の高ROEを前提とする経営から、現金を守る経営へ移らざるを得なくなる。
- ibisPaint・サブスクリプション:数量 550,000(年間平均の有料契約数・件)× 価格 3,500(有料契約1件当たり年間実現売上・円)→ 売上 19 億円・営業利益 8 億円。有料契約は55万件にとどまり、競争と低価格地域の構成比上昇で実現単価も低下する。
- ibisPaint・広告、買い切りアプリ等:数量 28,000,000(代表的な月間利用者数・人)× 価格 32(月間利用者1人当たり年間換算の広告・買い切り等売上・円)→ 売上 9 億円・営業利益 3 億円。MAUは2025年比0.70倍、広告・買い切り収益の実現単価も低下する。
- ソリューション・IT技術者派遣:数量 120(年間稼働技術者相当数・人年)× 価格 0.09(技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 10 億円・営業利益 1 億円。AI代替で数量は0.60倍。単価上昇が人月減少を補えず利益率も低下。
- ソリューション・受託開発:数量 31.0(年間の開発技術者相当数・人年)× 価格 0.11(開発技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。必要開発工数は0.57倍。価格競争によって受注利益が薄くなる。
- AI歌声合成・VoiSona等:数量 11,500(1万円相当の売上換算販売単位・件)× 価格 9,000(売上換算販売単位当たり名目金額・円)→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。歌声合成は競争力を伸ばせず、維持開発費が収入を上回る。
倍率:2035年の全社ROEは約4.5%で資本コスト7.25%に届かない。長期の成長に超過利益を認めず、稼ぐ力の上限1/k約13.79倍より低い11倍とする。余剰現金20億円に係る税後利息0.28億円を除いた利益3.32億円に適用し、現金帰属価値15億円を加算する。値付けの根拠は事業の稼ぐ力であり、過去の市場PERではない。
確率:AIによる画像生成と開発自動化はすでに実用化しており、利用者の行動と発注工数の両面に影響する可能性がある。二つの事業が同時に競争圧力を受けるため、無視できない確率とした。
悲観 14% 創作の主役を失い構造的な赤字へ 利益 −3 億円 · PBR 0.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 108 円20 億円
生成AIが画像制作の入口となり、絵を一から描く作業の大部分を代替する。ibisPaintは一部の愛好者向けに残るが、世界の月間利用者は1,700万人に減り、有料契約は年間平均20万件へ落ち込む。競合のAI編集環境や創作サービスへの移行が進み、値上げどころか低価格化が必要になる。広告主も利用者の減少を見て出稿を絞り、広告と買い切り販売の収入は急減する。
ソリューション事業では、顧客がAIエージェントを直接使い、設計、実装、試験を内製化する。派遣稼働は70人年相当となり、受託開発の数量も19人年相当まで減る。顧客への提供価値を工数以外に転換できず、受託開発は赤字になる。VoiSonaは生成音楽サービスに競争力で劣り、音声技術の維持費を回収できない。
収入が減っても、開発人員、システム維持、買収した技術の償却などをすぐにはなくせない。本社費を削っても2035年には営業赤字となり、その前の数年間にも損失が積み重なる。2026年から2027年にかけて得た利益は、以後の赤字、買収資産の減損、事業の立て直し費用に吸収される。配当は初期の数年間を除いて止まり、余剰現金も使われる。会社は存続するものの、高収益の世界的ソフトウェア企業としての優位を失う筋書きである。
- ibisPaint・サブスクリプション:数量 200,000(年間平均の有料契約数・件)× 価格 3,100(有料契約1件当たり年間実現売上・円)→ 売上 6 億円・営業利益 1 億円。有料契約数が2025年の年間平均を下回る。価格競争で単価と利益率も落ちる。
- ibisPaint・広告、買い切りアプリ等:数量 17,000,000(代表的な月間利用者数・人)× 価格 18(月間利用者1人当たり年間換算の広告・買い切り等売上・円)→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。MAUは約0.42倍。広告表示機会と収益単価の双方が下落する。
- ソリューション・IT技術者派遣:数量 70.0(年間稼働技術者相当数・人年)× 価格 0.08(技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。AIによる内製化で稼働数量は0.35倍。人員整理の遅れで利益が残らない。
- ソリューション・受託開発:数量 19.0(年間の開発技術者相当数・人年)× 価格 0.10(開発技術者1人年当たり売上・億円)→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。受託工数は0.35倍。価格も維持できず赤字受注が発生する。
- AI歌声合成・VoiSona等:数量 6,000(1万円相当の売上換算販売単位・件)× 価格 8,000(売上換算販売単位当たり名目金額・円)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。音声合成の販売が細り、継続開発費を回収できない。
倍率:継続的な赤字のためPERは使わない。収益力の床ではなく、分析起点の2025年末自己資本28.4億円を基準に、失われた事業価値と残る換金可能資産を評価する。0.70倍を掛けた19.88億円とし、将来の自己資本21.6億円に0.70倍を掛けていない。現在の純現金約20.1億円から清算・事業整理の費用を控除した約17億円を換金可能資産の目安とし、それを下回らない。過去のPBRの谷は根拠に用いない。
確率:生成AIによって従来の描画操作の価値が大きく失われ、受託開発も人月販売を維持できなくなる複合的な失敗である。世界的な利用者基盤がすぐ消滅するとは見ないが、経営上の失敗が重なれば十分起こりうる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ibisPaint・サブスクリプション
モバイル・パソコン版の継続課金。無料利用者から有料利用者への移行、継続率、実現課金単価で売上が決まる。
| 数量年間平均の有料契約数・件 | 価格有料契約1件当たり年間実現売上・円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 315,000 | 3,816 | 12 | 7 |
| 10 年後 中立 | 1,000,000 | 4,200 | 42 | 22 |
取り方:会社開示の2025年サブスクリプション売上は約12.02億円。2024年末契約数23.2万件、2025年末39.76万件の平均に近い年間平均31.5万件を推計し、売上から契約1件当たり年間実現売上約3,816円を求めた。期末契約数39.76万件と年間平均契約数は異なる。営業利益7.10億円はモバイル事業利益15.01億円をサブスクと非サブスクに配賦した分析上の推計であり、会社の個別開示値ではない。
ibisPaint・広告、買い切りアプリ等
無料利用者への広告表示、買い切りアプリ販売など。有料化の母集団にもなるが、広告市場とアプリストアの条件に左右される。
| 数量代表的な月間利用者数・人 | 価格月間利用者1人当たり年間換算の広告・買い切り等売上・円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 40,070,000 | 41 | 16 | 8 |
| 10 年後 中立 | 35,500,000 | 44 | 16 | 6 |
取り方:2025年のモバイル事業売上約28.30億円からサブスクリプション売上約12.02億円を除いた約16.28億円を使用。会社の月間利用者4,007万人を代表値として割り、年間換算約40.63円とした。広告約13.50億円、買い切り約2.70億円、その他約0.08億円を含む。月間利用者数は年間の重複なし人数ではないため、この単価は実際の年間顧客単価ではなく売上分解用の推計である。営業利益7.91億円も分析上の配賦値。
ソリューション・IT技術者派遣
顧客企業に技術者の開発・保守能力を提供する。稼働技術者数と一人当たり契約収入が収益の中心。
| 数量年間稼働技術者相当数・人年 | 価格技術者1人年当たり売上・億円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 200 | 0.08 | 15 | 2 |
| 10 年後 中立 | 135 | 0.10 | 13 | 1 |
取り方:会社の2025年IT技術者派遣売上約15.1億円と、同年末ITエンジニア約254人を起点とする。技術者200人年を派遣に対応する推計稼働量とし、年間単価755万円相当で分解した。実際の派遣人数、人月単価、稼働率は区分別に開示されていないため推定である。セグメント利益はソリューション全体約2.66億円を売上構成に沿って配賦した。AIエージェント代替の『人月・工数で売る』型に該当する。
ソリューション・受託開発
システムやアプリケーションの開発案件を受託し、設計、実装、試験などを提供する。AIによる必要工数の減少が直接的なリスク。
| 数量年間の開発技術者相当数・人年 | 価格開発技術者1人年当たり売上・億円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 54.0 | 0.10 | 5 | 1 |
| 10 年後 中立 | 38.0 | 0.12 | 5 | 1 |
取り方:会社資料の受託開発売上約5.4億円と、ソリューション事業全体約20.56億円との差を確認し、約5.46億円とした。派遣と合計で2025年末のITエンジニア254人に相当するよう開発54人年と推計し、年間単価約1,011万円で分解した。買収による人員の増加、外注、案件原価は人数推計に含めた近似であり、実際の請求人月数ではない。AIエージェント代替の『人月・工数で売る』型に該当する。
AI歌声合成・VoiSona等
歌声合成ソフト、音声ライブラリー、関連するライセンスと法人向け技術の販売。技術獲得の買収を通じて加わった新事業。
| 数量1万円相当の売上換算販売単位・件 | 価格売上換算販売単位当たり名目金額・円 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 11,900 | 10,000 | 1 | −1 |
| 10 年後 中立 | 18,000 | 10,500 | 2 | 0 |
取り方:2025年のAI歌声合成セグメント売上約1.19億円を起点とする。製品別販売本数と平均価格の十分な開示がないため、1万円相当の売上を1件とする換算単位で表現した。11,900件は実際の契約数や販売本数ではない。2025年のセグメント損失は約0.62億円で、買収した技術の償却や継続開発の負担を含む。
リスクと懸念
AIエージェント代替による受託・派遣工数の縮小
IT技術者派遣と受託開発は、技術者の稼働時間や案件に必要な工数が収入の土台である。AIエージェントが仕様整理、コード作成、テスト、保守を担えば、同じ成果に必要な人数が減る。会社もAIを使った開発効率の大幅な向上を説明しているが、その経済的な利益が顧客へ渡れば受託会社の売上は縮む。中立でも派遣数量を0.675倍、受託開発を約0.70倍に減らし、10年より先の人月事業の名目成長率を0%とした。
生成AIによる手描きアプリの役割の変化
ibisPaintの価値の一部は、人が操作画面で筆を動かす体験にある。創作の楽しさは残っても、仕事で使う簡単な画像や素材はAIで完成することが増える。自社の利用者基盤を持つ消費者向け創作アプリは、企業向けの席課金SaaSと同じではないが、操作画面の代替リスクは実在する。会社の2035年有料契約200万件という目標を中立に採用せず、生成AIの影響を数量と長期成長率に反映した。
値上げの効果と解約率の不透明さ
会社は2026年に約200の国・地域を対象とする料金改定を進めた。しかし経営陣は、新規契約が初動でやや減ったことを認め、契約の増加と解約に関する詳細な数値は開示していない。値上げに成功したと断定するには、一定期間を通じた実現単価、継続率、顧客獲得費用の確認が必要だ。新規契約の伸びだけで課金売上が長く増えると考えるのは危険である。
アプリ広告とプラットフォームへの依存
2026年上期には、サブスクリプションが好調でもアプリ広告収入は前年同期比13.1%減少した。広告の実現単価は利用国や広告配信市場に左右される。AppleやGoogleのアプリストア規則、決済手数料、広告表示の制限が変われば、会社自身の製品評価と無関係に採算が悪化しうる。広告事業は有料契約への転換によって依存度を下げる必要があるが、その過程で無料利用者の離脱が増える可能性もある。
買収と無形資産の回収リスク
テクノスピーチとゼロイチスタートの取得によって事業領域は広がったが、のれんと技術関連資産が生じた。VoiSonaは2025年も2026年上期も赤字であり、技術を取得しただけでは利益の増加が保証されない。生成音楽・音声の競争が予想以上に激しければ、追加開発費や減損が必要となる。今後も高値で技術企業を買い続ければ、ペイントアプリが稼いだ現金を株主に戻せなくなる。
現金の帰属、支配株主と希薄化
純現金は厚いが、配当性向の方針は20~25%で、全利益を株主に戻す約束ではない。創業者側の保有比率が高く、資本配分の判断が少数株主の希望と一致するとは限らない。一方、近年は増配しているため、オーナー支配だけを理由に現金の戻り方を半分にするのも適切ではない。買収対価や新株予約権による希薄化、開発投資の増加と併せ、現金が実際に誰の利益になるかを見続ける必要がある。
今後の分かれ目
- ibisPaintの有料契約数が2028年の会社目標約85万件を超え、その後も継続率を保ちながら増加したら
- 中立の年間平均100万件という2035年想定の上振れを検討する。広告費を増やさずに契約純増が続くなら増分利益率も改善し、やや楽観の確率を高める。
- 2026年の値上げ後に解約率が上昇し、実現課金単価と契約純増の積が減少したら
- サブスクリプションの数量・価格の両方を見直す。価格を上げる力がないと判断し、やや悲観の確率を増やす。
- 月間利用者数が3,000万人を下回り、アプリ広告収入も連続して減少したら
- 利用者基盤による堀が弱まったと見て、無料版の数量と課金転換の母集団を下方修正する。単なる広告単価の循環的な低下と区別する。
- 受託開発の売上が伸びてもITエンジニア数が減り、案件当たり粗利益が継続して高まったら
- AIによる生産性改善を顧客だけでなく会社自身が利益として確保できている証拠になる。成果報酬型の実績と金額を確認し、ソリューション事業の数量縮小の前提を緩和する。
- ソリューション事業の売上が減少し、技術者数と人件費が高止まりしたら
- AIエージェント代替が先行して利益を圧迫していると判断し、やや悲観と悲観の利益率を下げる。人員削減費用が追加で必要なら自己資本と現金の減少にも反映する。
- VoiSonaの赤字が拡大する、または買収関連ののれん・技術資産に大きな減損が生じたら
- AI歌声合成を独立した成長事業として評価する余地を縮小する。買収の資本配分が失敗した可能性を高く見て、将来の現金蓄積を減らす。
- 配当性向が50%程度へ引き上げられる、または継続的な自社株買いが始まったら
- 株主への現金の戻り方を0.75から1.0へ見直す余地がある。ただし、還元に使った資金を自己資本と現金の両方に残さないようにする。
見ておくもの
- ibisPaintの月間利用者数、日次利用者数、有料契約数と年間平均有料契約数
- サブスクリプション契約の純増数、解約率、価格改定後の実現単価
- 広告収入、広告表示回数、実現広告単価、海外売上構成
- アプリ広告費と契約獲得費用、増分課金売上に対する増分営業利益
- CLIP STUDIO PAINT、Procreate、Adobe製品、生成AI創作サービスとの利用動向
- ソリューション事業の派遣稼働人数、受託開発の売上、案件粗利益率
- AIエージェントを活用した成果報酬型案件の受注金額と継続率
- VoiSonaの販売収入、営業損益、のれんと技術関連資産の償却・減損
- 配当性向、自己株式取得、新株予約権による希薄化、現金残高
- 2028年中期計画の達成状況と2035年有料契約200万件目標への進捗
倍率と資本コストの決め方
2025年の会社実績を起点に、サブスクリプションを年間平均契約数と実現売上単価、無料アプリを月間利用者数と広告・買い切り収益単価、ソリューションを推計稼働人年と人年単価に分けた。2028年の会社計画と2035年目標は参考にしたが、中立にそのまま採用していない。AIエージェント代替は人月型事業の数量・価格と長期成長率に反映し、資本コストの寿命項目には重ねなかった。PERは事業ROE、RONIC、資本コスト7.25%、長期成長率1.5%から求めた。余剰現金とその利息を二重に数えず、悲観のPBRは現在の自己資本に適用した。株価759円、時価総額約140億円は最後の比較にだけ用いた。日本の新リース会計基準の適用後も、事業比較は賃借料を営業費用に含む現在と同じ考え方にそろえる。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%の合計7.5%から、純現金の厚さによる0.25ポイントだけを差し引く。個別のAIリスク、競争、買収失敗は数量・利益率と筋書きの確率で扱う。