結論
日本空調サービスは、ビルや工場の空調・給排気設備を点検し、古くなれば更新工事まで請け負う独立系の会社だ。筆者の結論は、今の株価はやや割安、ただし余裕は大きくない、というものである。余裕を削るいちばんの理由は、成長の天井が「技術者を何人増やせるか」で決まる点にある。
強みは、メーカーに縛られない中立性と、病院・研究施設・工場といった特殊な環境の施設に深く入っていることだ。こうした施設は売上のおよそ7割を占め、一度入ると他社に替えにくい。保守は景気に左右されにくく、更新工事は設備投資の波に乗る。この組み合わせが利益を安定させてきた。
一方で、会社の計画は強気だ。2030年3月期に売上900億円・営業利益72億円を掲げる。筆者は、人材の採用が計画どおり進んでも、利益率の改善は計画より緩やかと見る。中立の10年後は、売上が約1,140億円、営業利益が約83億円だ。
資本政策は追い風になる。純資産の3割を超える政策保有株を15%以下まで減らし、配当性向50%を軸に、足りなければ自社株買いで資本を絞る方針だ。ただし2026年7月には、一つの営業所で長年続いた保守点検の書類改ざんが明らかになった。信頼が商売の土台である会社にとって、これは軽く見られない。
10年後の価値で測ると、全体で今の時価総額を1割ほど上回る。ただし悲観側の落ち方は深い。割安とはいえ、大きな安全域があるわけではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「少し高い料金を取れる立場に近い、堅実な人の商売」と読める。保守という毎年の収入に、更新工事という成長の芽が乗る。景気が悪くても、空調は止められない。
オーナーとして持ちたい理由は、資本の使い方が改まりつつあることだ。使われていなかった政策保有株を減らし、株主に返す。ROE を上げる意思も明確である。
気になるのは、堀の質だ。技術者という人に依存する堀は、お金で簡単に増やせない。また書類改ざんの件は、現場の統制が会社の規模に追いついていないことを示す。筆者は、この点が改まるまで、確信度を一段下げて見ている。
安全域はどうか。中立の筋書きでは、10年後の価値は今の時価総額を2割近く上回る。確かに有利な側にあるが、悲観の側の下げ幅を考えると、余裕のある値段とは言い難い。悲観では、稼ぐ力が半分以下に落ち、価値も大きく目減りする。
結局、この会社の値段は「やや割安」で、飛びつく安さではない。安全域が本当に広がるのは、価格が今より下がった時だ。
何で稼ぐ会社か
事業は三つの柱からなる。売上の約36%が定期保守(PM)、約24%が常駐での設備管理(FM)、約40%がリニューアル工事(RAC)だ。保守と管理で6割、工事で4割という構成である。
PMは、顧客の建物を定期的に回って空調や換気の設備を点検する仕事だ。FMは、技術者が施設に常駐して日々の運転を見る。どちらも一度契約すれば毎年の収入になる。RACは、古くなった機器を省エネ型に入れ替える工事で、保守で顧客の設備を知り尽くしていることが受注の入口になる。
顧客は、病院・研究施設・製造工場など、温度・湿度・清浄度を厳しく管理する施設が中心だ。会社はこの分野の売上比率を約7割に保つ方針である。一般的なオフィスビルは残りの約3割にとどまる。全国47都道府県に拠点を持ち、海外は6か国に出ている。ただ海外はまだ小さく、2026年3月期の営業損益はほぼゼロだった。
利益の源は技術者の稼働だ。従業員のおよそ8割が技術系で、連結の従業員は約2,300人にのぼる。仕事の量は人の数で決まり、単価は賃金とともに上がる。会社は年100人の純増を掲げ、約25億円で技術研修センターも作った。
独立系という立ち位置も特徴だ。ダイキンなど空調メーカー系の保守会社と違い、複数メーカーの機器が混在する現場で中立に提案できる。一方で、メーカーの新品供給という後ろ盾は持たない。
優良さと弱いところ
筆者がまず評価するのは、顧客の入れ替えにくさだ。特殊な環境の施設は、設備の癖を知る業者に任せ続けるのが合理的である。清浄度や温度の管理に失敗すれば、患者や製品に直接の被害が出るからだ。
次に、規模の使い方がうまい。営業利益率は10年で5%台から7%近くへ上がってきた。同業の販管費率は20%前後が多く、会社は効率の改善を計画の柱に置いている。ROEも過去10年の中央値は約10%と、サービス業としては悪くない。
ただし、堀は警備会社のような網ではなく、技術者の腕と信頼である。人が辞めれば堀も薄くなる。入札で価格を競う案件も残り、価格を一方的に決められる立場ではない。そこで筆者は、堀の強さを「普通」と置いた。
財務は堅い。自己資本比率は約58%、純現金は約41億円で、借金の心配はない。ただし政策保有株が純資産の3割超に膨らんでおり、事業に使われていない資本の重さが ROE を押し下げてきた。会社もこれを認めて縮減に動いている。
弱点は二つある。一つは人材だ。社長自身が「施工できる人の数が成長を左右する」と語っている。もう一つは品質管理で、2026年7月に営業所での書類改ざんが開示された。再発防止の仕組みが本当に根づくかを見極めたい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
空調保守・更新の市場は、既設の建物を相手にする。既設案件が中心の市場規模は約1.5兆円と推測されており、売上約690億円はそのうち5%に満たない。独立系で全国に広く展開する会社は少なく、富士経済の調査(2023年実績)では、空調施工と保守の分野でベンダーシェア1位とされる。
追い風は三つある。第一に、建物の老朽化だ。高度成長期以降に建った設備が更新期を迎え、省エネの要請も重なって、更新工事の需要が積み上がる。第二に、データセンターと半導体工場の建設だ。完成して2〜3年後に、維持管理の仕事が本格化する。第三に、人手不足だ。自前で技術者を抱えられない顧客が、外部に任せる流れが強まっている。
向かい風も確かにある。人口が減れば、新築の建物は増えない。保守を内製する大手や、メーカー系のサービス会社も競争相手だ。高砂熱学工業のような大手サブコンは、更新工事で顧客を取り合う。生成AIの影響は小さいが、遠隔監視や自動診断が進めば、巡回点検の単価が下がる可能性はある。
結局、この業界の成長は需要より供給で決まる。技術者を採って育てられる会社だけが伸びる。賃金は物価並みに上がり続けるので、その分を契約価格に転嫁できるかが利益率を分ける。保守は転嫁が通りやすく、更新工事は競争次第だ。
資本政策と M&A
資本政策は、2026年5月の新しい4か年計画で大きく動いた。配当は累進(減らさない)を基本に、連結配当性向50%、純資産配当率7.5%を目標に置く。ROE目標は15%、想定する株主資本コストは8%程度だ。
焦点は政策保有株である。純資産の約32%にまで膨らんだ株を15%以下まで減らす。2025年12月には、銀行などの保有株を市場に売り出した。需要は約21倍の申し込みで、株主層の広がりにもつながった。売却で出る資金は、成長投資に回し、適した投資先がなければ自社株買いで返す方針だ。自己資本比率は50〜60%を保つとしている。
M&Aは、具体的な計画が示されていない。買う側としては、業務効率化への投資や同業の取り込みを選択肢に挙げる程度だ。筆者は、大型の買収で価値を壊す心配は小さいと見る。むしろ海外事業の見直しを迫られる側面が強い。
買収される可能性は、時価総額が500億円台と小さく、ゼロとは言えない。ただ、独立系の中立性が価値の核なので、特定のメーカーや大手の傘下に入れば、その強みは変わる。筆者は買収を前提に値段を置かない。
点検済み:中立の営業利益率7.3%は過去の山(6.9%、今と同じ)を0.4ポイント超えるが、会社の来期予想7.4%・新しい4か年計画の2030年目標8%より低く、前の計画は利益で3年前倒しで達成する見込みと達成の実績がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
人手不足が深まるほど、この会社の価値は上がる。自前で技術者を抱えられない顧客が増え、保守の外部委託が進むからだ。独立系で全国に拠点を持つ会社は少なく、特殊な施設を一括して任せたい企業の受け皿になる。
データセンターと半導体工場の建設が続いており、完成から2〜3年後に維持管理の需要が一斉に立ち上がる。清浄度や温度の精密な管理が要るので、価格競争になりにくい。更新工事も、省エネの要請で積み上がる。
会社の計画は慎重すぎるくらいだ。前の計画は、利益で3年、売上で2年前倒しで達成する見込みだ。2030年に売上900億円、営業利益率8%を掲げるが、保守の粗利を毎年0.5ポイント、工事の粗利を毎年1ポイント上げるという具体策もある。
資本面も追い風だ。政策保有株を減らして株主に返せば、ROEは15%に近づく。同業の大手が採用難で伸びあぐねる中、研修センターを作って人を育てる会社の優位は、10年かけて広がる。
慎重な見方
売上の伸びは、人を増やした結果にすぎない。技術者が足りなければ、需要があっても仕事は受けられない。採用競争は他業種とも激しく、賃金は毎年上がる。人件費の上昇を契約に転嫁できなければ、利益率はすぐに圧迫される。
独立系は強みであると同時に弱みでもある。メーカー系や大手サブコンは、新品の供給や大型工事の実績という武器を持つ。入札になれば、規模のある相手と価格で競り合うことになる。更新工事は受注の波が大きく、利益も振れる。
海外は、2026年3月期に営業損益がほぼゼロだった。前の計画の目標は届かなかった。中国は経済の弱さに苦しみ、改善の道筋はまだ描けていない。
さらに、2026年7月に開示された書類改ざんは、現場の統制の弱さを映している。一つの営業所で、13年にわたって続いていた。他にもあるのではないか、という疑いが残る限り、信頼という最大の資産は傷つく。
今の株価は、成長と資本効率の改善をある程度織り込んでいる。計画が少しでも遅れれば、価値はすぐに揺らぐ。
どちらに重みを置いたか
保守という安定した収入と、独立系ならではの特殊施設への強みでは、強気の見方が優勢だ。一方で、成長が技術者の採用に縛られること、書類改ざんで統制の弱さが見えたことは、慎重な見方の指摘が重い。
そこで確率は、楽観を7%、やや楽観を22%、中立を36%、やや悲観を23%、悲観を12%に置いた。需要の追い風は確かだが、人材と品質の問題は、うまくいかなかった場合の落ち方が深い。この非対称を考えて、悲観側にやや厚く置いている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,828 円983 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 933 円324 億円)。 今の値に割り戻すと 2,103 円731 億円、今との差 +34.7%、 期待の年率 +9.2%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 5,599 円1,946 億円 | 1,295 円450 億円 | +341.7% | +16.0% | 483 円168 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,176 円1,451 億円 | 1,151 円400 億円 | +241.3% | +13.1% | 1,172 円407 億円 |
| 中立 | 36% | 3,232 円1,123 億円 | 978 円340 億円 | +169.7% | +10.4% | 1,516 円527 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,266 円440 億円 | 806 円280 億円 | +32.7% | +2.9% | 477 円166 億円 |
| 悲観 | 12% | 518 円180 億円 | 432 円150 億円 | −39.2% | −4.8% | 114 円40 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,828 円983 億円 | 933 円324 億円 | +140.9% | +9.2% | 3,761 円1,307 億円 |
今の株価時価総額 1,561 円542 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 維持管理の需要が一斉に立ち上がり、技術者の増員が実を結ぶ10年 利益 94 億円 · PER 20.7 倍 · 株価時価総額 5,599 円1,946 億円
データセンターと半導体の維持管理が一斉に立ち上がり、人手不足で保守の外部委託が加速する。技術者は10年で約1.5倍、約3,000人の規模になり、1人当たり売上も物価を上回って伸びる。会社の計画(売上900億円、営業利益率8%)は予定より早く達成され、その先の1,000億円を超える。
更新工事は省エネ改修の案件が積み上がり、粗利の改善が続く。海外はシンガポールとベトナムが利益を出し、中国も黒字に転じる。政策保有株の縮減で浮いた資金は自社株買いに回り、ROEは15%を超えて安定する。ただし、同じ規模の同業が追随するため、利益率は9%近くで頭打ちになる。
- 国内保守・常駐管理(PM・FM):数量 1,500(保守に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 5,410(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 811 億円・営業利益 88 億円。技術者 1,500 人、1 人当たり売上は物価を上回って伸びる
- 国内リニューアル工事(RAC):数量 1,050(更新工事に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 5,751(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 604 億円・営業利益 60 億円。更新工事の技術者 1,050 人で省エネ改修が積み上がる
- 海外(シンガポール・ベトナム・中国など):数量 481(海外の技術系社員数(人、推定))× 価格 1,923(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 92 億円・営業利益 7 億円。海外の技術者が 480 人規模になり黒字が定着
倍率:事業の純利益 94 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.4% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.7 倍。全体の PER 20.7 倍、時価総額 1,946 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:データセンター・半導体の維持管理、人手不足、採用の成功、利益率の改善が全部そろう必要がある。起きれば強いが、重なる確度は高くない。
やや楽観 22% 計画を少し下回りながら、採用と粗利改善が着実に進む10年 利益 73 億円 · PER 19.9 倍 · 株価時価総額 4,176 円1,451 億円
計画を少し下回りながらも、採用は着実に進む。技術者は約1.33倍に増え、保守の1人当たり売上は物価をやや上回る。特殊施設の比率は7割を保ち、更新工事の粗利は毎年少しずつ上がる。売上は約1,290億円、営業利益率は約8%まで届く。
海外は小さな利益が出る段階にとどまる。政策保有株の縮減も進み、配当性向50%と自社株買いで株主へ厚く還元する。会社が掲げる営業利益率8%は、2030年ではなく数年遅れて達成する形だ。ただし大手サブコンとの更新工事の競争は続き、利益率の上積みは保守の側から出る。特殊施設の顧客との長い付き合いが、この筋書きを支える土台になる。
- 国内保守・常駐管理(PM・FM):数量 1,330(保守に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 5,331(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 709 億円・営業利益 73 億円。技術者 1,330 人、1 人当たり売上は物価をやや上回る
- 国内リニューアル工事(RAC):数量 897(更新工事に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 5,628(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 505 億円・営業利益 47 億円。技術者 900 人、更新工事の粗利改善が続く
- 海外(シンガポール・ベトナム・中国など):数量 402(海外の技術系社員数(人、推定))× 価格 1,923(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 77 億円・営業利益 5 億円。海外は 400 人規模、シンガポール・ベトナムが利益を出す
倍率:事業の純利益 73 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.9 倍。全体の PER 19.88 倍、時価総額 1,451 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:追い風は続くが、採用ペースと利益率の改善は計画より緩やかな想定。会社が前の計画を前倒しで達成した実績を考慮して、やや厚めに置いた。
中立 36% 賃金転嫁が通り、堅実に伸びるが計画ほどの飛躍はない10年 利益 60 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 3,232 円1,123 億円
採用は年に50人ほどの純増にとどまり、技術者は10年で約25%増える。賃金上昇は保守の価格にそのまま転嫁され、1人当たり売上は物価並みの1.34倍になる。売上は約1,140億円、営業利益率は7.3%だ。
更新工事は需要が堅調に積み上がるものの、大手サブコンとの競争で粗利の改善は緩やかになる。海外は黒字化するが、規模は小さい。政策保有株の縮減で資本が軽くなり、配当と自社株買いで利益の7割ほどを返す。会社の計画ほどの飛躍はなく、堅実に伸びる10年になる。保守の収入が景気の波を和らげ、書類改ざんの件も再発防止が機能して大きな傷にならない。特殊施設の比率は7割前後で保たれ、利益の質は今と変わらない。
- 国内保守・常駐管理(PM・FM):数量 1,220(保守に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 5,253(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 641 億円・営業利益 63 億円。技術者 1,220 人、1 人当たり売上は物価並み
- 国内リニューアル工事(RAC):数量 800(更新工事に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 5,505(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 440 億円・営業利益 38 億円。技術者 800 人、1 人当たり売上は物価並み
- 海外(シンガポール・ベトナム・中国など):数量 329(海外の技術系社員数(人、推定))× 価格 1,923(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 63 億円・営業利益 3 億円。海外は 330 人規模、小さな黒字
倍率:事業の純利益 60 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍。全体の PER 18.72 倍、時価総額 1,123 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:採用の伸びと賃金転嫁が物価並みで進み、利益率が緩やかに改善する、最も重みを置く筋書き。
やや悲観 23% 採用難と入札競争で成長が鈍り、改善も止まる10年 利益 40 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,266 円440 億円
採用難と競争で、成長が鈍る。技術者は10年で約1割しか増えず、保守契約の値上げも物価に届かない。更新工事は競争が激しく、粗利の改善が止まる。売上は約980億円、営業利益率は5.8%に落ちる。
海外は赤字が続き、整理の対象になる。書類改ざんの余波で顧客の選別が厳しくなり、入札案件が増えて採算が悪化する。政策保有株は縮減できるが、使い道が見つからず、利益の伸びとの釣り合いが悪い。堅調な保守は残るが、成長企業ではなくなる。ROEは9%台で止まり、会社が掲げた15%には遠い。配当は守られるが、自社株買いに回せる余力は乏しく、株主への還元は計画を下回る。
- 国内保守・常駐管理(PM・FM):数量 1,120(保守に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 5,174(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 580 億円・営業利益 52 億円。技術者 1,120 人、値上げの転嫁が物価に届かない
- 国内リニューアル工事(RAC):数量 682(更新工事に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 5,217(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 356 億円・営業利益 23 億円。技術者 680 人、更新工事は競争で粗利が伸びない
- 海外(シンガポール・ベトナム・中国など):数量 253(海外の技術系社員数(人、推定))× 価格 1,722(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 44 億円・営業利益 0 億円。海外は 250 人規模で収支とんとん
倍率:ROE 9.7% は k 7% をやや上回る程度で、正当化 PER は約 15 倍が上限。ただしこの筋書きは競争で粗利が伸びず利益が細る構造なので、稼ぐ力(純利益 40 億円 ÷ k 7% = 約 533 億円)の約 8 割(11 倍)に置いた。上限へは引き上げていない。
確率:採用難と入札競争で利益率の改善が止まる姿。人手が制約の事業なので、他社より起きやすいと見て、中立に近い厚さで置いた。
悲観 12% 人材と信頼が崩れ、普通の工事会社になる10年 利益 18 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 518 円180 億円
人材確保に失敗し、技術者は逆に減る。品質管理への信頼が揺らぎ、一部の大口顧客が離れる。残った契約も、競合に値下げを迫られ、1人当たり売上は物価に全く届かない。更新工事は受注を絞らざるを得ず、固定費を負担して営業利益率は3.5%まで下がる。
海外は撤退に追い込まれ、損失が出る。配当の水準は守ろうとするが、利益が細るため自己資本は思うように積み上がらない。堀は技術者の信頼にあったので、それが崩れれば残るのは普通の工事会社だ。もう優良とは呼べない。純現金と政策保有株の売却資金は残るが、それを生かす成長の筋道が描けず、資本は利益を生まないまま積み上がる。
- 国内保守・常駐管理(PM・FM):数量 950(保守に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 4,704(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 447 億円・営業利益 31 億円。技術者 950 人まで減り、値上げも転嫁できない
- 国内リニューアル工事(RAC):数量 552(更新工事に当たる技術系社員数(人、推定))× 価格 4,601(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 254 億円・営業利益 10 億円。技術者 550 人、受注を絞る
- 海外(シンガポール・ベトナム・中国など):数量 138(海外の技術系社員数(人、推定))× 価格 1,435(1 人当たり年間売上(万円))→ 売上 20 億円・営業利益 −1 億円。海外は縮小し赤字が残る
倍率:ROE 4% は k 以下なので、PER の上限は 1÷k = 13.3 倍。人材・信頼の崩れで利益が構造的に縮むので、稼ぐ力(純利益 18 億円 ÷ k = 約 240 億円)の約 75 % の 10 倍に置いた。市場の PER・PBR は使っていない。
確率:人材と品質への信頼が同時に崩れる構造的な負け。書類改ざんが示す統制の弱さを考慮して、1割強を置いた。k には足していない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内保守・常駐管理(PM・FM)
ビル・工場・病院の空調・給排気設備の定期点検(PM)と、技術者が常駐する運転管理(FM)。毎年の収入になる。
| 数量保守に当たる技術系社員数(人、推定) | 価格1 人当たり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 3,920 | 392 | 38 |
| 10 年後 中立 | 1,220 | 5,253 | 641 | 63 |
取り方:売上の約 6 割(PM 36%・FM 24%)から海外分を除いた国内の保守を約 392 億円と置いた。連結従業員は約 2,300 人で技術系が約 8 割(約 1,880 人)。保守・工事・海外へは約 1,000/650/230 人と割り振った(推定)。事業別の利益は未開示で、営業利益率は約 9.7% と推定。人が仕事の量を決めるので数量は人数、単価は賃金と連動して伸びる名目の 1 人当たり売上とした。
国内リニューアル工事(RAC)
老朽化した空調設備を省エネ型に入れ替える更新工事。保守で設備を知っていることが受注の入口になる。
| 数量更新工事に当たる技術系社員数(人、推定) | 価格1 人当たり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 650 | 4,108 | 267 | 22 |
| 10 年後 中立 | 800 | 5,505 | 440 | 38 |
取り方:売上の約 4 割(40%)から海外分を除いた国内の更新工事を約 267 億円と置いた。技術者は約 650 人と推定。営業利益率は約 8.2% と推定(中計は工事の粗利を年 1 ポイント改善する目標)。1 人当たり売上は賃金と資材の物価で伸びる。
海外(シンガポール・ベトナム・中国など)
海外 6 か国での保守・工事。中国は苦戦、シンガポールとベトナムは堅調。
| 数量海外の技術系社員数(人、推定) | 価格1 人当たり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 230 | 1,435 | 33 | 0 |
| 10 年後 中立 | 329 | 1,923 | 63 | 3 |
取り方:中計の 2030 年の目標(売上 45 億円・営業利益 2.25 億円)と、2026 年 3 月期の営業損益がほぼゼロだった実績から、現在の売上を約 33 億円と推定した。現地の賃金水準が低いので 1 人当たり売上は国内の 3〜4 割。
リスクと懸念
技術者の採用と定着
成長は技術者の数で決まる。年 100 人の純増を掲げるが、建設・設備業は全国で人の取り合いだ。採用が計画を下回れば、需要があっても売上は伸びない。賃金を物価並みに上げ続ける負担も重い。
品質管理と信頼の傷
2026 年 7 月の適時開示によれば、一つの営業所で 2013 年から 2026 年まで、保守点検の報告書に付ける校正証明書などの日付・管理番号が無断で書き換えられていた。再発防止と他の拠点への広がりの確認が問われる。顧客の選別が厳しくなれば、受注と価格に響く。
更新工事の受注の波と競争
更新工事は売上の約 4 割を占め、設備投資の動向と大手サブコンとの競争で受注も利益率も振れる。粗利を毎年 1 ポイント上げる計画は、競争が強まれば達成が難しくなる。
賃金の転嫁の遅れ
最低賃金と賃上げは物価並みに進む。保守は長期契約が多く、更新の時期まで値上げが遅れる。入札案件では価格を抑えられやすく、人件費上昇に追いつかないと利益率が下がる。
海外事業の立て直し
海外の営業損益は 2026 年 3 月期にほぼゼロで、前の計画の目標に届かなかった。中国の経済の弱さが重い。2027 年 3 月期の黒字化が果たせない場合、撤退や縮小が必要になる。
遠隔監視・自動診断の普及
センサーや AI による設備の遠隔診断が進めば、人が巡回して点検する仕事の単価が下がる。長期では保守の収益構造を変えうる。会社が省エネ提案などの付加価値にどう移れるかが問われる。
今後の分かれ目
- 年 100 人の純増が 3 年続く
- 採用の制約が解けたことになり、計画の売上 900 億円が現実味を帯びる。10 年のやや楽観・楽観に近づく。
- 更新工事の粗利が年 1 ポイントのペースで改善する
- 営業利益率 8% の目標が見えてくる。やや楽観の筋書きに近づく。
- 書類改ざんが他の営業所でも見つかる
- 顧客の選別が強まり、入札で不利になる。やや悲観・悲観に近づく。
- 政策保有株を 15% 以下まで減らし、資金を自社株買いに回す
- ROE が 14〜15% に近づき、中立の資本効率の前提が固まる。
- 海外の営業利益が 2027 年 3 月期に黒字化する
- 海外が赤字の足かせでなくなり、利益の質が改善する。
- データセンター・半導体工場の維持管理契約が 2〜3 年後に予想より早く立ち上がる
- 保守の売上が加速し、楽観側の筋書きの確度が上がる。
- 遠隔監視の普及で巡回点検の単価が下がり始める
- 保守の価格転嫁が止まり、やや悲観に近づく。
見ておくもの
- 技術系社員の純増数と採用・離職の状況(年 100 人の目標)
- 更新工事の粗利率と受注残の推移
- 書類改ざんに関する再発防止策の進み具合と、他拠点の点検結果
- 投資有価証券の純資産比(15% 以下の目標)と自社株買いの有無
- 海外の営業損益(2027 年 3 月期の黒字化)
倍率と資本コストの決め方
10 年後の売上は技術者の数(実質)と 1 人当たり売上(名目、物価並みに 1.34 倍)で積み、今の株価は見ていない。中立の倍率は ROE 約 13% から RONIC と正当化 PER(約 17.5 倍)を出し、堀が人に依存し書類改ざんの統制の件もあるので約 8 割の 13.9 倍に置いた。今の PER や PBR、過去の水準、同業の倍率は使っていない。悲観側は稼ぐ力(純利益÷k)から置いた。事務所・営業所の賃借は拠点約 100 か所ぶんで額は小さいが、2028 年 3 月期からの新リース会計基準で営業利益・負債の形が変わる。10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)にそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.8→20.7 倍・やや楽観 PER 15.7→19.88 倍・中立 PER 13.9→18.72 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。